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時に非常識が世界を救う

 協調性に欠け、行事嫌いな俺は更なる鬱を発症させる時期がやってきた。

 毎年恒例の球技大会が始まるのである。

 否定的な俺としては、また無駄な時間が始まるとしか思えなかった。勝ち負けの試合に対し、まったく燃えてこない俺はある意味で損しているのだろう。ヒエラルキーの上位者たちはテンションを上げておしゃべりを続けている。今日の昼休みに俺はモテない組の第三回の会合を開くことに決めた。そのため、メールで一斉送信した。別に話し合うことなどなかったのであるが、この行事に対する愚痴を聞いてほしかっただけなのである。そのために代表という権力を利用して全員を呼び出したのである。

「今日も痛い会議を開くのか?」

 波野に馬鹿にされている。

「そのとおりだ。何か問題があるか?」

「問題はない。ただ、痛すぎるだけだ」

「俺は学校行事が行われるたびに憂鬱になる体質なんだよ!」

 俺は実に哀れな一言を言ってしまった。しかし、それは事実であり、価値観の問題なので仕方のないことなのである。

「本当に哀れなやつだな。少しは楽しめよ!」

 波野の言っていることは最もであった。普段、学級崩壊の中でレベルの低い勉強を強いられて生活している俺たちにとって、ちょっとした休暇なのかもしれない。しかし、そんなことに時間を費やすなら、休みにしてくれと願ってしまうのが俺たちモテない組なのである。モテない組メンバーは基本的にインドア派なのであまり外出しない。生沼は電車を使って秋葉原に出向くことはあるらしいが、それくらいである。基本的にほとんどのメンバーは家でゲームをしている日常である。

 だから、俺たちはモテないのだ!

「学校休みにならねーかな? このクラスは無駄に疲れる」

 俺は小さな声で本音を漏らした。

「それは分かるが、あんまり気にすんなよ。気楽に行事を楽しめばいいんだからさ」

 気軽に楽しめれば苦労はしない。こいつらといても、ちっとも楽しくないのだ。何をしたってうるさいし、自分のペースで物事を進めることができない。それは苦痛以外の何物でもない。

「俺は集団行動がどうしても好きになれないんだよな。どうしたらいいものか?」

 マイペースである俺は学校という牢屋を絶対に好きにはなれないのだ。本来なら家に引きこもりたいところであるが、両親はそれを許さないだろう。それ以前に狭いアパートに家族三人で暮らしているので自分の部屋がないのだ。そのため、ひきこもりたくとも、引きこもる場所がないのだ。どこまでもついていない男である。

「しかし、個人競技ならまだしも団体競技だからな。球技大会は・・・・」

 俺はソフトボールをやることになったのである。小学校時代に野球をしていた経験があったので少しは役に立つのではないかと思ったからである。もちろん、万年補欠であったことは周知の事実である。運動神経のない俺には当たり前の過去であろう。フォームの乱れた投げ方で遠投ができず、コントロールもいまいち。当然、ピッチャーにはなれず、ゴロを捕るのが苦手。唯一、フライだけは取るのが得意だったので外野のライトを守っていたが、遠投できず打つこともできない俺は補欠以外に居場所がなかった。そのため、補欠仲間同士でよくいっしょに弁当を食べたりして過ごしていたことを思い出す。

 この時から、俺のモテない組は始まっていたのかもしれない。

 結局、レギュラーにはなれず、引退し、野球からは離れてしまった。あの頃は運動能力の高いレギュラーメンバーに嫉妬心を抱いていた。その心情はごく当たり前であり、必然だったであろう。何も成し遂げることの出来なかった時代は今も続いている。けれど、それもまた必然なのではないだろうか?

 必ず、一つは成し遂げるものがある。そんなものが本当にあるのだろうか? 答えはノーである。不得意なものしかない社会に生まれることだってあるはずである。その中で得意なものを見つけろ何て馬鹿げている。

 諦めの境地を知ったのはその野球での経験からであることは明白であり、今の俺の人格を形成したことは間違いない。

「あんまり、憂鬱になるなよ。俺も同じソフトボールを選択したんだからさ!」

 波野が同じ競技を選んでくれたことは正直感謝している。波野は俺と同じ属性を持っていながら、意外と運動神経が良く、体育会系の要素をもっている。きっと、ほとんど経験のないソフトボールも俺よりも活躍するだろう。少し複雑な思いがないことはないが、これもまた人生。才ある人間には結局は勝てないのが世の現実である。

「波野はグローブどうするんだ? 俺は小学時代から使っていた外野用のを使うけど」

 身長がほとんど伸びていない俺は今でもそのグローブが手に入ってしまうという現実がある。つまり、チビということである。

「友人から借りるよ」

「それは良かった。俺がお前の立場だったら貸してくれる友人いないからな」

「友達少ねぇ!」

「余計なお世話だ!」

 友人が少ないことに関して、俺は一切の悲観はしていない。多ければいいというものでもないだろう。それに、複雑な人間関係余計なことを招く場合がある。無駄なものが嫌いな俺は厄介事から逃げるような生活をしてきた。学級委員長や選挙管理委員会、生徒会長等の立候補など、そういうこととは無縁の生活を送ってきた。これからもそうやって生きていくだろう。唯一、モテない組の代表をやっているくらいだ。しかし、同窓会にもなっていない非公式の活動だけに内申書に書くことはできないくらい価値がない。しかし、そんなものに価値を見出すつもりはない。内申書のために代表になったわけではないから。俺が代表にならなければ、誰も入ってくれなかったからだ。

 もしかしたら、俺は高校に自分の居場所はほしかったのかもしれない。絶対的で自分に適した居場所を。相変わらずのさびしい考え方であるが、これもまた・・・・人生なのである。

「大人になったら、もっと友達が減るんだろうな」

 俺は後ろ向きな言葉を言いながらも、明るく笑みをこめたので、波野は突っ込みを入れた。

「お前、何明るくそんな暗いことを言っているんだよ?」

「だって、それが俺なんだよ。全世界のモテない人間の代表たる男の力量だよ!」

「うわぁ、モテねぇ!」

 波野はドン引きした。

「これがモテない人間の極みの一つなんだよ」

 俺はそんな自分がやはり大好きである。すべてが後ろ向きのはずなのにその常識を超えているような感覚がたまらなくおもしろいのだ。

「そんな悲しいものを極めないでせめて勉強を極めてくれ!」

 波野からの正確な助言と願いを言われてしまい、俺は一瞬言葉が詰まってしまった。

「波野、それを言っちゃーおしまいでしょうが」

「モテないを極めるよりも重要だろうが!」

 確かにそれはこの社会では正しいことなのだろう。しかし、こんな勉強を将来使うとは俺は到底考えられない。別に大学に行く気はないので、無事卒業し、高校という肩書きをもらえればそれでいいのだ。

「漢字が書けて、足し算が分かればいいだろう別に。勉強ごときで俺の人生を束縛することなどできないのだ!」

「お前はこの高校で一体何をたくらんでいるんだ?」

 波野からの予想もしていなかった言葉が飛んできたので俺は少し驚いてしまった。

「俺はただ、古い価値観を超越したい場所を作っただけだよ。近未来ならぬ遠未来を見据えた部活だよ。だから、お前たちはそれについてきていないんだ! この俺は未来に生きているんだ。波野、お前に分かるか俺の考えが!」

 すると、波野は即答した。

「分かるわけないだろーが!」

「これだから、古き価値観に縛られた旧人類は・・・・・」

 俺は常識に縛られてしまっている波野を哀れんだ。

「何でお前が俺を哀れむんだよ、逆だ逆」

「いやいや、そんなことはないさ。常識に縛られているお前や他の生徒たちを見ると俺は悲しくなってくるよ。ははは!」

「勘違いも大概にしろよ! お前と話していると、こっちがおかしくなるぜ」

「その言い方、気に入らないな。まるで、俺がお前を洗脳しているかのようじゃないか。俺は一体どこぞの教祖様何だよ?」

「ああ、危ないわ。長岡非常に危ないわ。将来が心配だわ」

「犯罪者予備軍みたいな言い方はやめろ!」

 俺はつい自分が実は危険思想の持ち主なのではないかと心配してしまった。

「何だ、分かっているじゃないか。もし、将来お前が犯罪してマスコミに大きく取り上げられたら、インタビューに答えてやるから」

「おい、もう犯罪者扱いかよ。勘弁してくれよ。そこまで落ちぶれてはいないぜまったく」

「え、まだ気がついていなかったのかい?」

 波野の笑みは悪魔のようであった。

「俺はどんなに痛い人間になろうとも、犯罪者にはならないさ・・・・たぶん」

「たぶんって何だよ。本当に挙動不審だなお前は」

「挙動不審の何が悪いんだ!」


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