モテない組、結成の時
俺はとある部室に俺を含めた数人の『モテない』男子たちを集合させた。その会議室的に展開した机と椅子の中心となっている所に俺が両手を交差し、机にひじをつけながら、口を開いた。
「今日、ここに集まってもらったのは他でもない。我ら、モテない組の初の活動だからだ。我々はモテないという言葉を押し付けられ、今まで肩身の狭い思いをしてきた。しかし、今日この日をもって、その呪縛から解き放つ時がきたのだ」
この部活動の代表は俺だ。
俺はこの日のために、モテないメンバーたちを収集し、活動を開始しようとしている。
『モテない組に入らないか?』
その言葉を言うことに対し、俺には一切のためらいも、羞恥心もなかった。世間一般ではこのような言葉、集まり自体が滑稽であり『痛々しい』ことは十分承知の上で俺は行動に移したのだ。
なぜなら、俺にはそういう実感が一切なかったからだ。
俺は昔から異性に対し、一切の興味が無かった。もちろん、同性愛者でもなければ、ロリコン、マザコンでもない。なぜか、女性の身体に興味が持てず、裸体にすら興味が無かった。そのため、恋愛経験ゼロであり、世間で言う『甘く苦い初恋』というものを俺は味わったことは無かった。
これは一種の身体的病気であることはうすうす気がついていた。俺は高校生になっても髭などの体毛が生えてこなかったからだ。そのため、髭剃りをしたこともない。
そのため、周りの男子たちが下ネタを話していても、食いつくことができないのだ。また、身長が非常に低いことも俺の特徴の一つである。
その結果、身体的なことでいろいろ言われ続けたが、俺自身この身体に対して弊害を感じたことはないのだ。
周りと違う。それは普通の人間からすれば苦痛を生み出すものである。しかし、その程度の価値観に踊らされる俺ではないのだ。身長が低くて手が届かないことは日常茶飯事であり、背の順ではいつも先頭にされてしまう。しかし、そんなことは実にたいしたことではないのだ。
人は俺をひねくれ者と呼び、ある者はポジティブとも呼ぶ。俺はどちらでもかまわない。はっきりしたことは、俺は自分の身体的特徴を決して恥じてはいないということだ。むしろ、特徴的で気に入っている部分がるくらいだ。
等身大のモデルになる夢を抱いているならまだしも、身長の低さで人生の価値は決まらない。身長の低さは俺のアイデンティティ、個性なのだ。罪でもなければ、恥でもない。そんなことを気にする必要はまったくなのだ。
しかし、この社会はそういった個性を上辺では重要視すると言ってはいるが、実際はそんなことはない。社会と個人は違うからである。
理屈で分かっていても、否定したがるのが人間の性であり、不器用なところでもある。
だからこそ、その不器用さを正さなければならない。
常に価値観の変化に対する可能性を信じているこの俺が。
俺は両手を重ねながら、モテない組のメンバーたちに訴えかけている。
「我々モテない組は今日、ここで恋愛の絶対否定を定義することにする!」
俺の目的は価値観を変え、新たな進化を生み出すことだ。決して恋愛を否定するつもりはないのだ。しかし、その中立的立場で活動したところでは、存在目的が希薄であり、インパクトに欠けてしまう。そのため、俺は反恋愛主義をあ・え・て掲げたのである。
「異議のあるものは発言を認めよう」
しかし、誰一人異議を唱える者はいなかった。皆、恋愛などのことで心に何かしらの傷を負っているのだ。その傷の痛みは俺には分からない。しかし、その方が幸せだと俺は思っている。
すると、同じクラスで高校からの友人である生沼雄一が手を挙げた。
「生沼、発言を認めよう」
モテない組メンバーの一人である彼の名は生沼雄一。部活には所属してなく、体育会系とはほど遠い存在である。基本的にこのメンバーの全員と言って過言ではないだろう。全員、俗に言う『インドア派』である。家で引きこもっている方が楽しいと思っている連中なのだ。
「僕には神風ちゃんという嫁がいるんだ。僕は彼女のことを心から愛している。この気持ちを止めることはしたくない。僕には嫁がいるんだ!」
その問題に俺は丁寧に解答する。
「分かっているよ、生沼。この俺に任せたまえ。諸君、ここで提案がある。一部例外を認めようと思うのだが!」
その言葉に対し、冷ややかな態度をとるメンバーは誰もいなかった。
「反恋愛主義を掲げる我々であるが、それは三次元に対してのみだ。二次元に対する恋愛は認めようと思う。異議があるものは遠慮なく発言してくれ!」
「異議なし!」
「異議なし!」
さすがはモテない組である。皆、いろんな意味で分かっているのだ。
「では、二次元との恋愛は認めよう。生沼、これで不服は無いな」
「もちろん!」
生沼雄一。彼は極度の二次元コンプレックスに陥っている。つまり、生身の女性に対し、一切の興味を持てず、恋愛や性の対象が画面上のアニメキャラなのだ。彼の言った神風ちゃんと呼ばれる嫁の存在は、画面上の話であって、この世には実在しない存在なのだ。エロゲー、ギャルゲーと呼ばれるゲーム上での話なのだ。俺はその類のゲームについてよくは知らないし、知りたいとも思わない。世間一般では彼はオタクと呼ばれ、世間から煙たがれる存在であろう。確かに、人間として彼は歪んでいるのかもしれない。いや、事実歪んでいるのだろう。しかし、この世にまともで完璧な人間などこの世には存在しない。むしろ、誰も好きになることもできない俺の方がよっぽど歪んでいるのかもしれない。しかし、そんな古き価値観などこのモテない組には一切通用しない。彼の存在を否定する必要性などないのだ。
生沼雄一は中学時代に二次元に目覚めてしまい、それ以降、あっち側の世界にどっぷりつかっている状況だ。つまり、彼は現実世界ではモテない男である。しかし、Z軸を失った二次元世界での彼は嫁が存在し、充実しているということだ。そんな彼の幸せを否定する権利は誰にもないのだ。
一度聞いたことがある。なぜ、二次元が好きなのかと。すると、彼らしい答えが返ってきたのだ。
『二次元は三次元と違って完璧だから』
それが彼の理由であった。
生沼雄一にとって、女性は完璧でなければならないのだ。二次元は左右対称の顔で体型に対しても完璧なプロポーションを描いている。一方の三次元ではそのような女性はほとんど存在しない。稀に出会えたとしても、大半はどこか整形などをしている作り物だ。ましてや、そのような女性と恋愛関係になることは基本的に難しい。そして、性格の不一致や金銭的問題なども生まれ、非常に面倒なのだ。
苦しみにまみれる三次元の恋愛より、安価で完璧に近い存在である二次元の方を愛おしく思ってしまう男子は数多く存在する。特に生沼は理系男子であり、どこか完璧さを求めてしまう性なのだろう。寸分たがわぬ顔立ち、性格、体型。そんな女性は三次元には存在しない。俺はそんな生沼を肯定する。
まあ、二次元を好きにはなれないが・・・・・
そんな生沼たちのような存在を世間一般の女性たちはこう言うだろう。
『キモヲタ』
そうやって、生身の女性たちがオタクといわれる彼らを頭ごなしに拒絶すればするほど、男子たちは生身の女性に失望し、第二、第三の生沼を生み出す。そして、女性たちはそれに対し、また否定する。その負のスパイラルが続く限り、何も変わらないのだ。
そして、俺はこのモテない会議の中で新たな発言を大きな声で発した。
「もう一つ、恋愛禁止法案にプラスしたいことがある」
「それは何だい?」
生沼から聞かれたので俺は笑みで口を開いた。
「片思いはオッケーにしたい」
すると、反恋愛法案を掲げたばかりの会議でざわつきは起こった。もちろん、すべてはこの俺の想定内だ。
「皆、言いたいことは分かっている。私が言っているのは恋愛という名の本能に対しての話なのだ。私が数少ない情報源から調べたところ、恋愛というものはするものではないことが判明した。ある日、突然誰かを好きになってしまう。恋はするものではなく、堕ちるものであると。極論ではあるが、ある日このメンバー内の誰かが恋と言う名の病気に陥ってしまう可能性があるということだ。俺は、恋とは誰もが有している細菌、寄生虫と考えているんだよ。そのウイルスによる病気は自身の意思とは関係なく、発症してしまうものだと私は結論つけた。だからこそ、片思いは違反の対象外にしたいのだよ」
「なるほど!」
「そういうことか!」
「さすがは長岡だ」
これらの発言に対し、俺は喜ぶべきなのかどうか迷ってしまう。しかし、一度動き出した活動は物理で言う『慣性の法則』同様、止めようとしない限り、止まらず、どこまでも進んでいくものだ。
そうとも、この俺はモテないロードを突き進むのだ。今日、この場所から!
「しかし、重要なのはここからだ。片思いのまま終わってしまうことに何の否定する理由は存在しない。しかし、もし両思いになってしまった場合だ。仮に両思いだとしても、そのまま何もなく終わってしまうなら、いいのだ。しかし、両思いであることに気づいてしまい、付き合いだした場合、即裁判にかけるとうのはどうだろうか?」
「異議なし!」
「異議なし!」
「最悪の場合は極刑に処す。これでこのモテない組の秩序は保たれる」
「極刑とは?」
生沼が聞いてきたので俺は即答した。
「このモテない組から追放し、縁を切ることだ」
俺は真顔で答えたため、一瞬の緊張状態が辺りを支配した。しかし、この俺はそんなことはお構いなしに次の話へと進んでいく。
「まだ、掟を作る必要がある。我々は、モテないということを正しい価値観であると心情としている。そのためには恋愛をただ禁止するわけにはいかないのだ」
「何が言いたい?」
「恋愛という猫を被った行事を否定する必要がある」
「例えば?」
「バレンタインだ!」
そう、あの悪しき行事は排除しなければならない。チョコレートというなの道具を利用して他者に対し、友人、恋人などのレッテルを貼る行事を俺は許すことができないのだ。しかも、俺がもっとも許せないのはもらえない人々に対する世間の風当たりだ。もらえなかった人間は惨めで悔しい思いをしなければならない。けれど、特に男子たちは来年こそもらえるという根拠の無い夢を抱かせは再び地獄のどん底へと堕ちていく。そんなことをしてまでチョコを売ろうとするチョコレート業界の人間たちを俺は許すことは出来ないのだ。このことに関して、俺は中立の立場を取るつもりはないのだ。
ただ、俺は生まれて一度もチョコレートをもらったことはないが、それを恥であると思ったことは無いのだ。ただ、俺がもらえなかったことに対する周囲の人間たちからのバッシングが許せなかったのだ。なぜ、もらえないだけで侮辱されなければならないのか? その疑問にたどり着いた時、俺の中の何かが生まれたのかもしれない。
「皆も知っての通り、俺は生まれて一度もバレンタインデーチョコをもらったことは無い。俗に言う本命や義理というやつだ。そのことについて俺は釈明するつもりはない。しかし、チョコをもらえなかっただけで深く傷つき、馬鹿にされた経験があるはずだ」
すると、メンバーたちは下を向き、辛い過去を思い出していた。
「俺はこの場を持ってバレンタインデーの全面否定をここに宣言する! 反論するものは異議を唱えよ!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「では、掟を制定しよう。バレンタインデーのチョコをもらうことは禁止とする」
「それは義理でも?」
「もちろんだ、受取はすべて拒否するのだ。そんなものをもらっていてはこの活動をする意味が無い」
「しかし、家族からもらう物はどうする。拒んだら家族関係が悪くなる可能性がある」
メンバーの一人である大久保秀夫が口を開いた。
彼には姉と妹がいる。実は彼に限ってメンバー唯一の天性の顔立ちをしているのだ。その美形男子がなぜここにいるのか? その理由は男性特有の、そして彼の家系が関係している。
彼の家系の男性たちはすべて禿げなのである。実際、大久保の髪の毛は細く力がない。しかも、密度が非常に小さいのだ。若者にしては異常な頭皮である。俺は病院に行くことを進めたが、当の本人がそれを拒んだのだ。
その結果、俺は彼のことを普段はこう呼んでいる。
『サラブレット禿げ』と。
実に惜しい存在だ。美形でありながら禿げになる宿命を背負った悲しき少年。彼の父親も祖父も二十代前半にはほとんど頭皮を失う歴史を築いていった。そして、彼もその現実を受け入れている。だから、俺たちは大久保によく言っているのだ。
『完全に禿げる前に結婚相手を探せと!』
しかし、大久保はこのモテない集会に集まっている。つまり、自ら結婚を諦めるということだ。
「では、大久保よ。お前に問う。身内から貰ったチョコレートはうれしいか?」
「そ・・・それは・・・・」
「身内からのチョコレートとはつまり、同情で渡しているのだよ。もらえない息子のためにチョコレートを渡そうとする親のエゴ。そんな歪んだ食べ物を貰ってお前は本当にうれしいか!?」
「そうだな。あの悪しき食べ物を拒否しよう」
「それでいい。大久保よ」
俺は説き伏せるかのように言った。
「そうさ。あの悪魔の食べ物、悪魔のような日は粛清しなければならないのだ。我ら、モテない組のために!」
「モテない組のために!」
これでいい。これで俺たちモテない同盟の結束はより固まる。そして、この俺はまた法案を提示しなければならない。これこそが、俺の生き方なのだ。
「結束を固めるためにまだ決めなければならない法案がある」
「それは何だ? 長岡」
「ドラマや音楽などの学園物で必ず出てくる単語。そう『告白』だ!」
俺のこの発言はさらに場の空気をぴりぴりさせた。その中で特に『告白』という言葉に敏感であったのは顔がでかく、メタボリックな体型をしている田辺義一であった。
彼はこのモテないメンバー内で一番女性に執着していた男子であった。言い方を変えれば、自分に正直であったのだ。小学校の時から好きになった女の子に告白しては玉砕を繰り返していたのだ。性格は温和であったが、女子からは好かれなかったのであろう。玉砕を繰り返すうちに性格はどんどんネガティブになっていき、今では歩く不幸装置と呼ばれることもある。しかし、彼にはもう一つ、見逃すことのできない特徴があった。そう、彼はかなりの面食いなのである。だからであろう。今まで告白してきたすべての女子たちは皆美形であり、人気があったに違いない。彼氏がいた可能性だって十分考えられる。しかし、恋愛というウイルスは人の思考を堕落させる性質を持っている。そのことを考えずに
好きになったから告白するという直線的行動はまさに『当たって砕けろ』である。そして、彼の心は毎回砕け、傷つき、トラウマになっていく。そして、今の田辺を生み出したのだ。
「告白することはもちろん禁止だし、もしされたとしても即答で断れ! それが我らモテない組の掟だ。まあ、告白されることはこのメンバー内では絶対にないだろうがな、ハハハハ」
すると、その言葉に大勢のメンバーたちからのバッシングを受けることになった。
「お前もだろう!」
「お前が一番モテないだろうが!」
そのバッシングに対し、俺は華麗に即答する。
「モテない自分が大好きなんだ! どうだ、これがモテない組代表の力量だ!」
すると、モテない組メンバー全員が俺に対し、ドン引きしている。
「何だ? その態度は?」
俺はメンバーたちを叱責する。
「別に・・・・」
「なぁ・・・・」
「どうせ、長岡だし」
その言葉に俺は突っ込みを入れた。
「どうせって何だ、どうせって!?」
すると、この俺を愚弄する解答が飛んできた。
「だって、長岡だし」
「そうだそうだ!」
玉砕歴の長い田辺が珍しくテンションを高くして俺を楽しく非難している。実に痛々しい光景だ。そんな調子になった田辺に言葉を送ろう。
「この告白禁止令はお前のために考案したんだぞ、田辺。お前の悲しき、玉砕歴を考慮した法案だ。お前に同じ過ちを繰り返させないために」
「そ、それは・・・・・」
田辺は何も言えなかった。
「お前は知ったはずだ。告白することがどれだけ自分を傷つけてしまったことかを。もうそのような愚かな歴史に終止符をつける時が来たのだ。告白という名の自殺行為の時代は終わったのだよ。田辺。これからは新しい時代がお前を待っている」
俺は一体何を言っているのだろうか? 自分でもよく分からなくなってきた。しかし、田辺が恋愛に対し、誰よりも執着していたことは事実であり、一番苦しんでいたのも彼である。それを救済することがこの法案の意義そのものなのである。
「では、採決しよう。この法案に意義を唱えるものはいるか? もちろん、二次元に対する告白はOKだ」
これは生沼に対する配慮である。
「異議なし」
「異議なし」
「では、満場一致で可決されたし!」
まるで国会議事堂にでもいる気分になった。しかし、少なくともこのメンバーの中で国会議員になるやつは誰もいないだろうが・・・・
「そして、一番重要な法案を決議しなければならない」
俺は実にくだらないことを話しているにもかかわらず、真顔になった。
「それは一体何だ?」
「早く聞かせろ!」
「もったいぶるな!」
「偉そうにするな!」
この発言の数々に俺はすかさず突っ込みを入れた。
「お前たち、ちょっと偉そうじゃないか? この俺はモテない組、一番隊、レッドの長岡良助だぞ!」
「おい、何が一番隊のレッドだよ。どこの新撰組と戦隊物をごっちゃにしているんだ」
「いいじゃないか別に。じゃあ、大久保はブルー辺りでどうだ? 生沼はイエローか? 最近はゴールドとかシルバーってのもあるぞ!」
すると、周囲の反応が非常に冷たくなってしまったので俺は自重した。
「まあ、それはいい。では最重要法案を説明しよう。後は身体的問題だけだ!」
「つまり、どういうことだ?」
「俺の口からこういう話はしたくはないのだが、仕方がない。モテない組の進化のためには必要なのだ。今後、俺たちモテない組は、接吻はもちろん貞操を守らなければならない。これは絶対的だ」
「な、何だと!」
サラブレット禿である大久保の反応であった。
「妄想は許そう。妄想することは罪ではないからな。しかし、体の純潔は守ってもらおう。例え、恋愛感情がまったくとも、その行為は俺たちモテない組に対する究極の裏切り行為だ。まあ、襲われたとかなら話は変わるが。だから、単刀直入に聞こう。この中でそういう経験のあるものはいるか? いるやつは出て行け!」
俺は真剣な顔をしながらも同時に笑みを浮かべるという離れ技を見せた。
実を言えば、半分ネタで言っていることは誰もが分かっていた。しかし、この部活を開花させるには簡単ではあると同時に難しいこの法案を可決する必要がある。それがモテない男たちの痛く、苦しい選択をしなければならない。
モテないことを受け入れるためにはやるしかないのだ。
「俺は純潔だ、信じてくれ!」
田辺が叫んだ。
「そんなことは分かっている。お前もモテないレベルはダテじゃないからな」
「そう言われると、絶望してくるな」
ネガティブオーラ全開の田辺は自身の悲しき人生に絶望している。
「どうせ、俺なんか一生独身で誰にも見取られずに孤独死するんだ!」
その発言に俺は答えてあげた。
「その通りだ!」
俺の率直過ぎる解答に他のモテないメンバーたちは動揺を隠すことはできなかった。そんなことは気にせず、俺は話を続けた。
「モテない組の最終目標は孤独死だよ、田辺。何を悲観する必要がある。死んでしまえば孤独も何もあったものじゃない。無に帰るだけのことだ。まあ、この『孤独死』についてはまた改めて話すことにするとしてだ。田辺よ、このモテない組は傷の舐めあいクラブではない。モテないという名のネガティブ思考社会を変えるために存在する部活だ。お前はまだその境地に立ってはいない。モテないことを恥じ、悲壮感を抱いてしまうようではまだまだ修行が足りないな。俺たちは社会の最先端の中のさらに向こう側を目指そうとしているのだ。絶望する必要はないのだよ」
この・・・どこか歪んでいるような考えを平気で言っている自分が大好きでたまらない。
俺って・・・・どこかおかしいかな?
「分かったよ。長岡。俺はお前の境地へたどり着いてみせる!」
田辺が気合を入れ、絶望をどこか歪んだ希望へと変えていった。本人が納得するならそれでいいのだ。
「田辺はいいが、他のメンバーたちはどうかな?」
すると、二次元コンプレックスの生沼が手を上げた。
「俺、精神的には非童貞なんだが?」
また、面倒くさい発言が飛んでくる。二次元はやっかいだな。
「ゲームの中での話なら問題ない」
「俺にとって表面上の世界が現実で三次元のこの世界こそが仮想現実なんだ!」
生沼は熱意のこもった言葉で言っている。
あ~ やっぱり面倒くせぇ・・・・・
「仮想空間である三次元で何もなければ問題ない。これでいいな」
「OK!」
さて、一番疑わしい男はどうかな。
「大久保よ。お前はどうなのだ?」
禿のDNAを受け継いでいるとはいえ、イケメンである大久保の過去の恋愛遍歴を知る必要がある。さりげなく、交尾経験があるようなら田辺が発狂してしまうから気をつけなければならない。
そして、サラブレット禿は口を開いた。
「好きな女の子はかつていたが、付き合ったこともないし、そういう経験もない」
大久保はどこか弱弱しい声で言った。
「本当か? 嘘だったらどうなるか分かっているよな?」
両手を重ね、机にひじをつきながら俺は問い詰める。
「本当だ。信じてくれ! この薄い頭皮に誓って言っている」
「そんな醜い物で誓うんじゃない!」
と俺が突っ込むと、メンバー全員が笑いに包まれた。このメンバーは全員禿ネタに弱いのだ。
「しかし、お前の頭皮は嘘をつかない。信じようじゃないか。大久保よ!」
俺は本当に何を言っているのだろうか? 少しずつおかしくなっていく自分がいる。
「よし、では採決をしよう。禁欲法案に意義のあるものは申し立て!」
「異議なし」
「異議なし」
「では、可決で決まりだな!」
これで、反社会組織の出来上がりだ。俺たちはこの歪んだ秩序を否定し、新たな価値観を作るために結成されたのだ。俺たちは日本社会で言う『青春』と呼ばれる悪しき文化を否定、破棄する人生を選択したのである。
「俺たちは青春を消し去り、新たな世界を築き上げるのだ!」
「おー」
全員からの賛同を得た俺は改めて今日のモテない会議のまとめに入った。
モテない組の掟
1.この活動の存在を知られてはならない。
2.恋愛禁止(片思い、もしくは二次元はOK)
3.恋愛が発覚した場合、バレンタインチョコをもらった場合(ただし、同性、身内からは除く)は即裁判を決行し、糾弾される。場合のよってはモテない組から追放される。
4.接吻の禁止や童貞を貫かねばならず、その掟を犯したものは即裁判を掛けられ、糾弾される。
「まあ、こんな感じでいいだろう。皆異論はないな!」
「異議なし」
「では、今日の会議はこれで終了とする」