いじめにリア充も非リアも無いのだ
秋葉原に行く必要はなかった。ネットなどで無数の隠しカメラが購入できたのだ。割り勘で購入したペン型カメラを田辺の胸ポケットに入れてもらい、加藤という女子生徒がどのようにいじめられているか撮影させ続けた。
俺はモテない会議を頻繁に開き、持参したパソコンで撮影された映像を毎度確認した。田辺の撮り方が最初はへたくそだったので、よく分からなかったが、次第に腕を上げてきたのでいじめの内容が良く分かった。
まあ、こんな隠し撮りの腕を上げても仕方ないのだが・・・・・・
そして、文化祭が終わり、今度は悪しきクリスマスと期末テストが近づいている中で、俺たちモテない組全員は隠し撮りした映像をパソコンで眺めている。客観的に考えれば非常に悲しいことをしているのかもしれない。しかし、そういう考えも今の俺にはどうでもいいことだ。俺は自分が正しいと思ったことをするだけのことだ。
もし、俺たちの物語が映画とかだったら、この盗撮シーンはきっと女子たちの着替えを撮影するよくある青春映画になっていたのかもしれない。そう考えると、青春映画がいかに馬鹿馬鹿しく、ある意味で犯罪を助長する可能性のあるものかと認識させられる。この世の中はある意味で堕落し、腐っている。
だからこそ、誰かが正さなければならない。それは俺かもしれないし、他の人間かもしれない。しかし、何かを正そうとする人間は敵を多く作り、人生そのものを消耗して目標を成し遂げる。そして、何も苦労しなかったずるい凡人たちがその土壌を利用する。これが人間だ。
俺は今、本当に意味で行動を起こそうとしている。それは馬鹿で、痛くてくだらない。周りは皆そう思うだろう。しかし、それが時に正しいことである場合がある。
加藤という女子生徒のいじめを映像で見た俺は人間の残酷さを知ることになる。
最初の情報では、女子生徒たちが加藤を机ごと避けていたが、その悪しき習慣は次第に今のことしか考えていない男子たちにも感染し、今ではクラス全員がわざわざ机を持ち上げて避けている。馬鹿としか言いようがないが、腐ったみかんを蘇らせることができない。その後も、数多くのいじめの実態を俺たちは見た。
加藤がトイレ等に行くために教室を出ると、いじめの主犯格である三人の女子生徒が彼女の机に近づき、黒い油性のマジックペンを取り出し、机に落書きしている。オーソドックスないじめではあるが、非常に不愉快であった。こいつらの親は一体どういう教育をしているんだと思ってしまう。彼女が教室に戻る頃には全員何事もなかったかのように席についていた。それから、しばらくは授業であまり撮影できなかったが、放課後になり、机に何が書かれているか田辺が撮影するといろいろな誹謗中傷が殴り書きされていた。
『モテない女』
『モテない組!』
『一生処女確定』
『不細工』
『地味、早く死ねば!』
『ごしゅうしょう様』
『まだ生きてたんだ』
等々書かれていたのであった。ごしゅうしょう様という言葉に関して、漢字で書けなかったことが非常に悲しかった。そして、俺は一番許せなかったことがある。
「この女をモテない組に入れた覚えはないぞ!」
俺はモテない組の部室内で怒鳴った。
「そこは突っ込むところじゃないだろうが!」
波野に注意された。
「これは失礼。しかし、モテない組という言葉がいじめの材料の一つとして使われていることは非常に不愉快だな」
本当は田辺と比島に、彼女を助ける力があればこんなことをしなくて済むのだ。しかし、彼らは学校の底辺の存在であり、言葉一つで解決できることではない。クラス皆が敵なのだから。この状況を打開する方法は一つしかない。しかも、それは皆ができそうでできないことだ。それは気持ちの問題である。このいじめを一番手っ取り早く解決できる方法は誰しもが知っていながら、決して使用しない方法である。それができるのはこの学校で俺だけである。しかし、それには多大なリスクが伴う。そして、何より、モテない材料を増やしてしまうだろう。しかし、モテない人生を選択した俺にはむしろ好都合というやつだ。
それからも、彼女のいじめ現場の撮影は続行されたが、一つだけどうしても撮影できなかった場所があった。それは『女子トイレ』である。彼女のいじめで一番悲惨なのはそこなのである。女子トイレのホースを使って水をかけられ、全身びしょ濡れの状態で教室に戻ることであった。この状況は各クラスでも噂になり、いじめが公になったが誰も彼女を救おうとするものは現れなかった。人間とはそういうものだ。そして、学校という牢獄は人間のあらゆる機能を呪縛してしまう悪しき力を持っている。それを解決するのは教師たちという考えは学園ドラマ内での話である。教師は勉強を教えるだけの存在であり、いじめ解決のスペシャリストではないのだ。ましては、教師には時間がない。そして、学校の体質を改善しようとする向上心がない。これは公務員の現実だ。大人の世界でもいじめがある世の中でいじめ自殺を教師たちのせいにする世間に俺は若干の疑問を抱いてしまう。まったく責任がないとは言わないが、どうしようもないというのが本音だろう。しかし、底辺の更に下に位置する俺には失うものは存在しない。むしろ、底辺を越えた場所をまだまだ見てみたいと思っている。
そんなことを国語の授業中に考えていた俺ではあったが、周囲の生徒たちの雑音で現実世界に引き戻された。
波野やその他少数の人間たちがまじめに勉強している中で、大半の生徒たちは授業中に騒いでいたりして、学級崩壊を起こしている。
もう、そろそろいいのではないか?
俺の心がそう言っている。いじめを救うために俺は痛い方法を思いついた。そして、それを実行すると決めた時から、俺は本当に意味で学校の呪縛から開放されたのだと思う。
では、ウォーミングアップと行きますか!
「お前ら、うっせーんだよ。静かにしろ。勉強してんだからさ!」
俺はすべての生徒全員に聞こえる声の大きさで言った。このクラスでは一切目立たない俺が怒鳴る。これはこのクラスでは驚き以外の何物でもなかった。一時的に時を止めたかのように静かになった。
これはあくまでトレーニングだ。自分のエゴを学校の呪縛から解き放つために。そして、自分のモテないレベルを更に上げる。学校というのは人気者が持てる。この学校で言えば、うるさくしている、おしゃべりできる人間が人気を持つ。まじめの優等生は相手にされない。それがこの高校の現実だ。なら、俺はどこまでもモテないロードを極めてやる。自分が正しいと思うことを実行する。それが俺であり、人間に与えられた力だ。
「はあ、何言ってんの?」
「あんたの方がうるさいんですけど」
「頭おかしいんじゃない」
「うわぁ、キモい」
高校生は変わったことをする生徒に対しすぐそういうことを言う。どこまでも価値のない人間たちだ。大人になればこういう能無し人間でも少しは変わるのだろうか・・・・人は変われるというが、本人たちは変わる必然性をまったく感じていないやつらだ。変わることはないだろう。
「頭がおかしいのはお前たちの方だ! 勉強しにきてんだよ! 俺たちは。それを忘れて遊びほうけているお前たちの方がよっぽど狂ってんだよ。存在そのものが迷惑なんだ。折に入れられたサルみたいに無意味に騒ぎやがって。静かにするくらいできるだろーが! これじゃあ、小学生以下だな。君たちにはつくづく失望させられる。これ以上俺を落胆させるな!」
俺は怒りと憎しみを最大限に込め、怒鳴ったのでもう誰も俺にはむかう者がいなかった。そして、半年以上ぶりに静かな授業を受けることが出来たのだ。
授業が終わり、俺は波野と二人で会話をしていた。
「びっくりしたぜ。まったく。急に怒鳴りだすなんて。でも、これでいいんだろ」
「ああ、これでいい。学校の呪縛を解くことはモテないことに繋がる。空気の読めない人間というレッテルを貼られることは最終的にはそこにたどり着く。これは運命だ」
「俺には真似できねーな」
「お前はカードゲームを楽しめばいい。俺の真似しろなんて言わないよ。強要は嫌いだからね」
「これで痛い目で見られるな。でも、お前は気にしない。むしろそれを望んでいる。まったく、どこまでも歪んだやつだ。青春を平気でトイレに流すようなやつだぜ、本当」
「それは褒めているのか? それともけなしているのか?」
「両方だ!」




