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文化祭、考えたやつを俺は呪う

 悪しき学校の文化祭が始まったのは十月の終わりごろであった。各教室ではテーマを来て、模造紙にテーマに沿った内容を書き込んだり、屋台を開いたりして大賑わいであった。演劇部やダンス部による演目、吹奏楽部による演奏。各部活による催し。それが学校の文化祭だ。また、三年生の体育会系たちがどこかのドラマに影響されてか、勉強そっちのけで夏中ずっとシンクロナイズドスイミングの練習をしていたとか。この文化祭のためだけに夏という貴重な勉強時間を捨てて本番を寒いプールコートで遊戯を行っている。非常に結構なことだ。この高校生の半分以上は専門学校に行き、大学進学はごくわずか。残りはすべて就職。だから、高校生活を勉強という苦痛より、遊びや恋愛に費やす生徒たちばかりなのだ。これでは学級崩壊もいいところだ。彼らの人生はある意味、この高校で完結しているのだろう。今を楽しむが、先のことはあまり考えない。向上心も将来性も何もない。この高校から有名人が生まれるとしたら、犯罪者くらいのものだろう。

 そんなことを偉そうに考えているモテない俺は、子供大人たちが学校内で展示物や遊戯を見ている中、モテないメンバーたちといっしょにモテない部室に引きこもり、好きなことをしている。

 彼女に振られてから、女性恐怖症に近い病気になってしまった波野は一枚千円以上するカードを買い捲り、デッキを作り、あろうことか大久保と戦っている。俺の知らない間に大久保もカードゲームにはまっており、二人でわけの分からないルールで戦っている。田辺と比島は互いに好きなアイドルや女優の写真集を見せあい、女性たちの顔と美について真剣に話し合っている。二次元オタクの生沼だけはクラスで行っているたこ焼きの屋台を手伝っており、俺たちは生沼を冷やかし、たこ焼きを購入してこの部室で食べている。他の生徒たちとは一切の接触を避けている。というより、正確には何もすることがないのだ。クラスでの催しでも人材が普通に余ってしまい、俺たちは活躍の表舞台と裏舞台から完全に抹殺されてしまったのだ。つまり、今の俺たちは究極の『暇人』なのである。しかし、俺はそのことについてまったく気にしていない。他のメンバーもそうである。皆人ごみが嫌いな引きこもり系なのだ。

 今頃、数々の催しに生徒たちは興奮し、我を忘れているのだろう。高校でしかできないこの興奮や催しのために費やす苦労もまたいい思い出になり、『青春』という記憶として刻まれることだろう。しかし、俺たちには関係ない。俺たちには俺たちの学校生活があるのだ。この行事に対するやる気のなさをサイトにアップしたら、俺たちに同調してくれるモテない人間たちからのメッセージが送られてきた。やはり、文化祭等の行事が嫌いな人、嫌いだった人が数多く存在することが分かったことに、俺は素直に喜んだ。そのため、行事嫌いの集まりという掲示板を設けて、皆で学校行事の悪口を言い合っている。

『無理やり手伝わされた』

『人ごみが嫌いで文化祭をサボった』

『変声期の時に合唱コンクールで無理やり歌わされ、挙句の果てに女子たちから声が出てないと何度も起こられたのは今でのトラウマ』

 などなど。俺も行事に対して意見を述べた。

『国民の税金の無駄遣いだ!』

 そんな建設的な意見を言っている中で、あのリア充世界のやつらからの批判も届いていた。

『行事は教育の一環だよ。それを捨てるなんてもったいない』

『本当にモテないやつらだ。悲しくなってくるよ。もっと、学校を楽しんでほしい』

『学校生活は人生で一度しか来ないんだ。その大切な時をドブに捨てていることを少しでも自覚すれば、価値観は広がっていくよ』

 学校生活をドブに捨てているか・・・・いい言葉だ。癖になる言葉だ。だが、俺にとっては無意味だ。高校生活自体が俺にとって人生最大の『無駄』なのだから。

 俺は今後のモテない組の活動について一人考えていた。

 クリスマスとバレンタインデーと呼ばれる一年でもっともくだらなく、モテない人間にとって最大の絶望行事が待っている。もうすぐ、あの気温と心が寒くなる冬が到来するのだ。俺にとって、冬とは『終焉の季節』であり、日本の悪しき伝統になってしまったクリスマスとバレンタインデーを何とかしなければならない。俺が考えている対策はオーソドックスではあるが、反対デモである。しかし、メンバーの正体が明らかになってしまうことや効果があるかどうかなど検討することは山ほどある。

 足りない頭でいろいろ考えていると、まったく違うことを思い出した。

「そういえばさ、あの学校裏サイトってどうなってるんだ?」

 俺は皆に質問した。

「そういえば、最近見てないな」

「俺も知らないな」

 波野と大久保が即答した。すると、若干2名何か心当たりがある様子であった。

「そこのアイドル馬鹿二人、何か知っているようだな?」

 田辺と比島は完全に挙動不審状態になっている。何て分かりやすい二人なのだろうか。そういうところはどうしても嫌いになれない。

 すると、田辺が代表として話を始めた。

「実はクラスでいじめに遭っている女子生徒がいるんだけど。名前は加藤奈津美。特に女子たちからいじめられてるんだ」

「高校生にもなっていじめとはどこまでも幼稚なやつらだな。そういうやつが社会に出てくるんだ。世も末だよ。しかし、それと学校裏サイトとどういう関係があるんだ?」

「それがさ、彼女地味なんだけど結構かわいいんだよ。でも、クラスの目立つ女子たちがいじめはじめたんだよ。物を隠すはブスって言うし。けっこうかわいいんだけどな・・・」

「かわいいとかそういうのはどうでもいいぞ!」

 田辺が面食いだったことを俺は忘れていた。

「すまない。すまない。で、最近になって、加藤がモテない組のメンバーじゃないかって根拠のない噂を女子たちが広めたんだよ」

「何! そのクソ女子どもめ。いじめはするし、デマを流すわ最悪だな。これは粛清するしかないな」

 本当にこの高校の女子生徒たちは腐っている。男子にも言えることではあるが。ここの女子たちの特徴を俺たちモテない組は『魔の三拍子』と言っている。頭が悪い。顔が悪い。そして、性格が悪い。サイト内でも自分の高校の悪口を書いていることが最近の生きがいになっている俺だ。当然、モテるわけがない。だが、それでいい。モテる長岡良助など必要ない。反骨精神旺盛で、異性に興味のない俺がいればそれでいい。

「そのいじめられている女子生徒でも救いますか?」

 俺は皆に問うた。いじめを解決することはモテない組の目的ではない。しかし、モテない組と疑われてしまったことに多少なりとも責任はある。そして、いじめに対抗するというのはある意味で、この高校のヒエラルキーの上位者たちを敵に回すことになる。それはそれでおもしろい。俺たちは底辺も更にした下に存在するダイヤモンドカーストの鋭角部分なのだから。失うものはない。恐れる必要もない。

「責任を感じているというのは表向きだろ。本当はこの学校生徒に対して何がしたいんだろ!?」

 カードゲームをやりながら、俺の本心を見抜くとは、さすが波野だ。

「分かっているじゃないか。しかし、いじめを解決するにはまず情報が必要になるな。この高校のしゃべる豚たちはいじめに関しては頭脳を働かせるだろうからな。男子には分からないような陰湿を超えた陰湿ないじめをしているだろうし」

 俺は最大限にこの高校の女子たちをけなした。それだけ、何の取り柄もない女たちが集まっているのだ。しかし、そういう考えしかできない俺もある意味でその程度なのかもしれないな・・・・・

 すると、比島がいじめについての話を始めた。

「最初は僕がターゲットだったんです。マイナーなアイドルの写真を持ち込んで、一人それを眺めていたので。それを見ていた女子たちが僕を冷たい目で見るようになったんです。僕が教室を通ろうとすると、女子たちは机ごと僕を避けるんです。ただ、クラスの半数以上が女子たちで構成されてるから、女子社会なんだよね。だから、男子からのいじめがなかっただけマシだったけど」

「へぇ、お前そんなことがあったんだ?」

 モテない最高司令官である俺は『部下』たちのことを把握しきれていなかったことを実感させられた。

「まあ、僕は平気でしたけど。その後、ターゲットが完全に加藤さんに移りまして。彼女、いつも一人で、何を考えているのか分からない独特のオーラを放っているんですね。それに協調性もないのでそれで女子の上位者たちがむかついたんじゃないでしょうか?」

「女という生き物は、仲間を作る生き物だからな。一人でも同調しない者がいれば排他される。それが女子世界のルールだからな」

 女子のことを一番良く分かっている絶望人間へと堕ちてしまった波野が低い声で言った。

「女とはつくづく醜い存在だな。子供を産む以外何の役にも立たないくせにさ」

 俺のこの究極差別発言は一部の男子たちは噛み付いた。

「長岡、それはいいすぎ」

「カスミまで否定するのは僕が許しません」

 という一方で俺の味方をするメンバーもいる。

「女って結局男を財布にしか思ってないからね。地位や名誉に惹かれて結婚しても、そこに愛はないから不倫したり、買い物に走ったりね。かわいそうな生き物だよ。女ってのは。そして、その本性に気づかない男はもっとかわいそうだけどね」

 大久保は毒づいている。何かあったのだろうかと思ったが、よく考えてみれば大久保はそういう人間だったことを思い出して、俺は安心した。

「女は怖いぞ。長岡! あの生き物は本当に化け物だ。俺は振った元カノなんか平気で別の男と付き合ってた。俺なんて未だに引きずっているのにさ。女って生き物はさっぱりしすぎだし。俺は弄ばれたのか! ああ、やだやだ。記憶から消したい!」

 波野が完全に発狂している。俺はこの光景をむしろ楽しんでいる。

「皆、あれが恋愛にすべてを捧げようとした人間の末路だ。よく見ておくんだな。これが現実だ!」

 波野はいい道化を演じてくれる。これはいいサンプルだ。入部させたのは正解だった。これで恋愛の恐ろしさが皆に伝わる。それはとてもいいことだ!

「だから、皆。いっしょに二次元世界へ行こう。あそこにはそういう苦しみは存在しないから。従順で時にツンデレな女の子たちはいっぱいだよ」

「その、変態発言をする人間は・・・・・生沼だな!」

 屋台から帰還してきた生沼が部室に入り、痛すぎる発言で場を和ませた。

「悪しき三次元世界から帰ってきました」

「ご苦労様。どうだった。屋台は?」

「単純作業で面白くはなかったよ。それにお客が全員三次元だからなお辛かった」

「正直でよろしい!」

 俺は今話していたことを生沼に簡潔に説明した。

「三次元コワ、早く家に帰って二次元世界にどっぷり浸かりたいわ」

「そうはさせないぞ。まだまだ三次元で苦しんでもらわなくては」

 俺は生沼を恐怖させた。

「けどさ。モテない組がいじめの原因なのかい? そのいじめ?」

「違うだろうな。それは口実で、俺たちの存在がなくてもいじめは起きていたさ。俺が許せないのはモテない組をいじめの口実にしたことと、事実無根なことがまかり通っていることだ。俺はそれが許せない。粛清する必要がある・・・・・・よし、決めた。その加藤って女を救おうじゃないか!」

「マジでやるのかよ?」

 波野からの声であった。

「モテない歴史を作り続ける。これが俺の生きがいだ。よし、そうと決まれば、生沼、田辺、比島、大久保の四人は休日に行って秋葉原にいって隠しカメラを買って来い!」

「何ぃ!?」

 全員が驚いてしまった。

「長岡、お前そういう趣味があったのか。生物としてはいいことだが、人としては疑うよ!」

 田辺に言われてしまった。

「馬鹿やろう! だれが好き好んで盗撮なんかするか! いじめの実態を映像で確認するんだよ! それにある意味で切り札になる」

「長岡、お前は何を考えているんだ?」

 全員が俺に対し、いろいろな恐怖を抱いている。そして、俺たちの文化祭はここで終わりを告げた。


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