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失恋とは、恋愛がいかに無意味であるかを知り、人を成長させるのである

 秋のシーズンが到来した。読書の秋、食欲の秋、そして学校にとっては『行事の秋』でもある。学校はどこまでもこの俺を追い詰めようとしている。俺の嫌いな行事が盛んになるこの季節。俺はこの季節を『憎悪の季節』と言っている。しかし、幸いなことに、この進学校の成り損ない高校は文化祭と体育祭は毎年交互に行われるため、今年は文化祭だけなのである。また、中学校の時とは違い、合唱コンクールと呼ばれる忌まわしき行事も存在しないので俺は安心している。

 文化祭をどう乗り切るか? これが俺の最大課題であるが、夏休みが終わってすぐの2学期始業式で俺は予想もしなかったことが起きたのだ。

 まず、モテない組が学校内で公のなってしまい、生徒内の間ではメンバー探しが行われ、事情聴取までしているやからまで出てきたことだ。非常にくだらないことをしているが、正体はまだばれてはいない。

 そして、もう一つ、それは放課後になり、生徒たちが早々と帰っていく中、波野から言われた。

「俺、モテない組に入りたいんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・ん!?」

 俺は驚きのあまり言葉を見失ってしまった。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、話を聞き始めた。

「何があったんだ?」

「彼女に振られた!」

「振られた・・・・何で?」

「カードゲームやってるところを見られたんだよ。たまたま彼女が友達とショップに来ていて、俺がカードゲーマーたちといっしょに専用の机で対決しているのを見られたんだよ。そうしたら、メールで『別れて』と一言。あんなに好きだったのに、いつかは結婚するんだろうなと思っていなのに・・・・・・そんなにカードゲームがいけなかったのか!? マジ死にたい!」

 そして、俺は波野に止めの一言を言った。

「この時を待っていたよ。波野よ。モテない組のようこそ!」

 そして、次の放課後に全員を集め、モテない会議を開いた。議題は波野隆をモテない組に入部するかどうかという内容であった。波野は失恋のショックからまったく立ち直ってはいなかった。一日中上の空で、まるで魂のぬけた肉体だけが椅子の上に座っているようであった。その波野を俺はモテない部室につれていき、椅子に座らせ、縄で縛りつけた。

「これは何の真似だ!?」

 波野を中心に机を囲み、モテない裁判を開催している。

「波野、すまない。モテない組には掟があってな。それをクリアしているかどうが、お前がモテない組にふさわしい男かどうか、見極める必要があるんだ。それに、これは俺の発案ではないんだよ。俺はね。別にいいんだけど、お前が彼女がいたことに対しては、俺はね。俺は。でも、他のメンバーがどうしてもさって」

 すると、生沼以外のメンバー全員が嫉妬に狩られた目で波野を見つめている。

「波野、これが現実だ。君がリア充であることは全員知っている。つまり、お前は敵だということだ。分かるな?」

 俺は掟について正直あまり気にしないいい加減な男だ。しかし、俺以外の人間たちはそうもいかない。

「波野、俺はね。いいんだよ。別に。俺はね。でも、他のメンバーたちが許してくれるかどうか・・・・だから、君の裁判を始める」

「これじゃあ、ただの糾弾じゃねーか。だから、モテないんだよ!」

 波野は暴れだしたが、大久保が念入りに縄を縛ったので抜け出すことは不可能だろう。モテない人間の嫉妬とは恐ろしいものだ。誰一人、俺の境地に達していないということだ。これは一大事だが、この展開の仕方はお笑い的には非常におもしろかったので俺はそのまま放置することにしたのだ。しかし、モテない裁判を指揮するのはモテない最高司令官である俺の役目なので事実上、傍観することはできないのだ。

「これから、モテない裁判を始める。被告人波野隆はモテないメンバーたちからの質問に正直の答えるように。少しでの虚偽の答弁をすればモテない組入部は今後一切できない。では質疑応答を始める」

 すると、真っ先に田辺が最初の質問をした。

「はっきり聞こう。彼女とはどこまで行ったのだ!」

 実にストレートな質問だった。田辺らしくない。こういうデリケートなことを言えるような男ではないはずだ。しかし、波野もまた友人。それもありだろう。

「いや、その・・・・・・・なんだ・・・・・・」

「被告人ははっきりと述べよ!」

 俺は普段馬鹿にされているので、ここぞとばかりに波野をいじめた。

「長岡、貴様!」

「質問に答えなさい!」

 俺は譲るつもりはなかった。モテない組をあれだけ馬鹿にしていた男をそう簡単に入部させてたまるか!

「彼女とは中学二年生の時に時代に告白されてそれ以降、振られるまでづっと付き合っていました。しかし、俺がカードゲーマーだと知ってしまった彼女は僕に別れを告げました」

 すると、今度は冷静沈着であるはずの大久保が言葉を発した。

「そんなことは聞いていない! 俺たちはお前が彼女とどこまで行ったか聞いているんだ!」

 大久保の声は通常に二倍大きく、全員を驚かせた。これには波野も絶句し、恐怖している。そして、波野は真実を語り始めた。

「俺だって、男だし、それに中二の頃から付き合ってたから・・・・・・やりました!」

 その言葉に一同は言葉を失ってしまった。すでにそこまで経験済みという現実に。そして、モテない組の掟である純潔を守るということをすでに破っている。

「波野、貴様! 極刑だ、死刑だ。拷問だ!」

 田辺が興奮している。この俺の境地に達することができない田辺は恋愛という呪縛に心奪われている。灰色の青春を遅らせるなら、青春自体を排除する方が幸せだと俺は思う。あの自称リア充たちにそう伝えたくなってきた。

「田辺、落ち着くのだ。そして、よく見るがいい。これが恋愛という妄想に囚われた人間の末路だ。もはや、人間ではないのだ」

 今のは完全に言いすぎたが、今の波野にはいつものエネルギーを感じない。これが失恋という『病気』だ。俺はその光景に恐怖し、恋愛できない体質であることを心から感謝した。

「しかし、カードゲームをしていただけで、振られるとは不憫だな。波野。本当にそれが原因なのか?」

 冷静さを取り戻した大久保がもっともらしい質問をしている。

「どういう意味だ?」

「カードゲームはあくまで表向きな理由で本当は他に好きな人でもできたんじゃないか? カードゲームをやっていただけですぐに別れるかな? 俺は若干の疑問が残るけどね」

 そういう考え方は俺にはなかった。さすがは大久保だ。所詮、学生の恋など、恋愛ごっこにすぎないのだろう。

「ほしいカードの購入を我慢して彼女のデート代に費やしたし、会話も途切れなかった。何にも問題はないと思ったのに。俺には分からないよ。大久保の言うとおり、他に男ができたのかもしれない」

「本人からは何か言っていないのか?」

「別れたいとしか言っていないから。理由を聞いても返事が返ってこない。学校でも無視されるしさ」

 この高校の女子生徒など所詮この程度だ。波野はいいやつだ。だから、正直に理由を説明すれば傷ついても一つの問題は解決する。それが分からないのか。それとも、俺の考えが甘いのか。どちらにしても、恋愛を否定する口実ができたことは俺にとってはプラスになる。人の不幸を喜ぶ俺はやはり、歪んでいるのだろう。それもいい。俺のような変人が世界を変えるのだから。

「俺は許さないぞ。好きな女性と付き合って、若い女性の体を堪能するなんて、何てうらやましいんだ! ちきしょう!」

 田辺は完全に嫉妬に狂っている。これはいかんな。

「俺は気にしないけどな。所詮三次元だろ!」

 生沼はどこまでも二次元ロードを突き進む。非常に結構なことだ。

「僕も気にしませんけどね。僕にはカスミが今の生きがいなので」

 俺はカスミオタこと比島を波野に紹介した。

「波野、俺は本当に悔しい。若い女性とあんなことやこんなことしやがって。青春しやがって!」

 その発言で俺はリア充世界のやつらの言葉を思い出していた。青春という思い出が残り、人を成長させると。しかし、今そこにある青春には青とはほど遠いどす黒いものであった。

「田辺、こんな恋愛などどうでもいいだろう。よく考えてみろ。確かに波野は俗に言うリア充だったのかもしれない。しかし、自分のカードゲーム趣味を隠していた。それは元カノがすべてを受け入れてはくれないことを波野自身が気づいていたからだ。そんな恋愛が長続きするはずがない。まして、好きなカードを購入しないでデート代やリアルな話をすれば、避妊器具代で金を消費する代償があるんだ。それが本当に幸せと言えるものか。そして、その結果振られて、はい終了。お金は返ってこないし、残ったのは未練に満ちた思い出と苦しみだけだ。幻なんだよ。何もかも。波野はその幻影に人生と金を投資したんだ。お前も同じことをしたいと思うか? 代償は大きいぞ」

 すると、嫉妬に狩られていた田辺が落ち着いたので俺は安心した。

「しかし、波野はまた恋愛に走る可能性だってあるぞ。失恋を治療するには恋愛を再びすることだからね。片思いだけならいいが、一度一線を越えてしまった人間はその味を知ってしまい、また繰り返すぞ」

 大久保からの助言は正論過ぎる。しかし、俺はその考えも超越する。

「きっと、そうだろうな。だが、その時はその時だ。俺はいいサンプルを手に入れたと思っている。最低な言い方だが、この言葉が一番しっくり来る。恋愛の末路をサイトに示すんだよ。俺は波野を正式にモテない組のメンバーに採用するつもりだ」

「長岡らしい言い方だ。分かったよ。好きにすればいいさ」

 大久保は納得したようであった。そして、他のメンバーの了解も得たが、田辺だけは未だに嫉妬しているようであった。これもまた仕方のないことだ。

 そして、俺は波野の縄を解き、耳元でささやいた。

「こっちの世界にようこそ・・・・・」


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