現実もネット世界も冷たい
あっという間に夏休みが過ぎ去り、学校の宿題とサイトの投稿以外何もしていない俺は夏休み中唯一の登校日である8月1日を迎え、俺は今学校の教室で波野と話している。夏休み中一度も連絡をとっていなかったので本当に久しぶりであった。
モテない組サイトでは俺の予想通り、干物男に対するバッシングが炸裂していた。
『何、知ったようなこと言ってんだよ! ホモやろう!』
『負け犬中の負け犬』
『去勢男が何言ってんだ!』
などなど、暴言が後を絶たない。俺はかなり嫌われてしまったようである。考え方を変えれば、それだけ彼らには不満がたまっているということだ。俺は怒りや憎しみではなく、悲しみを抱いてしまい、むしろ同情するような投稿を続けている。ネックラーこと大久保専用コーナーでは誹謗中傷は少ないが、禿げていない俺が知ったようなことを言っていることが気に食わない閲覧者もいるようだった。しかし、これは仕方のない結果であり、ある意味必然である。それだけ彼らが社会に追い詰められている証拠だ。
俺は、彼らの心の叫びを受け止めているのだ。だから、俺も負けるわけにはいかない。ただ、俺の考えを訴え続けるしかないのだ。
そんなことを考えていると、波野から予想もしていなかったことを言われた。
「お前たちが作ったモテない組サイト見たよ。結構投稿多いじゃん」
「それだけ、モテない人間が苦しんでいる証拠さ」
「それはいいんだけどさ・・・・・」
波野が何か言いたそうな顔をしている。
「実はあのモテない組のサイトがこの学校の生徒たちにばれちまったんだよ!」
「・・・・・・何だと!」
俺はその言葉に驚き、そして恐怖した。まだ、早い。まだこの高校の生徒たちに知られるわけにはいかない。
「この高校のいわゆる・・・・学校裏サイトでモテない組のサイトの噂が広まっているんだ。友人から聞いた話だから、詳しいことは分からないが。悪口が書かれまくっていたぞ」「そうか、知られてしまったんだな・・・・・・」
「しかも、お前のサイトを荒してやろうとする動きがあるらしいぜ」
「何、なぜ俺のサイトを荒す必要性があるんだ?」
「遊びだろうな。学校裏サイトの連中はそんなやつらばかりだ」
波野もこれには呆れているようである。たかが遊び。それがこの高校の生徒たちの安っぽい価値観だ。
「検索すればその裏サイトとやらは見つかるのかい?」
「それは簡単だけど、パスワードがないと入れないのは分かるな?」
「ああ、パスワード・・・・・で、そのパスワードの中身は何だ?」
「知らないよな。この学年の少数の人間だけがアクセスできるからな。モテない組のお前たちは当然知らない。これを知っているのは学校の上位者たちだけだからな」
「なるほどな。そういうやつらが俺たちモテない組を批難するわけだ。でも、お前はパスワードを知っているんだろ」
「ああ、彼女が教えてくれた」
「それは助かるよ、ふふふ」
俺は携帯を取り出し、モテない組のメンバーたちに会合を開くことと学校裏サイトの存在やそのパスワードを送信した。
「長岡、一体何をたくらんでいる?」
「インターネット内での殴りこみかな」
今日の登校日の主な目的は学校の大掃除である。特別授業もなければ、何かの行事をすることもない。実に平和な高校である。他の新学校なら夏期講習というものに参加させられるのだろうが、この進学校の成りそこないであるここにはそのような講習は存在しない。まあ、それはそれで結構であるが。
そして、ホームルームも終わり、部活に参加する生徒や下校する生徒の中で俺は一人、モテない部室へと急いだ。
「長岡、またな!」
「ああ、」
波野はカードゲームをするために颯爽と教室から離れていった。
俺は部室のドアを開けると、生沼、大久保、田辺、そして新入部員の比島が椅子にすわっていた。
「皆、遅れてすまない。では始めようか。モテない組の夏の活動を」
そして、俺は波野から聞かされたことをそのまま説明した。すると、田辺と比島の二人は急に土下座をし始めたのである。
「皆すまない。俺たちが高校をばらしてしまったからこんなことになってしまって!」
生沼と大久保が困惑する中、俺は床に伏せている二人に向かって言葉を発した。
「二人とも、よくやってくれた!」
「・・・・・え!」
全員、俺の言葉に驚いているようであった。
「俺は今までモテない組の存在をいつ公にしようか考えてばかりで先延ばしにしていた。しかし、二人のおかげで吹っ切れたのだ」
「しかし、これではモテない組のサイトは荒されるぞ!」
田辺が恐怖のこもった声で言った。
「上等じゃないか。もし、荒されたら同じことをすればいい。そのためのパスワードだ」
そして、俺たちは一旦この場を離れ、パソコン教室へと移動を開始したのだ。モテない組のサイトが現在どの程度荒されているかを確かめるために。すぐに到着し、中に入ると、そこにはパソコン同好会のメンバーたちがパソコンで何かをしている姿を見ることが出来た。パソコン教室は基本的に自由解放されており、パソコンの検定等を受けたい生徒のために解放されている。俺たちと同じく、冴えないパソコン同好会のメンバーたちが不思議そうに俺たちを見ている。俺はそんなことは一切気にせず、適当にパソコンを選び、大久保がマウスを動かし、起動させ、インターネットにアクセスした。そして、俺たちのサイトにアクセスしようとしたが、うまく表示されなかったのだ。
「なぜ、画面が開かない?」
知識の乏しい俺は他のメンバーに聞いた。
「きっと、ロックがかかっているんだな。いかがわしいサイトにはアクセスできないようになっているんだよ」
「じゃあ、学校裏サイトは?」
「それも開くのは無理だろうな」
「なら、しょうがないな。全員パソコンを持っているな?」
俺は全員に聞き、メンバー全員が自身のパソコンを持っていることを確認し、その場で解散させた。そして、後は各自でサイトと開き、どうするかを個人に委ねたのだ。俺はモテないサイトの荒れ具合で、学校裏サイトを荒らすかどうか決めることにした。
そして、数十分後には自分の部屋にいき、急いでクーラーを起動させ、暑さを回避し、大久保から貰ったパソコンの電源を入れた。
モテない組のサイトを確認すると、各コーナーのコメントの数が異常に上昇していることが分かり、俺はその中から恋愛コーナーへとクリックすると、そこには俺たちモテない人間を誹謗中傷する投稿ばかりであった。しかも、ご丁寧に投稿名は『石橋東高校生』と俺たちの高校名を使っている。内容は以下の通りであった。
『うわぁ、マジ引くわ』
『マジキモ過ぎ。童貞の傷の舐めあい』
『負け犬の慰めあい。見ていて痛すぎるわ』
そして、俺が予想していた言葉が載っていたのだ。
『おい、干物男、ネックラー、ニジコン、カスミオタ、ダークサイド、正体見せろ! マジうぜぇんだよ』
『同じ高校生としててめぇらマジで恥なんですけど』
俺は気分が悪くなり、大久保の頭皮の薄い人たちのコーナーへと画面を変えると、そこも地獄へと化していた。
『禿のたまり場マジきめぇ』
『植毛でもしたら、それでも無駄だろうけど』
『高校生で禿とかマジうけるんですけど』
『女性だけど、禿生理的に無理。マジで死んでください』
これが石橋東高校生の実態だ。人の気持ちを一切考えない動物たちだ。それとも、ただ幼稚なだけなのだろうか? どちらにしても、今は俺たちの敵だ。
ニジコンこと生沼のために用意した二次元大好き人間たちコーナーをクリックすると、聞いたことのないゲームやキャラクターについて熱く語っている。しかし、そんな彼らのオアシスを汚す連中は存在した。
『ここの連中一体何なの? 変態の集まり?』
『キモ過ぎ』
『犯罪予備軍死ね』
『キモオタ死すべき』
その他にも誹謗中傷は後を絶たなかった。
これを俺は許すことはできなかった。建設的な意見など存在しない。ただの悪口だ。話し合う価値などなかった。
俺はこの状況を打開する案を考えた。しかし、同じ高校生が敵であるため、感情的になり、『戦争』という言葉以外俺は考えられなかった。しかし、戦争には大勢の味方が必要である。そこで、俺はあることを思いついた。
俺専用のコーナーを作ってこのサイトを見ているすべてのモテない人間たちに応援を求めることにしたのだ。それは、同時に俺に対する罵声が増加するデメリットがある。しかし、俺だけの考えを見やすく掲載するにはたいしたことではない。大久保や生沼たちがあれだけ批難されて俺に対する罵声が少ないことはモテない組最高司令官である俺の務めを果たしていないことになる。
俺は『干物男の嘆き』とうタイトルで掲示板を製作し、今のモテない組の状況を説明した。そして、俺は画面を切り替え、石橋東高校の学校裏サイトにアクセスした。そして、波野から教えられたパスワードでそのサイトに侵入することができた。
すると、そのサイト内もいくつかの掲示板があり、その中に『モテない組について』と書かれたクリックバーがあったので俺は何のためらいもなく、マウスで左クリックボタンを押した。すると、大量のモテない組に対する誹謗中傷が書かれてあった。
『何、あの痛いサイト? 本当にうちの生徒が運営してるの?』
『恥さらしもいいところだな』
『イタキモい』
『↑その言葉マジウケル』
『誰が運営しているかマジ気になるわ。あんな痛いサイト運営するんだからまともな神経してないぞ!』
『負け犬小屋だな』
『あういうのを死ねばいい人間っていうのよね』
『孤独死組だろ!』
『低下層の人間って本当にさびしくて泣けてくる。慰めないけど!』
こいつら・・・・・・
俺はむしろ呆れてしまった。つまらないエゴばかりが並んでいて、怒りを通り越して本当に悲しくなってきた。呆れてしまい、何も投稿する気力を失ってしまったのだ。しかし、そんな俺を蘇らせる投稿が多数やってきたのだ。始めに投稿してきたのは他でもないニジコンこと生沼とその信奉者たち、つまり二次元コンプレックスのメンバーたちが学校裏サイトに反撃してきたのである。
『モテない組のニジコンです。あなたたちにどうこう言われる筋合いはありません。もう二度と俺たちのサイトを荒さないでください』
生沼は冷静な態度を取っている。そして、何よりモテない組に対する愛を感じるのだ。
しかし、二次元世界の住人たち全員が温和なわけではない。
『二次元世界からやってきた二次元戦士だ。お前たち二次元なめんなよ! 三次元のブスなんかよりよっぽどマシだからな。このサイトに投稿している中にブス女がいることは分かってんだ! 整形してから投稿して来い!』
『二次元からの遣い者だ。モテない組は俺たちにとって大切な居場所なんだよ。お前たちのように、人を馬鹿にすることしか知らないクズこそ死ぬべきだ!』
『二次元たちの人間の方がよっぽど人格者たちだぜ。お前たちクズの高校生なんかより作り物の人間の方がよっぽど優れるぜ!』
これに続いて今度は大久保たち薄毛集団たちが降臨した。
『皆と同じ高校生のネックラーです。頭皮の悩みを語っているだけで中傷される理由はないです。同じ高校の生徒として恥ずかしいです』
『薄毛馬鹿に済んじゃねーぞ、若造共が! 偉大なことを成し遂げている人間はほとんど禿だぞ。頭皮が薄くなるまで必死に働いて社会に貢献しているんだ! 馬鹿にされるいわれはない!』
『俺たちは髪の毛がなくても生きる権利がある!』
そして、アイドルオタクや田辺も加わり、学校裏サイトが荒され始めている。それに対抗しようと学校裏サイトのフォロアーたちも反撃する。比島の好きなアイドルカスミの画像がアップされ不細工と馬鹿にされている。俺も初めて見物してみたが、正直かわいくなかった・・・・・・・しかし、好き嫌いは人それぞれだ。その感性を否定することは誰にもできないはずだ。
『負け犬の遠吠えなんだよ。マジ死ねよ』
『キモ過ぎて吐き気がする。本気で死んでください』
『うぜぇんだよ。ここは石橋東高校生のためのサイトなんだよ。部外者は引っ込んろ!』
『低下層人は踏み台になればいいんだよ』
『ニートやキモオタの分際で何むきになってんだか』
その後も罵声は続いている。互いのエゴをむき出しにしているのだ。顔もろくに知らない人間たちによるインターネット戦争。俺はその光景を喜んでいた。怒りも憎しみも悲しみといった負の感情と同時に俺の中に『感動』というものが生まれているのが分かる。普段、言えないことをインターネットではあるが、ぶつけ合っている。日本人は常に本音を隠して生きている人種だ。いつか・・・・・本当にモテなくてもまったく気にしない、新たな価値観が生まれるのではないかと本当に思ってしまう。王政国家から民主主義になったように日本も新たに生まれ変わる。小さな大一歩を踏み出したような感覚は俺をさらにモテないロードへと進んでいくエネルギーとなる。
数時間経ち、エゴの押し売りが未だに続いている中でやはり、あの言葉が投稿されてきた。
『干物男はまだこないのか?』
『いつものことだからね』
『ネックラーだ。モテない組代表は必ず現れる。そういう男だ。きっと、このサイトを閲覧し、タイミングを待っているはずだ』
しかし、学校側の生徒たちはその言葉に反論する。
『おじけてんじゃねー』
『ヘタレだろ、所詮』
『干からびているに決まってんじゃン』
それでも、モテない組の信奉者たちは俺の登場を期待している。
『お前たちはモテない代表の凄さを知らないんだ。あの人は価値観を変えようとしている人間だ。同じ高校生で誹謗中傷しかできないお前たちとは違うんだよ!』
『あのモテないリーダーがいるから今の俺たちがいるんだ! その偉大さはお前たちのような人間には理解できないさ!』
俺のような人間が少数ながら支持されていることに余計感動を覚えてしまった。
出し惜しみはもう終わりだ。
俺はパソコンのキーを指で押し、自分の思いを学校裏サイトに伝えようとしたが、予想もしていなかった事態が起こったのだ。
『どうも、どうも、モテない組代表の干物男です。皆さん。けんかはやめましょう。僕はそんなこと望んでいません。まずは落ち着くことから始めましょう』
俺の成りすましだ!
まさか、偽物がこの俺を名乗るとは・・・・・・しかし、それはそれでおもしろいな。もう少し、様子を見よう。この偽物がどれだけの者かを
すると、すぐに返答が帰ってきた。
『何が落ち付けだよ。てめぇが原因だろうが』
『偉そうなことを言ってんじゃねーよ。童貞!』
『ホモマジきめぇ』
『負け犬の棟梁参上ってか』
学校裏サイト側の人間たちが偽干物男にバッシングを浴びている。果たして、偽物はこの状況に対し、どう対応するか楽しみであった。
『そこまで言わなくてもいいじゃないか! 君たち酷いよ』
偽物の発言は明らかに小物レベルの人間であることが分かる。俺を演じたいのなら、まずは自分自身を超える必要がある。この偽物には俺になる資格はない。もし、俺になりたいならあの程度のバッシングは気にしない。ただ、こいつもきっと、モテない人間なのだろうと俺は思う。正体などどうでもいい。今は俺の降臨には早いということだ。
『マジ基地は引っ込んでろ』
『タマナシ人間が。男としては終わりだな』
『非モテってかなしいね』
バッシングは後を絶たない。すると、モテない連合軍が応戦した。
『モテなくて何が悪いんだ!』
『こんなことしている暇があるなら勉強しろ!』
そして、偽物の干物男が再び投稿した。
『そうさ、僕はモテない組だ。それの何が悪い。俺たちは人間だ。お前たちに死ねとかキモいとか言われる筋合いはない!』
すると、モテない組で唯一頭のいいネックラーこと大久保が口を開いた。
『そこの干物男。お前、偽物だな! 成りすましはやめろ! あいつは自分を『僕』とは言わない。一人称は『俺』だ。そして、この投稿を画面上から見ている本物よ。いつまで高みの見物をしているんだ。いいかげん、『降臨』したらどうだ?』
さすがは大久保である。すべて見破られている。なら、仕方がないか。高みの見物は終わりだ。俺の降臨を見せてやる!
『モテない連合軍最高司令官である干物男降臨。ネックラーめ。この俺の行動を読むとはさすがだな。では、この最高司令官の言葉を聞くがいい。学校裏サイトで悪口しか言えない哀れな学生たちよ。でも、その前にまずは偽物に一言言いたい・・・・・偽物になってしまう隙を作って申し訳なかった。俺は君を攻めるつもりはないよ。もし、罪の意識を感じているならこれからの俺の投稿文を読んでいてほしい。では、始めようか。この俺のモテない講義を!』
すると、この文に対し、最初に投稿してきたのはダークサイドの田辺であった。
『いつから、連合軍最高司令官になったんだよ!』
え、そこかよ!
俺は心の中で突っ込んだ。
『この偉そうな口調。幼稚な文。そして、この自分勝手さ。これは本物に間違いないな!』
ネックラーからの投稿文であった。
信じてもらえたが、明らかにけなされているので俺は複雑な心情になった。
『俺も信じる。二元世界の代表として!』
生沼は相変わらず二次元世界の住人である。
『僕の大事なカスミを馬鹿にした連中をこらしめてください!』
比島も加わり、モテない組全身集合というわけだ。
『学校裏サイトの諸君たちに告ぐ。まず、君たちは俺たちモテない組のサイトを荒した。もちろん、モテないことを心情とする考えを理解できない、おかしいと思うことは自由だ。そのことについてはもはや価値観の違いだ。俺も無理に自分のエゴを押し付けるつもりはない。しかし、君たちは建設的な意見は一言も話さず、ただ俺たちのサイト、俺たちの存在を愚弄した。ただ、一方的に俺たちを批難し、馬鹿にし、傷つけた。それは言いかえればただの『いじめ』だ。下劣で低俗で人間として愚かのさらに下に位置する行為。それを平気で行う君たちは・・・・・哀れだ。君たちは俺たちが残念な人間だと思っているだろうけど、本当にそうかな? 本当に残念なのは不満とエネルギーの塊である君たちの方だ。こんなことに時間を費やしていることが非常に悲しい。そして、何より悲しいのは君たちがそのことにすら気がついていないということ。無意味でためにならない歪んだ遊びで楽しんでいる君たちを見ていると、この先進国で何でもできる日本人に絶望してくる。他に楽しいことはいくらでもあるはずなのに、悪意に満ちたものに取り付かれ、他者の人格を否定するお前たちは本当に哀れだ! 俺たちはただ、モテないという悪意に満ちたレッテルを貼られ、苦しんでいる人々を救いたいために集まった組織だ。正義の味方とは言わない。ただ、この世界の価値観に疑問を持った人たちの集まりなだけなのだ。何も悪いことをしてもいないし、誰にも迷惑をかけていない。君たちの悪意が俺たちを集めたんだ。そのことを良く考えてくれ!』
彼らをただ批難するのは簡単だ。しかし、それでは彼らと同レベルになってしまう。世界に新たな価値観を広めることを目標としている俺が、他者をただけなすだけの人間では目標を達成することはできないだろう。ただ、周囲から怒りを買い、冷たい視線を送られるだけだ。
その後、俺が投稿した文に対し、反論の言葉が返ってきた。分かっていたことではある。それを受け入れ、吸収し、ばねにして自身の勢いを増す。それが俺のやるべきことなのだろう。
『何偉そうなこと言ってんだよ! モテないくせに』
『ホモの分際で』
『新しい価値観・・・・・・バッカじゃねーの?』
『負け犬は何もしても負け犬だ!』
無数の罵声がモテない組最高司令官へと直撃する。俺とモテない組最高司令長官は表裏一体であり、イコールでもある。しかし、見方を変えれば、分身、身代わりになりうる。
俺はその分身を罵声の身代わりにし、投稿文を載せ続けた。
『なぜ、その程度のことしか言えないのだ。お前たちは感情だけに身をまかせ、理性を捨てている。それではただの動物ではないか。君たちのような存在がいるから俺たちがいるのだということを気がついたらどうだ。』
モテない組の信奉者たちも応援してくれる。
『そうだ、そうだ、お前たちは間違っている』
『君たちは本当に幼稚だ。私は三十代の独身の禿の男だ。高校生でモテない組を作った最高司令官があんな言葉が言えるのにどうして、君たちはそう幼稚なんだ。私も人のことは言えないし、大人になれとは言わないが、この学校裏サイトでしていることは実にくだらなく、何の意味もない。モテない組に入れなんて言わないから、もっとまともなことに高校生活を使ってほしい』
そうか、三十代の人も俺のサイトを見ていてくれたのか。
俺は喜びと同時に一種の悲しさも感じ取ってしまった。それは、三十代の人間が高校生のサイトのファンになったことではなく、三十代の人も苦しんでいることに対する悲しみである。
今日は、この不毛で熱いインターネット大戦をただ、ひたすらに続け、眠りにつくまで俺たちモテない連合軍は戦い続けた。




