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12/21

青春の夏、それは妄想である

 学校は長期休校となった。それは今が夏だからである。

『夏』それは自由な時間、学校から開放され、夏の暑さを利用して海水浴や夏にしか見ることのできない景色を眺め楽しむ時間だ。そして、学生にとっては友人たちと眠らずに遊びほうけ、無茶や馬鹿なことをしたり、好きな女の子と楽しい時間を過ごす。彼女の水着姿や浴衣姿に見とれ、青春をもっとも謳歌することの出来る最高の季節・・・・・んなわけねーだろーが! 一体どこの青春クソドラマだこら!

 俺は今、学校から出された大量の宿題をこなしている。馬鹿高校といえども宿題だけはしっかりだしやがって! チキショー 

 しかし、夏休みだからこれくらいの宿題は、と思うのは最初だけである。夏休みはまさに究極的な長期休暇であり、何もやる気が起きないので、宿題などできるわけがないのだ。

 そう、俺にとって夏とは『堕落の季節』なのだ。休みに甘え、暑さに殺される。それが夏というものだ。そして、何も成し遂げることなく俺の休みは終わる。これが今までの夏休みの過ごし方であった。

 しかし、今の俺にはモテない組がある。もちろん、学校に来て会合するようなことはしない。というよりしたくない。それは他のメンバーたちも基本引きこもり系なのでわざわざ学校に集まる理由はないのだ。そして、何よりこの部活は非公認の自称秘密結社だ。他のありきたりな部活といっしょにしてもらっては困る。

「ああ、面倒くせー」

 俺は国語で出された百人一首を写す宿題を放り出し、パソコンを起動した。暇でモテないこの俺は今宿題という悪しき勉強を捨て、絶対的自由を手にした。

 大久保から貰ったパソコンはすぐに起動し、俺はモテない組サイトを開いた。

 いろいろなテーマを俺が持ち出し、恋愛に対し、否定的な意見を求めていた俺は夏休みに入る直前になって、あるテーマを上げたのである。

 それは『男女の自転車二人乗り』についてであった。

 青春物のドラマや映画、音楽のPVにも必ずと言っていいほど映像がする男女の自転車の二人乗り。俺はこのシーンを見るだけで虫唾が走ってしまう。しかし、それだけなら我慢しよう。どうせ、モテない組の俺や他の人間たちには絶対することのないシーンなのだから。

 したくてもできない。この苦しみを製作人たちは考えていない。無意味な憧れシーンを描くことがいかにモテない人間を苦しめるかということを。それはある意味で罪である。しかし、俺にはもう一つ許せないことがある。それは、二人乗りが法律で禁止されているはずなのに、それを平気で助長していることである。モテない人間を傷付け、なおかつ犯罪を促進している。俺は許すことは出来ない。だから、テーマ欄にアップしたのである。

 俺はそのテーマ欄をクリックし、投稿者たちの嘆きを目撃した。

『あれ、正直あこがれるわ』

『俺も一度でいいからあういう経験してみたいな』

『実際に他のカップルが二人乗りしているの、生で見るとうらやましくて辛くなる』

 などの多数のモテない人間たちの断末魔が聞こえてきた。これが社会の弊害だ。青春物は多くのモテない人間たちを傷付ける。モテない人間はモテないという言葉に呪縛され、それ以外の人間たちは彼らを嫌悪する。こんな社会に疑問を持たない人間ばかりだ。日本人とはつくづく冷たい民族だと思ってしまう自分がいる。

 俺は、彼らの悲鳴に対し、モテない組たちは何を投稿しているのだろうかと閲覧し続けた。まず、最初に投稿されていたのはやはり、ニジコンである。

『俺は二次元世界でリア充しているので、そういうのは気にしないな』

 あいつらしい発言だ。しかし、らしすぎてどうしようもない投稿だ。

『あれ、一人乗り用の自転車に二人乗りしていることだよね。それって法律に違反しているんじゃないの。道路交通法とかに違反していて俺は嫌だね』

 ネックラーが一番まともなことを言っている。さすがは大久保だ。しかし、逆に心配してしまう投稿をしているのはダークサイドの田辺だ。

『俺もそういうシーンにあこがれるわ。しかも、生でその光景見ると憧れてきて、自分の人生のつまらなさに絶望してきて死にたくなるんだよな・・・・・・』

 馬鹿やろう。モテない組の幹部が何を言っているんだ! と心の中で叫んだ。

 しかし、このカップルの二人乗りにあこがれている哀れな人間が大勢いることは分かった。しかし、あんなことして何が楽しいのか? 俺には皆目検討もつかなかった。

『男同士でやったことはある・・・・・』

『俺の同級生、二人乗りしてだな・・・・・・まあ、不細工な女とだけど』

『↑負け犬の遠吠え。彼女いないよりずっとマシ』

『↑お前だっていねぇくせに』

『まあまあ、どっちにしろ、カップルの二人乗りは俺たちには一生縁のないことなんさからさ。こんなところでけんかしてたってしょうがないっしょ』

 掲示板内でのくだらなく、幼稚で醜い言い争いが起こっていると、ダークサイドの田辺がまた、ネガティブ発言をした。

『マジ欝だわ。カップルの自転車二人乗り。このサイト内でも亀裂を起こすんだからマジやばいわ。ますます死にたくなってきた・・・・・』

 本来の使命を完全に忘れ、いっしょになって鬱になっている。駄目だこりゃ・・・・

 しかし、それを救済しようと、大久保ことネックラーががんばっている。

『だから、言ってるじゃないか。二人乗りは犯罪だ。そんなことにあこがれるなんて馬鹿げている』

 大久保は完全に正論を言っている。俺の言いたいことは大久保が代弁しているのだ。しかし、その正論は必ずしも人を救うものとは限らない。俺は掲示板でそのことを改めて実感した。

『そんなことはどーだっていいんだよ!』

『どうせ、俺たちはモテない組さ・・・・』

『負け犬の遠吠えにしか聞こえませんが・・・・・・』

『正論だけじゃあ、人生楽しめねーんだよ。このハゲ!』

 何、大久保がサラブレッド禿であることはネットには一切載せていないぞ。一体どういうことだ? 

『禿は引っ込んでろ』

『増毛して出直して来い!』

『毛を失ったら人生オワタ』

 これは大久保に対する誹謗中傷ではないか!

 その後のも、大久保に対する中傷投稿は続いていき、気がついたときにはネックラーたたきにテーマが変更されていた。しかも、それに傷づいた大久保はその後一切投稿していないようであった。

 人間のエゴとは実に醜いものだ。人の顔を見ずに好きなことを言える。中傷するやつらは普段、不満を隠し、抱えながら生きているのだろう。

 しかし、大久保が禿であることがなぜ分かったのだ・・・・・・・っあ!

 俺はとんでもないことを思い出した。一旦この二人乗りの掲示板から戻り、俺は通常画面に変更した。

「そうだった。大久保に頼まれてこのテーマで掲示板を作ったんだったの忘れてたな・・」

 そのテーマは『集え、禿たちよ!』である。大久保は自身の様に禿げる運命を背負った同年齢や、すでに手遅れになった人々のために用意した掲示板を通して相談コーナーを設けたのだ。俺は場所を提供しただけで、一度も閲覧していなかった。夏の暑さとくーらーの涼しさのギャップに俺は『堕落』してしまい、学校からの宿題を早く終わらせようとしたこともあり、今にいたってしまった。

 俺は禿コーナーをクリックした。すると、全国のモテない禿たちの嘆きと悲しみの宝庫であった。

『二十台前半から頭皮が薄くなってきてそれ以降彼女は一切いない三十代です』

『同級生の女子たちが禿ってキモいよねと言っていたので禿げるのが不安で仕方なかったが、禿げる前から結局モテず、今では髪の毛もなくなり、禿げる恐怖自体なくなってしまった。もう抜け落ちる毛がないから・・・・・・』

『禿っていいぞ。簡単に頭洗えるし、散髪する必要もないんだぜ・・・・・いろいろなものを失うけどな』

 駄目だ! こんな絶望掲示板では救済どころか閲覧者を追い詰めている。大久保は何をやっているんだ!

 俺は大久保の投稿文を確認した。

『皆さん。はじめましてネックラーです。今回、俺がこのテーマを選んだのは俺自身、頭皮が薄くなる宿命を背負っているからです。俺の父や祖父、そして母の兄や祖父全員が二十代前半に脱毛を始め、今では毛一本ありません。俺の髪の毛も細く、今にも抜けそうな状態で、しかも頭皮が普通の人より薄くなってきています。俺は自分の運命を受け入れようと努力しています。ですが、少し複雑です。両親は禿げる前に結婚しろとプレッシャーをかけてきますが、正直結婚に興味がありません。もちろん、女性は好きですが、夢や趣味に今は没頭したいのです。しかし、将来は禿げることに対する覚悟はるのですが、やはり、恐怖がぬぐえません。誠に痛々しい話ではありますが、俺のような辛さを味わっている人などぜひご意見を聞かせてください』

 俺は大久保がここまで思い悩んでいたことにまったく気づかなかった。いつも、会えば『サラブレット禿』と呼び、笑いを呼んでいた。もちろん、本人はその呼び方に対し、文句も言わなかったし、むしろ楽しんでいた。その呼び名を気に入ってさえいたのだ。しかし、この投稿文を閲覧して、『禿』とう言葉を本人の前で安易に使えなくなってしまった。

 しかし、今はそんなことはどうでもいい。この脱毛コーナーが絶望の館と化し、別のコーナーでは大久保に対して誹謗中傷が発生している。これはすべて管理者であるモテない最高司令官である俺の責任だ。即時解決をしなければならない。

 俺はまず、禿に悩まされている男性人たちを救済し始めた。

『こんにちは! モテない組代表の干物男です。皆さんがここまで悩んでいたことを俺はまったく気がつきませんでした。大変申し訳ありません。では、モテない代表として意見を述べます。皆さんの投稿を読み、ある一つの共通点を見つけました。それは禿と恋愛を結び付けている所です。モテない組創設者として、私を恋愛や結婚に対し、どちらかといえば否定的な立場をとっています。もちろん、あなた方に結婚するな!とは言いません。俺のエゴを押し付けることはできませんから。しかし、頭皮が薄くなることを結婚や恋愛に結びつけ、自分で自分を追い込んでいる方々を見るのは誠の辛いことです。まず、その癒着を一旦切り離しましょう。皆さんは恋愛や結婚に執着しすぎだと俺は思います。俺は、結婚はもちろん恋愛をしたことがないのでその良さがまったく理解できません。女性のためにお金を浪費し、女性のために人生という時間を削っていく。俺はそれだけが人生ではないと思います。結婚しない幸せがあるはずです。このサイトにはその方法についての掲示板がいくつかあります。『独身貴族』や『孤独死』といったテーマで載せています。この2つについては賛否両論ですが、俺個人としては独身貴族とう言葉をお勧めします。独身貴族とは一生独身で過ごす人々を意味します。そのため、妻や子供がいず、家庭を持っていません。それは自由と同時に貯金することができるのです。極端なことを言えば、独身でいることはお金持ちになれるのです。家庭を持てば、子供の養育費、大学費用、家のローン、妻の財布に成り下がる生活。これが本当に人の生き方でしょうか。俺には理解できません。もちろん、そのような家庭ばかりではないのは理解しています。しかし、これが結婚の現実の大半です。だったら、結婚などしなければいい。頭皮が薄いから結婚できない、モテないという発言がありましたが、その通りだと俺は思います。女性は基本的に頭皮の薄い人は嫌いな人種です。それでも結婚する女性はお金目当てだと考えてください。女性とは所詮、その程度の生き物です。頭皮が薄いから結婚できないという女性は見た目と肩書きしか見てないのです。その程度の女性しか周りにいないのですから、結婚、恋愛できないのは必然であり、仮にそんな女性と付き合っても幸せになれるはずがないです。結婚で失敗した人は星の数ほどいます。しかも、慰謝料などの悪しきリスクなども伴ってくると俺は絶対結婚できませんし、したくもありません。薄毛や禿は滑稽かもしれません。しかし、それが今のあなた方であり、アイデンティティなのです。それを否定してはいけません。否定することはあなた方自身を否定すること、つまり、自分を殺すことに等しいのです。結婚や恋愛という鎖につながり、このままもがき苦しむ必要はないのです。皆さん。その呪縛から解き放たれる時です。でなければ、無駄に苦しみ、時間を浪費するだけの人生です。恋愛や結婚以外に夢中になれることを見つけてみてはいかがでしょうか。ただ、恋愛や結婚への執着を解くことは難しいでしょう。だからこそ、夢中になれる趣味、遊び、仕事でもいいんです。周りが引くようなことでも誰にも迷惑をかけないことなら俺はいいと思います。周りの目を気にしていては本来の自分を見つけることができないでしょう。俺はそういう空気を読む生き方を捨てた人間です。俺と同じような人生を送れとは言いません。あなた方の正しい生き方を見つけてくれればそれでいいのです。では、最後に・・・・・モテない組に栄光あれ!』

 こんな所だろう。俺が言えることは。後は投稿者たち次第だ。

そして、俺はネックラー批判のあるカップルの二人乗りコーナーをクリックした。

『皆さん、どうもどうも。モテない組代表の干物男です。いろいろもめているようなので調子に乗って降臨しました。まず、最初に言いたいことはネックラーに対するバッシングは止めてほしいということです。説教するつもりはありません。ただ、やめればいいのです。もし、出来ない場合はネックラーではなく、この俺を罵倒すればいいです。俺はマゾではないですが、このサイト、そしてこのコーナーを作ったのは他でもない俺なので、その責任がありますから。少し、前振りが長かったですかね。では、カップルの自転車二人乗りという本題に入りましょう。ネックラーの言うとおり、犯罪だと思います。しかも、テレビは助長している。これは紛れもなく悪です。そして、あなた方はそれに犯されている。そんなくだらない憧れを抱かせ、商品とするのがテレビや映画、音楽業界の手口なのです。俺はそのことが許せず、このテーマをアップしたのです。あなた方は『カップルの自転車二人乗り』に取り込まれ、そして苦しんでいるのが投稿文で分かります。でも、そんなことに踊らされてはいけないのです。しかし、今すぐ呪縛から解くことは難しいでしょう。なら、せめてその憧れや、ネックラーにぶつけた怒りを別の方向に使ってみてはいかがでしょうか。俺はこの恋愛主義の世界に対し、怒りを覚えました。なぜ、モテなければいけないのか? なぜ、モテない人間は罵倒され、苦しまなければならないのか? 俺はこの世界に対し、怒りを覚え、それが原動力となって今のサイトやモテない組を作りました。しかし、俺は基本的に干物人間なのでこのくらいのことしかできないのです。ですが、あなた方には俺にはないエネルギーがあるはずです。そのエネルギーの使い道を少し変えるだけで人生を豊かにすると俺は思います。つまらない価値観に縛られて自身の限りある人生を無駄にしないでください!』

 一応、投稿はしてみたが、おそらくあまり効果は期待できないだろう。きっと、バッシングの対象が大久保から俺に移るくらいしか変化はないだろう。たった一回の投稿で万事解決とはいかないだろう。それくらい俺にだって分かる。だからこそのモテない組のサイトなのだ。


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