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ドラゴンマスター  作者: 杉井流 知寄
オープニング
9/13

 7

「ここがお前の家だ」

 克己の肩から、ラビが一軒の民家の前まで飛んでいく。

 何度もゲーム中で見た、マイハウス。ゲームの中で見るよりも大きく見えた。

 ここは城壁の近くにある住宅街だ。周りも一軒家が多い。そのほとんどは農家で、城壁の向こう側にある畑を耕している。

 街で家を買う際、三つの場所から選べた。

 一つは街の中心部に近い、狭いが買い物に便利なアパート。室内で薬草は育てられるが、スタインを飼う場所はない。なので却下。

 もう一つは価格がべらぼうに高かった、領城の近くにある高級住宅。広い庭、馬小屋も完全配備、家と言うよりは屋敷。こんな豪邸に住めたらな、と思いつつも金銭的に無理だったので見送った。

 で、最後に残ったのがここ。

 庭もそこそこ広く、小さいけれど馬小屋もある。もうここしかない。

 古い家だったのでリフォームに更に金が飛んでいったが、色々選べたので克己は大満足な買い物だった。

 ずっと宿暮らしでもゲームシステム的には問題ないが、やはり家を持つのは夢だ。

 スタインを馬舎に入れ、克己はまず家をじっくりと眺める。

 屋根は緑色、古くなった壁も綺麗に塗り直して貰った。色は薄い黄土色。絵本に出て来るような家で、克己はもし現実世界でも家を建てるなら、この配色にしようと心に決めている。

 木の柵に囲まれた家は、まさしく克己の理想の家だ。

 広めの庭には畑があって、野菜やら薬草が植えてある。

 と。

 ぼんやりしている場合じゃない、克己は己を叱咤する。

「三木さんは、」

「コウだろ、てめぇでつけといて忘れんな!」

 はい、すいません。

 げしっと額をラビに蹴られてひゅっと肩をすくめながら、克己は馬車の中に入る。

 三木――コウは、薬草に包まれて横たわって、いない。

 馬車の中には、誰もいなかった。

「!?」

 そういえば、馬車の中にリアン達が入った時、特に何も言わなかった。寝ているコウを気遣ってそっとしておいてくれたのかと、勝手に解釈していたが、違うらしかった。

「フン」

 ラビが鼻を鳴らすと、コウがふっと目の前に現れた。

 何もない、空中の中に。克己が膝をついたちょうど目線の先で、高さは大したことないが、あの小さな身体では大事だ。

 慌てて克己は右手をコウの下に差し出した、落ちてこない。

「阿呆、ソイツの存在はオレ達に近いって言っただろうが。姿を消すぐらい朝飯前だっつの、つーかコイツ、元々消えかかってたし――そんな顔すんな!」

「ご、ごめん……」

 兎に角、落ちては来ないらしい。その事には安心して、だが消えかかっているという言葉には落ち込みながら、克己は座り直した。

 正座だ、膝に手を乗せる。

 靴を履いたままだから痛いが、我慢できない程ではない。

「……コイツは、お前にとって大事なヤツなんだな?」

 神妙な顔の克己に気圧されたのか、ラビはコウの横に移動し、真っ直ぐに克己の目を見た。

 また、あの不安げな目だ。

 本当に、克己には分からない。何故ラビが不安がるのかと。不安なのはこっちだ、右も左も分からない――いや、ゲームの中で散々街は散策しつくしたから画面越しでは良くしっているけれど、まあそれは置いといて。

「そう、です」

 正直に言うと、仲が良いとか、そういうのはない。仲の良い人間ならもっと他にもいる。状況が違ったら、首を横に振るだろう。

 でも、しかし。

 こんな状況だから。

 自分が大好きな、自分のゲームに巻き込んでしまったのだから。

 この世界では、コウが一番大切。克己自身よりも。

 それは義務感と自己満足。コウを失えば、克己は一生負い目を背負って生きていくことになる。そんなのは嫌だ。

「……………分かった」

 息がつまる沈黙の後、ラビは深く息を吐き出しながら言った。

 なんだか苦悩に満ちていて、難しい話なんだろうかと、不安になる。

「早い方が良いからな、もう行くわ」

 不安を覚えた克己を余所に、ラビは急に吹っ切れたようにさばさばとした調子で腕組み、目を閉じた。横のコウはうっすらと消えていく。

「え、行くって、何処に? 私は――」

 どうしたらいい? それに、消えていったコウは何処に?

 言い終わらない内に、かっ! と、ラビの目が見開かれる。

 その勢いに圧され、反射的に身体が後ろにのけぞる。

 ラビは同時にでかくなった。人間形態、とでも言うべきだろうか、細身だがついている所はしっかりついている、しなやかな肉体。

 でかくなったラビはぐいと、顔を克己に近づけた。

 とっさに顔を背けると、顎捕まれて、向き合わされる。もう片方の手は腕を捕まれた。

「……」

 見つめ合う事数秒。

 彼氏居ない歴=実年齢の克己の頭は、思考する事を放棄した。

 金色の目がガラス玉みたいに綺麗だとか、毛先になるにつれ黒から紫になる髪の美しさ。額の生え際から生える、一本の角が刺さりそうで刺さらない絶妙な位置と角度だとか、あの切っ先は刺さったら超痛そうとか、シミや吹き出物一つない滑らかな肌を羨ましいと思ったり。

 思ったが、言葉にするのはやめた。

 それよりも何も考えないでいようと、克己は心を無にする。しようと、努める。

 だって、そうでもしないと。

「お前、やっぱり面白いな」

 ふっと、ラビはしょうがねぇヤツ、とでも言うように小さく笑った。

 そして目を閉じた。

 顔がさらに近づく。

 克己は空いている右手をラビの口に押し当てる。するとラビは目を開き、今度はにやっと笑い、口を押さえる手を舐めた。

「っ」

 背筋に震えが走る。

 ぞくっとしながらも、ラビの口に当てる手に力を更に込めた。

 顔を離すように。

 ラビは大人しく距離を開け、克己の手が届かなくなって手と隙間ができると、また手を舐め始めた。

 親指。

 中指。

 薬指。

 次の指に行く前に、克己は手を引いた。

 同時にラビも捕まえていた腕を引いた。

 ラビの胸の中に倒れ込む克己。

 違う身体の体温に、沸騰しそう。

 くらくらする頭。

 まるで少女マンガみたいだ。

「言っとくけどな、俺はお前のものだ。ナビ妖精だしな」

 克己を抱きしめ、耳元で囁く。

「でもな、お前は俺の物だ。身体も全部……」

 ゆっくりと床に寝かされる。

 心臓が爆発しそう。

 足の間にラビが入り込む。

 両腕を抑えられ、身動きが取れない。

 ラビの顔がまた近づく。

 そして、


 この後、滅茶苦茶○○○した。


 っていう、夢を見たんだ……。

 溜まってるのかな……うん、乙女ゲーとかしたことないんだけど、今度やってみようかな……いや、BLゲーの方がもえるかも……。

 現実の人とならともかく、ゲームのキャラで、って……なんか人としてマズイ気がする。

「……死にたい」

 口に出すと、むなしさが一層増す。

 なんだか、ひどく疲れた。

 でも、身体の芯はひどく熱い。

 燃えているようだ。

 元気一杯、なんとかしぃ-。

「お目覚めですか、姫様」

「ようやくお目覚めかい、全くねぼすけな姫様なんだから!」

 妖精二匹が現れた。

 ラビとは全く違って、おじさんおばさんの妖精。

 羽は薄黒い、チョウチョみたいな羽。

 執事とメイドの制服を着ている。

 その制服も黒と白で、なんだか陰気くさい。

 色だけで見ると。

 おじさんは白髪頭をきっちりと撫で付けた、いかにも執事といった感じ。

 おばさんもこれまた恰幅が良く、メイド服がはちきれそう。髪は紫のちぢれパーマ。メイド帽子が小さく乗っかっている。

 メイドは太くたくましく、逆に執事はちょっとひょろい。

 なんて凸凹コンビだ。

 そして、誰が姫だって?

「あなた様の事ですよ」

「いえね、公式にはまだそうと決まった訳じゃございませんけど、でも坊ちゃんが決めたお方ですからね、誰が反対しようとどうしようもありませんわ。正直あたしゃあ気に入りませんけど、でも、坊ちゃんがお決めになった事ですからね、気に入らなくてもお仕えするしかないんですよ」

 ……はあ。

 おばさんメイドの、マシンガントークに引く。

 坊ちゃんって、ラビの事?

 あんまり坊ちゃんってキャラじゃないよね。むしろあの金髪の、盗賊の死体処理してくれた人が似合う身分だと思う。

「おやおや」

「あれまぁ」

 二匹の妖精は呆れている。

 どうも、さっきから考えてることが筒抜けっぽいんだけど、妖精ってそういうものなの?

 便利だけど、ちょっと恥ずかしいな……。

「恥ずかしいだけで済む脳天気さが、坊ちゃんのどストライクだったのかしらねぇ……あたしにゃただのお間抜けさんにしか思えないけど」

「まあ、変わった物を好まれるお方ですからねぇ……だからこそナビ妖精なんかやっておられる」

 嘆かわしい。

 二人とも口には直接出さなかったが、そう態度に出ていた。

 ……ええと。

 とりあえず、起きてみる。

 辺りを見回すと、そこは私の部屋であって、部屋じゃなかった。

 窓際にあるベッド。

 簡素な木のベッドで、実家のぺらい布団よりもずっとふかふか。

 その横にはサイドテーブル。

 水差しとグラスが置かれている。

 狭い部屋だ。

 ベッド、サイドテーブル、棚と宝箱以外はない。

 床は黒っぽい木で、壁は白と緑のストライプ模様の壁紙。

 見慣れているといえば見慣れている。

 画面越しに。

 そう、画面越しに。

 どこかで聞き覚えのあるフレーズだ。

 夢の中で言ってた、ような気がする。

「夢じゃありませんよ、それ」

「夢ではありませんねぇ、それ」

 二人同時に、妖精は否定した。

 そうか、夢じゃないのかぁ……。

 うん。

「……しょうがない」

 とにかく起きよ。

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