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ドラゴンマスター  作者: 杉井流 知寄
オープニング
2/13

と。

 にゅっと仮面の男がTV画面から、上半身だけ這い出る。

「ようこそ我らが王国に! って、アレ? お一人じゃありませんね。困りますよ、ルールは守って頂かないと。私とて万能ではありませんからね、お二人となると王都までは運べませんよ。いくら私が万能の天才魔導師だといってもね」

 仮面の男は一気にまくし立て、うふふ、と頬が緩んでいた梓は現実に引き戻される。

「……え、なんか3Dかなんかですか?」

 克己に尋ねながらも、梓は分っている。これは3Dでは、立体映像ではないと。

 しかし、だったらこれは何だ?

 ゲームに関係無いはずはない、TV画面には《はい》と選択された様子があり、しかしこんな機能聞いた事が無い!

「…………なんだろうね?」

 問われた克己はコントローラを握りしめたまま、まじまじと仮面の男を凝視する。

 男は王国と言った。

 仮面の右頬には王国の紋章の一つである、戦乙女のエンブレムが刻まれている。祝福を受けた高価な武具にはよく刻まれている紋章だ。

 克己も『王国の秘宝』の中で何度か見た事がある、多分間違いない。

「確かに飛び出てますが、すりぃーでぃーではありませんよ。それよりも困りましたね、お二人でプレイ中とは。これではどちらがマスターなのか分りません」

「……このゲームは、私の物だから」

 首をかしげる男を注視しつつ、克己は告げる。

「この子は関係ない」

 克己は全く動けないでいた。

 男をコントローラとか、手近にあった分厚いゲームの攻略本で殴って画面に押し戻し、TVとゲーム機の電源を切る。もしくは、とにかくダッシュでこの場から逃げ去るとか。

 そんな具体的な行動は何一つ起こせずに、克己は口だけ動かす。

「招待するなら私だけにして」

「却下。どちらがマスターなのか分りませんから。私、ギャンブルは嫌いじゃありませんが、仕事にギャンブルは御法度ですかね、私もつらい所ですが」

 首をかしげたまま、涙をぬぐう振りをする男。嘘くさいこの上ない。 

「さておしゃべりはこのくらいにして、行きましょうか」

 パチン。

 男の指ぱっちん一つ、二人の周りは暗闇に包まれる。

「きゃっ」

「!」

 克己と梓が座っていたソファが消え、二人はバランスを崩して倒れる。

 暗闇の中でTV画面だけが光っている。

 男はTV画面の両端に手をかけ、 

「よいしょっと」

 するりとTV画面から抜け出だす。

 いつの間にか、男は杖を手にしていた。

 杖は錫杖に似ていて輪っかが幾つも繋がっており、その先に真っ赤な尖った宝石がついている。刺されたら痛そうだ。

「向こうに着いたら、まずは王都を目指してください。私はそこに居ますから」

 倒れた二人に杖を向け、男は言った。

「だから、この子はっ――!!」

「聞く耳持ちません。悪いのはルールを犯した貴方ですよ、どちらかは知りませんが」

 杖の先端の宝石が紅く輝く。

 宝石から薄青く光る魔法陣が次々と現れ、克己と梓を取り囲む。

「ちょ、まっ――きゃ!」

 慌てて梓は立ち上がると、魔法陣に腕の一部が接触する。触れると、ぴりっと小さな電撃が走った。

「触れると危険ですよ。それは私の魔力が結晶化し、陣を描いているもの。ただの人間が触れるとあっという間に黒カスになっっちゃいます……ん? なってないですね、と言う事は、貴方がマスター?」

「ち、違います!」

 電撃が走った腕をさすりながら、梓は涙目で否定する。

「この子は関係ないって、言ってるじゃないですか!」

 ゲームの持ち主は克己、プレイしていたのも克己。

 男が言うマスターとは、恐らく克己の事だろう。

「まあどちらにせよ、貴方は高い魔力を持っているようですね、それはそれで貴重な人材です。歓迎いたしますよ」

 嬉しくない。

 全くもって嬉しくない。

 あたしは関係ない!!

 声にならない梓の叫び。

「ようこそ、我らが王国に」

 深く男は一礼し、それと同時に周りの魔法陣が破裂する。

 魔法陣は強く輝きながら膨らみ、音も無く強烈な光を放ちながら霧散していく。

 眩い光が溢れ、克己の視界は白く塗りつぶされる。

 その白さは鋭い痛みさえ伴い、きつく目を閉じていても、涙が溢れる。

 梓はまた、ひどい混乱によって涙が溢れる。

 今日は憧れの先輩とお近づきになる、大事な第一歩になる、はずだった。

 そんなに好きでもなかったゲームを実際に買ってプレイして、なんとか話題について行こうと、頑張った。

 ゲーム機なんか持ってなかったから、ゲーム機を買いに行く所から始まった。実際にやってみたら、結構楽しかった。憧れの先輩も同じゲームをプレイして、同じ場面を見たんだと思うと、なんだか嬉しかった。それが――。

 ようやくその白さが収まり、痛みがなくなった時。

「……」

 恐る恐る克己が目を開けると、そこは青空が広がる草原だった。

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