さらば、親友
日常が、突然、何かによって破壊された。
俺と親友の慶は、それによって瓦礫に埋もれた。
慶が瓦礫に挟まれている。
彼は、親友なんだ。
世界に、災厄が降り注ぎ、ほとんどの建物が一瞬にして瓦礫の山となった。
厄災が何だったのかは、わからない。でも、一瞬だったんだ。急に空が光った。そして、すべてが瓦礫になった。
俺達は、たまたま公園で遊んでいた。
俺も、親友も瓦礫の下敷きとなった。
瓦礫が飛んできて、俺達の上に覆いかぶさったのだ。
ついてなかった、としか言いようがない。
それでも、俺達は互いに手を伸ばして、それが繋がった。が、俺も親友もびっくりするほど体温が低い。
これはわかる。
もう、ダメなんだ。
「今度は、絶対二人で幸せになろう。俺、夢があるんだよ」
今、そんなこというなよ、と言いたい。
もう、目を開ける力もないから、慶がどんな状態なのか俺にはわからない。
でも、親友は親友のままでいてほしいし、いくら死ぬ前だからといって、彼のぐちゃぐちゃになった見るに耐えない姿は見たくない。
でも、俺もそんな感じなのだろうか。
もう、全身の感覚がほとんどない。
ただ、慶の手を握っている、この感覚だけが残っている。
彼の生きていたという証。
そして、別れの合図でもある。
「そんな、悲しいこと言うなよ。・・・・・生まれ変わりなんてしないよっ。まだ、諦らめんなよっ。死ぬなっ」
そんなこと言ってみたけど、俺は、今死にたいくらい辛かった。
もちろんまったく身動きの取れない辛さというのもある。
彼と別れたくない、という思いもある。
「痛いっ」
慶の声だ。
「・・・苦しいんだよ、俺、もう無理だよ」
そうだけど、
そんなことを言うなよ。
でめて、先に死なせてくれ、と思った。
「まだ助かるっ。大丈夫だっ」
俺は、精一杯彼の手を握りしめる。もちろん、大して力は入らない。
それでも、最後まで握りしめていたかった。
そうすれば、
きっと、安心して死ねる。
痛くはない。でも、苦しい。
肺から空気が漏れ出ている感覚があるのだ。
それにしても、俺達まだ一四歳だ。
中学に通って、友達とかと遊んで、成績悪くて怒られて、授業中に寝て、怒られて、部活をサボって怒られて。
怒られてばっかりだったけど、でも、それももう出来ない。
ちゃんと行っておけば、こんなことにならなかったのではないだろうか、とも思えてくる。
俺は、何度も慶の手を握り返す。
慶は、手には反応は無いけど、でもまだ彼の呼吸の声が聞こえてくるんだ。
すまんが、俺には助けられない。
そして、俺もきっと助からない。
ただ、目をつぶったまま、ここがどこかもわからず、ここがどこかだなんて確認せずに、このまま死んでいくのだ。
「もっと、彼女とか作りたかったな。それで、お前に自慢したりさ、って、もう無理だよなっ。ハハ」
「まだ、諦めるなよっ」
精一杯叫んでいるつもりだ。
でも、声は上手く出ないし。
諦めてる俺が言うのも悪いけど、諦めないでくれよ。
なんで、そんなことを思うかわからないけど、考えている暇がないんだ。
どうせ死ぬんだ。
諦めずに死んだほうが、もしかしたらいいんじゃないか?
どうせ死ぬけど、諦めない方がいいんじゃないのか?
「だから、慶!!お前は、諦らめんじゃねえ!!」
手が、離れる。
俺は必死に手を伸ばして、彼の手をもう一度掴む。
もう、彼の手には力が入っていない。
スーッスーッ、という呼吸音も、かなり弱まってきている。
「すまん。俺さ、なんかヒーローとか憧れてたんだっ」
知らん、そんなことは。
だから、諦めるなよっ。
夢は諦めてもいいかもしれないけど、生きることだけは諦めるな。
お前は、死なないでくれっ。
どうせ、俺は死ぬ。
で、わかってはいるんだけど、お前もどうせ死ぬんだ。
じゃあ、なんだ。
いや、諦めるな。
まだ、死なないだろ?お前は。いっつも、高いところから飛び降りて、俺は怪我したけど、お前は平気だったじゃないか。
・・・・・。
くだらない話ですまない。でも、諦めないでくれよっ。
俺達、まだ一四歳なんだぜ。もったいなさすぎるよ。
「なんか、子供みたいだよな。でも、ここで死ぬならさ、そんな夢持っててよかったかなって思えるんだ」
「そんなことないっ。お前は、生きろ。夢なんか諦めて、生きてしまえばいいんだっ。死ぬのだけは、絶対にダメだ。わかった。俺の手を使えっ。それで、なんとか脱出しろっ」
「そんなの、無理だってww」
わかってるよ。
でも、生きていて欲しいんだよ。
耳をすましてみると、違う人の悲鳴のようなものがぼんやりと聞こえてくる。
「すまんが、助かるのは無理だけどよ、」
なんだ。
諦めるな、と何度も言ってるじゃないか。
「俺の手だけは、ずっと離さないでくれよっ」
目をつぶったままだが、慶が微笑んだのを感じた。
いつものように、屈託のない、エクボがくっきりと出てくるんだ。
いつも、笑ってたからって、死ぬ前まで無理しなくていい。
だから、お前には生きてほしい。
「・・・最後まで、ありがとうな。まあ、俺を、上手く、つかっt、」
自然と、慶との最後の繋がりだった彼の手が、俺の手からすり抜けていく。
「おい、・・・ハア、おい」
やはり、上手く息を吸えない。
今までは節約してたけど、もう意味がないと思ったので、俺は目を開けようとしたが、ものすごく痛い。
いや、ものすごく熱い。
目が、開かない。
「おい、慶!!慶!!起きろよっ。俺は、まだ手を伸ばしているんだからっ」
そう叫ぶ声も、きっと瓦礫に阻まれてどこにも届かないんだ。
「助けて!!助けて下さい!!!」
悲鳴が、まだ薄っすらと聞こえている。
きっと、俺達だけじゃない。
俺達が特別不運なわけじゃない。
でも、それって逆に不運だよな。
俺達、死んだんだよ。その他大勢にまぎれて、死んだんだ。
すまんな、俺もすぐ行くさ。
体から、なにか言いようもない大切なものがドロドロとこぼれ落ちていく。
目をつぶっているから、お前はずっとお前のままだ。
きっと、生きているんだよな。
俺は手首を動かし、瓦礫の隙間からなんとかお前の手をもう一度拾えないか、と探してみたが、見つからない。
目は開かないし。
まあ、そうだな。
来世に期待してみるのもありだな。
なんか、変なこと言って申し訳ないけどさ、
・・・
やっぱ、いいや。
俺は、寝させてもらうよ。
これからよろしくお願いします。




