一目惚れで破局
饗された食事を終えた一同は、フェーンに割り当てられた寝室に集まった。
「御連枝が何で出てくるんだ」
「そもそも、御連枝って何だよ。平民にも分かるように説明しろよ」
「皇帝家、つまりティーレントゥム家の一族だ」
「結局皇帝が相手ってことか?」
「そうと決まったわけではないが……」
「それより、ガディー伯との縁組です。どう思いますか?」
「姫様が気にされているのは、偶然か必然かということですね?」
リリーメルは「う~む」と唸ってから、自分に問いかけるように疑問点を挙げた。
「父上を罠にはめたフェルカーデはケルスナー伯と関係があり、ケルスナー伯はガディー伯と縁組。出来過ぎていませんか」
「キルエルト伯を中心に、あらゆる要素がつながっている……」
「姫さんは、ケルスナー伯とガディー伯の縁組のためにキルエルト伯がハメられたと考えてるわけか」
「それも出来過ぎのような……」
「では何だと言うのです? フェーン」
「陰謀の絵図としてはそんなとこだろ。だがどっちが主犯なんだろうな」
ポルメは、絵図を整理し切れていない。腕組みをして考え込んでしまった。
「ケルスナー伯がフェルカーデを利用した、とみるべきではないかしら?」
「そうすると、今までの疑問が解決するのは確かだ」
「疑問とは?」とアディが尋ねる。
「フェルカーデには動機がなかった。あの野郎がなぜキルエルト伯をハメたのか、ずっと分からなかった。だが動機は野郎の外側、つまりケルスナー伯にあった。フェルカーデは道具に過ぎなかった。これで疑問はなくなる」
そう言いつつ、ポルメの表情は浮かない。
「不満そうですね、ポルメ」
「姫さんには隠せねえな。いや大したことじゃない。都合良くピタッと部品がはまると、それが答えだってなりがちだ。これが思考の幅を狭めることもある。俺はこういうときほど、見落としがあるんじゃないかと疑ってしまう」
「何か不安な点がありましたか?」
「今のところ……ない。それが、気持ち悪い」
「これ以上は、保留にしましょう。ポルメはフェルカーデに面が割れていることですし、明日は早急に立ち去りましょう」
そして翌日――。
「朝食の準備が整いましたのでご案内致します」
声に対応して扉を開けたアディはぎょっとした。アディも見とれるような、中性的な見目麗しい執事が案内役として廊下に立っていた。
「さあアディ、行きましょうか」
「ひ、姫様少々お待ちを!」
「何? どうかしたのアディ」
リリーメルを廊下に出さないように妨害するアディ。
アディの奇行に眉をひそめつつ廊下に出ようとするリリーメル。
美男執事は廊下から動かず、朝食に向かおうとするリリーメルの行動は正しい。アディには分が悪い状況だった。
「もうアディ、しっかりして。さ、参りましょう」
侍女の異常行動をたしなめつつ廊下に出たリリーメルは、美男執事に目を奪われた。
「まあ、まあまあまあ! あなたお名前は? お仕事は? 髪の毛は何本? 手足は付いてる? 二本? 三本? お名前は?」
顔を真っ赤にして「きゃー」と叫びつつ執事に迫る。
視線の定まらない不気味な美少女に、執事は怖じ気づいて身をかわす。
「待って! お待ちになって! どうして逃げるの? お話ししましょう。そうしましょう。ささずずずいっと!」
「姫様、お待ちください」
「あああアディ。あなた馬に蹴られるわよ」
「馬などおりません!」
リリーメルとアディの騒ぎに驚いて、フェーンらも部屋から出てきた。
「ひ、姫様!? どうしたんです?」
「フェーン、姫様を止めてください。いや、そちらの執事殿を安全なところに避難させてください」
「え? 執事?」
壁際に、怯えきった執事がいた。
美しい執事がいた。
「なるほど、彼が原因か……。執事殿、立てますか。早く逃げた方がいい。ここは危険です」
「フェーン! 危険とは何です!」
ポルメとピーデは、ゲンナリした顔でこの惨状を眺めていた。
早朝から繰りひろげられた騒ぎに、女官たちも集まってきた。
そして……。
「き、貴様! ポルメターベ! ポルメターベではないか!」
「やべえ、フェルカーデだ」
「何!?」
フェルカーデにポルメが見とがめられた。
「ポルメターベ、なぜ貴様がここにいる? 貴様、何が狙いだ!」
フェルカーデは逆上しながら奥に去った。伯爵に知らせに行ったのだ。
「まずいぜこれは。おい、ずらかった方がいい」
ピーデは全員に脱出を命じた。
「ポルメとアディは先に行って馬を引き出してこい! 俺とフェーンはその色ボケ姫を取り押さえるぞ」
追跡劇は逃亡劇になった。




