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第2話 信頼の原則 ――肥田商店の危機

翌朝。

理解する前に、眠気が来た。

朝倉陽菜は、机に突っ伏しそうになるのを必死でこらえる。

「……どうして警察官って、こんなに眠いんですか」

黒城は湯呑を置いた。

「眠れるうちに眠れ。それが生存戦略だ。」

「昨日、報告書いっぱい作ったからねぇ」

肥田がのんびり言う。

「報告書って、毎日あんなに書くんですか?」

黒城は真顔で答える。

「日報は叙事詩だ。」

「普通の文章ですよね!?」

交番の朝は静かだ。

静かすぎて、眠い。

肥田が倉庫の方を親指で示した。

「朝倉ちゃん、肥田商店でジュースでも買ったら?」

「肥田商店?」

「うちの倉庫。カップ麺と飲み物が置いてある」

「売ってるんですか!?」

「利益は取ってない。信頼で成り立つ百円制度だよ」

黒城

「信頼の原則だ」

「それセーフなんですか?アウトじゃないですか?」」

※※※

朝倉は倉庫の扉を開けた。

カップ麺、缶コーヒー、スポーツドリンク。

空き缶に『100円』と書かれた紙。

「……鍵ついてないんですか?」

「警察に悪いことするやつなんていないよ」

黒城

「社会は信頼で成り立つ。」

肥田

「黒城が一番買ってるけどね」

黒城

「補給は戦術だ。」

朝倉は缶コーヒーを取り、百円を入れる。

(本当にこれでいいのかな……)

※※※

――その時。

トゥルルルル。

電話が鳴った。

肥田が出る。

「はい、曲町東交番――……はい?」

沈黙。

肥田の表情が、わずかに変わる。

受話器を置く。

「業務監査が入る」

一瞬で、空気が変わった。

「業務監査って何ですか?」

「偉い人が来るってことだ」

「なるほど」

黒城

「均衡が試される。」

「なんでそんな大げさなんですか!?」

肥田が立ち上がる。

声色が変わる。

「総員、配置につけ」

「え?」

「全員それぞれのカバンとメモをチェック!

いらない書類はシュレッダー!

使ってない部屋と棚に鍵をかけろ!」

黒城が静かに頷く。

「統制は取れている。」

朝倉

「急に軍隊みたいなんですけど!?」

※※※

シュレッダーが唸る。

ガガガガガ。

「これ必要ですか!?」

「迷ったら残せ!」

「迷いは罪だ」

「どっちですか!?」

肥田が時計を見る。

「もうそろそろか…?」

朝倉

「倉庫そのままです!」

三人、倉庫を見る。

肥田商店の大量の商品が、こちらを見ている。

「時間がない!」

「どこに置くんですか!?」

「女子仮眠室!」

「ええ!?」

黒城

「論理的だ。」

「よくないです!」

段ボールを抱える。

ドタドタ。

ガタッ。

「重っ!」

肥田

「急げ!」

朝倉

「まだ大丈夫ですかね!?」

黒城

「確認してくる」

パッ。

消えた。

「え?」

数秒後。

パッ。

戻る。

「白のセダン。交番前に停車」

「世界一無駄な使い方してる!」

「初動確認だ」

最後の段ボールを女子仮眠室へ放り込む。

ドサッ。

扉を閉めた瞬間。

コンコン。

「失礼します」

監査官が入ってきた。

無表情。

※※※

監査官が書類を見る。

机を見る。

棚を見る。

緊張。

監査官が女子仮眠室の前で止まる。

「……ここは?」

(きたぁぁぁぁ)

肥田、即答。

「女性仮眠室です」

沈黙。

監査官、ドアノブを見る。

朝倉、呼吸を止める。

「……ならいいか」

立ち去る。

(マジで聖域なんだ)

黒城

「不可侵領域」

「言い方!」

※※※

そして倉庫へ。

監査官の視線が、空間に止まる。

ぽっかり空いた一角。

床のうっすら残る跡。

「……これは?」

(しまった)

(移動するのに精一杯だった……)

沈黙。

肥田が一歩前へ出る。

「廃棄文書が置かれていた場所です。先日処理しました」

監査官、床を見る。

黒城

「過去は清算された」

(黙ってください!!)

監査官

「……整理が行き届いていますね」

※※※

去る。

扉が閉まる。

静寂。

朝倉、小声で。

「……奇跡です」

肥田、両手を上げる。

「よっしゃあああ!」

黒城

「均衡は守られた」

肥田

「これぞチームワーク!」

朝倉

「交番が一つになりましたね!」

――その時。

ガタン。

女子仮眠室の奥から、鈍い音。

三人、同時に止まる。

ガラガラ……。

朝倉

「……どうしましょう」

肥田、真顔。

「男が女性仮眠室に入るわけにはいかない」

黒城

「まかせた」

「ひどいです!!」

黒城

「信頼の原則だ」

「使い方違います!」

扉の向こうからカップ麺が転がる音。

交番は、今日も平和だった。

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