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第17話 残された鍋 ――違和感の温度

両親からの安否確認通報。

「24歳の一人暮らしの娘と、昨日から連絡が取れないんです。携帯電話の電源も切られているし……こんなこと、初めてで」

生活安全係と曲町東交番が出動。

女性宅を訪問。

インターホンを鳴らすが、応答なし。

管理会社立ち会いのもと、両親の承諾を得て解錠。

ドアが開く。

静かだ。

争った形跡はない。

家具も整っている。

朝倉が小さく言う。

「……普通、ですね」

飯田はゆっくりと室内を見渡す。

「“普通”が一番怖い」

生活感はある。

だが、人の気配がない。

※※※

台所。

鍋の蓋を開ける。

カレー。

まだ冷蔵庫には移されていない。

肥田が覗き込む。

「腐ってない。作られてそんなに経ってないな」

飯田がゴミ箱を確認する。

「レシート。昨日の午前中、カレーの材料を購入している」

黒城が静かに目を閉じる。

断片。

・明るい室内

・コンロの火

・皿によそう

・一人分

・鍋はそのまま

目を開く。

「保存する様子はない」

朝倉が首を傾げる。

「え?」

「昼に食べ、夜も食べる予定だった」

肥田が頷く。

「つまり、外泊の予定はない」

飯田。

「“戻る前提”の生活だ」

作り置きではない。

今夜も、ここで食べるつもりだった。

※※※

郵便受け。

不在連絡票。

昨日夜指定。

朝倉。

「昨日の夜、受け取るつもりだった?」

飯田。

「だが、その時間には部屋にいなかった」

時系列がずれる。

昼に作ったカレー。

夜に受け取る荷物。

だが、夜には帰宅していない。

※※※

隣室への聞き込み。

「昨日の夜? 電気ついてなかったよ」

「物音も特に」

夕方以降、帰宅の形跡なし。

※※※

生活安全係へ照会。

脇俣。

「ストーカー相談歴はありません」

板橋が両親へ追加確認を行う。

母親が、迷いながら口を開く。

「駅の近くで、変な人を見かけるって……」

室内が静まる。

「つけられてるかも、って言ってました」

「警察に相談しなさいって言ったんです。でも……」

――“勘違いかもしれないから”と。

板橋から現場の飯田へ連絡が入る。

飯田の眉間に皺が寄る。

「……まずいですね」

朝倉の声がかすれる。

「それって……」

黒城が小さく言う。

「違和感は、証拠より早い」

※※※

アパート防犯カメラ確認。

昨日、夕方五時過ぎ。

女性が一人で外へ出る。

軽装。

小さなバッグのみ。

朝倉。

「ちょっとそこまで、って感じですね」

黒城。

「長時間外出ではない」

女性は一瞬、後ろを振り返る。

何かを確認するように。

そして歩き出す。

数秒後。

黒系の車両が、女性と同じ方向へゆっくり通過する。

はっきりとは映らない。

ナンバーも不明。

だが。

タイミングが近すぎる。

飯田の声が低くなる。

「なんだ、この車は」

偶然か。

それとも――

朝倉の手がわずかに震える。

「何か、あったんじゃないですか……?」

誰も即答しない。

鍋のカレー。

夜指定の荷物。

戻る予定だった外出。

そして、尾行を思わせる車。

部屋は乱れていない。

だが。

“帰っていない”という事実だけが、異様に重い。

黒城が静かに言う。

「境界線は、音もなく越えられた」

曲町署。

静かに、総力戦の気配が広がる。

――違和感は、まだ“事件”ではない。

だが。

時間は、止まっていない。

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