第14話 聖夜の均衡 ――トナカイは誰だ
曲町東交番・夜
肥田がコンビニ袋をぶら下げて戻ってくる。
「ほい」
テーブルに置かれたのは、三つのショートケーキ。
朝倉が目を輝かせる。
「え!?いいんですか!?」
「こんなのしかないけどさ。クリスマスだからね」
黒城はケーキを静かに見つめる。
「糖度が高い」
「ケーキです!」
肥田が少し照れくさそうに笑う。
「まあさ。これからもよろしくね~ってことで」
一瞬、空気がやわらぐ。
朝倉が、ふっと笑う。
「……はい!」
「コーヒー入れますね!」
黒城も小さく言う。
「受領した」
「物資じゃないです」
静かな交番の夜。
小さなケーキ。
それだけで、十分だった。
「いただきます!」
※※※
宿舎・野間口の部屋
今日は男子部屋開催。
女子部屋は男子禁制。
野間口、赤瀬、黒城が並ぶ。
赤瀬がぽつり。
「……前回、呼ばれませんでした」
黒城。
「何の話だ」
「黒城さんの家に白石さんたちが来た件です」
野間口が笑う。
「根に持ってるなぁ」
「根に持ちますよ」
インターホン。
女子組登場。
白石、脇俣、森川はおしゃれな惣菜と酒。
朝倉はフライドチキン大量。
「クリスマスはこれです!」
「方向性が毎回違うな」
乾杯。
部屋が一気に温まる。
※※※
脇俣が立ち上がる。
「ちょっと失礼しますね」
女子組退室。
男子組、ざわつく。
数分後――
ドアが開く。
サンタ三人。
そして。
トナカイ一匹。
「……」
朝倉だけ、トナカイ。
野間口と赤瀬が同時に立ち上がる。
「うわぁぁぁ!」
「可愛い!!」
朝倉、抗議。
「私マスコットですか!?」
野間口即答。
「大丈夫大丈夫、可愛いよ~」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
森川が小さく視線を落とす。
脇俣が笑顔のまま刺す。
「ちょっと野間口さん。私や森川ちゃんには?」
「え、ごめん」
赤瀬は白石を直視できない。
白石は完璧なサンタ姿。
堂々と黒城の前に立つ。
「蓮」
「……何だ」
「どう?」
「視覚的刺激が強い」
「それ褒めてる?」
「否定はしない」
赤瀬、天井を見る。
「強い……」
※※※
脇俣がパンと手を叩く。
「男性陣も着替えてくださいよ~」
「え?」
数分後。
野間口サンタ。
赤瀬サンタ。
そして――
黒城、トナカイ。
「なぜ俺だけ」
白石、即答。
「サンタとトナカイはコンビでしょ♥」
朝倉が満面の笑み。
「黒城先輩!お揃いですね!」
黒城、沈黙。
野間口が腹を抱える。
「黒城似合うな!」
赤瀬。
「なんで俺より似合ってるんですか」
黒城。
「役割分担だ」
「分担おかしいです」
※※※
プレゼント交換。
音楽に合わせて回す。
止まる。
朝倉 → 黒城。
「え!?私ですか!?」
中身は手袋。
「冬寒いので!」
黒城は一瞬止まり、静かに言う。
「……合理的だ」
だが、その手袋をすぐに装着する。
朝倉、満足顔。
白石、じっと見る。
次。
黒城 → 白石。
全員、固まる。
小さな箱。
白石が開ける。
シンプルな銀のキーホルダー。
白石の目が、ほんの少し柔らぐ。
「……ありがとう」
黒城。
「失くすな」
「失くさないわ」
赤瀬、小声。
「これは強い……」
野間口、頷く。
「決定打だな」
白石は黒城の隣に自然に座る。
「来年も一緒よ」
「確定事項ではない」
「確定よ」
※※※
笑い声。
サンタとトナカイが入り乱れる。
朝倉がぽつり。
「なんか、いいですね」
野間口。
「警察も、クリスマスくらいは平和でいいよな」
黒城が静かに言う。
「均衡は、守るものだ」
白石が小さく微笑む。
「今日は守られてる側ね」
一瞬、目が合う。
外は静かな冬の夜。
曲町署の面々は、今日だけは少しだけ無防備だった。
――聖夜の均衡は、笑い声で保たれている。




