表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

第10話 朝の号令 ――間違いの数だけ前に出ろ

春の朝。

曲町署の朝礼場。

整列した署員の前に、朝倉陽菜が立っている。

「本日の朝礼行事、体操担当します!」

声が抜ける。

「いち、に、さん、し!」

腕を大きく振る。

足も全力。

幹部列。

鶴丸署長がぽつりと呟く。

「元気があっていいなぁ」

亀山副署長がうなずく。

「署の雰囲気が明るくなります」

鳥羽地域課長が小声で言う。

「……若手の特権ですね」

黒城は隣で、寸分違わぬ正確な動き。

「黒城巡査長、真面目すぎません?」

「型は崩さない」

「体操です!」

朝礼場に小さな笑いが生まれた。

※※※

午前

黒城と朝倉は交通課へ呼ばれる。

机の向こうに座るのは、松中警部補。

違反処理の職人。書類の乱れを許さない男だ。

松中の手には、付箋だらけの違反切符が握られていた。

朝倉の背筋が伸びる。

松中は一つずつ淡々と指摘していく。

内容は具体的だが、声は冷静。

朝倉はメモを取りながら、ひとつひとつ頷いた。

最後に松中は切符を閉じる。

「気を付けろよ」

短い。

だが軽くはない。

一拍。

「この一件も事故防止につながっている」

朝倉が顔を上げる。

「次も頼むぞ」

朝倉は小さくうなずいた。

「……はい」

黒城が静かに言う。

「修正は前進だ」

松中は一瞬だけ黒城を見る。

「お前がちゃんと確認しろよ」

朝倉の背中が、少しだけ伸びた。

※※※

昼休み

署の自販機前。

朝倉は小銭を握って立っていた。

「大変だね」

振り向くと、小久保交通課長。

穏やかな目。

「何か飲むかい?」

朝倉は慌てる。

「い、いえ!自分で買います!」

小久保は笑う。

「遠慮しなくていいよ。若手支援」

少し迷ってから、朝倉は言った。

「……じゃあ、オレンジジュースを」

「甘いのいくね」

ボタンを押す。

コトン、と缶が落ちる。

小久保はブラックコーヒー。

プシュ、と開けながら言う。

「松中のこと、気にしてる?」

朝倉は正直にうなずく。

「はい」

小久保は穏やかに言う。

「松中とは同期でさ。真面目なやつなんだよ」

「同期で同じ課っていいですね!」

「良いこともあれば悪いこともあるけどね」

少し遠くを見る。

「頼みやすい。でも文句も言われやすい」

朝倉はジュースを握りしめる。

「でも……言いたいこと言えるって、素敵なことだと思います」

小久保は目を細めた。

「そうだね」

一拍。

「松中は怒ってないから安心して。育ててるんだ」

朝倉の胸に、すとんと落ちる。

「この一件が事故防止につながっている。きっと、松中も同じことを思ってる」

そして、小久保は少し照れくさそうに言う。

「うちにも同じくらいの娘がいるんだけどさ」

「単身赴任でね。全然会えてない」

朝倉は小さく笑う。

「きっと、頑張ってますよ」

小久保も笑う。

「そうだといいな」

※※※

夕方・交番

肥田が聞く。

「どうだった?」

朝倉は少しだけ誇らしげに言う。

「訂正、受けました!」

「胸張るところじゃないな?」

黒城が静かに言う。

「間違いは資産だ」

「便利な言葉ですね!」

でも。

朝倉の顔は、朝より少しだけ強くなっていた。

叱られることもある。

支えられることもある。

間違えることもある。

それでも。

前に出るのは、いつだって自分だ。

――間違いの数だけ、前に出ろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ