世話焼き自転車
たとえヒトでなかったとしても、日ごろ大切にしている”モノ”も自分にとって大事な”相棒”。そんなことを思いながら書いてみました。
「さ、ダイちゃん、行くよ!」
毎朝、ボクは相棒のマナブと学校へ行く。マナブは、僕の2代目の相棒。初代相棒は、マナブの親友、ダイスケ。小学6年の時、父親の転勤で引っ越すことになり、ボクを“友情の証”としてマナブに譲ったんだ。
マナブは、ボクを“ダイちゃん”と呼ぶ。ボクは自転車なのにな、って最初は思ったけど、慣れると案外嬉しいもんだ。同級生の女子たちからは
「自転車に名前で呼んでんの!?キモ!」
なんて言われるんだけど、当の本人はまったく気にしていない。マナブにとってボクは、親友“ダイちゃん”の代わりなのだから。
マナブは中2で、思春期ど真ん中。秘かに思いをよせている子がいるのだけど、奥手なマナブは彼女を前にすると何も言えなくなっちゃうんだ。むしろ、挙動不審か?自転車のボクから見ても、本当にじれったい。彼女の名前はミカちゃん。小学校から一緒のミカちゃんは、おとなしくて、やはり自分から声をかけるようなタイプではない。マナブと同じ。だから、余計にもどかしい。ボクの勘が当たっていれば、きっと両想いのはず!どうしたら、このマシュマロみたいな恋をかなえてあげられるんだろう。
ある日のこと。学校へ向かう途中、走って来た犬を避けようとしたマナブがボクと一緒に大転倒。ボクも痛かったけど、派手に転んだマナブはもっと痛かったはずだ。なのに…。
「ダイちゃん!ごめん!」と、ボクを起こしてくれた。
「お前、なに自転車に謝ってるんだよ~」と周りのやつら。ボクを大事にしてくれているだけなのに。だが!なんとその場にミカちゃんがいたんだ!
「マナブくん、ダイちゃん!大丈夫だった?」
「…えっ?」これはマナブ。
“えっ…?”これはボク。
「み…ミカちゃん…。」
「ふたりとも…大丈夫?」
“ふたりとも!?”
「ぼ…ボクは大丈夫。でも、ダイちゃんが傷だらけだ…。」
「マナブくんも、おでこ擦りむいてるよ?保健室いかなきゃ。」
マナブがおでこを触ると、指に血がついていた。
「…本当だ。」
「今日、学校終わったら、一緒に自転車屋さんにいこう?ね?」
マナブもボクも、ミカちゃんをじっと見てしまった。ミカちゃん…、頼もしいなぁ。
自転車屋の帰り道、ミカちゃんはマナブを団地まで送ってくれるという。途中、長い下り坂がある。ボクはちょっと力を入れて、マナブの手を払った。
「あ、ダイちゃん、坂道…。」
ちょっとの間だけど、ふたりきりになれるよ、マナブ。
了
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