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天運の檻  作者: じょじょ
第3章・追憶の黎明編

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8/19

8話「闇に沈む明(あかり)」

天運の檻・8話になります!


リアクション、コメントなどくれたら嬉しいです!

「……は…?」


明が目の前にいる国衛局員に聞き返す。

その横にいる暗菜は先ほど局員が口にした話を聞いて、衝撃のあまり呆然と立ち尽くしていた。


「ったく、何度も言わすな、お前らと一緒に派遣された執行隊員15名の死亡が確認されたんだよ。」


「いやおかしいだろ……アイツらの…症状で…そんな…」


「だから、容態が悪化したんだろ?いい加減受け入れろよ、そもそも社会的立場のないお前らがいくら減ったところで――なっ!?」


明が局員の胸倉を掴み、刀に手を置く。

その様子は無人に放つ殺気とは異なる同期に発せられた罵倒に対する怒りからくるものだった。


「テメェ、もういっぺん言ってみろよ。」


「明!!ダメだって!!」


暗菜が明に飛び掛かり制止する。

局員は明の殺気に怖気づき、罵倒を浴びせながらその場から走り去る。


「おい、暗菜!なんで止める!」


「わかってるでしょ!今ここで手出したらどうなるかくらい!」


暗菜は自分たちの立場を理解していた。

術式発現者には一般市民のような扱いは受けない。

局員が仲間たちの死を通達することですら、かなり優遇された処置であることも。

今ここで明が局員に逆上して手を出せば、それこそ仲間をさらに失う。

暗菜はあの場での最善の選択をとったのだ。

だが、明と暗菜の二人は仲間を失ったことによる激しい喪失感に苛まれる。

絙や玲、葵ほどではなくとも、同じ苦楽をともにしてきた同期達だ。

冷静に現実を受け入れることは不可能だ。


「意味がわからねぇ…なんでアイツら全員…」


「とりあえず、絙に聞いてみよう。絙なら上層部と繋がりはあるだろうし。」











その頃。

国衛局上層部の者と絙も同じく15名の隊員の死を伝えられていた。


「彼らの…最期を…見た者はいますか……」


「気持ちはわかる。国衛局こちらにとっても大きな損害だ。まだ日本各地には無人が潜んでいる。それに対抗するには―」


「そんなことを聞いてるんじゃない!!アイツらはどうして死んだのかって聞いてるんだ!!」


激情する絙の瞳には涙が零れていた。

それを冷徹に見つめる国衛局上層部の男性。


獅壕院ししごういん わたる。お前が涙を流すとはな。

 言ったはずだ、感情に引きずられるな。我が一族は崇高な能力ちからを持って生まれし存在。その一族の恥となる行為は許されない。」


「俺の恥じるべきは…こんな親を持ち、この一族に生まれたことだよ、親父おやじ。」


絙は国衛局の上層部にして自身の父親である男にそう吐き捨て部屋を出る。

激しい感情が全身に巡り、絙は拳を強く握る。


「絙…。」


部屋を出るとそこには明と暗菜がいた。

絙は涙を拭き、二人を自分の部屋に連れていく。


「そうか、絙もそれだけしか…」


暗菜は絙にも自分たちと同様の情報しか伝えられていないと知る。

だが、三人の想う気持ちは変わらない。


「数日前まで風邪程度だったアイツらが急に全員死ぬわけがねぇ。」


「うん、上層部に聞いても詳細を口にしないのは理由があるはず。」


「考えることは同じようだな。」


三人は決意を固めた表情を浮かべ、仲間たち死の真相を探ることを決める。











獅壕院家は代々国衛局に優秀な人材を輩出しているエリート家系。

そして国衛局が保持するあらゆる機密情報を管理する機密管理部を統括する役目も担っている。

そのため機密管理部の入室は獅壕院家当主の者が権限を握っている。

現当主である獅壕院ししごういん 甚之助しんのすけと親子の関係にある絙は次期当主である自身の立場を利用して、機密管理部への入室を試みる。

三人は周囲の様子に注意しながら機密管理部へと向かう。


「そういえば玲は?」


「葵の見張りをしている。この件に無理に呼べば周りが警戒するかもしれない。」


現在、隊員に攻撃を仕掛けた罪で葵は自宅軟禁の命令が下されている。

そして玲はそんな葵のそばにいたいと考え、監視役に自分を任命させていたのだった。

機密管理部へ無事たどり着いた三人。

絙は認証器に自身の手を当てる。


―危険等級A、獅壕院 絙。認証シマシタ。―


機械音がすると扉が開く。


「ん?絙、お前まだ当主じゃないよな?」


「獅壕院家はあらかじめ次期当主が決定次第、権限をその者にも与えるんだ。

当主が要事の際に対応できるようにな。」


「でもそれってお父さんに信頼されてるからじゃ……いいの?」


暗菜が不安げに尋ねる。

だが絙の気持ちは変わらない。


「あぁ、いいんだ。俺だって真相を知りたい…いや、知らなきゃならないんだ。」


苦楽をともにしてきた仲間たちだった。

そんな彼らがなぜ死んだのか、それを知る権利くらいあるはずだと、絙は心に強く感じていた。

三人は中へ入室する。

中はまるで巨大な図書館のようにデータ化された本が棚に陣列していた。

絙は壇の前で目的のデータを取り出すよう命じる。


城郭じょうかく大学執行任務のデータを見せてくれ。」


―カシコマリマシタ。―


機械はすぐにデータを壇上に映し出す。

三人はそのデータに目を通す。

最初こそは自分たちが知っている周知の事実ばかり。

生存者から未知のガスが発生し、生存者は助からなかったこと。

それを浴びた15名の隊員は軽度の痺れや発熱が症状として表れていたこと。

だが、それより先に記載されていたものは……



―記録―


場所:国衛局支部・隔離地下施設


観察1日目

運ばれた執行隊員15名ともに軽度の症状のみ。

応答可能な隊員を優先に当時の状況を尋ねた。


観察2日目

数名の隊員に心拍の上昇が確認。

症状の項目に痙攣および意識の混濁を追加。


観察3日目

隊員の症状が急激に悪化。

悪化した隊員には、凶暴性に加え負傷部位の再生が見られる。

隔離された隊員15名に至急拘束具の装着を行う。


観察4日目

隊員の半数以上に眼球の黒色化がみられ、骨格の変形が可能な者も現れる。

”無人化”の兆候が大きかった6名の血液サンプルを採取。


観察5日目

”無人化ガス”の効果がほぼ全ての隊員に現れる。

国衛局本部より通達、無人化された執行隊員の迅速な処理を決定。



「何だよ…これ……」


三人が目にした驚愕の事実。


「無人化…だと…?」


「でも…無人は……昔蔓延したウイルス感染者の成れ果てじゃ…」


三人が呆然とする中、記録の最後には”映像記録”と表示されたものが。

そしてその映像は三人の意思に関係なく、自動で映し出される。



―こちら隔離地下施設。執行隊員の処理を実行する―


―ま、待ってくれ!何かの…間違いだよな!?俺ら別に何も―


―まだ意思疎通の可能な個体だ。先に完全に無人となった者から処理を開始しろ―


―うわぁああああ!やめてくれ!!!―


―構うな。無人の戯言だ。速やかに焼却しろ―


―わ”た”る”ぅ!!だれかぁ!!助けてぇ!!!!!―


―意識を奪っている時間はない、生きたまま焼却するんだ―



無人化した隊員も無人と同様、核の特定は困難だった。

そしてウイルスを体内に宿している理由から生きたまま焼却という最も残酷な処置を施された。

映像には完全に無人となり暴れる者、無人の肉体へと変貌は遂げつつまだ人としての意識が残る者、それらすべての同期がみな生きたまま焼かれている光景だった。

その光景はまさに地獄絵図だった。

全身が燃えながら必死に声を出し窓を叩く隊員。

燃えてもなお、まとめて焼却された隊員を襲い喰らう完全に無人の生態へと変貌してしまった隊員。

喉も焼かれ、皮膚も焼けただれ剥がれ落ち、屍のような状態で涙を流す隊員もいる。

映像を見た暗菜は涙を流し、吐き気を催す。

同様に絙の頬にも涙が落ちる。

明が映像を停止させる。

明は絙と暗菜を抱きしめる。

二人には見せない明の表情には悲しみと怒りが込み上げていた。


なぜ同期は殺された?


表面上で見れば、国衛局は正しい判断をしたのかもしれない。


浴びれば無人化するウイルス。


そんなものが日本各地に蔓延すれば、想像を絶する規模での被害が待っている。


だとしてもあまりにも酷い、惨すぎる。

すると明は表示されるデータにはまだ続きがあることを知る。

そこには”重要機密事項”と記載されていた。

明が記録を映す。



―重要機密事項―


採取したサンプルを既存データと照合。


無神むこう”の生体サンプルとの一致率:98.6%


【照合結果】

“無人化ガス”に未知の因子を含有。

因子は無神の遺伝子断片との親和性を示す。


観察5日目(追記)

対象の処理を完了。

無人化ガスの効力には個体差はあるものの有用な結果が得られた。

本任務における試験結果を局長室へ送付済み。



「……無神?」


暗菜が小さくつぶやいた。

その名は誰しもが知っている存在。


無神むこう

かつて蔓延したウイルスに感染し最初に無人となった存在。

実在したのは、今から150年前のウイルスが蔓延した時代。

だが、その存在は当時の者たちによって執行されている。

その生体データを、なぜ国衛局が“保持”しているのか。



「一体いつからそんなものを…」


絙は無人の執行組織である執行隊ですら知られていない情報を見て驚愕する。

そして、明は記録に記載されているある言葉に引っ掛かる。


「試験…結果…だと…?」


明の声には苛立ちが混じっていた。

なぜ、国衛局は症状が出る前から“観察”と称し、詳細に記録を残すのか?

まるでこうなることを想定していたかのように用意された拘束具、そして即座に“無人化ガス”と命名された未知の物質。

さらには、今回の事態を試験結果と称した。

明は画面を睨みつけたまま、拳を固く握った。


「……偶然なんかじゃねぇ。」


低く絞り出すように明が言う。


「最初から、俺たちは“実験”に使われてたんだ。」


暗菜と絙が息を呑む。

その場の空気が、重く、冷たく沈み込んでいった。

三人は国衛局の行動に疑問を抱かざるを得なかった。

国衛局は自分たちの知らない何かを隠している。

それが明るみに出るのであれば人の命ですら無碍むげに扱えるほどの何かを。











一人本部の廊下を歩く明。

脳内には数時間前に見た記憶が呼び起こされる。

死んだ仲間の真相、そして国衛局が隠していること。


「…クソッ」


頭を抱える明。

自分が見た事実をどう玲に伝えればいいのかわからないのだ。

玲は一番の親友だ。

だからこそ、彼に事実を伝えればどうなるかは容易に想像がつく。

現在、葵は自宅軟禁を命じられている。

そして玲はその葵の見張りを務めている。

明は重い足取りで葵の家へと続く道を歩いた。

玄関前には見張り役の玲の姿があった。


「……よぉ、明。」


気怠そうに腰を掛けていた玲が、ふと顔を上げる。

玲の声はいつもと変わらない。

だが、その奥底には仲間を失った者だけが持つ沈んだ影が潜んでいる。

仲間の死は玲の耳にも届いていた。


「なぁ、明。」


玲がふと声を潜める。


「……お前、納得できるか?国衛局アイツらが言ったこと。

 …死ぬような感じじゃなかっただろ。」


明は一瞬、胸が詰まった。

玲に真実を告げればどうなるか―。


「(玲なら迷わず国衛局に噛みつく、命を投げ出してでもな……)」


喉までこみ上げた真実を吐き出そうとするが、その先にある玲の姿を思い浮かべた瞬間、唇は固く閉じられた。

重苦しい沈黙を破ったのは、明自身だった。


「……納得できねぇのはわかる。俺だって同じだ。

 けど上は問い詰めても態度は変わらねぇ、もう慣れただろ?」


わざと軽く言い放つ。

その声音は苛立ちを含みながらも、どこか普段通りを装っていた。


「けどよ、あれだけじゃとてもじゃないが葵には言えねぇよ…知ればアイツは自分を責めるに決まってる。」


軟禁中の葵は今回の隊員の死を知らされていない。

玲には言うチャンスはいくらでもあった。

だが、国衛局が伝えた内容だけでは葵自身が自分を責めると思い葵に伝えらずにいた。

明はそれを聞いて少し間を開けてから口にする。


「…そういうのは……タイミングがあるからな…」


明は自分が内に隠している真実と玲の心境を重ねて口にした。

重い空気が流れる中、その沈黙を破ったのは明自身だ。


「いいから交代だ、お前もう5日間も見張りしてるだろ。

 少しは休まないと葵に相手してもらえなくなるぞ~」


「ったく、うるせぇなお前は。」



玲は明の軽口に笑みを浮かべながら立ち上がる。

そして去り際、玲は明に一言口にする。


「…明、葵のこと頼んだぞ。」


背後から玲の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、明は小さく息を吐いた。


「ったく…みんな何でもかんでも、俺に頼みやがって。」


明は暗菜と絙に玲に事実を伝えることを頼まれていたことを思いだすと小さな声でぼやきながら玄関を開ける。

中に入ると居間に葵を見つける。


「玲ったら、やっと交代してくれたんだね。」


「あぁ、これ以上見張りすると葵に嫌われるぞって言ってきた。」


「もう!玲を困らせないでよ!」


葵は明の軽口にいつものようにツッコむ。

その空気感をどこか葵は満足している様子だった。


「でも…ありがとう。玲も明だから信頼して任せたんだよね。

 玲もこれで…少しは気が軽くなったんじゃないかな…」


葵は穏やかな表情で口にする。

だが、その表情の裏には玲が自分に口にしたくてもできない何かがあるのだと直感的に感じていた。

明はそれを横目で見ると、意を決して口を開く。


「葵、実はなー」


「あ、明さん!こんばんは!」


明を遮るように背後から声がする。

振り向くとそこには葵とそっくりな少年が立っていた。

葵はその少年に気が付くと少し頬を膨らませて注意する。


「あ、しょう~人が話してるときに被せるように話しかけちゃダメでしょ~」


そう、彼こそが後の”天与五人衆”と呼ばれる者たちの一人、龍河岡りゅうがおか しょうだった。

当時まだ11歳の蒼は執行隊に所属しておらず、龍河岡家当主の弟君として一族から大切に育てられていた。

明は蒼に近づくと、額を指で弾く。


「痛い!」


「そうだぞ~お前の大好きな姉さんは今俺と話してんの。邪魔すると前みたく蒼の顔に落書きするぞ~。」


蒼は額を抑えながら少し頬を膨らませるも、まんざらでもない様子だった。

これが明と蒼のいつものやりとりだったからだ。

明は自分の課せられた責務を今だけ誤魔化すように蒼と接する。


「てかお前もうこんな時間だぞ、なんで起きてる。」


明は夜中であるにも関わらずいまだ起きている蒼に尋ねる。


「だって明さん、玄関前でズカズカ歩くからうるさくて…」


それを聞いた明は内心反省するものの、葵との話の腰を折られたことで少しため息をつく。


「はぁ…ガキが起きていい時間じゃないだろ、ほら戻れ。」


「ガキって…俺、明さんと4つしか違わな―」


「はいはい、わかったわかった~」


明が無理やり蒼を寝室に戻そうとする。

すると葵は蒼の表情を見て、明に蒼と一緒に部屋まで行ってもらうよう言う。

会話は別にこの後でもできる。

明はそう思い、蒼の背中を見ながら渋々ついていく。

明の心に僅かに蘇る安らぎ。


だが―


その安らぎを脅かす影がすぐそこまで迫っていることを、このときは誰も知らなかった。

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