6話「立志」
天運の檻・6話になります!
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翌日。
歩は未紗の案内である場所へと向かう。
到着した歩はあくびをかきながら一点を見つめていた。
すると、横から歩の身体を揺さぶる人物がー
「歩、大丈夫?」
横で歩に声をかけたのは良奨だった。
歩は昨日、蒼に言われたことを思い出す。
昨日、起きた霧峰町旅館事件。
それにより重傷を負った歩はリハビリも兼ねた訓練が求められた。
本来であれば、蒼が担当するのだが、蒼は”とある用事”を抱えているのだそう。
そのため代わりの人物を訓練相手として頼んでいた。
「ん?あぁ、ぼーっとしてただけだ、そっちこそケガの方は大丈夫か?良奨。」
「うん、骨折にはなってないけどかなり痛めたみたい。俺も歩みたいに流源の操作ができてればケガを抑えられたかも。」
良奨は以前の実戦訓練で負傷したため、ここで次の任務に備えていたのだ。
そして周囲には―
「う、うぅ…まだ身体が重い…」
「大丈夫だよ!頑張って勇翔くん!」
霞と勇翔も集められていた。
霞は身体を重く動かす勇翔の身体を支える。
すると部屋の扉が開く音が。
「それじゃ全員集まりましたね。」
そこにはメガネをかけ、整えた前髪が印象のいかにも教育者たる真面目な雰囲気の男性が現れた。
危険等級B
巳雲 蓮(35)
巳雲は歩四人を確認すると話を始める。
「君たちの訓練の担当を任された巳雲です。よろしく。
今から君たちには執行任務に向けた基礎訓練に励んでもらいます。」
「(うわ…俺ちょっと苦手かも…)」
「(学生の頃を思い出すな…歩は苦手そうだけど……)」
「(身体が…重い……)」
「はい!具体的に何をすればいいですかー?」
各々感想を心の内にしまう中で霞が手を挙げて発言する。
巳雲はすぐに霞の方を指さし、その指を自分の方に向け静粛にするジェスチャーをする。
「亜里子さん、別に離れているわけではないので大きな声はやめてください。」
「は、はいぃ~(厳し~!)」
巳雲はメガネを上げる仕草をして話を続ける。
「敵を知るにはまず己から。
君たちには流源、そして術式の制御をそれぞれ身に着けてもらいます。」
「術式…?(俺と良奨はそもそも発現すらしてないぞ)」
「瑞野くん。」
「!!…は、はい?」
突如、呼ばれたことで歩が少し困惑した表情で返事する。
「報告によると君は流源の操作性に優れる。ですが君は現在術式を発現していない以上、それだけでは無人を執行するのは困難でしょう。だからこそ、流派の技術が不可欠になる。」
「た、たしかに…」
反論のしようのない事実を突きつけられ納得の表情をする歩。
巳雲はすぐに歩の隣にいる良奨の方を見る。
「そして門無くん。君は流源の操作、そして術式すら発現していない。
執行隊に憧れても入隊はゴールではありません。いくら無人に対する知識があっても扱えなくては意味がない。」
「お、おっしゃる通りです……」
続けて巳雲は霞を方を向く。
「亜里子さん、あなたの身体能力は非常に高く、おそらくこの四人では群を抜いている。ですが―」
「ありがとうございます!!やった~褒められちゃった~」
浮かれて喜ぶ霞を無表情で見つめる巳雲。
それを見た霞はすぐに空気を察し、その場で直立の姿勢をとる。
「ですが、流派が一切身についていない。現に攻撃のパターンを無人に予測され、攻撃が当たらないことがあったはずです。それではその身体能力も宝の持ち腐れです。」
「は、はいぃ~…(また厳しいこと言われた~!)」
「最後に松風くん。君の術式は非常に強力です。ですが、今のままでは味方すらも巻き込む危険性の高い状態。
さらに君の場合、術式を一度発動すると自分の流源全てを放出してしまう欠点がある。」
「そんなに…勇翔って…」
歩は勇翔の術式を目の当たりにしていなかったため、巳雲の発言で勇翔の潜在的な強さを知った。
勇翔は巳雲に自信のない声量で口にする。
「で、でも……僕の術式は昔からあれで…制御と言っても……」
勇翔自身は自分に発現した術式の脅威を知っていた。
だからこそ、積極的に使用をしたがらなかった。
勇翔の術式”放出”。
自身の体内に宿る流源を含めたエネルギーを放出できる。
放出したエネルギーは非常に強力で最大出力であれば、不死性を誇る無人ですら消し炭にしてしまうほど。
勇翔は自身の術式を制御をしようと何度も試みたが、結果は変わらなかった。
目の前の物体は炭と化し自身は意識を失うほどの消耗と疲労が襲ってくる。
だが、巳雲は勇翔の発言を聞くと懐から報告書を取り出す。
「報告の内容を確認するに、君はおそらく”術式発散”として術式を使用していると思います。」
「術式…発散?」
ウイルスが蔓延する昔、日本人に備わっていなかったものが現代の日本人には存在している。
それが流源と術式だ。
そして執行隊は驚異的な存在である無人に対抗すべく、流源を利用した剣術の流派を生み出し、術式には応用技術を次々と生み出していった。
術式の効果をすぐに適応せず効果を重複することで、本来の術式よりも術式効果を高める”術式充填”
術式を全身に纏い放つことで触れなくても術式効果を周囲に適応できる”術式発散”
自身の術式に制限や条件を設けることで、術式を強化・新たな効果を付与できる高等技法、”術式制約”
術式を空間的に拡大させることで術式の規模・範囲を強化し触れずして範囲内に術式効果を適応させる”覚醒顕現”
「術式発散は術式発現者が自身の術式を制御下におけない経緯から生まれたとされています。」
「術式に応用技術がそんな……」
歩は流派だけでなく、術式にもまた多くの技術が存在していることを知る。
巳雲は早速、流派や流源操作を訓練する歩と霞、術式の訓練として良奨と勇翔の二人組に分け訓練を開始した。
流源操作性は優れるも術式が発現していない歩、術式も発現し身体能力も優れるが、流派をほぼ習得できていない霞には流派を磨くことが求められる。
歩と霞は実戦形式で互いに刀を抜き戦闘を行う。
開始と同時に歩が流源を開放するが、霞はそれよりも速く行動し歩に接近する。
「くっ!(ウソだろ…霞、こんなに反射速度が速いのかよ!)」
歩は龍河一刀流の特徴を生かし、霞の攻撃を受け流し訓練場に広がる木々に身を隠しながら距離をとる。
だが―
「歩くん見ーつけた!」
すぐに追いつかれる歩。
歩はすぐ霞に攻撃を繰り出すが、その時背後からも気配を感じ取る歩。
背後には霞がもう一人こちらに迫っていた。
「分身か!」
「まだまだ~!」
すると別の方向からも霞の分身がこちらに向かってくる。
霞の攻撃を刀で受け止めるも、背後そして横からも迫りくる。
―龍河一刀流・遊漁滄転―
すると歩は最小限の動きで身体を捻り、受け止めた霞の攻撃を流し迫りくる霞の間をすり抜けるようにして回避する。
その動きはまるで魚群が流れるように海を泳ぐ姿を彷彿させる。
「うそ!!」
霞が呆気にとられている隙に歩は身を隠す。
「(分身は最大で二人まで、つまりあの中に本体がいる。そして本体は―)」
歩はすぐに木々の間を走り抜けながら霞に接近する。
居場所を悟られぬよう木から木へ移動する際に瞬間的に流源を足に込め、移動時に最大速度で移動する歩。
霞は分身と背中を合わせて全方位から歩の攻撃に対応しようと試みる。
だが、歩の気配が消える。
不審に感じた霞の一人が上空を見る。
するとそこには歩が上空から霞に迫っていた。
気が付くのが遅かった霞は歩の攻撃を許してしまう。
霞の一人に歩の刃が向かう。
霞は降参の合図として手を挙げ、刀を床に置く。
「も~なんでうちが本体だってわかったの??」
「霞の分身は本体より力が弱いんだろ?
さっき霞の攻撃を受け止めた時、訓練開始した瞬間に攻撃してきた時と威力が同じだったからかな。」
刀を鞘に納めながら口にする歩。
霞の術式は本体と同じ実力を持つ分身も生成できるが、それには時間がかかる。
歩が距離をとってもすぐに分身と共に攻撃を仕掛けてきたということはそれは分身をすぐに生成したということ。
歩はすぐに分身と本体には実力差があることを理解し、最初に受けた攻撃の重さを記憶し本体を特定したのだった。
「それに霞、戦闘中の流源操作ほぼしてないだろ?」
「えへへ…うち、流源の操作苦手で~…」
流源の操作をほとんどしていない状態でもなお、あの身体能力なのだと思いしらされる歩。
そんな二人の姿を遠方で見つめる巳雲。
巳雲は書類のようなものに二人の情報をまとめていく。
危険等級なし
瑞野 歩(16)
優れた流源操作と高い潜在能力が特徴。
また培った知識や技術を実戦に組み込む能力も極めて高い。
現時点での術式の発現はなし。
危険等級B
亜里子 霞(16)
流源量は同世代でトップクラス。
高い身体能力と術式による物量戦が得意だが、流派や流源操作といった戦闘技術の面で難あり。
「もう一度やる?霞。」
「もちろん!」
二人は再び訓練に励む。
巳雲はそれを見届けるとすぐに良奨たちのもとへ向かう。
そこには良奨と勇翔がそれぞれ術式の発現や制御のための訓練をしていた。
「うーん…やっぱ難しいな…」
「でも大丈夫だよ勇翔、やり続けよう!」
良奨は自信をなくす勇翔を励ます。
勇翔は自身の術式”放出”の制御を取得すべく腕だけに力を込める。
良奨はその様子を観察しながら的確なアドバイスをしていく。
「たしか全身に力を入れると発動しちゃうって言ってたよね?それなら今はその力みを全て腕だけに込めていくのはどうかな。」
何度か挑戦していく勇翔。
すると僅かだが、腕からエネルギー状の衝撃が放たれる。
それは勇翔の目の前に置かれたスーツのジャケットが僅かに風圧で揺れる程度のものだったが、たしかに発動することができた。
「あ、ありがとう…!良奨のおかげだよ!」
「いや勇翔の実力だよ。俺は別に見たことを口にしただけ。」
その様子を見た巳雲が二人の情報をまとめていく。
危険等級B
松風 勇翔(16)
非常に強力な術式を保持。
術式性能は危険等級Aの者にも引けを取らないが、やや本人の精神面に不安定さが見られる。
危険等級C
門無 良奨(16)
流源量、流源操作ともに劣るものの、無人に対する知識量と状況判断能力には目を見張るものがある。
「(だが…気になるのは……)」
巳雲は良奨の記録に目を移す。
「危険等級C…」
巳雲は訓練を始める前のことを思い出す。
そこでは四人の流源量や歩と良奨に術式が発現しているかの確認を行うべく診断を行っていた。
その時、歩には危険等級が表示されなかったものの良奨には危険等級Cと表示されていたのだ。
等級検査機の故障の可能性も考えて、すでに術式が発現している霞と勇翔を診断を行ったが二人に問題はなかった。
そこで巳雲がたどり着いた答えとは―
「(彼はすでに術式を発現している…?)」
術式は本来、本人が危機的な状況に置かれると脳内に特殊な作用を及ぼし、潜在的に秘めていた術式が発現すると言われている。
良奨本人はまだ執行任務の経験はない。
執行隊に所属する前に危機的な状況に陥った経験があるのか?
それであれば本人が覚えているはず。
だが、巳雲は仮に良奨の過去にトラウマが存在し、本人が無意識的にそれを隠そうとしているのであれば、それは詮索するべきではないと考えた。
「全員、一度集まってください。」
巳雲は四人を集合させる。
「今から私と君たちで実践的な戦闘訓練を行います。」
それを聞いた四人が驚愕する。
実戦経験のある巳雲との戦闘にみな自信をなくしていたのだ。
良奨や勇翔ならまだしも、霞や歩までもがたとえ四人でも対等に渡り合えるか不安だったのだ。
「私くらい倒せないと、藤白露くんにバカにされてしまいますよ、瑞野くん。」
「明さんってそんなに強いんですか?」
「まぁ…そりゃ蒼先輩の師匠だもんね~」
霞が納得した様子で口にする。
「瑞野くん、君の潜在能力は極めて高い。おそらく私の見立てでは”天与五人衆”と同レベルの潜在能力は持ち合わせていると考えています。」
―え!!!!―
霞と勇翔、そして良奨までもが驚愕する。
歩は三人に天与五人衆が誰のことを指しているのか尋ねた。
「いや、蒼先輩だよ…歩、もしかして知らないで接してたの…!?」
良奨が歩に呆れた様子で口にする。
歩は自身の師や兄弟子が執行隊でそこまでの実力者であると知り、自分のこれまでの言動を改めるよう誓ったのだった。
そして、巳雲は四人の身体に触れながら自身の術式について説明しはじめる。
巳雲の術式”平均化”。
触れた者達のあらゆる事象を平均化する。
指定できるものは一つだけで触れた対象者内で指定された事象が平均の値となる。
それを聞いた霞はよく理解できないといった様子で首をかしげる。
「君たちは個々に秀でた能力が異なります。それは戦闘では大いに役に立つでしょう。
ですが、それは互いを知り、連携ができればこその話。」
巳雲は四人に触れ終えると刀を抜く。
それを見た四人も刀を抜き始める。
「今、君たちの”身体能力”を平均化させました。
これで君たちの身体能力の優劣はなくなった。お互いに何ができて、できないのかを考えましょう。」
―それでは、始めます―
巳雲と四人の戦闘が開始する。
数時間後。
巳雲との訓練を終え、休憩をとる歩たち四人。
数時間の訓練の末、なんとか巳雲を追い詰めたものの、四人の体力はすでに限界だった。
巳雲が床に寝転がる歩に飲み物を渡しながら口にする。
「君は旅館での執行任務で、これまでにない特殊な現象が起きたと報告していたようですね。」
「はい、無人の千羽に殺されそうになった時、突然脳内に電撃が走ったみたいになって…」
「それは術式発現の兆しですよ。」
「!!」
歩はその発言を聞き、驚きのあまり口に含んだ水を吹き出す。
巳雲はメガネを挙げる仕草をしながら続ける。
「その調子で任務を続けていれば、いつかは術式を発現するでしょう。
そうしたら流派だけでなく、術式とも向き合うように。」
そう言い、巳雲は自身の休憩を済ませその場を立ち去ろうとする。
歩は自分が術式を会得した際のことを考えた際に、一番最初に浮かんだことを巳雲に伝える。
「もし、俺が術式を発現したら……俺の危険等級はどうなるんですか?」
「それは誰にもわかりません、発現してみないことにはね。」
「(それも含めて術式と向き合え…ということか…)
あの、巳雲さん…危険等級は上がったり、下がったりすることはないんですか?」
危険等級を定められた者が社会的にどういった処遇を受けるかは国衛局に所属していた歩は十分理解していた。
だからこそ、自分がこの先術式を発現し、それにより定められた危険等級が自分の人生にどのような影響を与えていくのか不安が無いわけではなかった。
巳雲は歩の問いに少し考えた後、口にする。
「等級が上下することは無いです。…一人の例外を除いてね。」
「…例外?その人って一体……」
「君のよく知る人物―」
―藤白露 明くんですよ。―
その頃。
執行隊本部の最下部に位置する軟禁所で明はおとなしく、椅子に寄りかかりながら天井を見つめていた。
国衛局の管轄である執行隊で定められた規則を幾度も破り続けた影響により、明は現在、国衛局上層部の審議待ちだった。
状況によっては一生檻での生活を強いられる可能性もある。
そんな中で明はいつになく冷静でいた。
明はゆっくり目を閉じる。
「これが人生の終わりだったら…お前は”ほら言ったでしょ”なんて言うんだろうな………なぁ葵。」




