5話「戦場を駆ける者たち」
天運の檻・5話になります!
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ヘリから降り立つ二人の影。
「ここが霧峰町かぁ~俺の地元も田舎やけど、そこよりもここは…」
「信二!いいから急ぐよ!」
「お、はいはい~」
未紗と信二と呼ばれた少年は歩たちが向かった旅館へと急行する。
執行隊の主な仕事は日本各地に潜む無人の執行である。
危険等級B以上の術式発現者に社会的な意味を見出すべく、無人を執行するという役割を与え誕生した組織が執行隊だ。
つまり、執行隊は国衛局管轄のもとに所属していても、社会的な信用は確立されていない。
そのため、執行任務の派遣から六時間以上が経過し、派遣された執行隊の隊員から連絡が寄せられない場合は直ちに別の執行隊員が派遣される。
よって、
危険等級A
米里 未紗(16)
危険等級B
威刃田 信二(17)
以上二名の執行隊員を長野県霧峰町への派遣が決定された。
現場へ向かう未紗と信二。
信二は周囲の異様な静寂さにいち早く気が付く。
「今回の無人、一人じゃあらへんな。」
「ほんと?」
「うん、ここ。足跡が二人分あるやろ?」
信二は道に僅かに残された足跡を指さす。
そこには訓練積んだ未紗の目でも目を凝らしてやっと見えるレベルで足跡が残っていた。
「ここまで浅い足跡ってことは…」
「おそらく無人を追跡した執行隊の者やろな。」
派遣された執行隊員は歩、霞、勇翔の三人。
だが足跡は二人分。
「もう一人はあっちの方向やな。」
信二が見つめる先には旅館のある方向だった。
そして信二と二手に分かれる提案をし、未紗は旅館の方へ向かう。
その頃、旅館では―
「うっ……ううっ……」
意識を失っていた歩が目を覚ます。
目が覚めたと同時にやってくる激しい肩の痛み。
肩には千羽の手刀が貫けた跡があった。
貫通されたことで風穴から風が吹き抜ける。
そして傷周辺には焼けただれた皮膚がシャツに張り付く。
歩は痛みを堪えながら、旅館の方へ這って進む。
だが―
そんな歩の背後に感じる殺気。
「うそ…だろ……」
振り向いた先には首を切断されかけながらも、こちらを見つめる千羽の姿が。
その表情は激しい怒りと殺意に満ちていた。
「やってくれましたね…危うく死ぬところでしたよ。」
弱点である首を切断されかけたためか、遅いながらも少しづつ切断面を再生していく千羽。
「(クソッ…肩を貫かれて切断しきれなかったか…!!)」
歩は立ち上がろうと身体を起こそうとするが―
「うぐっ…!!」
素早い速さで歩の首を掴む千羽。
そのあまりにも素早い勢いで刀を落としてしまう歩。
そして千羽を直視した瞬間、歩にある感情が出てくる。
「なぜ、私が君の刃で殺しきれなかったか…わかりますか?瑞野 歩。」
千羽は歩の首を絞める力をさらに込めて話を続ける。
「恐怖ですよ。君は私の命を奪うことに躊躇した。
私が無人であってもね。」
そう―歩が千羽の首を斬り落とせなかった理由は肩の負傷だけではない。
歩は実戦訓練で命の重さを痛感した。
それにより、歩へのこれまでの命の価値観が大きく変わっていた。
無人はかつてウイルスが蔓延した日本で感染した者の成れ果て。
そのことを学んだ歩は、たとえ食人に走ろうとも元は善良な人間の可能性があると考えてしまったのだ。
人を襲い、命を奪うことは決して許されることではない。
だが、それを承知の上でもなお、歩には無人に慈悲の心を持ってしまっていた。
「己の甘さで命を無駄にするとは…愚かな少年ですね。」
千羽の手刀に熱が帯びる。
歩はすでに意識も朦朧としており、抵抗する力が残されていない。
千羽の手刀が迫る。
―そんな時だった。
「なに…?」
突如、千羽の腕が切断される。
歩の攻撃を繰り出そうとした腕、そして歩を掴んでいた腕すらも一瞬のうちに切断される。
千羽は何者かの攻撃だと理解し、歩からすぐに距離を取る。
床に倒れる歩。
なんとか意識を保ちながら、目を開けると目の前に立つ人物が一人。
「(誰……だ…)」
歩の目に映ったのは執行隊が身に着けるスーツではなく、ジャケット姿の青年が刀を持ち立っていた。
「何者ですか。」
千羽は腕を再生しながら目の前の謎の青年に問う。
「無人に名乗る名はない。」
刀に力を込める男を見て、千羽はその殺意に驚愕しながらも臨戦態勢に入る。
―異術・火々樹網!!!―
千羽は自身の大技を放つ。
指と指の間に炎の膜を形成し、自身の腕や指を変形させる。
変形した腕は男を囲むように迫り、全方位からの自身の異術による炎の攻撃を繰り出そうとする。
だが―
―獅壕一刀流・獅断辻斬り―
すると青年が振るった刀は周囲の千羽の腕を駒斬りにする。
切り刻まれた腕や指はまるで猛獣に噛み千切られたかのような切り口をしていた。
「なっ―」
そして千羽が声を放とうとした時には、自身の首が切断されていた。
斬り落とされた首はすぐに炭化し、千羽の肉体が崩れ去る。
歩はその光景を見て驚愕する。
あれほど自身が苦戦していた無人をたった一度の技で執行してしまったのだ。
青年はすぐに刀を鞘に納め、歩の方へ向かう。
「息はできるか?」
「は、はい………あ、あの…あなたは…」
青年は落ち着いた声でしゃがみながら歩に尋ねる。
くせ毛の茶髪に右耳についているピアス。
同じ茶髪の歩と異なり少し赤みがかった日本人にはあまり見られない特徴的な色をしていた。
茶髪の青年は歩の肩を見ると歩の肩に自身の手を置く。
「うっ…!」
「少し我慢してくれ。」
すると歩の肩に空いた傷が徐々に塞がっていく。
再生とは少し違う、まるで血肉をどこかから補強するかのように。
傷口は完全に塞がりこそはしなかったが、肩を動かせる程度には回復する歩。
「これは…(この人の術式…?)」
「じゃ俺はこれで。」
「あ、待ってください…!」
歩が茶髪の青年を引き留めようとしたその時だった。
「いや~千羽さん、殺られちゃったか~」
―!!!―
歩と茶髪の青年はその声を聞いて驚愕する。
声の主から発せられる邪悪さに。
歩は気配を感じ取った瞬間に身体中に震えが走る。
姿を現した人物は、無造作系の髪型にヘッドバンドが特徴の美しさと幼さを残した整った容姿を持った美青年だった。
だがその人物の白黒反転した瞳、そして異様な邪悪さに無人であると察するのに時間はいらなかった。
それも千羽と比にならないくらいの格上だと。
「ん?あ、僕?僕は千羽さんの調理した肉を保存する係だったんだ~」
そう口にする美青年無人。
「…格上の無人が格下の無人に付き従っていたというのか?」
茶髪の青年の発言にニヤリと邪悪な笑みを浮かべる美青年無人。
「別に付き従ってたわけじゃないさ、ただ千羽さんの趣味が面白そうだったからね。」
茶髪の青年は刀に手を置く。
しばらく両者のにらみ合いが続く中、最初に口を開いたのは謎の無人だった。
「ま、今日は”そーゆー”気分じゃないから。バイバイ~」
そう言い残して、美青年無人は一瞬にして姿を消す。
茶髪の青年は無人の気配を感じなくなると警戒を解く。
するとしばらくして、未紗が歩達のもとに到着する。
「歩!!」
「え、未紗!?」
「大丈夫?ケガは!?」
歩の身体の隅々までを確認する未紗。
歩は少し頬を赤らめながら未紗を落ち着かせる。
「だ、大丈夫だって…この人に助けられたんだよ。」
未紗は歩の横にいる茶髪の青年の腰についた何かの紋章を見つめる。
「戦衛団…」
その頃、二人の無人と対峙する霞と勇翔。
霞は分身の術式を生成しながら無人の攻撃から勇翔を守っていく。
しかし、すぐに生成できる分身は本体の実力の4分の1程度。
無人から勇翔を守りながらの戦闘では、すぐに破壊されてしまう。
「(うちが生成できる分身は二人まで…もう一人は歩くんの方に行かせたから…)」
なんとか勇翔に迫る無人を自身の方へ引き寄せるべく攻撃を繰り出す霞。
だが、疲労とともに霞の致命的な欠点が浮き彫りとなっていく。
「お前の攻撃は毎回そればかりだなぁ!!」
無人は単調な攻撃しか繰り出さない霞に反撃を行う。
吹き飛ばされる霞。
「か、霞ちゃん…!!」
「勇翔くん!…来ちゃダメ…!」
霞の声に反応し、立ち止まる勇翔。
すると守られているばかりのこの状況と実戦訓練の様子を思い出す勇翔。
勇翔は臆病な性格だった。
それでも”ある目的”のために執行隊に入隊した。
だが、執行隊では人間よりはるかに脅威な存在である無人と対峙しなければならない。
勇翔は実戦訓練の際も自身の窮地を霞が助けてくれたことを思い出す。
霞は怯えて何もできなかった自分と協力して無人を執行したと口にした。
だから今回の任務にも参加できた。
だが―
「(僕は何もできなかった…ただ助けてもらっただけじゃないか…!)」
今もそうだ。ずっと助けられてばかり。
勇翔は自分の無力さを激しく悔やむ。
そして、今目の前にはそんな自分を助け続けてくれた霞が窮地の状況に陥っている。
「(ずっと守られたばかりじゃダメなんだ…!!)」
勇翔は覚悟を決める。
「待て!無人!!」
無人が勇翔の方を振り向く。
勇翔に立ち込める流源を感知する無人たち。
「なんだ?さっきまで怯えて何もできなかったガキが。」
「霞を…殺す前にぼ、僕を倒してからにしろ…!」
それを聞いた無人が笑い出す。
「ハハッ!!いいぜ!お安い御用だぜ!!」
勢いよく勇翔に飛び掛かる無人たち。
勇翔の身体に纏う流源が激しく動き始める。
「喰らえ!!」
すると勇翔の身体から放たれる莫大なエネルギーの衝撃。
それは森を照らすほどの明るさで無人たちを包み込んでいく。
「なっ!?」
「うがぁ!!」
勇翔の放ったエネルギーの衝撃が無人を飲み込むと一瞬にして無人が灰と化す。
そして周囲の木々すらも消し炭にしていく。
そのエネルギーによる余波は霞にも届き、霞は驚きを隠せないでいる。
「え―――!!!勇翔くん!いつからこんな術式を!?」
「う…ううっ……」
だが勇翔はエネルギーの放出が終わると、勇翔はまるで魂が抜けたかのように意識を失いその場に倒れる。
「おっと!」
床に倒れる直前、勇翔を受け止める人物が。
勇翔が放った攻撃により、すぐに居場所が特定できた信二が駆けつけてくれたのだ。
「いやー今のすごい威力やったな!」
信二は周囲に他の無人がいないか気を張りながら勇翔を褒める。
「無人の執行に間に合えばよかったんやけど、まぁみんな生きているから結果オーライってことで…ってあれれ??」
その様子を見た霞はすぐに執行隊の人間であると感じ、緊張が解けたのかそのまま目を閉じる。
かくして旅館での無人執行任務は死者を出さずに任務が完了する。
首謀者である千羽を含めた四体の無人は瑞野 歩、亜里子 霞、松風 勇翔によって執行が行われた。
また今回で死者が出なかった大きな要因として、亜里子 霞の分身体による避難指示により、館内の客人及び従業員に被害が少なかったことがあげられる。
「以上が報告の内容となります。」
「報告をありがとう。上層部には私が伝えよう。」
執行隊の隊員から報告書を受け取る男性。
そしてその男性は報告書から目の前に立つ人物に目を移す。
「それで…今じゃ戦衛団の君が…執行隊本部に何の用かな?」
男が目を移した先には旅館で歩を助けた茶髪の青年が立っていた。
「お久しぶりです。造さん。」
危険等級A
造 谷代(60)
白髪交じりの髪、穏やかな瞳をした造と呼ばれた男性はため息交じりに話を続ける。
「わかっているだろう?今じゃきみは政府の保護下にいない。君の危険等級じゃー」
「だからあなたに用があるんです。」
青年の強い眼差しに造は渋々諦めたかのような表情をする。
「相変わらず強い意志を持っているね、絙くん。
いいだろう、話とは何だい?」
絙と呼ばれた茶髪の青年が椅子に座り、真剣な表情へと変化する。
「旅館で遭遇したもう一人の無人のことです。」
その頃、歩は執行隊本部で未紗から傷の処置を受けていた。
歩は未紗に感謝を述べながら霞や勇翔たちのことを案ずる。
勇翔は先ほど目が覚めたと説明する未紗。
「いや~でもあの勇翔くんの術式には驚かされたわ~」
部屋の隅で椅子に座りながら歩達に話しかけたのは信二だ。
未紗は歩に信二の紹介を軽く済ませる。
「君が歩くんやな?俺は威刃田 信二や。よろしくな。」
信二は友好的に歩に握手を求めようとするも未紗がまだ処置が終わってないと口にし信二の手をどける。
苦笑いを浮かべる信二だが、空気を読み霞と勇翔の様子を見てくると言い部屋を出る。
しばらくして、未紗が歩の最後の傷の処置を完了させる。
「よし、これで処置は終わったよ。」
「すごいな…未紗はケガの処置もできるんだな。どこで習ったの?」
「未紗は私の元で師事しているからね~」
歩のいる部屋に来たのは、茶髪のポニーテールに白衣を纏った小柄な女性だった。
そして彼女の後ろには―
「やぁ、歩。調子はどうかな。」
「蒼さん!」
歩は蒼の姿を見て、明るい表情で挨拶する。
白衣を着た女性はすぐに歩の肩についた包帯を剥がし、真剣な顔で傷の様子を見る。
少し不安げな表情を浮かべる歩だが、安心させるかのように未紗が歩の手に触れる。
「大丈夫だよ、理沙姉さんは医師免許持ってるから安心して。」
「え、お姉さん!?」
”理沙”と呼ばれた白衣を着た女性が歩の傷に触れる。
すると歩の肩の傷がすぐに塞がり始める。
「これは!?(旅館で会った”あの人”の術式?いやあれとはまた違う…)」
「よし!これでOK!」
「す、すごい…」
歩は自分の傷があった部位を見て、まるで何事もなかったように完治していることに驚愕する。
「すごいでしょ~?これが私の術式だよ!」
危険等級A
姫村 理沙(21)
理沙の術式は”構造”。
触れた対象の構造を組み替えることが可能。
発動回数は限られるが損傷した部位などを組み替えることで、治癒とは異なる方向で処置することができる。
「まぁ、だけど表面上は完治しているけど、筋組織はまだ損傷してるからしばらく任務は無理だね~」
「ありがとうございます…!!」
「ホントなら信一もいたら良かったけどね。」
蒼がさりげなく発言した人物、信一。
それは先ほど歩に話しかけた信二の双子の兄であり、信一の術式も治療に適した能力だと未紗が口にした。
「にしても歩くんは運がいいね~無人に肩を貫かれてこの傷で済んでるんだから。」
理沙が歩に薬を飲むように指示しながら口にする。
歩は理沙にされるがまま薬を飲んだ後に理沙の話に答える。
「あ、ほんとはもっと酷くて…けど理沙さんに似た術式?…なのかな…それを持つ人に助けられて。」
―!!―
蒼と理沙はその発言を聞いて表情を変える。
特に蒼は歩に近寄り質問をしはじめる。
「その人は…どんな容姿格好だった?右耳にピアスとかしてなかった?」
その様子は普段通り落ち着いて冷静な口ぶりだが、若干の興奮が混じったような表情をしていた。
「あ、あぁ…たしかしてたような…服装は…」
「戦衛団でした。蒼先輩。」
未紗が歩に続けるように口にする。
戦衛団。
国衛局非公認の日本各地の争いを防ぐことを目的とした治安維持団体。
構成メンバーは少数ながらも術式発現者や傭兵、元国衛局の職員といった実戦経験に富んだプロが在籍していると確認されている。
未紗の発言を聞いた蒼と理沙は少し懐かしんだかのような表情を浮かべる。
「絙さんだ…」
その頃、造の部屋を出る絙と呼ばれる茶髪の青年。
青年はそのまま執行隊本部のとある部屋へ入る。
その部屋には大量の名前が記された大きなデータで表示された墓石が佇んでいた。
絙は目を閉じしばらく黙祷を行う。
すると背後である人物の気配を感じ取る。
「…久しぶりだな、暗菜。」
振り返った先には黒髪ボブに少し幼さが残る容姿だが、霞や理沙にはない大人の顔つきと雰囲気を漂わせたまるで絵にかいたようなクールビューティーな女性が立っていた。
「久しぶりだね、絙。」
「”アイツ”は元気にしてるか?」
「今、命令違反で軟禁中。」
それを聞いて僅かに口角が緩む絙。
「そうか。相変わらずだな。」
短い会話を済ませ、絙はその場を去ろうとするが―
「”美衣”は今年執行隊に入隊したよ。」
それを聞いた絙の足が止まる。
「…そうか。」
再び歩き始めその場を後にする絙。




