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天運の檻  作者: じょじょ
第2章・霧峰町旅館事件編

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4/19

4話「惨劇の旅館」

天運の檻・4話になります!


リアクション、コメントなどくれたら嬉しいです!

記録―長野県霧峰きりみね町の山奥に位置する旅館に無人むとの目撃情報が寄せられる。

国衛局は速やかに執行隊の派遣を決定、執行隊に所属する三名の隊員が現地へと向かう。

旅館に到着したあゆむかすみ勇翔ゆうとの三人。

三人は早速、館内の従業員や旅客に事情聴取を始める。


「なるほど。つまりはここ数か月にわたって旅館を利用した客の失踪も相次いでいると。」


「はい…」


「(てことは無人はこの旅館の人たちを…)」


少し怯えた表情で歩の問いに答える従業員。

霞と勇翔も旅館に宿泊する客たちから情報収集していく。

まずは館内のロビーいる客たちから聞いて回ることにした。

そこで霞はとある男性陣に声をかける。


「俺らは今日ここに来たばかりだから…特に気になることとかは…」


集団で旅館に訪れた男性たちの一人が口にする。

その集団は他の客とは異なり、身体中に汚れが目立っていた。


「じゃ、この旅館に来る際に気になった点とかありますか??」


霞が続けて質問を続けると、霞と勇翔の背後から小さな声で旅館の客が話す声が聞こえてくる。


もしかして…この子たち…


えぇ、きっとそうよ…術式発現者の集団、執行隊に違いないわ。


ウソでしょ…!?…そんなの…犯罪者と同じ部屋にいるのと変わりないじゃない…!


心無い声が聞こえてくる。

ただでさえ、不安な気持ちで今回の任務に挑んだ勇翔は益々表情が暗くなっていく。

しかし、そんな勇翔の心を安心させるかのように霞がそっと肩に手を乗せる。


「大丈夫…!あの人たちは勘違いしてるだけ…!気にした方が負けだよ…!」


そう小さな声で勇翔に言う霞。

気を取り直して男性客たちと話を続けようとするが、見失ってしまう霞。

勇翔はそんな少しドジな一面がありながらも自分を勇気づけてくれた霞の背中を見ながらほほ笑む。


「ぼ、僕も一緒に探すよ…」


霞と勇翔は歩に客の情報を伝えた後、部屋にいる客にも何か情報を持っていないか調査するために館内の奥へと進む。

歩は引き続き従業員に無人目撃の情報を聞き出していく。


「皆さんはここでかなり長い年月働いているって聞いたんですけど…」


「ん?あぁ、俺はここでもう十年になるな。他の奴らもほとんどは今年でたしかー…七年?くらいだったか?」


山奥に位置するこの旅館では新人の従業員は少ない。

どの従業員もこの場所で何年も働き、その間まで今回のような事件は起きていないという。


「多分、この中で一番の新入りは千羽せんばくんかな?」


「あぁ、そうだな。アイツはまだ一年経ってないんじゃないかな。」


「呼びましたか?」


すると歩の背後から声がする。

振り向くと若い男性が歩や他の従業員を見ていた。


「千羽です、どうぞよろしくお願いします。国衛局、の方ですよね?」


「あ、瑞野です。正確には執行隊の者です。」


歩は自身の名を名乗り握手を交わす。

千羽は他の従業員と異なるのは年齢だけでなく、若干の育ちの良さを思わせる身なりと品性を漂わせていた。

歩はどこか他の者と違うオーラを彼から感じていた。











取り調べを始めて、数時間が経過した。

歩は旅館の一室で霞と勇翔と共に情報の共有を行った。


「ふぅ~疲れたー無人が近辺にいるかもしれないのに、みんなよく旅館ここを利用しようと思うよね~」


霞は座敷に寝ころびながら口にする。


「しょうがないよ、一般人からしたら無人なんて、妖怪や霊と同じおとぎ話のような存在だし…」


「それで、霞と勇翔はどうだった?」


歩が二人の調査を尋ねる。

霞と勇翔はあの後、今回の事件の目撃者に話を聞こうとしていた。

だがなんと目撃者はすでに失踪していたのだ。


「目撃者は館内の客で人型の怪物を見たって騒いだその翌日に消えたって…」


「マジか…(無人の仕業だとしたら行動が早すぎる……まさか…無人は館内に…?)」


「そこでね!うちらがちょっと気になったのはここからでさ~」


霞が部屋の飲み物を手に取りながら口にする。

旅館内で霞が一番初めに聴取した男性客の集団、その者たちと目撃者は以前に旅館で揉め事を起こしているのを他の客が見ていたそうなのだ。


「え、でもその人たちって霞たちに今日来たばかりって…」


「そう!うちらにそう言ってたのに、実は違うみたい!」


「そ、それに…あの人たちなぜか異様に服が汚れてた…雨に打たれたわけでもないのに。」


歩は何かに気がつき始める。

勇翔も歩と同様、男性客が怪しいと口にした。

無人でなくと目撃者あるいは無人に関する情報の何かを知っているのは明らかだ。


「わかった。こうしている間にも被害に遭う人が増える可能性は高い。早速行動に移そう!」


すると勇翔が立ち上がろうとする歩を止める。


「もし、仮に彼らが無人でない場合、この旅館に無人が潜んでいる可能性を残したまま僕ら全員が同じ標的に向かうのはマズい気がするんだ…」


ちょうど男性客たちは旅館の外に出たことを確認していた勇翔。

勇翔は霞と二人でまずは男性客の行動を追うことにし、その間歩には旅館内での調査を引き続きしてほしいと頼む。


「…わかった。けど、無人だった場合は一度引くか、連絡をしてほしい。」


「おっけ~!」


「(軽いなー……)」


歩は霞のノリの軽さに多少心配を募らせる。

だが先日の実戦訓練の功績者である二人を信じ、男性客の件は任せるのであった。











歩は再びまだこの館内に無人がいることを想定して、館内の警備や気になる点を調べていった。


「何か困ったことでも?」


すると歩に声をかける人物。

それは先ほど歩と挨拶を交わした千羽だった。


「あ、いえ…まだ事件が解決していないので、調査の続きをと思って。」


「そうですか、それで…何か解決の糸口でも見つかりましたか?」


千羽は、歩の隣に並ぶとベランダの手すりへ軽く寄りかかった。

山間の夜気がわずかに冷たく、虫の声が遠くで響く。


「そういえば……あの女性の件はご存じで?」


「女性……?」


「ほら、無人を見たと騒いでいた方ですよ。」


それを聞いた歩は女性がすでに失踪していた事実は館内の人間の混乱を招くと考え、失踪した事実は伏せながら千羽の会話を続ける。


「あ、あぁ。そうですね…どうやら女性と揉めていた人物が館内の客にいたみたいで…」


「あの集団でいらした客人のことですかね、たしかに彼らは”彼女が失踪する前日”あたりで揉め事をしていたと他の従業員から聞いています。」


「……。」


歩の動きが止まった。


「…どうされましたか…?」


「……妙ですね、俺は彼女が失踪したことはまだ…口にしていないはず。」


そう、女性客が失踪した事実は千羽にした覚えはない。

なのに彼はその事実を知っていた。

千羽は小さく笑う。

それは人を安心させる笑みではなく、どこか底冷えのするものだった。


「妙、か。……いや、むしろ自然でしょう。」


「自然?」


千羽は空を見上げるように首を傾け、ぽつりと語り始めた。


「人間はね、面白い生き物です。

 ただ生きるために食べることを超えて、味や香り、見た目にまで執着する。

 空腹を満たすだけなら目の前の者を口に入れればいいものを……

 それでもあなたたちは、わざわざ火を使い、塩をふり、盛り付けに時間をかける。

 食はただの行為ではなく、欲望そのもの……魂を満たす儀式なんですよ。」


その声音は静かだが、底に揺らぐ熱があった。


「私も同じです。ただ――私が求めるのは人の肉。」


千羽は歩の方に目を合わせる。


「何十年も味わい続ければね、滴る汗や流れる血だけで年齢や出身までもわかるようになるんですよ。………君は食べたいものを目の前に置かれて、それを我慢できますか?」


歩は無意識に一歩後ずさった。

目の前の男の輪郭が、暗がりの中で揺らぐように見える。


「あなたは……」


千羽はゆっくりと口角を上げた。


「そう……私こそが、君の探している”無人”だよ。」


次の瞬間―

轟音と共に壁が弾け飛び、木片が室内に雪崩れ込む。

歩は空いた壁から外へと落下する。


「ッ――!!」


なんとか流源による身体強化と受け身で無傷の状態で着地する歩。

しかし、上を見上げた時には―

無人へと正体を現した千羽の右腕が赤く燃え上がり、歩へ振り下ろされる。


「さぁ瑞野 歩、君の味を感じさせてくれ…!」











一方その頃、霞と勇翔は建物の影を縫うようにして、先ほどの男性客たちを尾行していた。

耳に入ってくるのは、くぐもった笑い声。


「……あの女、なかなかの味だったな…!」


「だよな。やっぱボスの選別は間違いねぇ」


「ここにいりゃ、人間に困ることもねぇしな!」


勇翔の顔色が、みるみる青ざめていく。

霞はすぐに行動に出た。


「そこの三人…!観念しなさい!」


「あ?またアンタ達かよ…」


「言っただろ、俺たちは何も―」


三人の男はいまだ霞たちに白を切るつもりでいた。

しかし―


「お、お前たちの…!発言はすでに録音してある…!!正体もわかってる…!」


勇翔が怯えながらも自身の携帯に録音した先ほど三人が話していた会話の様子を流す。

男たちは一瞬、虚を突かれた表情を見せた。

だが次の瞬間、口の端を吊り上げ、露骨に牙を覗かせた。


「はっ、聞かれちまったか…」


「くだらねぇガキどもが。」


三人の男、いや無人の殺気にいち早く気が付いた霞が身構える。

無人たちは一斉に霞たちを取り囲むように動き始め、一人の無人が勇翔の持つ携帯を奪い破壊してしまう。


「うわっ……!」


「勇翔くん!」


霞は勇翔のそばに近寄り、無人たちの動きに集中する。


「ご、ごめん……僕のは……」


「大丈夫…!どうせ証拠を持ってても襲われちゃ意味ないし…!それより勇翔くんはうちの携帯で歩くんに―」


霞が自分のポケットに手をやった瞬間、表情が凍る。


「え!?…あれウソ、ウソウソ…!!携帯が無い…!」


「ウソでしょ!?」


「あー……実はさっき…あの三人尾行している時に何か落としたような気がするな~って思ってたけど…」


「絶対それだって!!」


「そ、そんな~」


霞はがっくしとした表情を浮かべる。

しかし、目の前には敵は三人もいる状態。

霞はすぐに気を取り直して刀を抜く。


「でも!まだ歩くんに伝える手段はあるよ!」


「もしかして…」


「そう!うちの術式を使うの!」


それを聞いた無人たちはすぐに目の前にいる二人の執行隊の人間が何かを企てていると察する。


「先手はやらねぇぞ!!」


一人の無人が霞たちに向かって走り出す。


「勇翔くん!うちの後ろにいて!サポートよろしくね!」


「ぼ、僕が!?」


霞は一歩踏み込み、先頭の無人の横薙ぎを躱して脇腹へ蹴りを叩き込む。

身体がしなるように動き、二撃目の刀が火花を散らす。

それでも相手は一歩も引かない。


「(やっぱ再生してくるのかなり厄介…!)」


だが、無人たちの猛攻を受け流し距離をとった瞬間、霞は自身の術式を発動する。

すると霞の掌から淡い光が集まりだし、その場に霞と寸分違わぬ姿をした分身が現れた。


霞の術式は”分身”。

自身と容姿、身体能力が同等の分身を最大で二人まで生成が可能。

分身の生成にはかなりの時間がかかるが、本体の実力4分の1程度の分身であればすぐに生成が可能。

霞は三人の無人を相手に自身と同等の身体能力を持つ完全な分身を生成することは困難だと判断した。

隙を見計らい実力は劣るが、すぐに生成可能なレベルの分身を生成した。

分身はすぐに旅館の方向へと走り出す。


「なっ!?」


「この小娘の術式は分身か!」


「旅館にはいかせねぇ!!」


霞の分身を見た無人の一人が旅館へと向かわせまいと分身を襲う。

だが、その無人の前に立つ勇翔。


「邪魔だ!クソガキ!!」


目の前にいる勇翔に狙いを定める無人だが―

その隙を見計らい、背後から霞が無人の首を切断する。


「うがッ…!!」


首を切断された無人はすぐに塵と化す。


「よし、なんとか分身で注意を引けた!(残りあと二人!)」


分身は無事旅館の方向へと走り出し、霞と勇翔は残る二人の無人を相手取る。











正体を現した千羽と対峙する歩。

千羽は炎を纏った拳を歩に向かって振り下ろす。

歩はなんとか刀で防ぐも勢いに押されそのまま旅館の庭まで吹き飛ばされる。


「なんてッ…威力だよ…(それにあの炎、あれは一体…)」


「その表情、どうやら”異術いじゅつ”を見るのは初めてのようですね。」


千羽は歩の心を見透かすように口にする。


異術。

無人の中には人を喰らい続けることで異能を発現する個体が存在する。

現在では異術を使用する無人もかなり少なくなってきてはいるものの、無人の中でも上位種にあたる彼らは執行隊にとって極めて危険な存在だ。

千羽は自身の掌から炎を生み出し、まるで自分の手足のように自在に操作する。


「ク…ソッ…(明さん聞いてないって…!!)」


千羽は掌の炎を徐々に球状へ形作り、歩へと近づいていく。

すると千羽は歩に火球を投げつける。

歩は流源を開放し、素早く避けていく。

千羽はまるで歩の様子を伺うように中距離から火球を放ち続ける。

火球が周囲に着弾し炎を上げる。

炎により闇夜に染まる森が明るく照らされていく。


何…あれ…炎…?


マズいよ、これじゃ館内にも火が…!!


旅館内にいる客や従業員も外の明るさに気が付き、外で点々と燃える炎を見て、パニックを起こし始める。


「(このままじゃ…一般人にも被害が…!!)」


歩は館内にいる従業員や客人たちの身を案じる。

だがそれにより千羽の接近を許してしまう。


「自分の身を案じたらどうですか。」


「(しまった…!!)」


炎熱断えんねつだん


千羽は自身の手に炎を分厚く纏い、手刀を繰り出す。

攻撃により、千羽の周囲の木々が燃えながら倒れる。

だが、倒れる木を見下ろしながら千羽は静かに振り向く。


「命拾いしましたね…瑞野 歩。」


千羽が振り向いた先には―


「ギリギリセーフだね!!」


「ごめん…!霞!おかげで助かった…!」


それは分身の霞だった。

霞は間一髪で千羽の攻撃から歩を守ったのだ。

歩の頬には千羽の繰り出した攻撃による火傷の跡が生じるも命に別状はなかった。


「でも、ここにいるってことは…勇翔は…」


「大丈夫!今のうちは本体の分身なの!」


「霞の…術式…?」


霞の術式を知らされていなかった歩は一瞬困惑するも、すぐに現状を理解する。

そして―


「霞、館内の人たちの避難を頼む。」


「え!?でも…」


「俺がこいつを執行する…!!」


歩は刀を構え、千羽を見る。

霞は僅かに躊躇する。

だが、歩の表情、そしてその固い意志を感じ取る。


「わかった。みんなは任せて!」


霞はそう言い、館内へと走り出す。

歩は背中で霞が去るのを感じ取りながら千羽から目を離さない。


「いいのですか。彼女を行かせて。」


「あぁ。」


千羽は僅かに間を置いた後、素早く掌から炎を生み出す。

歩もすかさずに全身の流源を開放し、攻撃に備える。


「ほう、先ほどより良く動く…」


歩は千羽が放つ炎の球をすべて避けながら千羽に徐々に接近していく。

異術の情報を知らなかったが故に不意をとられたが、歩は千羽の攻撃の隙をすぐに理解した。

学生時代に培った流源の操作、それを活かして歩は千羽の攻撃に対抗する。

そして―

歩はあきらとの訓練を思い出す。



―いいか?歩。闘いってのは自分のペースに持っていくことが重要だ。自分の流派を理解しろ。―



歩が明に伝授された龍河りゅうが一刀流。

それは剣速と防御に特化した高い柔軟性をほこる流派。

歩は千羽の攻撃を回避するだけでなく、着実に相手の隙が大きく生じるように間合いを調整する。


「クッ…!こざかしい…!!」


千羽は自身の炎を身体の内に蓄え始める。


海炎かいえん!!―


すると千羽を中心として円形状に炎の海が発生する。

歩は素早く千羽から距離をとる。

真夏でもない季節に関わらず、凄まじい熱波が歩に襲い掛かる。

だが、歩は見逃さなかった。


「(あの大技、自分自身も焼いている…)」


炎の海の中心に立つ千羽の様子を見つめる歩。

千羽は自身の身体炎で焼き尽くしていたのだ。

自身の炎で焼けた落ちた皮膚は無人の驚異的な再生能力によってすぐに元通りになる。


執行隊きみたちとの闘いは初めてじゃないんですよ。」


「だろうな。」


「先ほどの動き、なかなかですが、それでは流源の消耗は激しいはず。」


千羽が歩の息切れを起こしている様子を見てニヤリと笑みを浮かべる。

だが歩は再び身体に力を込め、深呼吸をする。


「なら…次はこっちから行く!!」


歩は瞬間的に流源を開放し、千羽に一気に近づく。


「(速い…まだこんな力を…)」


千羽は炎を手足に纏い、歩の刀による攻撃を対抗する。

歩は素早い剣速で対応し、千羽の攻撃全てを防いでいく。

異術を会得した無人である千羽を相手になんとか食らいつく歩。

そして隙をついて千羽の腕を切断する歩。

だが―


「ッ!!」


千羽は残された腕の骨格を変形し始める。

骨が独立して生きているかのうようにパキパキと音を立て千羽の腕が変形していく。

そして歩の首に腕がまるで蛇のように巻き付く。


「終わりだ、瑞野 歩。」


切断された千羽の腕は骨、肉、血管、皮膚と順を経て再生が行われていく。

歩の首元に千羽の吐息がかかる。


「首に食らいつくなんて品のないことはしない。

 まずは君の肉を炙ってからじっくりいただくとしよう…」


千羽の再生された腕が歩の胸元に迫る。

絶体絶命の中、歩は必死に千羽の拘束から抜け出そうともがく。


「クッ…ソォォ!!!」


渾身の力を込める歩。

だが流源をかなり消費したことで無人の圧倒的な力に抗うことができない。

そんな時だった。

突如、歩は脳内に謎の衝撃が走る。

痛みはない、だが身体全身に衝撃が響き渡るような謎の感覚。


そして―


千羽の攻撃は歩の腹部に直撃する。

その様子に千羽も驚愕する。


「どういうことですか…(私は確実にあの少年の胸を狙ったはず…)」


「グハッ…!」


拘束を解かれた歩は腹部に受けた攻撃によって吐血する。

身体に穴が開いた感覚が直に伝わる。

歩は激しい痛みによって身体に震えが生じる。

だが、歩はまだ闘いを放棄したわけではない。


「(今の攻撃で俺は死ぬところだった…でも…)」


「(攻撃を避けられた…?…いや、攻撃が外れたのか…?)」


互いに不可思議な現象が起こる。

だが、状況の理解より立ち上がることを優先した。


「(もう次はない…気がする…だからここで…決めないと…!!)」


歩の瞳に再び闘志が蘇る。

千羽の動きが止まっている今こそが歩にとって最大のチャンス。

歩はすぐに流源を開放し、千羽へ向かう。


「クッ…!」


僅かに歩の行動に遅れをとった千羽は再び炎を身体の内に蓄える。


「(来る!!)」


歩は再び炎の海を放つ気だとすぐに理解する。

一度、自分との距離をとり態勢を整える気でいると。


海炎かいえん!!―


千羽の周囲に炎の海が放たれ、周囲の木々や旅館の施設にまで火が移る。

燃え盛る炎の中で千羽はなぜ歩に攻撃が外れたのかを考える。

だが、そえれよりもまずは歩の命を喰らうのが先決だと考えを改める。


「…なっ!?」


炎の海の中心で肉体を再生しながら考える千羽の前には―

自身の身体が火傷を負っても炎の海から千羽に向かう歩がいた。

千羽は”海炎”を使用時、自身の肉体も損傷する欠点があった。

歩はそれを見逃さずに肉体を損傷している今こそが絶好の勝機だと考えたのだ。


「チッ!!」


炎熱断えんねつだん!!


千羽はすぐに手に炎を纏い歩に手刀を繰り出す。

しかし、歩は千羽の異術が発動する際の隙を把握していた。

すぐに歩は流派を発動する。


―龍河一刀流・水瀧すいろう斬り!!―


歩は千羽の首に流派による攻撃を繰り出す。

素早い剣速による一閃が千羽の首に刃を通す。

だが、同時に千羽の炎熱断が歩の肩を貫く。


「ウグッ!」


それでも歩は刀を最後まで振るった。











その頃。


―執行隊、着陸準備を開始しろ―


ヘリに乗る二人の影。


「歩、大丈夫かな…」


そこには未紗が歩の身を案じてた。

薄紫色の瞳がキョロキョロと泳いでいる。


「ん?でもその”歩くん”って実戦訓練で無人を執行したんやろ?」


すると左右異なる瞳を持った少年が未紗に声をかける。

その少年は関西弁口調で不安げな未紗を落ち着かせる。


「それでも不安だよ…初めての任務だし…」


「ハハッ、未紗ちゃんがここまで他人の心配してんの初めてやわ。」


未紗は顔を少し赤らめ着陸の準備を始める。

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