3話「命の重さ」
天運の檻・3話になります!
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執行隊本部に到着する歩と未紗。
未紗の後を追い、本部に入る歩。
執行隊本部は国衛局内部の最奥に位置している。
歩も国衛局の人間だ。
存在は知っていたが行く用事もないし、そもそも現代での術式発現者の立ち位置から考えてむしろ避けるべき場所だった。
だが、今の歩は違う。
「(明さん…)」
自身の命の恩人であり、たった数日間だが自分を導いてくれた明の身を案じる歩。
その心情を察した未紗が明はどうなるかわからないと口にする。
歩はなぜ、明が罰せられる状態にあるのかが理解できなかった。
明は歩に執行隊員になれるよう無人に対抗する術を教えていただけ。
別に特段悪いことをしたわけでもない―
―いや、残念ながらしてるんだ。―
歩に声をかける一人の声。
歩は声のする方へ身体を向けると自分より少し年上くらいの青年が立っていた。
流すようにかきあげた黒髪にネクタイを緩めつつも気品を漂わせるかのような落ち着いた若者だった。
「お疲れ様です。蒼先輩。」
未紗が青年に会釈する。
青年は軽く微笑みながら未紗に反応すると歩の方へ歩み寄る。
青年は自分の名を龍河岡 蒼と名乗り、明の指示で歩の直属の上司になったと伝える。
歩は蒼の苗字を聞くとどこか聞き覚えのあるような表情を浮かべる。
「蒼先輩はすっごい名家の出なんだよ。(あと明さんの弟子なの…)」
未紗が歩の耳元で小さく口にする。
名家の生まれであると聞いた歩は師が明でも礼儀や身なりがきちんとしていることに心の中で納得がいく。
そして蒼は歩に明の罪状が国衛局の命令を無視したことだと説明した。
術式発現者で構成された執行隊はあくまで国衛局の認可のもと行動することが義務付けられている。
その中でも、最も基本にして守るべき義務が無人執行後の報告および帰還。
明は無人を執行した後も帰還せず、数日間にわたって歩と鍛錬を行った。
「あ、だから…」
歩は明が自身との修行時に連絡がきていたのにも関わらず、連絡を無視し続けていたことを思い出す。
「ってことは俺が原因ってことじゃないですか!?」
「まぁ、あの人何度も違反してるから歩は気にしないでいいよ。」
蒼はそう言うが、歩は自分のために明が罰を受けることになったことに少なからず罪悪感と悔やみが残る。
だが、明がとった行動を無にするわけにはいかない。
執行隊に入隊することを決めた以上、歩は正式に執行隊本部から執行隊員として認めてもらう必要がある。
蒼は自分は用事を済ませると口にし、まずは正式な執行隊員が初めに行う講義や訓練を行ってもらうよう歩に伝える。
歩を未紗任せてその場を去る蒼。
支度を済ませた歩は指導担当のいる部屋へ向かう。
その頃、蒼は執行隊本部の地下へ向かっていた。
地下に着くと薄暗い廊下を進み、厳重な扉の前で立ち止まる。
蒼が立つと機械が蒼をスキャンし始める。
―危険等級A、龍河岡 蒼。確認シマシタ―
機械のアナウンスが終わると扉が開く。
「入りますよ。」
「お、蒼か~?んで、どう?歩の様子は?」
蒼が話す相手は明だった。
明は執行隊本部の地下にある術式発現者専用の独房に入れられていた。
独房に入れられているにも関わらず呑気に椅子を寄りかかりながら蒼に話かける明。
蒼はため息をつきながら、あらかじめ明に伝えられていたことを実行していた。
「先ほど、講義と訓練を受けるように伝えました。どうせ明さん、まともに説明してないだろうし。」
「いや、今回はちゃんと教えたぜ?」
それを聞いた蒼が笑顔で明の方を振り向く。
だが、その表情にはまるで感情の籠っていない作り笑顔そのものだ。
「”今回”は?」
蒼の表情を見て明が自身の金色に輝く滑らかな髪をかきながら、ぼやき出す。
「あの時は悪かったって~…もしかしてまだ怒ってんの?」
「別に。おかげで強くなれましたし。」
その言葉を聞いた明は少し笑みを浮かべながら部屋の天井を見つめる。
部屋の天井が狭いだの、汚いだの愚痴を吐きながら明はあくびをかく。
あくびによる涙が明の青い瞳を包み、輝きを増している。
「ま、今回も頼むぜ、蒼。」
「今回ばかりは俺だけじゃ無理ですって。」
「そこを何とか頼むぜ~」
明に無理やり肩を組まれる蒼。
蒼は明を遠ざけ、部屋を後にする。
その頃、歩と未紗が待つ部屋に一人の男性隊員が部屋に入ってくる。
男はダル気な雰囲気を醸し出しながらあくびをする。
「えーっと、戦闘指導担当の扇崎です…よろしく。」
扇崎と名乗る男は腰の低い態度で短く挨拶をした後、次々と執行隊としての戦い方を説明していく。
説明のほとんどは明から教わったものばかりだが、その内容を的確にかつわかりやすく説明していく扇崎。
ダル気な雰囲気でありながらも指導担当を任されている理由が理解できた歩。
「それじゃ、次は流派についてだね。」
そう言って扇崎は流派について説明をし始める。
そこで聞いた内容は歩にとっては全てが初めてのものだった。
流派には大きく分けて5種類が存在している。
剣速と防御に特化した高い柔軟性とスキの少ない戦闘を得意とする”龍河一刀流”
攻撃と防御に特化した攻防一体の戦い方を得意とする”獅壕一刀流”
剣速と攻撃に特化した最も戦闘に向いた剣技である”鳳焔一刀流”
唯一、流源を使用しなくても会得可能なバランス型の剣技、”真導我天流”
そして、未だ会得者が数名しかいない究極の流派、”源霊流”
この5種の流派から自身の適性に合う流派を身に着け、無人を執行するのが執行隊としての基本となる。
また、一部の会得者には自身のスタイルを大きく踏襲させることでより個性的な流派へと昇華を遂げている者もいる。
「(え、何も知らないんだけど…明さん…)」
歩は扇崎の説明を聞いて焦りを浮かべる。
隣の未紗はおろか周囲の隊員もこの内容に関しては首を縦に振り、歩以外の全員が知っている知識のようだったからだ。
「未紗、もしかして…今話してる内容ってかなり基礎的なこと…?」
「もちろん、明さんにも教えてもらったでしょ?」
「え、あーえっと…う、うん…俺が忘れてただけかな…(ここでNOなんて言ったら明さんの立場がさらに…)」
歩は扇崎の説明をしっかり頭に叩き込んで、気を取り直して講義を受け続ける。
座学を終えると扇崎は実戦訓練を始めるとして、皆をある場所へ案内する。
隊員たちが立ち上がり扇崎に続く。
歩も他の隊員たちに続くととある人物の存在に気が付く。
「…!!…良奨!」
「あ、歩…!?」
そう、歩が見つけた人物とは良奨だった。
執行隊志望だった良奨は実際に執行隊へと入隊していたのだ。
「なんで…歩が…」
良奨は歩に問う。
歩は少し複雑な表情を浮かべるが、これまでの経緯を伝えた。
そして学生時代の良奨に対する態度を謝罪した。
「別に歩は間違ったことは…実際に現代じゃ術式発現者は…」
「それでもだ。俺の偏見がお前を苦しめちまった。
幼馴染のお前のことを想ってのことだって、自分に言い聞かせながら俺は良奨を拒絶した。」
「ありがとう、歩。でもわかってるよ、お前が小さい頃からすごく優しいのは。
それより無人に襲われたこと……友達のことも…そっちの方が…」
歩は脳裏に自分を助けてくれた時の明を思い浮かべる。
無力に何もできなかった自分の目の前に現れ、友人を無残にも殺した無人を意図もたやすく執行した明。
自分を助け、導いてくれた恩人に報いるべく、そしてこれ以上自分と同じ境遇の者を生まぬように歩は執行隊へ入隊することを決心した。
「そっか。やっぱ強いね歩は。
正直、今後どうなるかわからないけど、歩がいてくれて心強いよ。」
「それはこっちもだ、良奨。頑張っていこうな。」
歩の発言を後ろで聞く未紗が少しほほ笑む。
そして良奨も歩の決意の固まった強い眼差しと発言を聞いて笑みを浮かべる。
扇崎のついていくと、厳重な壁に覆われた広場に到着する。
全員が集合したことを確認すると扇崎の表情が固くなりはじめる。
「それじゃ今からみんなには…無人を執行してもらうよ」
―!!!―
その場にいた隊員たちが驚愕する。
マジかよ…
いきなりすぎない?
聞いてねぇって…
周囲には不安の声が広がり始める。
「と言っても、ここにいるのは退化した無人だから。獰猛な野獣と大して変わらないよ。」
「(いや、それって十分危険なんじゃ…)」
「まぁ、今回は俺だけじゃなくもっと優秀な隊員が来てくれてるから安心してね。」
そう言う扇崎が未紗の方を見つめる。
それに気が付いた歩が未紗に話しかける。
「未紗ってもしかして執行隊の中でもかなり優秀…なの…?」
「優秀…かはわからないけど…一応小さい頃からいるから…かな。」
未紗は周囲の視線を感じ、少し恥ずかしそうに答える。
歩と良奨は他の隊員と同じように無人討伐のために刀を受け取り戦闘の準備をはじめる。
扇崎の合図で一斉に広場をかける隊員たち。
歩と良奨も後に続く。
「扇崎さんの話じゃこの広場に無人は二体いるらしいな…!」
「うん…!」
二人は広場を駆けながら周囲に意識を集中させる。
あたりには静寂と広場に生える草木が風になびく音が響く。
「静かすぎる…」
歩は僅かな音の変化に気が付き、走り始める。
「あ、歩!?」
「そこだ…!」
流源を開放し木を切りつける歩。
倒れた木の先には傷を受けた無人が立っていた。
歩が傷つけたものだ。
だがその傷もみるみるうちに再生していく。
「これが…無人…!!」
無人を見た良奨の声が震えだす。
「落ち着け!良奨!俺達でやるぞ…!(この無人、俺が初めて見たやつとずいぶん違う…)」
この広場に放たれた無人は退化した無人。
つまり長い間、人間を喰らうことのできなかった個体だ。
容姿も僅かに人の原型がみられるが、四足歩行に全身は腐敗した皮膚が剥がれ落ちては再生を繰り返すといったおぞましい姿をしていた。
無人が歩を睨みながらゆっくりと近寄り始める。
「刀を抜け!良奨!」
歩が良奨の方を向いたその時だった。
「歩!!」
「うっ!!」
無人が隙を見せた歩に襲い掛かる。
歩は刀で受け取めるが、無人の勢いに押され倒される。
倒れた歩を喰らおうとする無人だが、歩は刀でなんとか防ぐ。
だが、流源開放してもすでに圧し掛かった無人を振りほどくことができない歩。
歩は良奨に向かって叫ぶ。
「良ッ奨…!!今のうちに…!!コイツのッ…!…首をッ…!!」
「あ…わ、わかった…!!」
良奨は勇気を振り絞り、刀を握りしめる。
そして無人の首に刀をあて、斬りつける。
だが―
「なっ…!?」
「マズい…!!」
苦しみだす無人だが、良奨の力が弱く完全には首を切断するにはいたらなかった。
無人は歩を投げ飛ばした後に良奨に狙いを変えて走り出す。
「良奨!!!」
歩は急いで態勢を整え走る。
今の自分が引き出せる流源を全て足に込め、速度を上げる歩。
無人に攻撃を仕掛けようとする歩。
そんな歩の足が突如止まりだす。
「なんだこれ…」
歩が目に映ったのは、先ほどまでの獣ような大きさの無人ではなかった。
まるで小さな子供のような容姿をした無人が苦しんでいたのだ。
無人は涙を流し、歩を睨んでいた。
「…子供だよ、その無人は。」
「…!!」
声のする方を振り向く歩。
そこには扇崎が立っていた。
「子供でも無人になるんだ、やつらは自分の肉体を変形できるから…分かりにくいけどね。」
そう言って扇崎は無人の目の前に立つ。
そして静かに扇崎が無人に触れる。
すると先ほどまで見境なく襲い掛かる獰猛な無人が大人しくなり始める。
良奨を助け、落とした刀を渡す扇崎。
「子供って聞いて躊躇しちゃったかな…?」
扇崎は少し苦笑いをしながら口にした後、無人の方へと近づく。
―鳳焔一刀流・焔心―
扇崎の一閃が無人の首を静かに切り落とす。
切り落とされた無人の表情はまるで心地よい夢を見ているかのように穏やかな表情だった。
刀を鞘に納める扇崎。
「…でもね、それでも無人を執行するのが執行隊の役割なんだ。」
そう口にする扇崎の表情はどこか悲しげだった。
「扇崎さん、ありがとうございます…
でも……その…大丈夫…ですか…?」
歩が扇崎に声をかける。
扇崎の表情はどこか遠くを見つめているかのようで、何かを後悔しているような表情を浮かべていた。
「ん?あ、あぁ。悪いね、俺もちょっと昔のことを思い出しちゃってね。」
「…?」
歩と良奨を見る扇崎。
そして扇崎は先ほど歩が切り落とした木に腰を下ろす。
「はぁ…ホントは実戦訓練に指導担当はサポートしちゃダメなんだけどね…
…君たちが……アイツらに似てたもんで。」
扇崎は独り言のように口にする。
歩と良奨は扇崎の隣に座り話を聞く。
「たしか…15年くらい前かな?
君達くらいの歳にちょうど俺も仲のいい友人が二人いてね。」
扇崎には親しい友人が二人いた。
その友人にはどちらにも妹がおり、兄妹ともに執行隊の一員として無人を執行する日々を暮らしていた。
だが、ある任務の日。
友人の妹が亡くなった。
亡くなった妹は二人の友人のうち一人だけ。
そして、その妹の死に扇崎は関与していると歩に話した。
「俺の躊躇が…命を刈り取る責任を理解しなかったから、友人同士は今も険悪な関係になってしまってね…」
扇崎の過去を聞く歩と良奨。
歩たちは扇崎がたとえ目の前の相手が子供であろうと自分の役割、執行隊として無人を討伐することの責任を伝えていると感じた。
「…ま、そんなこと聞かされてもって感じだよね~」
「命の奪うには…責任が伴う…ってことですよね…」
歩が口にする。
それを聞いた扇崎は静かに頷き、歩に目を合わせる。
「あぁ、これから君たちに待ち受ける出会いにも命のやり取りがあるだろう。
その時に自分の役割を見失わないようにするんだよ。」
扇崎は伝えたいことを二人に伝えるとその場を後にする。
歩と良奨は二人で塵と化していく無人の遺体を目にする。
「怪物でも元は人間だ。」
「あぁ、俺たちが奪うのは人間の命と変わらない。そのことを肝に銘じとかないとな。」
歩が良奨を立たせ、集合場所へと戻る。
扇崎により、広場にいるもう一人の無人は別の隊員によって討伐されたことが伝えられる。
「訓練はこれで終了~みんなよく頑張ったね。」
「扇崎さん、少しいいですか。」
すると未紗が扇崎の耳元で話始める。
それを聞いた扇崎は少し驚いた表情を浮かべため息をついた後にこう言った。
「えーっと、今国衛局からの指示があったんだけど、今回の訓練で無人の執行に成功した隊員は明日からさっそく任務に出てもらうよ。」
それを聞いた歩が驚きの表情を浮かべる。
そして翌日。
早朝、ヘリの音で眠気を妨げられながらあくびをする歩。
歩の目の前には二人の隊員が座っていた。
すると一人の女性隊員が立ち上がり、歩の方に向かってくる。
「ねーね!そういえば、君はどんな術式を使うの??」
その隊員は歩と同じくらいの歳であるにもかかわらず、抜群のスタイルと茶髪のセミロングヘアをなびかせながら興味津々で歩に話しかける。
「え、えーっと…術式はまだ―」
「あ、ごめん!紹介忘れてた!うちは亜里子 霞。
あっちにいるのは松風 勇翔くんだよ!」
「よ…ろしく…」
歩は霞のテンポに翻弄されながらも挨拶を交わす。
奥で座る勇翔と呼ばれた黒髪の小柄な青年にも会釈する歩。
「瑞野 歩くんっていうんだ!じゃ歩くんって呼ぶね~!」
「歩は…どうやって昨日の無人を倒したの…?」
勇翔たちは先日の実戦訓練でもう一体の無人を討伐した隊員だった。
二人で無人を討伐をしたことから、今回の任務には二人で出動するかたちとなっていた。
そして、歩もまた無人を討伐した人物として今回の任務に参加することになっていた。
「実は…倒したのは扇崎さんで、俺らはただ戦闘してただけなんだ。
それもあのままじゃどうなってたか…」
「あーたしかに師匠は優しいというかテキトーみたいなそーゆとこ、あるからね~」
「え、霞の師匠って扇崎さんなの!?」
歩が驚きのあまり声を大にして尋ねる。
霞は少し首をかしげて不思議そうに歩を見つめる。
「ん?そーだよ!意外だった??」
「意外というか…(扇崎さん、この子のテンポについていけるんだ…)」
「さっき俺らって言ってたけど、もう一人歩と戦闘してた隊員がいたの…?」
勇翔が歩に質問をする。
実戦訓練では歩のそばに良奨もいたが、無人に襲われた際にケガをしたことから今回の任務には参加することができなかったのだ。
「そうなんだね…でも逆によかったかも…」
「え?」
―おい執行隊、到着したぞ。降りるんだ。―
ヘリの操縦士にアナウンスされ、三人はヘリを降りる。
あたりには大きな森が広がっていたが、奥に大きな旅館が佇んでいた。
「も~もっと親切にしてくれてもいいのに~!
国衛局の人ったら、うちらの扱いが無人と対して変わらない気がする~!」
「あはは…そうだね…(俺もついこの間まであっち側の人間だなんて今は言えないな…)」
歩は霞の不満に苦笑いを浮かべながら、旅館を見つめる。
「あそこが…」
「う、うん…今回、無人が出現したって言われている場所だよ…」
怯えながら口にする勇翔。
歩は勇翔を少し落ち着かせながら三人で旅館へと向かう。
その様子を森の奥から見つめる人物。
へぇ~…執行隊か…それも三人……何が見れるかな~…




