19話「土塊の金貨」
天運の檻・19話になります!
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刃岩野 彈の放った術式充填《天潰》。
その威力は煌環苑全域に及び、日本最大の大庭園が崩壊する。
崩壊した煌環苑内を走る彈と絙。
彈は邁を抱え、絙がいまだ残存する無人を執行しながら享亭の書斎へと向かう。
「…まさか応援に駆け付けた執行隊員に殺されかけるとはな。」
「すみません!絙さんなら絶対に逃げ切れるだろうと思って、本気の一撃を放ってしまいました!」
10年前、まだ絙が執行隊に所属していた頃から天与五人衆の者の実力は耳に届いていた。
久しぶりの再会がまさかあのような形になると思ってもいなかった絙は少し呆れた表情を浮かべる。
だが、帝玄の実力は本物だった。
自分の術式の弱点をすぐに見抜き、彈が駆けつけても終始余裕の態度を崩さなかった。
あの場で真剣に戦闘を続けていれば、勝てたかどうかも絙には確信が持てないほどだった。
「にしても…」
「すみません!!」
二人が後にする崩壊した中央広場。
すると瓦礫の山から姿を現す帝玄。
「ふぅ~いやード派手な術式だなー
全部壊しちゃうんだから~」
瓦礫に生き埋めにされたことで損傷した肉体を再生させながら口にする帝玄。
再生をする中、帝玄は絙が自分に尋ねたことを思い出す。
―お前の仲間に…”屍のような無人”はいるか。―
「ッハ…アハッ…アハハハハハ!!!」
その言葉を思い出すと徐々に笑い声をあげる帝玄。
そして周囲の瓦礫が凍り付いていく。
「”あの戦争”ほど楽しいものはないと思っていたけど……まだまだこの世も捨てたもんじゃないなぁ。」
崩壊した中央広間の瓦礫全てが帝玄の凍てつく冷気によって氷結され粉々に砕け散る。
その光景はまるで闇夜に煌く星々のように輝いていた。
―ホント、この国は嘘ばっかりだなぁ……―
享亭の書斎に到着する良奨と美衣の二人。
中へ突入するが、そこには享亭の姿はなかった。
「美衣!まだ術式は使えるか?」
「少しだけなら…!」
美衣は持続時間が迫ってる中で使役下にいる動物を操作し享亭を探す。
術式が発動しているうちに二人は部屋の中もくまなく探し始める。
すると書斎に置かれたモニターから煌環苑の至る箇所に設置された監視カメラの映像を見れることに気が付く良奨。
「遅かったか…!」
享亭はすでに自分たちが向かっていることを見越して姿を晦ましたのだと察する。
そのことを美衣に伝えようと振り向く良奨。
だが、良奨の視界に入ったのは美衣でも享亭でもなく梨江だった。
梨江は殺意に満ちた眼差しで良奨の目を見ている。
「また会ったな、少年。」
良奨の首を掴む梨江。
透明化の異術でここに来るまで気配を消していたのだ。
良奨が襲われているのを見た美衣が短刀を抜く。
だが、美衣の周囲に書斎のいたるところに置かれていた金貨が動き始め美衣を身体に纏わりつく。
「殺すな梨江、大事な食材だ。」
すると書斎の隠し扉から姿を現す享亭。
享亭が指を弾くような仕草をすると美衣の身体に纏わりついていた金貨が美衣を壁に押し付ける。
そして良奨までも操作した金貨によって拘束する享亭。
「よくもまぁ、私の宴を台無しにしてくれたな…」
享亭が静かに嘆く。
だが、その表情は怒りに満ち満ちた表情を浮かべていた。
「この損害は高くつくぞ、人間。
貴様らエサの分際でこの庭園を崩壊させたこと、後悔させてくれるッ!」
享亭の怒りのこもった言葉が良奨と美衣にぶつけられる。
それでも良奨は恐怖に屈服することなく、享亭に立ち向かう。
「エサだと……?
俺たち人間の命を何とも思わないのか…!!」
「貴様ら人間が一人死のうが、何人死のうが知ったことか。
エサの話を聞く義理は無いぞ少年。」
享亭は良奨をあざ笑う。
良奨の感情が高ぶる。
すると良奨を拘束していた金貨が突如、泥のように崩れ良奨の拘束を解く。
その光景を見た享亭は驚愕する。
「なに…」
「享亭様…!」
梨江が享亭の背後に立ち、迫りくる攻撃から身を挺して防ぐ。
―獅壕一刀流・猛牙荒吼!!―
享亭に攻撃を仕掛けたのは阿波村だ。
荒々しい一撃、そして不意討ちということも合わさり、腕を切断され壁に打ち付けられる梨江。
そしてすぐに梨江に追撃として肩に刀を突きさし壁と梨江を固定し動きを封じる。
「クソッ…!!」
享亭は阿波村の存在を見て、先ほどまでの余裕な表情が一気に崩れ、隠し扉を開けその場から逃げる。
拘束を解かれた良奨は美衣の拘束を解き、短刀を持ち享亭を追いかけようと試みる。
「二人とも追うな!」
阿波村の制止で足を止める二人。
それは万全な武器を所持していない状態で良奨と美衣が享亭を追うことにリスクが大きいと思った阿波村の判断だった。
「コイツを生け捕りにして、情報を聞き出す。」
阿波村は梨江を見ながら口にする。
それを聞いた良奨と美衣の二人はこれまで張りつめていた緊張が一気にほどけたようにその場に崩れるように座る。
その頃、なんとか阿波村たちから逃げ出し煌環苑を脱出を試みる享亭。
すでに宴に参加していた無人たちが執行されたと思われる痕跡が散在した中で享亭は煌環苑の裏口へ目指す。
すると享亭の目の前に現れる帝玄。
「帝玄殿…!」
享亭の顔が安堵した表情へと変わる。
だが、享亭が抱く気持ちとは裏腹に帝玄は邪悪な笑みを浮かべていた。
「あれ?享亭さん。宴はもう終わりなの?」
「当たり前だ!まさかここまでめちゃくちゃにされるとは…想定外だ!」
享亭は帝玄を横切り、そのまま裏口へと向かう。
だが、自身の背後から静かに放たれた殺意が享亭を襲う。
「おいおい、待てよ。
まだ、話は終わってないだろ?」
「ッ!!」
帝玄の放った殺意に享亭は動きを止める。
「アンタの趣味に付き合ったんだ。
今度は僕の趣味に付き合ってもらおうか。」
帝玄の発言に呼吸が荒くなり始める享亭。
だが享亭は自身の身体に少しずつ力を込める。
そして振り返りざまに金貨を帝玄に向かって投げ、自身の異術を発動する。
金貨は帝玄に襲い掛かるが、帝玄の周囲に近づいた瞬間に凍結され金貨は為す術もなく床に落ちる。
その様子に享亭は緊張が走る。
「ま、待ってくれ…!!
金ならいくらでも渡す!だから―」
「見た目を変え、操作する異術。
土を金貨に変えて、今の地位を確立したアンタがどう世界を動かしているか興味があったんだけどね~
やっぱ所詮は上辺だけの偽物。
嘘で固めた地位ほど脆いものはないね、享亭さん。」
そう口にすると帝玄は享亭の身体に触れる。
すると享亭の身体が一瞬にして凍結し、動きを封じる。
「わ、私を殺す気か!?」
「殺す?………アハッ…アハハハハッ!!」
享亭の発言を聞いて声を上げて笑い出す帝玄。
その笑いは享亭にさらなる恐怖心を煽り立てる。
「アンタはきっかけさ。
…これから始まる"壮大な戦争"のね。」
帝玄が享亭に顔を近づけながら口にする。
享亭の顔に帝玄の口から零れる冷気が当たる。
「何が目的だ…!」
「僕が望むのはいつだって混沌さ。」
帝玄は享亭をその場に残して煌環苑の裏口へと向かう。
享亭は帝玄を呼び止めようと何度も声を上げるが、その声は崩壊した煌環苑に虚しく響くだけだった。
梨江を捕らえた阿波村のもとに深野率いる国衛局員がやってくる。
彈と絙のおかげで煌環苑内の無人がほぼ全て執行されたことで、ようやく享亭の書斎にたどり着くことができたのだ。
阿波村は深野に良奨たちを任せ、大人しくしている梨江を連行すべく触れようとしたその時だった。
一瞬の隙を突き、刀に刺された肩ごと無理矢理、引き裂き素早い身のこなしで拘束を解く梨江。
梨江は書斎の出口に向かおうと背を向けている深野に向かって攻撃を仕掛ける。
阿波村が自身の硬化の術式を発動し深野を守るが、梨江は異術を発動し姿を消す。
「しまった…!!」
阿波村が梨江の方を見た頃にはすでに梨江の姿も気配も消えていた。
「かなりの傷だ、無人といえど再生に時間がかかるはずだ。
見つけるなら今しかない…!」
深野はすぐに他の国衛局員に梨江の捜索を指示する。
享亭の書斎を目指し煌環苑内を走りながら残る無人を執行していく彈と絙。
しばらくすると二人は凍らされ身動きの取れなくなった享亭を発見する。
「(これは…あの無人の異術…)」
絙は享亭の覆う氷を見て帝玄によるものだと理解する。
まさか、享亭がこんな形で見つけるとは想定外な状況に彈と絙は顔を見合わせる。
彈は術式によって衝撃を放ち享亭の全身を覆う氷を粉砕し、享亭を開放する。
すぐに絙が享亭の四肢を切断し拘束する。
「わ、私をどうするつもりだ…!」
「お前を執行隊本部へ連行する!
話はそこで聞く、それでいいですか?絙さん。」
彈の問いに絙は刀を鞘に戻しながら静かに頷く。
彈は深野に邁の無事と享亭を捕らえたことを連絡する。
数時間後。
煌環苑に残る無人は全て彈と絙によって執行され、日本最大の庭園である煌環苑で開催された魔の宴は終わりを迎えた。
そして主催者であり無影衆の一員である享亭は執行隊本部へと連行される。
また煌環苑の主にして社会的に高い地位を持つ享亭が無人であったことを明るみにするリスクを恐れた国衛局は煌環苑の倒壊による不慮の事故として処理した。
そして後日、煌環苑の崩壊は経年劣化によるものだと報道された。
執行隊本部の尋問室で拘束された状態で目を覚ます享亭。
あたりには無機質な空間と無地のテーブルが置かれていた。
すると扉が開き、一人の人物が部屋に入る。
その人物は金髪のボブヘアに華麗な容姿をした女性隊員だった。
危険等級B
聖花 奈々江(24歳)
享亭は奈々江を見ると自身の状況を理解する。
今自分は執行隊に捕まり、これから尋問が行われるのだと。
「お前たちに話すことは何もない。
かといって私を殺せば、状況はさらに――」
「じっとしていてください。」
奈々江が静かに口にすると享亭の頭に触れ、目を閉じる奈々江。
すると自身の中に享亭がこれまで見てきた情報が流れ込んでいく。
奈々江の術式は”記憶”。
自身の記憶を完全に記憶でき、触れた対象の記憶を読み取ることができる。
記憶の読み取りは時期が新しいものから優先的に過去を遡るように奈々江の脳内に流れ込む。
古い記憶であるほど長時間触れていないと読み取ることができず、大量の記憶を一気に読み取ると情報過多により自身に危険が及ぶ可能性があるが、対象者の意図に関係なく情報を取得できる極めて尋問に適した能力だ。
そのため奈々江が今回、享亭の尋問役に選ばれたのだ。
「煌環苑……無影衆……富影……」
奈々江が享亭の記憶から読み取った情報を口にしていく。
「造さん、間違いありません。
煌環苑の主、享亭は無影衆の一員、富影です。」
そして享亭から手を離し部屋のカメラに向かって話す。
―そうか、引き続き彼から情報を読み取ってくれ。―
すると部屋から造の声が聞こえてくる。
奈々江は造の指示を聞き、再び享亭に触れ記憶を読み取り始める。
その様子を映像越しで見つめる彈と絙そして奈々江に指示を出していた造。
三人は映像に映る奈々江と享亭の様子を見ながら口にする。
「鳳焔寺局長を救出できたのは良かったよ。
無事、明日から職務に復帰できるようだ。」
「はい、ですが報告したようにあの場にもう一人捕らえた無人がいたのですが…そちらは…」
彈が造に申し訳なさそうに口にするが造は享亭を生け捕りにできたこと、そして邁や阿波村の身の安全の方が優先と考えていた。
それよりも造が深刻に考えていたことは他にあった。
「にしても、まさか享亭が無人だったとは…」
「以前聞いた話から察するに、おそらく無影衆の構成員は社会的に地位の高い人物で構成されている可能性があります。」
造の横で口にする絙。
無影衆で命影を名乗り、医者として活動していた堺、そして富影を名乗り、日本でも有数の富豪として知られていた享亭。
どちらも社会的に地位の高い存在から絙は残りの構成員五人もそれ相応の地位を持つ人物であると考えていた。
造は真剣な表情で考え込む。
「…一体、無影衆の目的は何なんだ…」
「享亭が今回の宴を以前からしていたことを考えると、無人同士の情報共有…あたりが彼の目的ですかね?」
彈が自分の考えを述べる。
本来は無人たちの情報共有の場として開催した煌環苑での宴が時が経つにつれて、その目的は徐々に薄れ、人間を喰らう無人の宴と化したのではないかと。
「…君はどう思う?……明くん。」
造が部屋の隅でくつろぐ明に尋ねる。
明は映像に映る享亭を見ながら話す。
「俺も彈が言ったあたりな感じがするっスね。
あの資金力なら問題が起きても揉み消せるっスから。」
実際に国衛局支部で何度も失踪事件の有力候補に煌環苑を選んでいたが、捜査が困難を極めていたことを考えれば妥当だろう。
そんな中、無影衆の一員である堺が発見した優れた遺伝子を持つ血を取り込めば無人の退化を送らせる方法が確立された。
だが堺の死により、優れた遺伝子の提供先が潰えたことで、享亭は御三家の人間である邁を誘拐し宴の頻度を上げたのだ。
「だが、邁さんを奪ったことで執行隊の耳にも届くことになり、今に至ると。」
絙が冷静に口にする。
享亭は今回のような大胆な手法に及んでも自身の財力で何とかできると思っていたのだ。
「はぁ~バカだなー金は無人の目も眩ませるってか。」
呆れた表情で口にする明。
引き続き造と彈は享亭と奈々江の映像を監視する。
絙は自身の立場上、この場に長く居続けるべきではないと感じ部屋を出る。
それを後ろ目で見つめる明も部屋を出る。
執行隊本部を出る絙。
「久しぶりの再会で俺には目もくれねぇのか?」
絙の背後に聞こえてくる明の声。
その声に足を止める絙。
「前に来た時、暗菜と会ったからな。
そこでお前の話は聞いている。」
「へぇ~暗菜が?
何て言ってた?…惚れたとか?」
明が冗談交じりに口にする。
絙は振り向かずに答える。
「お前は軟禁中だと。
相変わらずバカしてるようで安心したぞ。」
「チッ、部外者に必要ねぇこと言うなよな…」
明の愚痴に絙は正面を向いたまま、僅かにほほ笑む。
「なぁ、絙。…戻ってこないか?」
明の発言に絙は10年前のことを思い出す。
辛い日々もあったが、そこにはいつもかけがいのない仲間たちがいたあの時代を。
「…悪いな、それはできない。」
絙が振り向き明の顔を見る。
明の真剣な眼差し、それを見た絙はかつての親友の誘いに迷う表情を見せる。
だが絙は意を決して口にする。
「俺は決めたんだ。
執行隊とは違ったやり方でやり遂げると。」
別に明や執行隊に信用がないわけじゃない。
国衛局という大きな組織に信用がならないのだ。
仲間を無碍に扱い、自分たち仲間の絆に亀裂を入れた存在に。
絙は明のネックレスについた指輪を見つめる。
そして同時に明もまた絙の右耳についたピアスを見つめていた。
それは”あの日”同期と仲間たちと絆を象徴するために送られたもの。
明の表情が緩やかにほほ笑む。
「ハッ、だろーな。
冗談だよ、聞いてみただけだ。」
たとえこの先も執行隊に追われる身となっても自分の決めたことを曲げない信念を持っていることを明は知っている。
明は絙を安心させるように笑みを見せる。
「お前と暗菜がいるんだ。
俺がいなくても執行隊は問題ないだろ?」
正面を向き、再び歩き始める絙。
執行隊本部から離れる様子を黙って見つめる明。
歩きながら絙は静かに口にする。
「それに…唯一気にかけていたことも解決したことだしな。」
そう口にしながら絙の脳裏には妹の美衣が思い浮かぶ。
ただ守られるだけの存在ではなく、執行隊として無人を執行できるまで成長した美衣を見て絙が今の執行隊に残す不安はなかった。
尋問室で享亭の記憶を読みとっていく奈々江。
だが突如、奈々江の様子に異変が生じる。
「うっ…」
汗を滲ませながら苦しみだす奈々江。
無人の中でも長い時を生きる享亭の膨大な記憶に自身の脳が悲鳴を上げ始めていたのだ。
すると奈々江の耳に造の声が届く。
―奈々江くん。少し休もう、君への負荷が強まっているようだ―
だが奈々江は手を離さずに記憶を読み取り続けていた。
奈々江の脳内に映る享亭の記憶、そこにはとある人物が見えていた。
―富影、好きに遊ぶのは構わないが我々の目的を忘れるな。―
―それは承知していますよ、禊影。無神の復活、そのためには――
奈々江の呼吸が荒くなる。
享亭と話す無影衆の禊影。
その全貌を確認したい奈々江だったが、かなりの量の記憶を読み取った影響で奈々江の脳にもかなりダメージが蓄積され、その先の記憶を読み取ることができなくなっていた。
奈々江は自身の術式の出力を上げ始める。
「うっ…!!…あぁあ…!!!」
すると奈々江が鼻血を出し苦しみだす。
その様子に造と彈はすぐに奈々江のもとに向かう。
尋問室に入ると息も絶え絶えの奈々江が倒れていた。
一度に大量の記憶を見たことで脳が耐えきれなくなったのだ。
奈々江の限界がきたことから尋問は一時中断し、彈と造は奈々江を運ぶ。
道中、彈と造が奈々江の容態を確認する。
「容態はどうだい?」
「意識はなんとか。
ですがこれ以上は奈々江先輩じゃ…」
「わかっているよ、享亭の尋問は私が引き受けよう。」
その頃、今回の任務で受けた傷を理沙に処置される良奨と美衣。
「すごいね~二人とも!
異術を使う無人の執行したんだって?それも刀なしで!」
理沙は手際よく二人の傷に包帯を巻きながら話す。
良奨は絙から渡された短刀があったと補足するが、理沙の勢いに翻弄され途中から話すのを止めだしていた。
理沙は優しい目つきで美衣の顔を覗き込むように話しかける。
「それでお兄ちゃんには会えたの?美衣ちゃん。」
「え…!えっと…あ、はい…!」
「よかったねー!
絙さんに会えて!私も久しぶりに会いたかったな~」
恥ずかしがる美衣の前で大きな声で楽しそうに話す理沙。
その様子を苦笑いで聞く良奨。
すると彈が奈々江を抱えて部屋に入ってくる。
「邪魔する!
理沙!奈々江先輩の容態を確認してくれ!」
「もーう、他のケガ人もいるんだから大きな声で呼ばないでよね!彈!」
「(理沙先輩も十分声大きいです…)」
そう心の内で突っ込みながらも良奨は自分が本当に無人を執行したのだとしみじみと実感していた。
闘いが終わった今でも僅かに手が震える。
それが疲労によるものではなく、初めて恐怖と向き合った結果によるものだと理解するには時間が必要だった。
「本当に…俺が……」
歩に及ばなくとも自分も少しずつだが、成長をしていると実感する良奨。
その震えた手を優しく触れる美衣。
良奨の手の震えが止まる。
彼女の優しさ、そして横で共に歩んでくれる存在がいるということが良奨の心に安らぎをもたらす。
だが美衣を見て、良奨の胸が熱くなり始め、再び手が震え始める。
「…?」
「あ、…えっと…ごめん…!」
良奨が思わず美衣の手を振りほどく。
一瞬驚く美衣だが、すぐに穏やかな表情へと戻る。
そんな美衣の表情を見て良奨もまた穏やかな表情で美衣を見つめるのだった。
無機質な空間で尋問の時を静かに待つ享亭。
しばらくすると尋問室の扉が開く。
「あの女じゃないということは…今度は力付くでも…というわけかね?」
享亭は皮肉を込めて扉を開けた相手に向かって口にする。
―キヒッ、悪いが尋問の時間は終わりだ。―
「!!!」
その声を聞いた瞬間、享亭に緊張が走る。
目の前の男が執行隊でも国衛局の者でもないことを本能で察したのだ。
「貴様は一体――ッ!?」
「おーっとと、大きな声を出さないでくれないかぁ?」
素早い身のこなしで享亭の口を力強く塞ぐ男。
焦る享亭に男は笑みを浮かべながらその様子を見ている。
「私の計算が正しければ、執行隊が来るまであと4分。
…それまで私の話を聞いてくれないかぁ?」
享亭は口を塞がれ声を出すことができない。
それでも男は享亭を表情を伺う。
「…ありがとう!
やはり富豪は心も豊かときた、素晴らしい…!」
享亭が言葉を発せられないことをいいことにそのまま話を続ける男。
「未知とは非常に興味深い。
私は科学で証明できない未知の先にあるものを探しているんだ。」
男は享亭の身体を舐めるように触りながら話し始める。
そして享亭のある部分で男の手が止まる。
「理解ができないかな?
では聞こう、”我々”に宿る魂とは一体どこにある?
その肉体を人ならざる者へと変えた根源はどこだ?」
何かに気が付いた享亭は必死に抗おうと身体を動かす。
だが拘束され、口も塞がれている状態ではそれも無意味。
すると男が享亭の腹部あたりに手を突き立てる。
男の手は享亭の腹部を突き破り、何かを探るように手を動かす。
享亭は痛みと焦りで必死にもがくもその様子を笑顔で見つめる男。
そして男は享亭の腹部から何かを取り出す。
その手には無人の体内に宿る核が握られていた。
享亭は力なく自身の核を見つめているが、男はその核を握りつぶす。
享亭の目に生気が失われ、やがて肉体が塵となる。
「キヒッ、まぁそのザマじゃ答えられんか。」
男は懐から取り出したハンカチで握りつぶしたことで飛び散った享亭の血を拭きとりながら口にする。
そして部屋の出口に向かい、享亭がいたと思われる椅子を見つめる。
「私は無影衆と違って神など信じてはいない。
だが、無影衆の目的は達成してもらいわないと困るんだよ。キヒッ…」
そう言い残しその場を去る男。
尋問室を出て、平然と廊下を歩く男。
すると男と明がすれ違う。
「おい、待て。」
明が男を呼び止める。
男は明を見ると不気味な笑みを見せる。
「…どっかで会ったか…?」
「キヒッ…いいや。」
「…あっそ。」
明はその男の笑い方に既視感を抱くも、再び歩き始める。
そうして男はどこかへと消えていった。
それから数分後。
造が享亭の亡骸を発見し、執行隊本部で緊急招集命令が下された。




