17話「宴に舞う」
天運の檻・17話になります!
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―ん?何か問題か?―
疑問を口にする彈。
良奨の見つめる先には自分たちと立場も位も明らかに違う者たちがグラスを手に取る姿だ。
ただでさえ、場違いな存在でなんとか御三家である美衣の立場を利用しての潜入が成功したが、ここに無人もいることを考えると汗が滲みだしてくる良奨。
―とりあえず!まずは調査をよろしく頼んだ!何か異常があればその時はすぐに向かう!―
彈はそれだけ言い残して連絡を一方的に切られてしまう。
「噓でしょ…(てっきり彈先輩が潜入するのかと…)」
心の内でそう呟く良奨。
ウエイターから飲み物をもらう良奨だが、なかなか喉を通っていかない。
「良奨くん、平気?」
美衣が良奨の顔を覗きながら気に掛ける。
彼女の優しい瞳に良奨は思わず距離をとってしまう。
するとドレスアップした美衣の全身が良奨の目に映る。
変装目的もあり普段より濃いめの化粧や綺麗に整えた髪型、そして袖の無いドレスから見える僅かに肉付きのいい腕や小柄な体型にしては目立つ豊満な胸などが目のやり場に困る。
「だ、大丈夫…任務を続けよう…」
良奨は飲み物を飲み干し、気を引き締めて任務を続行する。
煌環苑に潜入が成功した今、二人はこの宴が良奨の予想通り無人が人を喰らうために開催されているものなのか調査すること、そして失踪した邁の捜索といった二つの任務が与えられている。
「いくら調査に特化した2課でも俺ら二人でそんなこと…」
「でも、やるしかないよ。」
美衣は周囲の様子を良奨に伺ってもらいながら術式を発動する。
あらかじめ触れていた煌環苑内に住まう小動物や鳥などを一斉に使役し始める美衣。
―術式充填《共伝心身》!!―
さらに術式充填を発動し、使役下においた動物の視覚や感覚を共有することで広大な敷地を誇る煌環苑の怪しい個所を探していく美衣。
美衣が庭園内にいた小動物の視覚と共有する。
「これは…!!」
そこには煌環苑の地下に人を収容するような檻が複数並んでいた。
さらにその檻の中に囚われている人物を発見する美衣。
「見つけたよ、良奨くん…!」
美衣はすぐに良奨に地下の場所を伝える。
二人で同時に会場を離れることは周囲に怪しまれることを危惧して、良奨と美衣はそれぞれ別行動をとる。
美衣はその場に残りながら術式で他に怪しい地点を捜索し、良奨は美衣に指示された地点へと向かう。
しばらく歩くとそこには地下に続くと思われる扉が固く閉ざされていた。
「(美衣が言ってたのはここか…)」
良奨は周囲の様子に注意しながら扉を開け中へと入る。
―だが、その様子を陰ながら見つめる人物がいた。
その頃、美衣は宴に参列した富豪たちと怪しまれないよう会話をしながら術式を発動して捜索を続けていた。
美衣の術式は長時間、動物たちを使役下におくことはできない。
そのため術式が機能する間に煌環苑から怪しい位置を特定する他なかった。
だが、徐々に術式と周囲の気配りの影響で顔色が悪くなり出す美衣。
―そんな時だった。
「おっと、これは失礼。」
美衣とぶつかる人物。
その人物は享亭だった。
享亭は美衣の腕を掴み、バランスを崩す美衣を支える。
潜入する前に煌環苑の主が享亭であることを事前に知っていた美衣は表情に動揺が走る。
「顔色が悪いようだが、大丈夫かな?
獅壕院のお嬢さん。」
「す、すみません…場酔いしてしまい…」
美衣は腕を引こうとするが、力強く美衣の腕を掴む享亭の腕を振りほどけない。
享亭は怪しい笑みをこぼしながらグラスに入った酒を飲む。
美衣の額に流れる汗が床に落ちる。
腕を引けなかった瞬間理解した。
―享亭が無人であることに―
「まさか御三家が先月に続いて来られるとは。
…今宵はいい宴になりそうですなぁ。」
「あの…」
「そうだ!せっかくの機会だ、どうかしばらくこの私のお相手をしていただけないかな?」
享亭はそう口にするとウエイターにグラスを預け、美衣に手を差し出す。
本来であれば宴でこのような誘いは、ダンスや別室の個人的な話の際に使われるものだが、美衣は享亭の表情から真意を見抜いていた。
御三家である自分の血、それを易々と手放すはずもない。
美衣の恐怖にかられた表情をまるで弄ぶかのように享亭が笑みを浮かべながら口にする。
「ご安心を。
連れの少年はすでに私の付き人がお相手している頃だ。」
「!!!」
美衣に享亭の手が迫る―
―ダンスの誘いなら俺が相手になってやる。―
突如、享亭の背後から聞こえてくる声。
その声に反応し振り向く享亭だが―
「お前はッ!!」
声に発した瞬間、腕を切りつけられる享亭。
享亭の目の前には、なんと美衣の兄である絙が立っていた。
地下の扉を開け、良奨は息を潜めながら捜索する。
あたりには拘束具やおそらくこれまでに犠牲になった者たちの所持品と思われるものがテーブルに散らばっていた。
薄暗い部屋の中で良奨は檻を見つける。
すると檻の中から人を発見する良奨。
「大丈夫ですか!」
良奨は檻を開け倒れる人物を揺さぶる。
「うっ…うう…」
檻に閉じ込められていたのは阿波村だった。
良奨は彈に失踪した邁の護衛役を任されていた阿波村のことを聞いていた。
すぐに阿波村を起こし檻から出ようと試みる良奨。
だが、その瞬間、地下に広がる静けさに一筋の風が吹く。
―そこで何をしている。―
良奨の背後で聞こえる声。
その静かな殺意に良奨は動くことができなかった。
煌環苑に入る際に武器は全て預けられている。
仮にこの場に刀があったとしても反撃することすら不可能だろう。
そんな良奨の背後に立つのは梨江だった。
梨江は無人としての姿を現し、自身の指先を鋭利な形状にして良奨を襲う。
だが、その攻撃を身を挺して庇ったのは阿波村だった。
梨江の攻撃は阿波村の身体を貫けずそのまま弾かれる。
「…やはり、その術式で命拾いしたようだな。」
攻撃を受けた阿波村の服が破れ、素肌が露わとなる。
肌は黒く硬い鎧のように硬質化していた。
阿波村の術式は”硬化”。
自身の肌を硬化させることができる。
その硬度は金属に匹敵し、過去に国衛局の上役を暗殺すべく放たれた銃弾を守った際には軽い擦り傷程度しか付かなかった。
阿波村は梨江の攻撃を防いだ後、すぐに体勢を整えテーブルに置かれた自身の刀を手にする。
「君、名前は?」
「か、門無です!」
無人がいる状況でもさほどパニックになっていないことを察し阿波村は良奨がすぐに執行隊の者であると見抜く。
そして良奨に笑顔で親指を立て、先に地下を出るよう指示する。
「で、ですが…!」
「門無くん、助けてもらって申し訳ないが俺からの頼みだ。
鳳焔寺局長を救出してくれ、場所は―」
阿波村が発言しようとしたその時。
梨江が阿波村に襲い掛かる。
阿波村は刀を抜き、梨江の攻撃を防ぐ。
不意を突かれた状況でも阿波村は良奨に背中を向けたまま口にする。
「場所は煌環苑の中央広間だ!」
それを聞いた良奨は阿波村を信じ地下を出る。
すぐ彈に連絡をし、良奨はそのまま意を決して煌環苑の中央広間へと向かう。
享亭の腕を斬りつけ現れる絙。
「兄さま!」
絙は黙って美衣を自分の側に抱き寄せる。
周囲の客人たちが自分らに注目が集まりだす。
「まさか、戦衛団がここに潜入してくるとは…」
享亭は腕を再生させながら絙を見る。
執行隊が潜入してくることは想定していたが、まさか戦衛団まで潜入されていたとは夢にも思わなかった享亭。
「とはいえ、きみも獅壕院家の者だ。歓迎しますよ。」
「俺の目的はお前じゃない。」
絙は以前、霧峰町の旅館で遭遇した美青年無人を追っていた。
執行隊本部でその無人について造 谷代に説明してから、密かに造と絙で無人に関する情報を共有していたのだ。
そしてたどり着いたのが、ここ煌環苑だった。
「だがお前は俺の妹に手を出そうとした。
…無事で済むと思うなよ。」
絙が静かに殺気を放ち、鞘から刀を抜く。
それを見た享亭は余裕の笑みを見せる。
「兄弟愛か、結構なことだ。
だが、君はここにいる総勢70名を超える無人に勝てるのかね?」
すると周囲の客人たちが"本来の姿"へと戻っていく。
そう、この宴に参加した者は例外なく社会に紛れる無人だったのだ。
「お集まりの皆々様!
今宵の宴は最高級の血をご提供いたしましょう。」
享亭の発言を聞き、一斉に絙たちに襲いかかる周囲の無人たち。
絙は体勢を低くし刀を構える。
―獅壕一刀流・獅断辻斬り!!―
瞬く間に襲いかかる無人の首が切り刻まれる。
無人たちの勢いが衰えたその隙に絙は近くの無人に触れ、術式を発動する。
すると触れた無人の体内に入り一体化を始める絙。
絙の術式”融合”は触れた生物と融合が可能になる。
絙と融合された生物は自らの意思で動くことができず、身体の支配権は絙に移る。
そしてその術式効果は人間や無人にも適応できる。
絙に融合された無人は自分の意識に関係なく周囲の無人を攻撃し始める。
だが、周囲の無人も黙って見ているわけではない。
絙と融合された無人がすぐに複数の無人によって身体をバラバラに引き千切られる。
すると引き裂かれた腹部から絙が姿を現し無人の首を切断する。
さらに絙は他の無人に触れ、その無人の肉体の一部と融合し、自分自身の腕の骨格を無人のように変形させ始めた。
そして周囲の無人を腕で巻き付けてまとめて首を切断する芸当を行う。
その後も次々と襲い掛かる無人を相手に絙は自分の術式をうまく利用して翻弄していく。
非常に高い汎用性を持つ絙の術式を前に享亭は額に汗を滲ませる。
「(これが危険等級Aの術式か!!)」
だが、武器を持たない美衣を庇いながらこの数を相手にするのは限界があると絙は悟る。
絙は美衣が使役する鳥と融合することで鳥の特性である翼を自身の腕に生やし、美衣を連れてその場を離れる。
二人の後の追う無人たち。
会場に残された享亭は一人でに呟く。
「いかがですか?
私の趣味もなかなかのものでしょう。」
すると享亭の背後に現れたのは美青年無人だった。
美青年無人は散乱した会場の皿に残る食べ物を摘まみながら呑気にくつろいでいた。
「まさかこの時代に人間狩りをしてるなんて。
享亭さん、随分と大胆だね~」
「フッ、人生に余興は付きものですからね。」
享亭はそう口にすると会場を後にすべく扉に手をかける。
「好きに過ごしてもらって構わないですが…
ネズミの後始末くらいお願いしますよ、”帝玄”殿。」
享亭は予想外にも今回の宴に潜入してきた絙の存在を口にする。
その要因が帝玄と呼んだ美青年無人であることは享亭も理解していた。
書斎へと向かいその場に帝玄を残し立ち去る享亭。
帝玄は呑気に会場を出て絙たちが逃げた方向へゆっくりと向かうのだった。
美衣を連れ、煌環苑内を走る絙。
無人たちを上手く退けたのを確認すると絙は美衣を離し、少し休息をとる。
美衣も先ほどまで維持し続けていた動物たちの使役もついに限界を迎え術式効果が切れる。
「大丈夫か?美衣。」
「は、はい!少し休憩すれば…」
絙は執行隊を抜けたと同時に獅壕院家からも勘当された身。
以降、今日に至るまで美衣とは久しく会っていなかった絙は自身の記憶にある幼い頃の美衣と今の姿を照らし合わせる。
「…成長したな。」
絙が放ったその一言で美衣が表情を変える。
術式至上主義である獅子院家にとって絙は当主の器に相応しい人物とされていたが、妹の美衣は絙ほど優れた術式には恵まれなかった。
周囲は皆、兄のことばかり気にかけ親さえも自分を見てはくれなかった。
唯一親身に寄り添ってくれたのは兄の絙だけ。
だが、そんな絙も自分のもとからいなくなってしまった。
頼れる兄を失い、美衣は再び一族のなかで孤独となった。
絙もそれを理解していた。
自分の選択で妹に辛い思いをさせ、恨まれてもおかしくない状況を作ってしまったことを。
「…ありがとうございます。」
美衣の言葉を聞いて、絙はもう以前の自分の知っている美衣ではないことを確信した。
もう孤独ではないのだと。
今の美衣には自分と同じ目線で歩いてくれる仲間たちがいるのだと。
「よし、もう少し休んだらこの場を離れるぞ。」
煌環苑内を走る無人たち。
その様子を身を隠しながら伺う良奨。
刀を持たない状況では無人に見つかれば為す術はない。
良奨は慎重に中央広間へと向かう。
「(にしてもこの敷地広すぎるな…)」
すでに10分以上庭園内を進んでいる良奨。
すると正面に見える二人の影。
影の正体は絙と美衣だった。
「美衣!良かった!無事で!」
合流をはたす三人。
美衣は良奨に絙をのことを説明し、互いに情報を共有した。
良奨の予想通り、煌環苑で開催される宴は無人が人を喰らうために用意されたものだった。
そして無影衆の一人、堺が死したことでその宴の頻度が増えたことを突き止めた良奨の推理力に絙は驚かされる。
「すごい洞察力だな。」
「あ、ありがとうございます…」
学生時代、そして執行隊に入隊してから自分の能力で褒められたことがなかった良奨は動揺を隠しきれていない。
だが、煌環苑での宴の目的が判明しても美衣の術式が切れた今、広範囲での索敵や状況の把握はできない。
絙は今ある情報から最適な行動を考える。
「まずは邁さんの救出が最優先事項。
だがこの宴の主催者、享亭もどうにかしないとだな。」
絙には造から無影衆の情報も伝わっていた。
これまで煌環苑の宴で人間が何度も犠牲になってもそれが明るみになっていない理由、それは享亭の持つ莫大な財力によるものだ。
その財力を駆使し、ここ煌環苑といった広大な無人の住処を作り、国衛局への調査を制限し、公に噂されないよう抑制していたのだ。
絙はある地点まで進むと懐に忍ばせていた短刀を良奨と美衣に渡す。
「ここからは二手に分かれよう。
俺は中央広間へ、お前らは享亭の書斎へ向かってくれ。」
絙はそう言うと書斎までの方角を指さす。
融合の術式は融合した生物の行動を操り、特性を利用できるだけではない。
その生物の持つ記憶にアクセスし、情報を読み取ったのだ。
絙はこの宴に入る際に招待されていた無人と融合して潜入した。
その際に融合した無人から享亭の書斎を突き止めていたのだ。
そして絙は自分たちが最終的に中央広間へ向かうことを想定している享亭は現地に多数の無人や罠を仕掛けているに違いないと考えていた。
そんな場所に美衣や良奨を向かわせるべきではない。
「でも!それじゃ絙さんが危険に…」
絙の考えを聞いた良奨は絙の身を案じる。
だが絙の決意は変わることは無かった。
「良奨くんの話を聞くに応援もじきに到着するだろう。
俺だけじゃない、それだけで心強いさ。」
そう言い残し絙は中央広間へ続く廊下を走る。
残された良奨と美衣も自分たちに任された役目を担うべく享亭の書斎へと向かうのだった。
その頃、煌環苑内で良奨たちを探す無人たち。
すると突如地響きが鳴り始める。
その地響きは無人だけでなく絙や良奨、そして廊下を呑気に歩く帝玄の耳にも届く。
「なんだ…これは…」
突如、壁が破壊され、その衝撃に巻き込まれる無人たち。
巻き込まれた無人はたちまち体内に宿す核もろとも粉微塵にされバラバラとなる。
そして土煙が晴れた先には―
「よし!突入は成功だ!」
複数の執行隊員を従えながら現れる彈。
彈のすぐ後ろには深野やその部下たちがスーツについた汚れを落としながら追従する。
「相変わらず加減というのを知らないね…刃岩野くん…」
「何を言うんですか!
深野さんだっていつも容赦ないじゃないですか!」
「いや君とは根本が違うというか…」
彈の予告なしの正門破壊、そして煌環苑内での破壊行為に呆れた表情を浮かべる深野。
彈は執行隊員に指示に周囲の無人と戦闘を開始する。
その様子を書斎で見た享亭が待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「来たな…執行隊…!」
―享亭様。我々もそろそろ宴に参加しても?―
享亭の背後で口にする人物。
その者の発言を聞いて享亭は振り向きながら答える。
「あぁ、だが御三家の血は貴重だ。
生け捕りにするんだ、他は早い者勝ちだ。」
「承知。」




