16話「魔境への招待状」
天運の檻・16話になります!
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夜間、運転手に車を走らせながら報告書に目を通す人物。
報告書には無影衆の構成員が判明したこと、そして瑞野歩がその構成員の一人と戦闘を行ったことが記されていた。
「じき到着です。鳳焔寺局長。」
運転手が声をかける。
車に乗車していたのは国衛局の公安管理部のトップにして鳳焔寺 玲の父親である鳳焔寺 邁だ。
国衛局や執行隊おなじみの黒スーツを上品に着こなし、前髪をしっかり上げた状態で邁は静かに目的地まで過ごす。
邁は目的地へと到着すると車から降り、スーツのボタンを留めて入口へと向かう。
入口には宴会場の受付係が立っており、邁を見つけると深くお辞儀をする。
「武器はこちらに。」
受付係とともに現れる女性の使用人。
日本では珍しい金髪に青い瞳、そして透き通った白い肌を持っていた。
邁は息子の親友であった藤白露 明を連想させていた。
その使用人に武器を渡すと邁は、自身の背後にいる運転手にも声をかける。
「君もだ、阿波村。」
邁の指示を聞き、運転手は腰につけた刀を使用人に預ける。
危険等級B
阿波村 貫太郎(33歳)
阿波村は帽子で潰れた短髪をほんの少し整え、ネクタイを結び直してから邁に続いて会場へ向かう。
会場に入ると中には企業の上役や実業家などが集っていた。
他にも社会的に地位の高い大富豪たちが交流を交わしていた。
邁はグラスを受け取り、手短に会場内の者たちと話をする。
すると邁の存在に気が付いたある人物が邁に向かう。
「これはこれは。鳳焔寺殿、久しいですなぁ。」
そこには宴の主催者である男が立っていた。
その男は大富豪を象徴するかのような着こなした高級スーツ、指に大量の指輪を身に着けた還暦寸前の容姿をしている。
「今年はなぜ招待を?享亭殿。」
邁はそう言って招待状を享亭に見せる。
享亭と呼ばれた男は微笑みながら邁を自分の書斎へ招く。
邁は阿波村を部屋の外で待機するよう命じ、部屋へ入る。
中は豪華な装飾品が並び、御三家の当主である邁といえど手に余る代物が陳列していた。
「お気に召したものはありますかな?」
「いえ、それより―」
「あぁ!招待の件でしたな!」
享亭は思い出したと言わんばかりに手を叩き口にする。
すると享亭は書斎にある自分用の椅子に深く腰を下ろす。
「実は…鳳焔寺殿に頼まれて欲しいことがありましてなぁ。」
それを聞いた邁は黙って享亭の向かいの席に座る。
享亭は酒が入ったグラスを邁に渡すと話し始める。
「昨今の経済状況はご存知でしょう。
貧困層は増加の一途をたどり、今じゃ明日の食ですら困る者も少なくない。」
享亭はグラスの酒を一気に飲み、再びグラスの酒を注ぐ。
「私もそういった者たちを雇ってはいるが、限度があってね。」
享亭は葉巻を取り出し煙を吹かしながら、再び椅子に座る。
邁は享亭の口にしていることと行動が一致していないことを心の内に留めておきながら口を開く。
「享亭殿。私は公安管理部の人間です。
気持ちはわかりますが、そういった相談は中央統制部に―」
「いや、君でなければならないのだよ。」
享亭が口を挟む。
そしてグラスをテーブルに置き、邁を見つめる。
その表情には何やら怪しげな笑みが零れていた。
「”とある医者”が以前面白いことを発見しましてなぁ。
生物は進化と退化、二つのバランスの上で成り立っていて、退化を防ぐカギは遺伝子にあるのだとか。」
享亭の話を黙って聞く邁。
邁はグラスの酒を少し口にしながら享亭の表情に目線を合わせながら話を聞き続ける。
「優れた遺伝子は進化の素質を持ち、退化にはほど遠い存在となっているそうなのです。
鳳焔寺殿。君は御三家の人間だ。日本じゃ君らほど優れた遺伝子をもつ者はそうはいない。」
「…何をおしゃっているのか理解できません。」
邁は冷静に返す。
だが、徐々にだが享亭に感じる怪しさが増していった。
享亭は邁の発言を聞いて葉巻を吸った煙を大きく吐き出すと邁を見つめる。
「だから…どうか君には”我々”の血となってくれないかな?」
すると扉が勢いよく開かれ、邁の前に立つ人物。
それは先ほど部屋の外で待機していた阿波村だった。
「鳳焔寺局長!離れてください!この者は――無人です!!」
そう口にして享亭を睨む阿波村。
葉巻をふかしながら享亭の瞳が徐々に無人特有の白黒反転したものとなる。
刀がない状況でも阿波村は流源を放ち、享亭に向かう。
「待て!阿波村!」
阿波村を制止する邁。
突如、阿波村の前に現れた人物。
それは先ほど宴に参加する際、武器を預けた金髪姿の女性使用人だった。
彼女は享亭と同じく無人の姿となり、阿波村の拳を受け止める。
そして自身の爪を鋭利に伸ばし阿波村に攻撃を行う。
その場に倒れる阿波村。
「阿波村!!」
邁が叫ぶ。
だが、そんな邁の喉元には使用人の無人が伸ばした刃物のような爪が向けられていた。
「あまり部屋を汚すな梨江。コレクションに血がついては困る。」
「申し訳ございません。享亭様。」
梨江と呼ばれた無人が享亭に謝罪する。
邁は表情を崩さずに冷静でいるものの、額には汗が滲んでいた。
「ご安心を、なにも殺しはしません。―すぐにはね。」
享亭は依然と椅子に腰を下ろしたまま葉巻を嗜みながら邁に向かって口にする。
数日後。
早朝の廊下に足音が響く中、執行隊本部にてに集められる人物たち。
「チッ、めんどくせぇなぁ…朝っぱらから何なんだよ…」
「まぁそー言うなって~つかちゃん~」
「そうだぞ!”俺たち”が一斉に招集されるのは久しぶりだしな!」
「おい、黙って歩けないのかお前ら。」
部屋に到着すると三人は席に座り、目の前には映像が映し出される。
映像には国衛局のトップである有瀬が映し出されていた。
「おはよう。朝から悪いね。…もう一人は…」
「申し訳ございません。
龍河岡 蒼は別件でちょうど東京を離れておりまして。」
黒髪を後ろに結び、きちんと黒スーツを着こなした青年が口にした。
その姿は執行隊の模範とも呼べる礼儀正しさだ。
危険等級A
松風 傑(21歳)
有瀬は傑に蒼が不在の事情を聞くとすぐに招集した理由を説明する。
「数日前に鳳焔寺局長が失踪を遂げたんだ。」
国衛局は大きく分けて三つの部で国を統括している。
政府の要にして、国衛局の支柱ともいえる中央統制部、国の機密事項や法律などを管理する機密管理部、そして国や公共の安全維持に努める公安管理部がある。
邁は公安管理部のトップにして、御三家のひとつ鳳焔寺家の現代当主でもある。
そんな人物が失踪を遂げたことで国衛局は総力をあげて調査を進めている最中だった。
「だが、調査は難航していてね…」
「だから俺ら執行隊にも調査に加勢しろってことですか?」
そう口にするのは茶髪に刈り上げた髪型、常に睨んでいるかのような鋭い目つきをしたヤンキー風の容姿をした青年だ。
口では少々威圧的な言い方だが、意外にもしっかりと敬語を発する。
危険等級A
火義里 司(21歳)
司の発言に対し有瀬がうなづく。
「今回は国衛局にとってもかなり大きな事件だ。
だから君たち”天与五人衆”に協力をお願いしたんだ。」
「じゃさ!もし俺がこの調査やるってなったら東京じゃない場所にも行けるってこと?」
ガムを膨らませながら呑気に話を聞く青年が口を開く。
その青年はスーツの中にパーカーを着用し金髪に染めた前髪を結び額を出した独特な髪型をしている。
危険等級S
彪牙嵐 瞬(21歳)
彼は天与五人衆の中でも唯一、危険等級Sの人物。
危険等級Sの人物は執行隊に属していても、本部の外での活動が原則禁止されている。
そのため、瞬は久しぶりに本部の外や他の街にいける可能性があることを期待していたのだ。
「もちろん調査場所によっては――」
「長官!この調査をするなら俺が行きます!」
有瀬の話を遮る大きな声。
その声の大きさに隣に座る瞬が耳を塞ぎながら苦笑いを見せる。
声の主は筋肉質で前髪を立ち上げた黒色の短髪姿の青年が尋ねる。
危険等級A
刃岩野 彈(21歳)
執行隊には5つの課が存在している。
その中でも4課の警護育成課に属している執行隊員は上層部の護衛や教育を担当している。
彈は自身と同じく4課に所属する阿波村も数日前から連絡がとれていないことを知っていた。
有瀬は彈の意見を汲み、他の者も今回の調査を彈に任せることにした。
「というわけで、今回の調査を担当する刃岩野だ!よろしく!」
「よ、よろしくお願いします…!」
彈の力強い挨拶に翻弄されながらも挨拶をするのは、良奨だ。
良奨の隣には以前、任務で一緒になった美衣もいた。
「彈先輩、今回は調査を目的とした任務ということで私たちを同行させたんですか?」
美衣が彈の勢いに呑まれることなく質問する。
普段大人しい美衣だが、彈を師に持つ彼女にとって彈の力強い声には慣れているようだ。
「あぁそうだ!お前らは2課所属だろ?
それなら調査は俺なんかよりめっぽう強いはずだしな!」
元気よく口に出す彈に良奨も少しずつだが元気をもらっていく。
そして良奨と美衣の二人は彈から任務の説明をうける。
邁は失踪前に”煌環苑”と呼ばれる大庭園で年に一度開催される宴に招待されていた。
その宴には各地方の富豪や大手企業の役人たちが集い夜を楽しむという。
記録によれば煌環苑の宴には国衛局の者が招待を受けた例はほとんどない。
にも拘らずなぜか邁は招待を受けていた。
「それがなぜなのか、主催者に聞いてみるぞ!」
石川県豊生市。
大自然と高級住宅が並ぶ広大な街。
多くの実業家や富豪が別荘を望むほど人気の一等地が広がる庶民には縁のない土地だ。
良奨たちは豊生市にある国衛局支部を訪ねた。
すると良奨たちを待っていた国衛局員と合流をする。
「お疲れー刃岩野くん!」
「ご無沙汰してます!深野さん!」
その国衛局員はどこか彈と似た雰囲気を漂わせる人物だった。
周囲の部下に厳しくも的確な指示を出す様子は頼れる先輩上司そのもの。
良奨は以前、秋田県で任務を行ったときに出会った国衛局員と大きく異なる仕事力に驚かされる。
「(城倉さん…これを参考にしなきゃ…)」
深野はここ豊生市の管轄であり、彈とは以前にも何度か交流があった。
そして煌環苑はここ豊生市にある。
豊生市は社会的立場のある人間が多く住まう街。
執行隊の調査を快く受け入れてはくれないことを見越して、彈は深野を訪ねたのだ。
「煌環苑かー。前にも調査をしたが、その時も大変だったからな…」
深野が頭を悩ませる。
話によると、煌環苑では以前にも何度か失踪事件の疑いがかけられたことがあったと言うのだ。
その際も調査に踏み込んだ深野だったが、広大な土地を所有する煌環苑の大規模調査には証拠が少なすぎて、なかなか許可が下りなかった。
結局、許可の下りた限定的なエリアのみの調査となり、何も手がかりが見つけられず調査項目から除外されるというオチだった。
「まぁ、でも刃岩野くんの頼みだ。
やれることはやってみよう!」
さっそく深野は部下に指示を出し、再び煌環苑へと連絡を入れる。
そして調査の許可が下りるまで良奨は深野の許可を得て、支部内の事件ファイルに目を通していた。
各々が煌環苑の調査のために動き出して数時間が経過した。
深野が彈のもとにやってくる。
「すまない、刃岩野くん。
これが限界だったよ…」
今回もまた証拠不足を理由に許可が下りたのは煌環苑の限定的なエリアのみだった。
それでも尽力してくれた深野に彈は礼を述べ、美衣を連れて煌環苑へと向かう。
到着するとそこには広大な庭園が広がっていた。
その広さは都心にある高層ビルや豪邸などとは比にならず、どこまでも続く大自然のように池や木々が広がっていた。
御三家の生まれで他の家より財力を持つ獅壕院家の美衣ですらも、あまりの広大さに彈と共にポカンと口を開けたまま唖然としている。
深野の案内のもと、煌環苑の入口までやってくる彈たち。
すると梨江が待っていた。
「お待ちしておりました。
深野様、そして執行隊の皆様。」
頭を下げる梨江に深野は礼をして彈たちを紹介する。
梨江は彈たちに煌環苑の正門前に広がる敷地を見せる。
その後ろ姿を静かに見つめる彈。
正門前を通り過ぎ、調査可能なエリアまで案内すると梨江はその場を去る。
美衣は調査のため庭園内にいる動物に術式を発動するが、彈がそれを制止する。
理由を明かされないまま、二人は自力で調査を行う。
「うん、特に異常はないみたいだ!」
「で、でも…先輩、まだ他の方法が―」
「よし美衣!今日は朝から働きづめだったし、帰るとするか!」
彈は美衣を連れて車に乗り込む。
煌環苑を出て、国衛局支部へと向かう。
その様子を煌環苑の館にある窓から見つめる人物。
「はやくも執行隊のお出ましか。」
そう口にしながらグラスに口をつけるのは、煌環苑の主である享亭だ。
享亭は窓から梨江に門を閉めるよう合図する。
「いいの?帰らせちゃって。」
窓を外を見る享亭の背後で聞こえてくる声。
その人物は以前、霧峰町の旅館で歩が遭遇した額に巻かれたヘッドバンドと幼さを残した美形の顔立ちが特徴の無人だった。
美青年無人は享亭の椅子に座り、机に足を乗せながら呑気にくつろいでいる。
「えぇ、問題はない。
もしもの時はあなたがいることですしね。」
「え~僕やだよ~
さすがに境島 皇斎とか来られたら勝てないし。」
美青年無人は書斎にある享亭の本を手に取りながら口にする。
すると享亭が窓から美青年無人の方に顔を移す。
「…千羽を無断で連れて行ったことをお忘れですか?」
それを聞いた美青年無人が表情を変え、本で顔を隠す。
「だってそれはあの人の趣味、面白そうだったから~…」
「とりあえず、しばらくは千羽の代わりとして私の趣味にも付き合ってもらいますよ。」
それを聞いた美青年無人は渋々承諾する。
享亭はそれを確認すると書斎を出る。
その頃。
国衛支部へと戻っている道中、美衣はなぜ調査を早々に切り上げたのか、そして彈が術式を使用することを止めたのか尋ねる。
「ん?美衣、見てわからなかったのか?」
「え?…な、なにがですか?」
「何がって、あの使用人は無人だったじゃないか!」
彈は煌環苑を案内する梨江の後ろ姿だけで彼女が無人であると見抜いていた。
使用人にしてはあまりにも動きに無駄がないこと、そして常に調査する自分たちを目で追うことから彈は煌環苑が無人の巣窟であると察した。
そのため、自分たちの素性を少しでも相手側に見せないよう美衣の術式使用を止めたのだ。
国衛支部へと到着する彈たち。
すでに証拠はなくとも煌環苑に無人がいた以上、見逃すことはできない。
彈は深野とすぐに国衛局の本部へと連絡し、煌環苑の調査する令状を出してもらえるよう動き出す。
すると、彈のもとへ向かう良奨。
「彈先輩、これを見てください!」
良奨は彈と美衣の二人が調査に向かっている間、支部内にある調査ファイルから煌環苑の宴について調べていた。
これまで享亭が主催する煌環苑での宴は年に1回、決まって11月に開催されていた。
だが、邁が招待を受けた今年の宴が開催されたのは10月だった。
本来の開催日は今から数日後。
良奨は数日後に再び煌環苑で宴が開催される可能性があるとふんでいた。
「なぜ、そう思うんだ?」
彈が尋ねる。
良奨は歩から無影衆の一人である堺が”無人が人を喰らわなくても生き延びる方法”を模索していたことを知っていた。
その方法とは、新鮮な人の血液を摂取すること。
それも新鮮な血液の遺伝子が優れたものであればあるほど長い時間、人を喰らわなくても退化を免れるとのことだ。
堺は医者である自分の立場を利用して患者から血液を採取し、その血液を無影衆に届けていた。
だが、そんな堺も今は亡き存在。
良奨は堺を失ったことで無影衆が人を襲う必要性が増しているのだと考えていた。
「つまり…それは…」
「はい、煌環苑の宴はこれまで人を喰らうために無人が開催していたんじゃないかと俺は考えています。」
―!!!―
それを聞いた彈たちが驚愕する。
仮に良奨の予想通りだとしたらこれまでの失踪者のこと、邁がなぜ今回に限って招待を受けたのか説明がつく。
予想通りでなくとも煌環苑に無人がいることが確定している以上、彈は今すぐにでも行動に移すべきだと考えた。
「よし、まずは例年通り数日後に煌環苑で宴が開催されるか様子を見よう!
仮に宴があった場合、潜入作戦を開始する!それまでに万全の準備を整えるぞ!」
「はい!!」
良奨が勢いよく返事する。
周囲の国衛局の者たちも深野に指示されながら作戦に取り掛かる。
そして数日後。
良奨の予想通り、11月に煌環苑で宴が開催される。
日が沈み、あたりに夜の静けさが広がる中、煌環苑に次々と人々が集まっていく。
車を降りる二人の人物。
受付係が二人から招待状を受け取り、名簿の名前と照らし合わせる。
「獅壕院 美衣様。門無 良奨様。ようこそ。」
武器を預けた後、二人を中へ通す受付係。
会場内で富豪たちが立食を楽しむ中、二人の耳元から彈の声が聞こえてくる。
―よし!!まずは潜入成功だな!!
準備した甲斐があったってもんだ!!―
「いや…」
良奨は周囲を見て大量の汗を流しながら返事をする。
「俺らが潜入するんですかー!!!」




