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天運の檻  作者: じょじょ
第4章・無影衆編-生死廻廊

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15/19

15話「影を追って」

天運の檻・15話になります!


リアクション、コメントなどくれたら嬉しいです!

地下施設を出て、地上階へと向かうあゆむ

院内には人の気配がなかった。

駆け付けた国衛局によって院内にいる患者や医療従事者はすでに外へ避難が完了していたのだ。

歩は静寂が響き渡る院内の廊下を歩き、茶髪の髪を掻きながら出口へと向かう。

すると目の前に一人の人物が出口付近に立っていた。

遠く離れた位置のせいで歩は誰だが特定できない。

だが、その人物が歩に声をかける。


「久しぶりだね、歩くん。」


歩は目を凝らし、その人物を見る。

それは執行隊に入隊した際、実戦訓練の担当を任されていた扇崎せんざきだった。

扇崎は歩の迷いの消えた表情、そして汚れたスーツを見て地下施設で何が起きたのかを察する。


「いい顔になったね。」


扇崎の発言を聞いて堺のことを思い出す歩。

無人むとにも堺のように人を無人、双方を救いたいと心から願う者もいた。

考えもしなかったが、彼らも元は人間なのだ。

歩の中にはこれまで何の罪もない人間を殺害し喰らう無人の存在をこの世から葬るため、そして自分のような境遇を生まないために執行隊へと入隊を決めた。

そんな歩は扇崎の実戦訓練で命の重さを知り、堺との闘いで己の役割を明確にした。

扇崎のもとへ向かう歩。

だが、僅かに扇崎が刀に手を置くのを歩は見逃さなかった。


「君たちに国家機密情報の虚偽拡散罪がかけられたんだ。…事情を聞かせてくれないかい?」


それを聞いた歩が立ち止まる。

扇崎の言っている意味がわからなかった。

国家機密情報の虚偽拡散罪…?


国家機密情報?

そんな情報を拡散した覚えはない。

だが―

歩は数日前にしょうから無影衆むえいしゅうの話を聞いたときのことを思い出す。


―歩が任務で目にした”無影衆”。どうやらあきらさんが上層部から聞いた話じゃそれは無人の祖、無神むこうを信仰する謎の組織みたいなんだ―


―無神を信仰する…組織…?…カルト的なかんじですか?―


―詳細は国衛局も知らないみたいだけど、明さんは過去に目にした無人化と無影衆に関係があるんじゃないかって思っているみたいなんだ。―


明は国衛局の上層部から無影衆のことを聞いたと蒼は口にしていた。

国家機密、それが無影衆のことを指すのなら…

歩の表情が焦りを見せ始める。


「(明さん…!!)」


歩は明のいる地下施設の方へ走り出す。

それを見た扇崎はため息をつきながら、携帯を取り出すとある人物に連絡を入れる。


―標的が逃走したよ、準備して。―


地下施設へ向かうため院内の廊下を駆ける歩。

すると廊下に並ぶ部屋の扉が勢いよく壊され、部屋から出てきた人物が歩に襲い掛かる。

歩は刀を抜きを相手の攻撃を防ぐ。


「か、かすみ!?」


「ごめんね!歩くん!上からの指示で歩くんを捕まえないといけないの!」


歩に攻撃を仕掛けてきたのは霞だった。

霞の力強い攻撃に押される歩。

だが、うまく攻撃を受け流しそのまま逃走をはかる歩。


「ごめんなさい~師匠~!逃げられちゃった!」


「逃げられちゃった~じゃなくて追いかけるのっ」


霞のもとへ向かう扇崎が霞にツッコみながら二人で歩を追う。

歩は地下施設ではなく院内の上階へと駆け上がる。

院内は広さを利用して扇崎と霞を撹乱する戦法に出たのだ。

霞は分身の術式を発動して歩の捜索範囲を広げながら扇崎と連携をとる。


「師匠、うち達は地下にいかくなくていいの?」


「あぁ、問題ない。彼らが向かったからね。」


扇崎は先ほど院内へ入る直前、先に地下施設へ向かった”二人の人物”を思い出していた。











その頃、明と悪木おきが地下施設で激しい戦闘を繰り広げていた。

悪木の容赦ない攻撃に明は回避を中心とした立ち回りで距離をとる。

明は早音さねに逃げるよう目で合図を送る。

明の意図を察し早音は地下施設の出口へと向かおうとする。

だが、その行く手を阻むように早音に迫る刃が―

悪木の攻撃を退け、早音に迫る刃をなんとか防ぐ明。

だが明は早音に刃を向けた人物を見て苦笑いを浮かべる。


「おい、ウソだろッ…」


「退いて、明。」


その人物とは明の数少ない同期にして幼馴染の間柄の暗菜あんなだった。

明は上層部の何者かが暗菜相手であれば自分が躊躇することを考慮し、今回の執行隊員を派遣したのだと察する。

さすがの明でも執行隊の実力者二人を前に本気を出さずして逃げ切ることはできない。

かといって仲間相手に手傷を負わせる覚悟で本気を出すほど明は非情ではなかった。

すると早音が紙を生成し暗菜の身体に紙を付着させる。

それを見た明は自分と早音が対峙したときに使用した早音の異術いじゅつを思い出す。

異術・折離紙おりがみ、早音自身が折る紙と同じ動きを紙が付着した対象にも強制させる技。


「待て!!」


明が制止する。

だが、早音の攻撃は暗菜の腕を容赦なく曲げようとする。

明は暗菜の腕に張り付いた紙を器用に斬り、早音の攻撃を無効化する。

明の行動に驚愕する早音だったが、隙が生まれたことで地下施設を出ることに成功する。

地下施設に残される明と悪木、暗菜。

張りつめた空気の中、悪木が明に再び襲い掛かる。


「黒崎、あの無人を追え。」


「わかりました。」


暗菜は悪木の指示で地上階へと向かった早音を追う。

悪木は明の動きに影を状況に応じて変形させながら応戦する。

距離をとれば槍状に投合し、近寄れば縄状にして動きを制限する。

明は依然、涼しい顔を保ちながら回避を中心とした立ち回りで応戦する。

だがそれも限界が近づいていた。

そして明には地上階に向かった歩の様子を内心で気にかけていた。

悪木と暗菜が地下施設に向かったということは、歩のもとにも同等クラスの実力者が待ち構えているはずだと。

明の額に僅かに汗がにじみ出る。


「待った、待った!悪木さん!降参だ…!大人しくするから話を―」


「藤白露、俺は二度同じことは言わない。」


「ッ!!(話聞けって…!!)」


悪木の容赦ない攻撃が明の頬をかすめる。

そして悪木の刀に込められた流源が僅か一瞬、出力が増したことに気が付く明。


真導我天流しんどうがてんりゅう天導一閃てんどういっせん


横薙ぎの一閃が明を襲う。

悪木の流派にいち早く気が付いた明は自身も流派で対応する。


龍河一刀流りゅうがいっとうりゅう水瀧すいろう斬り―


互いの一閃がぶつかり合い、火花が散る。

距離をとる明と悪木。

悪木は手の甲についた切り傷を見て舌打ちをする。

明は深呼吸をした後、もう一度悪木に話を聞くよう説得を試みる。


「悪木さん、真剣な話なんだ。聞いてくれ。」


明の発言に悪木は無言で返す。

明は上層部で聞いた”無影衆”について説明する。

そして自分が過去に遭遇した同期を無人化させたとある無人についても。

無影衆に無人化の方法を知る無人がいる可能性が高いと考え歩と捜索をはじめたこと、

見つけた堺という名の無人は自分が追いかける無人ではなかったこと、

そして上層部に無影衆を自分たち執行隊に知られたくないと考える人物がいて、自分たちの口封じのために悪木たちが送り込まれた可能性があることも。

その話を聞いて悪木は刀を降ろし始める。

だが―

明が次に放った発言を聞いて事態は一変する。


「もしかしたら……”妹さんの真相”にも近づくかもしれないんっスよ。」


それを聞いた悪木に変化が。

表情は変えずとも怒りの感情が露わとなる。

流源が悪木を纏いだし、周囲に風が吹き荒れる。


「お前が…妹の……何を知っている。」


悪木が本気の殺意を放ち始めたのだ。

それを感じ取った明にもさすがに焦りの表情が現れる。


「(おいおい…マジかよ、まさか…)」


明の危機感を覆うように二人のいる空間が悪木の流源による覇気で包まれ始める。

すると、悪木の足元の影だけでなく、周囲の影までもが揺らめき始める。

明は刀を構えながら悪木を呼ぶもすでに止める気配のない悪木。


覚醒顕現かくせいけんげん!!!―











数刻前、地上階で扇崎と霞の二人を前に逃亡をはかる歩は院内の一部屋で休息をとっていた。

堺と対峙した際に負った傷は堺自身の異術で縫合してもらった。

それでもあくまで応急処置だ。

血管や筋肉は損傷している。

術式を発動し、運を高めれば僅かに治癒を速めることも可能かもしれない。

だがそれも定かではない。

すると廊下から足音が聞こえてくる。

廊下を駆ける霞の姿を発見する歩。

歩は息をひそめながら霞に近づく。

そして刀を振るうその瞬間―

間一髪で歩の攻撃を防ぐ霞。


「(やっぱ防がれた…!けど、防いだってことは…これが本体…!)」


歩は実戦訓練での霞が披露した戦闘スタイルを理解していた。

霞の身体能力は歩を含めた同期の中でも群の抜く。

だが、分身の術式はすぐに生成した場合、霞本体の4分の1程度の実力しかない。

自分の攻撃を受け止めた霞の本体だと見抜く歩だったが―

突如、頭上の天井が壊される。


鳳焔一刀流ほうえんいっとうりゅう煌鶴落こうかくらく!!


天井を破壊しながら、落下の勢いを利用した強烈な一撃を歩に向ける霞。

歩は咄嗟に術式を発動するが、自分の攻撃を防いでいた霞もろとも天井を破壊した霞が攻撃を振りかざす。


「(ウソだろ…攻撃を受け止めたのは分身の方だったのかよ…!!)」


攻撃を防いだ側の霞を本体だと見誤ったことで不意をつかれる歩。

なんとか攻撃の回避には成功するも、歩は流源が底を尽きかけていることから運を使い果たしことを感じ取る。

土煙から霞が姿を現す。


「歩くん!大丈夫!?…ちょっと強めだったかな…」


捕らえる側でありながらも歩のことを気に掛ける霞。

霞は上からの指示であったとしても共に無人との闘いを潜り抜けた同期である歩に殺意を向けることはできなかった。

歩もそれを理解していた。

霞が自分を相手に本気になれないことは。


「あ、あぁ…やられたよ。流派ついに使えるようになったんだな…!」


歩の声を聞いて安堵し笑みを見せる霞。

だが、歩の背後に音もなく近づく影に霞はすぐに顔色を変える。


「師匠!!」


その声に歩が振り向こうとするが、背後にいる扇崎の方が早かった。

扇崎が歩の背中を触れる。

すると突如、歩の視界が歪み始める。

まともに立つこともできなくなり、ついに嘔吐をする歩。


「すまないね、歩くん。」


膝をつく歩に扇崎が優しく声をかける。

意識が混濁する中でその扇崎の言葉を聞いて歩は意識を失う。

―その時。

地下施設からの感じる異変を感じ取る扇崎。


「(これは!!!)」


歩を霞に渡し、凄まじい速さで地下施設へ向かう。











―覚醒顕現《胡乱滅裂宵うろんめつれつしょう》―


執行隊はこれまでにも無人と対峙すべく術式充填や術式発散といった応用技術を確立していった。

その中でもごく数人しか会得されていないとされる術式の最高峰にして奥の手でもある”覚醒顕現”

発動すると効果範囲内の全ての空間に強化された術式が適応可能となる。


悪木の覚醒顕現《胡乱滅裂宵》は効果範囲8mに存在する全ての影を操作し、さらにその影を媒介にあらゆる物体を生成することができる。

悪木を中心に周囲の物体の影が次々と不定形に形を変え始める。

その様子を見て息をのむ明。


「(ふざけやがれ……味方相手に覚醒顕現使うバカがいるかっての…!!)」


内心で動揺を隠しきれない明。

だがすでに悪木の覚醒顕現の効果範囲内にいることから逃げ切ることを諦める。

覚醒顕現を発動すると、術者を中心に範囲が動く。

つまりたとえ、今この瞬間に明が効果範囲から離れても悪木が明を追えば範囲外からは逃れられない。

明が静かに流源を放つ。

その流源は先ほど堺と闘った時とは比べものにならないほど出力として放出される。


覚醒顕現それを相手に闘うのは初めてだしな。……やってやるよ。」


明の青い瞳が鋭さを増す。

刀を力強く握り身体にも力を込めていく。

悪木の意思に応じて周囲の影が形を変え始めていく。

二人が行動に移そうとしたその時―

悪木の動きが止まる。


「もういいだろ。 桂士けいじ。」


悪木の動きを止めたのは扇崎だった。

扇崎は悪木の肩を触れ、刀を握る悪木の手を掴んでいた。


「何の真似だ。……とおる。」


扇崎の名を呼ぶ悪木。

二人の間に無言の時間が流れる。

すると悪木の眼が僅かに揺れ動く。


「術式を解け。そうすれば俺も解くから。」


扇崎は表情を変えずに口にする。

だがその額には汗が滲んでいた。


扇崎の術式は”幻覚”。

触れた対象に幻覚を見せることができる。

幻覚は扇崎の加減次第で意識を混濁させるほどの強い幻覚を見せること可能。


扇崎は悪木の肩に触れた。

それにより幻覚を見せられた悪木の視界には周囲の空間が歪んで見えていた。

本来であれば立つこともままならない強度の幻覚だが、それでも表情を変えない悪木を前に扇崎は僅かに焦りを見せていたのだ。


だが―


刀を鞘に納め、覚醒顕現を解く悪木。

それを見た扇崎も悪木に見せた幻覚を解く。


「…瑞野 歩はどうした。」


「もう無力化してるよ。藤白露も別に闘う気はない。だな?」


扇崎が明に目配せをする。

明はここは扇崎に任せることを決め静かにうなづく。

そうして三人は地下施設を出る。

地上階へ上がると歩を抱えた霞、そして早音を拘束した暗菜がいた。

扇崎はまずは明たちに事情を聞いた後で早音の処置を考えると暗菜に伝えた。

院内の一室でこれまでの経緯を話す明。

秋田県虚川区からかわくでの兄弟無人との戦闘で歩が見つけた一つの手紙からはじまった。

そこに書かれた”無影衆”という言葉。

上層部の話では、無神を信仰する謎の集団で全貌は不明。

その手掛かりを追うべくここ茨城県結地市ゆうちしの病院に向かい、堺という男が無人であることを突き止めた。

堺との闘いの中で人間も無人も隔てなく救いたいという彼の信念を知った明は、早音の生かす選択をとったことも口にする。


「堺は無影衆の一人だった。そして俺らにこんなものを残してくれた。」


明が堺から受け取った紙を暗菜に渡す。

そこには無影衆の構成員の異名がつづられていた。


禊影みそぎのかげ、 封影ふうのかげ、 祈影いのりのかげ、 詞影ことばのかげ、 命影いのちのかげ、 祓影はらいのかげ、 富影とみのかげ


歩と明は”命影”という異名を手掛かりとして堺にあり着いた。

つまりすでに命影は堺だと判明した。


「てことは構成員はあと6人…」


暗菜がそう口にしながら紙を他の者に手渡す。

明は国衛局が悪木たちを自分たちのもとへ送った理由として、無影衆の情報を手にした自分たちを消すためだと口にする。

その話を聞いた扇崎が面倒くさそうに頭を掻きながらため息をつく。


「はぁ…こりゃかなり、きな臭くなってきたな…」


「今さらっスか?俺はそもそも国衛局アイツらを信用なんかしていないっスよ。」


さらに明は無影衆の構成員あるいは関係者が国衛局に潜んでいる可能性を口にする。

仮にそうであったとしても無影衆の存在は執行隊全体で共有すべきだと扇崎は意見を述べる。

すると無言を貫いていた悪木が口にする。


「情報は共有しつつ、しばらく裏で行動すべきだろうな。

 少なくとも、俺はそうするつもりだ。」


悪木の意見に明たちも賛同する。

無影衆の手が一体どこまで広がっているか把握ができていない以上、今回のように国衛局の監視がある状態で行動するのはリスクが大きい。

今回も歩の要請を受信してすぐに悪木たちが駆けつけた。

まるであらかじめこの病院に向かうことを予測されていたかのように。

悪木は部屋の扉を開ける。


「藤白露。」


部屋を出る直前、明に声をかける悪木。

悪木は振り向かずに少し間を開けてから口を開く。


「…疑って済まなかった。」


そう言い残し部屋を出る悪木。

明は少し驚いた表情をしながら、あの人結構ツンデレっスよね。と扇崎に口にする。

失礼だと言わんばかりに暗菜に叩かれる明。











執行隊本部へと到着する明たち。

悪木たちと話し合った通り、無影衆の情報はすぐに執行隊全体に共有された。

だが、情報が希薄なことから無影衆を中心とした捜索という方向には至らなかった。

それでも数名の人物は悪木のように裏で行動をすることを心に決めている者もいた。

そして執行隊に無影衆の情報が共有されたことで、国衛局は歩と明に与えた罪状を取り下げるという処置をとった。


執行隊に囚われた早音もこれまで人間に危害を加えた例は歩たちとの戦闘のみだった。

人を喰らわねば無人はたちまち退化してしまう。

だが、堺は人間の血液のみでも短期間だが無人の退化を止めることが可能であることを見つけていた。

それにより、早音は執行隊監視下のもと、執行隊に協力する形で身の安全を保障されるという特別処置をとることになった。











その頃、意識を取り戻した歩。

ベッドにはまだ治療中の未紗、そして帰還した報告を聞いて蒼が来ていた。

歩は数日前にも見た同じ光景に苦笑いをうかべる。

堺のおかげで外傷のほとんどは癒えている。

それでも身体の組織回復のためあと数日は安静にする必要があった。


「今回の敵はどうだった? 歩。」


蒼が尋ねる。

歩は無人でも必ずしも悪人ではないことを知ったと口にする。

堺と対峙したとき、彼には殺意がなかった。

明が早音の安否を口にした後から明確に堺は殺意を出し明と戦闘を繰り広げていた。


「殺意がなくても、あんなに強かった。

 とてもじゃないけど…俺には……」


歩に救われたと堺は口にしたが、歩こそ堺に救われたと言ってもいい。

堺はあの場でいつでも歩を殺せた。

だが、救いたいという堺の良心が歩に気づきを与え、歩に執行隊としての明確な役割を自覚するに至ったのだ。

蒼は歩の気持ちを汲み取り、穏やかな声で歩を勇気づける。

そして蒼がその場から立ち上がる。


「歩、治療を終えたら一緒に訓練するよ。」


歩が唖然とした表情を浮かべる。

蒼は歩が現時点での力で成せることに限界を感じていると見抜いていた。

そして今の歩に必要なことは共感でも諭すことでもない。


今の歩に必要なことは―


「君をさらに上の強さステージに持っていく。

 術式の応用技術を会得してもらうよ。」

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