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天運の檻  作者: じょじょ
第4章・無影衆編-生死廻廊

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13/19

13話「奇跡の執刀医」

天運の檻・13話になります!


リアクション、コメントなどくれたら嬉しいです!

東京都江実谷えみがや区二番地。

人口が集中した東京の中でも特に住宅を中心とした地区。

あゆむあきらはそんな街の病院を訪れていた。


「ここも違ったみたいですね。」


「あぁ。ま、次だな。」


すでに無影衆の手がかりを捜索して数日が経過した。

これといった医者の情報は何も得られなかった。


「それにしても俺がいてよかったですね、明さん。」


「あぁ?なんでだ?」


術式発現者には危険等級に応じて行動が制限される。

歩が認定された危険等級Bは執行隊に所属していれば、任務以外での自由な行動が可能となる。

だが、明のような危険等級A以上の者は単独での行動が禁止されているのだ。


「俺がいなかったら今頃、国衛局に怪しまれて即本部に送還されてると思いますよ。」


「そしたら、逃げればいいだけだろ。」


「いやいや、さすがに無理ありますって…」


歩は毎度明の奔放さに翻弄されながらも、捜索を続ける。

車を運転する明の助手席で歩は以前兄弟無人を執行した際に発見した手紙の内容を思い出す。


「”命影いのちのかげ”…無影衆の構成員はみんな異名が与えられてるんですかね…」


「おそらくな、唯一の手掛かりはそれだけだ。」


しばらく車を走らせ、他の病院や手掛かりとなりそうな場所へと向かう二人。

だが情報は掴めないままだった。

日が暮れ始め、さすがの歩も数日間の捜索に疲労が溜まりベンチに座りこむ。

明も歩に続きベンチに座り、あくびをかく。


「今日も手掛かりなしか~…」


「なぁ~歩~、お前の術式で運よく手がかり入手したりできねぇの?」


「無茶言わないでください、そんな便利なもんじゃないですよ…!!

 この間も試してみましたけど、やっぱ自分以外には術式使えないみたいですし。」


「はぁ…やっぱ2課の連中連れてくればよかったかもな…」


途方に暮れる二人。

すると歩と明の携帯が鳴り響く。

―報告、東京都江実谷区三番地にて、何者かに民間人が襲われる事件発生。被害者の傷から見て無人による襲撃事件の恐れあり。周囲にいる執行隊はただちに急行せよ。―


「明さん行きますよ…!」


「ん?…はぁ~……仕方ねぇ、いくか。」


二人は現場へと急行する。

現場には被害者と思われる中年男性が一人。

あたりには被害者のものと思われる血痕が壁にこびりついていた。

すでに駆け付けた国衛局員が被害者に事情を聴取していた。


「お、歩く~んー!」


すると歩を呼ぶ声が。

歩に手を振り向かってくる青年。

その特徴的な左右異なる瞳や誰に対しても隔てなく接する性格。

その青年を見た歩も自然と表情に笑みが浮かぶ。


信二しんじさん、ご無沙汰してます!」


「信二でええよ。歳も誤差みたいなもんやし。」


声をかけたのは信二だった。

以前、霧峰町の旅館で未紗と応援に駆け付けた執行隊の青年だ。

信二は歩に事件の詳細を説明した。

どうやら路地裏を歩行していた被害者を狙って無人が襲い掛かったようだった。


「ま、被害者も軽傷だし、無人の追跡が先決やな。」


「信二、その被害者で気になったことは?」


明が信二に尋ねる。

それを聞いて信二は考えながらも事件に関することはないと伝える。


「あ、でも…あの被害者さん、過去にかなりの大ケガしてはったみたいですよ。」


「ケガ?」


「はい、身体中に手術痕だらけで見た時はさすがにびっくりしましたよ。」


「…なるほど。」


明は被害者の男性のもとへ向かう。

被害者に明は手術痕のことを尋ねる。

明と被害者男性の話す様子を少し離れた場所で見つめる歩。

すると歩のもとに信二がやってくる。


「…もしかして…明さん……何か企んではる?」


「え、別にそんな…」


歩の表情を見て察した信二は自分の口を塞ぐ仕草を見せる。


「じゃ、俺は無人の捜索しておこうかな~」


そう言ってあえて信二は国衛局員を歩たちから離すよう促す。

そして歩に手を振ってその場を後にする。

被害者との話を終えた明はすぐに歩を呼び、車へと乗り込む。

車内で歩は明に被害者から聞いたことを尋ねる。

被害者にあった手術痕、それは過去に大規模な臓器移植手術をした影響だった。


「随分と大きな手術みたいだったが、”ある医者”によって手術は成功したみたいだ。」


「その医者はどこにいるんですか?」


「茨城県。その医者は地元じゃ”奇跡の執刀医”として名が知られているみたいだ。」


「…!!…もしかして…」


歩は明に今の日本では移植手術をできる医者自体が限られていることを聞いていた。

そんな中でこれまでに行った手術は全て成功している医者が茨城県にいる。

仮に本当に無人の核を人間に移植可能な医者いるとすれば、その医者である可能性はかなり高い。


「あぁ、言ってみるぞ。その病院に。」











茨城県結地ゆうち市。

自然と都会化されたビル群がバランスよく馴染む街。

翌日、到着した二人は早速”奇跡の執刀医”と呼ばれる人物に合うべく病院へ向かう。

院内はいたって普通の街にある大病院だった。

医者、患者、看護師が大勢院内を歩いている様子が歩と明の目に映る。


「すみません、ここで…”奇跡の執刀医”と呼ばれる医者がいると聞いてきたんですけど…」


歩が受付に尋ねる。

受付係はすぐに言葉を聞いて”さかい先生”のことだと言い、診療室へと案内する。

診療室へ入るとそこには整った容姿にどこか朧げな表情を浮かべた男性が待っていた。


「執行隊の者がここに何の用で?」


「アンタが”奇跡の執刀医”か?」


「そう言われることもありますが…それが何か?」


堺は不愛想に答える。

すでに自分たちが歓迎されていないことを察する歩。

だが、それが執行隊だからなのか、それとも自分たちが追う人物だからなのかはこの時点ではわからなかった。


「実は…東京で起きた事件の被害者があなたの手術を受けたと聞きまして。」


歩はそう口にして堺に被害者の情報を渡す。


「……ええ、確かに。彼は難しい症例でした。

 普通なら助からない。ですが、私は“諦める”という選択を知らないんです。」


「諦める、ですか?」


歩が思わず聞き返す。

堺は小さく微笑み、静かに頷いた。


「人はいつか死ぬ。けれど私は医者です。

 救える可能性が僅かだとしても救う選択をとるだけです。」


言葉に迷いはない。

その口調は冷静で、同時にどこか痛々しいほど誠実だった。

歩も堺の発言を聞き、医者としての矜持を目の当たりにし関心を示した。


「だがよ、先生。」


明が椅子にもたれながら、鋭く口を挟む。

その青色の瞳が堺をまっすぐ射抜く。


「“救う”ってのは、どこまでを言うんだ?

 死を遠ざけることか?それとも……人の形を保つことか?」


「まるで…私が非人道的な行為に及んでいるかのような発言に聞こえますね。」


「あぁ、そう言ってる。」


「明さん…!…失礼ですよ…!」


空気が一瞬、凍りつく。

歩が慌てて明を制止する。


「聞くところによると…あなた方、執行隊は無人を執行しているようですね。」


堺の目が明に向けられる。


「無人を執行する…それがあなた方の”救い”ですか?」


「質問してんのはアンタじゃない、俺だ。質問に答えろ。」


明が席から立ち上がる。

歩は必死で笑顔を作りながらその場を収めようと必死だ。

だが明と堺、二人の間に流れる空気はさらに冷たさを帯びる。


無人かれらも変異ウイルスの被害者…その者を治さずして命を奪うことが”救い”ですか?」


「随分と無人アイツらに優しいな。それも医者の矜持ってか?」


「明さん…!!」


歩の必死な呼びかけにも応じずに明は殺意を堺に向ける。


「無影衆について話せ、それと無人化についてもな。」


「無人化…一体何のことを―」


堺の僅かな動揺に瞬時に気が付く明が刀を抜き、堺に向ける。


「明さん…!!」


歩は咄嗟に明の袖を掴んだ。


「悪ぃな、嘘を見抜くのは得意な方でね。」


「院内には患者も多くいる。手荒な行為はやめて―」


堺が発言を終える前に明の刀が堺の首元に迫る。

しかし、その刀は堺に当たる手前で細い長い糸で防がれる。


「(異術…!?)」


歩はその現状を見て声を出せないでいる。

明が堺の白黒反転した瞳を見て確信に至る。


「見つけたぞ……お前が命影だな…!」


明がさらに力を込め糸を切断する。

堺は明から距離を取るが、すぐに明は流源を纏った蹴りで堺に攻撃を繰り出す。

壁に激突した衝撃で隣の部屋へと飛ばされる堺。


「歩!院内の市民を外に出せ―」


明が歩に指示をするその時だった。

鋭い糸がまるで斬撃のように明を襲う。


生裂糸斬きれついとぎり―


自分に迫る危機を察知した明が刀で攻撃を防ぐ。

弾かれた斬撃が窓に当たり、窓ガラスが砕け散る。


「明さん!!」


「問題ねぇ、行け!」


歩は部屋を出てすぐに周囲の人たちを非難するよう呼びかける。

―こちら1課、瑞野!院内で無人発見!!至急、茨城県結地市へ応援を要請します!―

歩は院内の人間に避難を呼びかけながら執行隊へ応援を要請する歩。

その頃、堺と戦闘を繰り広げる明。

互いの攻撃が両者の頬をかすめる。


「お前、強いな。(糸の異術、それをここまで使いこなせる無人か…)」


「あなたこそ、本領を出さずしてこの実力とは。」


堺は頬の傷を再生しながら口にする。

明が堺の腕を切断し、態勢を崩す。

攻撃を予測していたかのように堺は掌から糸を生成する。


縛糸鎖獲ばくしさかく


糸はまるで鎖のように形成され明の腕に巻き付く。

動きを封じられた明に畳み掛けるように堺が天井に槍上の糸を生成する。


刺糸槍降ししそうこう


明の頭上に降り注ぐ槍上の糸。

だが明は冷静に流派を繰り出す。


龍河りゅうが一刀流・遊漁滄転ゆうぎょそうてん


糸による拘束から抜け、細かい足さばきで降り注ぐ糸からの攻撃を回避する明。

明の正確無比でかつ一切無駄な動きがない戦い方に堺が翻弄される。

そして明の刃が堺の首をかすめる。


「ッ!」


咄嗟に糸で明の攻撃をずらしたことで難を逃れる堺。

畳み掛ける明。

その時だった。

突如、明の背後に迫る気配。

それを感じ取った明が回避に転じる。

振り返るとそこには可憐な少女が立っていた。

しかし、その少女にも無人と同様の白黒反転した瞳となっていた。


「なんだ、お前。」


するとその少女が自身の掌に紙を生成する。


―異術・折離紙おりがみ


生成した紙を丁寧に折り始めると明に異変が起きる。


「!!」


明の腕があらぬ方向へと無理矢理、動き始めようとする。

必死に抵抗するが、徐々に抵抗できなくなる明。


「この紙か…!」


明が自分の腕に張り付いた紙と少女が折る紙が呼応していることに気が付く。

腕に張り付いた紙を引き千切る明。

しかし、明の背後には堺の姿が。

堺の攻撃が明に迫ろうとする。


「明さん…!!」


歩が明のもとへ駆けつける。

堺の不意をついて接近する歩。


―龍河一刀流・水瀧すいろう斬り!!―


流派による攻撃で堺の首を切断する歩。

だが、首を切断された堺の身体が崩れずに歩を羽交い絞めにする。


「なっ!?」


「歩!」


堺の肉体が徐々に糸状の身体へと変わっていく。


糸法師いとほうし


歩が斬りつけたのは糸でできた堺の分身だった。

堺の本体が現れ、分身を操作する。

糸状の分身が徐々に歩や明までも包み込むように変形していく。


糸界厳牢しかいげんろう


糸がまるで二人を包む牢屋のように展開される。

さらにその糸が少しずつ閉じ始めていく。

必死に刀で閉じる牢を抑える歩。


「まずい…!!」


糸の鋭利さを刀で感じた歩は焦りを浮かべる。

このままでは切り刻まれると。

堺が糸の牢に力を込める。


「終わりだ。」


―異術・殺糸あやめいと


勢いよく糸の牢が閉じ始める。

完全に牢が閉じきる前に明が床を破壊し下の階に落ちることで難を逃れる。


「っぶねぇ~…」


下の階で倒れる歩と明。

二人はすぐに立ち上がり、堺たちに備える。

しかし、いつまでたっても下に降りてくる気配がないことから堺が逃げたことが頭によぎる。


「追うぞ、歩。」


「はい!」


歩が術式を発動する。

発動時の運が高まる効果によって、歩の向かう先に堺がいる可能性が高くなるとふんで、明は歩を先頭に走らせる。

先ほどいた診療室付近に向かう二人。

しかし、そこには堺の姿はなかった。


「明さん、そういえばさっき…堺以外にも…」


「あぁ、いたな無人が。」


堺の窮地に現れた紙を操作する少女の無人。

紙を生成するといったシンプルな異術でありながらも、堺と同様異術にかなり汎用性を持たせていたことからかなりの実力者だと歩に伝える明。

二人は診療室を隅々まで捜索する。

割れた窓の先からは国衛局が患者やその他院内にいた人たちの保護を行っている。


「明さん、これ…!」


先ほどの闘いで散らかった診療室で歩が隠し扉を発見する。

扉を開ける手段を探す歩だったが、明が流源を込めた蹴りで強引に破壊する。

その光景を見て、ため息をつく歩。

中へ入ると長い下り階段が奥へと繋がっていた。

階段を下りた先に広がる地下施設。


「ここで間違いないな。」


施設内には手術台がいくつも並び、台には血痕が残っている。

あたりには血生臭さと異様な空気が流れる。

するといち早く明が自分たちに向かう気配に気が付く。


「歩、構えろ。」


施設の奥に続く暗闇から大量の紙が二人を襲う。

紙自体には殺傷能力はない、だが明はこの紙が先ほどの少女の異術であるものと理解していた。


「歩!紙に触れるなよ!」


「は、はい…!」


次々と迫りくる紙を切り刻んでいく歩と明。

すると歩たちに襲い掛かる攻撃。


「これは…!?」


攻撃を防いだ歩が驚愕する。

目の前には自分と瓜二つの紙でできた人形が攻撃を仕掛けていたのだ。

動き自体は単調でさほど脅威ではない。

だが周囲に舞う紙で視界が制限された状態では、明との連携もうまくできない。

迫りくる攻撃にも僅かに反応が遅れる。


「歩、こっちだ!」


明が歩を呼ぶ。

施設内の細い通路に誘導する明。

歩は人形からの攻撃を退けながら明のもとへ走る。


「ふぅ…なんとか凌げましたね…」


先ほどの人形も追ってこなくなり、一息つく歩。

その時だった。

突如、明が歩に襲い掛かる。

歩はなんとか刀で明の攻撃を防ぐ。

攻撃を仕掛けた明をよく見るとそれは巧妙によくできた紙状の人形だったのだ。


「(しまった…偽物だった…!!)」


人形をすぐに破壊するが、すでに先ほど通路は紙で塞がれていた。

迂闊に近づけば紙が身体に張り付き、それこそ厄介なことになる。

明と分断されたことで歩の額に汗がにじみ出る。











その頃、明は歩が姿を消していることに気が付く。

そして紙を操る少女が姿を現す。

明は堺たちの目的が自分たちを分断することなのだと気が付いたのだ。


「…舐めた真似しやがって。」


明が静かに少女の無人に刀を向け、殺気を放つ。











明と分断された歩。

すると歩のもとに聞こえてくる足音が。

音のする方向へ刀を構える歩。

その先に堺が姿を現す。


「どうやら…分断には成功したようだな。」


「チッ…!!」


堺は指先に鋭い糸を張る。

歩は堺の冷たい覇気に翻弄されるも刀を強く握りしめる。

そして流源を最大限に開放し攻撃を仕掛ける。

堺の指先と歩の刀がぶつかり合う。

流源を纏った刀でなければ糸が切断されず、苦戦を強いられる歩。

素早い剣速で堺の攻撃よりも早く刀を振るも、その攻撃は全て堺には届かない。


「君に…少し質問したいことがある。」


「なんだと!?」


堺は歩の攻撃を容易に受け流しながら口にする。

戦闘中にも関わらず敵が自分に問うこと。

それは―


「君は執行隊に入って、命が奪われる瞬間を何度見た?」


「……。」


その問いを聞いて歩の動きが止まる。

歩の脳内にこれまで対峙してきた無人が思い浮かぶ。

国衛局員だった頃、友人を殺害した無人。

実戦訓練の際に遭遇した子供の無人。

霧峰町の旅館で闘った千羽せんば

そして数日前に虚川区で対峙した弟無人。

自分で手にかけた者、そして仲間が執行した者。

だが、どの無人も歩はその無人が命を落とす瞬間を見ていた。

その光景が一気に脳内に浮かぶ。


「何度も…見た。」


「では、執行隊に入って……君はいくつ命を救った?」


「なん…だと…?」


歩が堺に聞き返す。

歩にはなぜ、敵がこのようなことを聞くのか理解できなかったからだ。

たしかに無人も人と変わらない生命だ。

歩はそれを実戦訓練の扇崎せんざきとの会話で重々理解している。

命の重さを受け止めながら無人を執行してきた。

無人に立ち向かうため、強くなった。

流源をコントロールし、流派を会得し、今では術式の発現にも至っている。

だが、歩は堺の問いに迷いが生じていた。


「その様子だと、一度もないようだな。」


堺が静かに吐き捨てる。

その表情はどこか歩に対して憐れみを込めたように見えた。

歩は堺に言われたことを否定するかのように声を荒げる。


「そ、そんなことはない!!現に無人おまえらを執行してる!それで市民の命を―」


「”間接”的な話じゃない、”直接”人の命を救ったことがあるのか聞いているんだ。」


先ほどまでの憐れみを込めた口調とは打って変わり、堺が歩に被せるように言い放つ。


「おかしいと思わないか?人を救うと掲げておきながら、殺すための技術を磨いていることを。」


「…!!」


わかっていた。

歩とてバカではない、堺の問いを考えているうちに気が付いてしまったのだ。

自分が無人を執行することに必死になるあまり、最も大切なことを忘れていたことを。


「院内の患者や他の医療従事者はどうした、病院ここには君たち二人しか来ていないはずだが?」


「だ、だまれ…!!」


歩は敵の言葉を頭から振り払い刀を握りしめる。

そして堺に再び攻撃を仕掛ける。

だが、堺は迷いのある刀を向けて通用するような相手ではなかった。

歩の攻撃を意図も容易く避け、歩の腕と壁を糸で縫うように貼り付けにする。


「うぐッ!!」


「急所は避けている。」


肩にも槍状にした糸を突き刺し、歩を固定する堺。

そして堺は歩の眼をじっと見る。


「たしかに私は無人だ。命を奪う選択も犯してきた。だが…君より多くの命を救ってきたのも事実だ。」


「何が言いたい!!」


「私も君と同じだ。…救いたいんだ。」


「!!!」


「ここで君の命を奪うことは私にとっては容易なことだ。だが…私は”諦める”つもりはない。」


そう口にする堺。

堺の表情は本気そのものだ。

だが、それと同時にどこか朧げな表情が歩に目に映っていた。

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