11話「生殺」
天運の檻・11話になります!
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血を流す未紗を抱える歩。
足を重点的に大きく負傷した未紗。
「大丈夫か!?未紗…!」
「うっ……歩…」
まだ意識はある。
歩は未紗の負傷した部位に手当を施す。
蒼は周囲に気配を探りまだ無人が近くにいることを感じ取る。
だが未紗はすぐに焦りの表情を浮かべ、蒼に自分が視た未来について口にする。
「蒼先輩!これも罠です…!」
未紗が視た未来―
それは、蒼が自身を抱え吊橋付近に構えるテントに向かう道中、無人が良奨や美衣、国衛局員たちを襲う様子だった。
無人は未紗を戦闘不能に追い込んだ後、あえてトドメを刺さないことで歩たちをこの場に引き留め、自分たちは再び現場で殺戮を行おうとしていたのだ。
兄弟無人による策略にまたしてもはまる三人。
未紗の未来視は最大で1分間の未来しか視ることができない。
つまり1分後には殺戮が開始される―
「歩、急ぐよ…!」
蒼は自身の流源を開放する。
凄まじい流源量が解き放たれ周囲に風が吹き荒れる。
全速力で現場へ急行する蒼。
―その時だった。
森からナイフが放たれ蒼を襲う。
蒼はすぐに刀でナイフを叩き落とす。
「行かせると思うか?」
弟無人が森から姿を現す。
蒼が周囲に感じ取っていた気配は彼のものだった。
弟無人は先に兄を現場に向かわせ、自身は歩達の足止め役を担ったのだ。
蒼は弟無人に刀を向けるが―
「蒼さん!ここは俺がやります!!」
「歩…」
蒼の前に立つ歩。
歩は理解していた。
ここで弟無人の相手をしていればそれこそ、彼らの思うツボなのだと。
蒼だけであればまだ追いつく。
蒼もまた、そのことを理解していた。
だが、今回の闘いから相手の無人は手練れなのは明白。
経験の浅い歩をこの場に残すことは大きなリスクを伴う。
それでも蒼は自身の師である明が歩を執行隊へ入隊させた選択を信じる。
「すまない、ここは任せるよ、歩。」
蒼はそう言い残し、凄まじい速度で走り抜ける。
弟無人は蒼を止める素振りを見せることなく、ナイフを取り出す。
歩に狙いを定めたのだ。
「まずは…お前からだ。」
歩は刀を構える。
するとすぐに未紗が歩に声をかける。
「気を付けて!アイツの異術は―」
「遅い。」
「!!」
すると歩の肩が斬りつけられていた。
弟無人はまだ目の前に立っている。
にもかかわらず自分の肩が斬られたことに歩は困惑する。
すぐに弟無人が歩に襲い掛かる。
ナイフと体術による接近戦、さらにはナイフを投げることで中距離にも対応する弟無人。
歩は自身の流派で攻撃を受け流すが、気が付くと身体中は次々と斬りつけられていた。
「(なんだ…これは…!?)」
弟無人の異術は、自身の血肉で生成したナイフによる軌道上に刃を具現化する。
それにより彼の攻撃は避けてもその後、遅れて刃が攻撃の軌道上に出現する。
歩は目を凝らしナイフの軌道上に刃が出現していることに気が付く。
―龍河一刀流・遊漁滄転!!―
弟無人の攻撃を回避し続け、隙めがけて歩の攻撃が炸裂する。
しかし、急所を避け負傷覚悟で歩に攻撃を行う弟無人。
「(コイツッ!…刺されても…!!)」
無人の再生能力を存分に活かして攻めに転じる弟無人。
複数のナイフを宙に浮かし、その隙に体術で攻め、ナイフの軌道を歩に読ませないよう闘う。
巳雲との訓練で流派の練度を向上させた今の歩でも防御に転じるので精一杯だった。
歩は自身の得意な流源操作で攻撃の一つ一つの威力を上げる。
だが、弟無人には決定打を与えられない歩。
すると歩の脳内にかつて感じたことのある謎の衝撃が走る。
「うっ…!(またこれかっ…)」
脳内に響く電撃が走ったような感覚。
歩はその感覚に気を取られ、その隙に弟無人の攻撃を受ける。
ナイフによる攻撃、そしてその後に同じ軌道上に現れる刃が歩の身体に深手を与える。
「はぁっ……はぁ……っ」
息を荒げる歩の視界が、赤く滲む。
流れる血が地面に滴り、土の匂いと混ざる。
その時、未紗は額の汗を拭いもせず、荒い呼吸を整えながら弟無人を睨みつける。
薄紫色の瞳が光を帯び、術式が発動する。
「これは……!!」
未紗が視た未来、そこには―
歩に致命傷を与え、すぐにこちらに接近し弟無人に胸を貫かれる自身の姿が映っていた。
「歩!!…右だよ!!」
未紗の叫びが響くと同時に歩は反射的に身を翻す。
「(今のが前に未紗が言ってた未来視……!?)」
歩は息を呑む。
未紗の指示がなければ、確実に死んでいた。
だが──それを見た弟無人が、静かに口にする。
「未来視……やはり厄介だな。」
次の瞬間、弟無人は疾風のように動いた。
歩の動きを読み切り、彼の腕を掴むと、傍らの木へとナイフで縫い付ける。
「ぐっ……!!」
激痛に顔を歪める歩。
血が木肌を伝い落ちた。
「次はお前だ。」
弟無人が未紗に向かって跳びかかる。
未紗は術式を直前に使用していたことで未来視を発動できない。
さらに今の状況では動くことすらままならない。
動けない未紗に弟無人が迫っているのを見て、これまでにないほどの焦りを浮かべる歩。
「そんなの、させるかよ……!」
歩は腕に刺さったナイフを、力任せに引き抜いた。
皮膚が裂け、血が噴き出す。
それでも一歩、また一歩と、弟無人へと踏み出す。
歩は自身が放てる最大出力で流源を足に込め、未紗の前に飛び出す。
そして弟無人の一撃を胸で受け止める。
「歩っ!!」
弟無人のナイフが歩の胸を貫く―
そのはずだった。
だが、刃はわずかに逸れ、歩の肩口を掠めただけに留まる。
まるで、“偶然”が彼を守ったかのように。
刃はわずかに心臓を逸れていた。
歩は息を荒げながら、立っていた。
歩は自身の変化を直感的に感じ取った。
流源とは異なる”何か”がうちに感じるのを。
「これが……俺の…術式…?」
弟無人が歩の懐に接近する。
刃が歩の眼に迫る。
「くっ……!」
歩は咄嗟に身を翻すが、避けきれない――はずだった。
だがその瞬間、弟無人の足元の枝がわずかに折れ、姿勢が崩れる。
わずかに放たれたナイフの軌道が狂い、歩の頬を掠めただけに留まった。
「(なんだ…この違和感は…)」
弟無人が自身の身に起きた違和感に気が付く。
歩は距離をとり、ナイフの軌道上に現れる刃を回避する。
だが、すぐに弟無人は歩に目掛けてナイフを投げる。
しかし、歩はあり得ないほどの正確さで飛来するナイフを弾き返し、弟無人の腕に傷を刻んだ。
「……運のいいやつだ。」
弟無人が冷静に口にする。
血を流しながらも、歩は静かに笑った。
「いいや掴んだんだよ、」
歩は自身の身に起きた現象を確信をもったような表情で弟無人に返す。
――”運”をな。――
それを聞いた弟無人が僅かに目を見開く。
「運を…掴んだと…?」
運とは、生命であれば誰しもが持ちうるもの。
この世は巡り合わせの連続。
その巡り合わせを左右するものが”運”だ。
運が持つ摩訶不思議な作用を掴むことは、この世の理に触れることを意味する。
歩の術式は”運”。
術式を発動すると自身の運を貯め続けることができる。
運の蓄積には上限があるが、運を貯めた影響により自身の身に起きるあらゆる現象に運の良い方向へと進む。
歩はこの術式を発現して、弟無人の攻撃から致命傷を避けていたのだ。
物理現象を曲げたことは起こせなくとも格上相手にも十分通用しうる術式。
歩は運を高めている今の状態こそが、弟無人を倒せるチャンスと踏んだ。
「(少しずつ流源も消耗してる…傷も深い…短期決戦に持ち込む…!!)」
歩は自身も流源を全て解放し、弟無人に挑む。
「美衣ちゃん、どう?大丈夫そう?」
「うん、ありがとう良奨くん。」
良奨から飲み物を受け取る美衣。
美衣は術式の効果が切れた後、蒼の指示で休息をとっていた。
休息を終えると美衣は再び周囲の鳥に触れ術式を発動する。
だが、すぐに何者かに撃ち抜かれる。
「!!」
すると周囲から悲鳴が聞こえてくる。
良奨と美衣は悲鳴のした場所へ向かう。
そこのは血を流し倒れる国衛局員。
そこには事件の目撃者でもある城倉もいた。
「や、やめてぇ~!!!」
「城倉さん…!!」
良奨が刀を抜き、城倉のもとへ走る。
そこに一発の銃弾が良奨を襲う。
「良奨くん!!」
美衣は刀を構える。
そして良奨を守るべく流派を使用する。
―獅壕一刀流――
だがすでに弾丸は自分の目の前にも迫ってきていた。
流派が間に合わない。
その時だった。
―龍河一刀流・水瀧斬り―
瞬く間に美衣、そして良奨に迫る弾丸を斬る。
姿を現したのは―
「蒼先輩!!」
「遅れてすまない、後は俺に任せてくれ。」
蒼は弾丸が放たれた方向を見つめる。
すると銃を持ちながら姿を現す兄無人。
「お前か!思ったより早くきたな――」
兄無人が言い終える前に懐に接近する蒼。
蒼の斬撃をなんとか回避する兄無人。
兄無人は自身の掌から銃弾を生成し、銃に装填する。
そして至近距離で蒼に発砲を行う。
蒼は銃弾を回避するが、すぐに銃弾は軌道を変えて美衣たちに襲い掛かる。
「ハハッ!!これが俺の能力だ!!」
兄無人の異術は、自身の血肉で生成した銃弾による軌道を自在に操作する。
蒼は美衣たちに迫る銃弾を叩き落としていく。
「ここまで銃弾をたたき落としたヤツは初めてだ!!」
兄無人は次々と発砲していく。
銃弾は縦横無尽に蒼を襲う。
蒼は兄無人からの攻撃を良奨たちから守りつつ、冷静に兄無人を分析する。
「(弾切れを起こさない…血肉で銃弾を生成しているのか……なら…)」
「!?」
突如、兄無人が息切れを起こし始める。
だがそれでも攻撃の手を緩めることなく蒼に銃撃を繰り出す。
「疲れてきただろ?休むことをおススメするよ。」
「黙れ…!!」
疲労によって徐々に銃弾を生成できなくなる兄無人。
先ほどまでの勢いがなくなっていく。
「(なんだこれは!?アイツの術式か!?)」
兄無人は蒼の術式を警戒し、距離をとる。
しかし、その動きですらも鈍いことに気が付く。
蒼は静かに口にする。
「お前が俺に接近を許した時点で、勝負はついているよ。」
「うるせぇ!!」
蒼は先ほど兄無人に接近した際に兄無人の身体に触れていた。
術式は自身あるいは自身の手が触れた対象に能力を適応する。
蒼の術式は”劣化”。
触れた対象にあらゆる劣化現象を引き起こすことができる。
無生物であれば、物体は脆くなり、ひび割れを生じる。
そして生物であれば、身体能力や自身の能力の著しい低下を招く。
蒼は兄無人の”身体能力”を低下させた。
それにより無人としての身体能力の低下、さらには異術にまで影響が及び始めていたのだ。
「自分の快楽のために殺しをする…だからお前は執行されるのさ。」
「クッ!クッソォ!!!」
兄無人は蒼に目掛けて発砲する。
蒼は静かに刀を構える。
―龍河一刀流・爽天鮫牙―
自身に迫る銃弾を音を歪める勢いで突く蒼。
その突きは銃弾を裂き、そのまま兄無人の肩を貫く。
突きが兄無人に当たった瞬間、突きの衝撃が広範囲に広がり兄無人を襲う。
「グハァッ!!」
体内に宿した核が破壊され、兄無人は苦しみながら息絶える。
蒼は兄無人の消えゆく亡骸を見下ろしながら刀を鞘に納める。
「執行完了。」
その頃、弟無人と激しい戦いを繰り広げる歩。
運を高めたことにより、本来致命傷となる攻撃も浅い傷に留まり、弟無人と互角に渡り合う歩。
しかし、徐々にだが歩の動きに異変が生じ始めていた。
その変化に気が付く弟無人。
「(まずい…!!…運が足りなくなっている…!!)」
発動中、運を高める歩の術式。
しかし、高まった運は使い切ればそれまで。
歩は弟無人との激しい戦いで高めた運を徐々に消耗していた。
さらに術式発動による流源の消耗も合わさり、歩の息がさらに荒くなる。
そして、弟無人もまた歩の運が尽きようとしていることに気がつき始めていた。
「(先ほどよりも鈍い…運を使い切りかけているな。)」
弟無人は勝負に出るため、無数のナイフを生成し歩に投げる。
ナイフの攻撃を防いでも、その後に具現化される刃は防ぐことはできない。
今の運では致命傷も避けることは不可能だろう。
歩に緊張が走る。
――その時だった。
兄無人が倒されたことを感じ取る弟無人。
「兄貴…」
それにより弟無人の異術が解除される。
歩は迫りくるナイフを全て防ぎきるも異術の発動がないことを疑問に思う。
「(攻撃がこない…?)」
だが、この隙を好機ととらえた歩は弟無人に向かう。
弟無人は歩の接近に遅れをとる。
―龍河一刀流・旋鯨波!!!―
歩は刀を逆手持ちにして、強力な一撃を弟無人に叩き込む。
ナイフによって防ごうとするもナイフを破壊し、胸を切り裂かれる弟無人。
胸の内にある核ごと斬られることで血を吐く弟無人。
そのまま大木にぶつかり倒れる弟無人。
歩は流源を大きく消耗したことで立っているのも限界だった。
―運の……いいヤツだな…―
「!!!」
声をする方向へ刀を構える歩。
そこには胸を斬られ血を流す弟無人の姿が。
すでに核を破壊され、立つこともできず大木に腰を下ろした状態で歩を見つめる。
歩は弟無人の胸から見える核を見る。
「その核…!…お前、元から……」
「あぁ…俺は…兄貴と核を…分けた。」
弟無人の核はすでに半分消失していた。
それは歩の攻撃によるものではなかった。
明らかに人為的に切除された跡があったのだ。
無人の核を共有する身であるからこそ、弟無人は兄無人の死を感じ取ったのだ。
そして歩は弟無人を見て一言口にする。
「なんで……泣いてる…」
弟無人は静かに涙を流していた。
徐々に肉体が塵と化していく。
あとは消失するのを待つのみとなった弟無人の脳内に蘇るある記憶――
―兄を救いたいか?―
―救えるのか…?―
―方法はある。一種の賭けだがな。―
―俺たちは殺し屋だ。今さら恐れるものなど―
―無人になってもか?”無人化”したお前の核を兄に半分移植する。それでも―
―……あぁ、やってくれ。兄貴を救うためだ。―
思い出す記憶。
それは自らを犠牲にしても、兄を救うため無人となった時の記憶。
「だが……救えなかった。」
いつも兄の背中を追いかけていた。
兄が危険に突き進めば、自分もその道を進んだ。
兄を失いたくない一心で。
だが今思えば――
「俺は…止めるべき…だったのか。」
そう言い残し弟無人は消失していく。
己の手を血で染めた兄弟もまた生にしがみつこと必死だった。
あたりには静かな風が吹く。
歩はようやく闘いが終わったことを風と共に噛みしめる。
「…ん?」
すると弟無人が消失した場所にひとつの手紙が落ちているのを見つける歩。
歩は手紙を手に取り、中身を開く。
無人化して日の浅いお前たちの肉体は不安定だ。
人を喰らえ、そうすれば退化は免れる。
移された核がどこまで持つかは知らないが、
異常があれば我々、無影衆を頼るといい。
―命影―
「無影衆…?」
歩は謎の組織の名を口にする。
それは戦場の静寂に紛れてもなお、どこか不吉な響きを残す言葉だった。
その後、応援に駆け付けた国衛局員たちによって救助される歩と未紗。
歩たちは蒼たちとともに救助され、執行隊本部へと帰還した。
蒼がまとめた任務報告書は即座に国衛局本部へと送られ、任務は「完了」として処理された―――はずだった。
だが、報告書が上層部に届いた数時間後。
執行隊本部に急報が入る。
―術式発現者、瑞野 歩の危険等級認定審議を至急行う。―




