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天運の檻  作者: じょじょ
第1章・執行隊入隊編

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1話「沈む日に」

近未来の日本を舞台とした異能力系バトル小説です!

不定期更新ですが、ぜひ気になる方は見てみてください!

かつて、この国は他国との交流を交わし、多様な文化や技術を取り入れながら平和な日々を謳歌していた。

街には多くの人種、異なる文化を持った人々が暮らし、世界に多様性が広がった時代へと進んだ。


だが、そんなある日。


突如、日本国内にウイルスが蔓延。

ウイルスは瞬く間に国内全域へと感染を広げた。

感染者の体内には絶え間なく遺伝子の変異が生じることで、やがて死に至る。

日本政府は感染の拡大を懸念し各国との会談の末、海外との繋がりを断ち日本は江戸時代以来の鎖国を実施する。

日本はただちに蔓延したウイルスを治療する抗ウイルス剤を開発。

全国民に抗ウイルス剤を投与したことで国内のウイルスの感染力が低下し、やがて国内に蔓延したウイルスは完全に消失したことが確認された。

しかし、抗ウイルス剤を投与される前に変異した国民の成れの果て”無人むと”の集団と日本政府の戦争が勃発する。

なんとか無人の討伐に成功した日本政府だが、壊滅的な被害を受けた政府は大規模な政府改革が必要とされた。











「えーそして現在では、あらゆる政府機関を統合し―」


「はいはい、今の”国衛局こくえいきょく”が誕生したんだろ?」


教師を話を遮る青年。

その青年は椅子に寄りかかり授業に適さない態度で教師を見ていた。


「…瑞野みずのくん、話は最後まで…」


チャイムが鳴り響く。


「よし、鳴った!いこーぜ!みんな~!」


廊下中に鳴り響くチャイムを聞いて、一斉に生徒が教室を飛び出る。

教師は空となった教室でポカーンと口を開けて呆れている。


あゆむ!いいのか?高橋先生の授業あんなにして」


「いいんだよ、歴史の授業なんて聞き飽きたし。」


そう口にするのは、先ほど教師の話を遮った青年、瑞野みずの あゆむだ。

歩は風でなびく茶色の髪を少し触りながら隣の友人たちに答える。


「でも歩はこう見えて、この学校一の成績優秀者だしな~よくそんな授業態度でそーなれるよな。」


「実際、この学校で国衛局の推薦状もらってるのコイツだけだしな。」


「絶対、運がいいだけだろ。ほとんど先生の邪魔しかしてないぞ?コイツ。」


歩の友人たちが次々と口にする中、歩は涼しい顔をしていた。

そして友人の肩を叩きながらこう言った。


「はは、バーカ。運は自分で掴むんだよ。」


歩は三人の友人に囲まれながら、休み時間を満喫する。

放課後、帰路につく歩と友人達はグランドで一人走り続ける学生を見ていた。


良奨りょうすけのやつ、まだ走ってんな。」


「歩、ドベのことなんかほっとけよ。」


息も絶え絶えで走り続ける良奨と呼ばれる人物。

その細身の体型を見れば、誰しもが運動にはあまり適していないと判断してしまうような容姿。

そんな良奨に何か思うことがあるのか見つめ続ける歩。

友人が歩と同じく良奨に視線を向けながら口にする。


「でも、アイツたしか"執行隊"志望だったよな?」


「マジで?”術式”も発現してないのに笑える!」


友人たちはグランドを一人で必死に走り続ける良奨りょうすけという青年を笑いながら歩く。


「つーか、術式なんて発現したら、さいあくアイツ監獄行きじゃん!」


「術式発現するって言ってみりゃ病気抱えるってことだろ?大丈夫かよアイツ。」


そんな友人の発言に歩は良奨を横目に友人たちと帰路を歩く。

ある日、歩はクラスメートに置いていかれる良奨に手を差し伸べる。


「ほら、掴まれよ。」


「あ、ありがと…歩…」


歩と良奨は二人で水分補給を済ませながら、休憩をする。

そんな時に歩が良奨に質問する。


「…執行隊を志望してるって…ほんとか?」


それを聞いた良奨は次に自分の発言を聞いた歩がどのような反応をするのか察したように口にする。


「うん…」


「やめとけよ、あそこは人権のないヤツらがいく場所だぞ。」


歩の心無い発言に良奨は感情的になる。


「で、でも…!…あの人たちは別に罪を犯したわけじゃないんだ…!…ただ…」


「ただ、術式が危険なだけ…って言いたいんだろ?」


歩の発言に良奨は頷く。

歩はため息をついた後、良奨の肩を触りながら話を続ける。


「あのな、お前の幼馴染だから言ってんだよ、お前じゃ無理だって。」


「でも…あの人たちが…俺らから…無人むとの脅威を…」


「無人なんかもういねぇよ。」


歩は良奨の発言に呆れた表情でその場を去る。


「お前、ドベの癖してそーゆー頑固なとこ、直したほうがいいぞ。」











月日は流れ、歩たちに卒業の日がやってきた。

外はまだ寒さが残るものの、次なる春に備えて木々には花が芽吹く準備をしている。

みな、卒業後にはそれぞれの進路が待っている。

自身の進路を輝かしく語る学生、

不満は残るものの自分の進路を突き進もうとする学生、

そんな中で歩は普段と同じように友人たちに囲まれながらクラスメートと会話をする。


「よかったな、お前ら。」


「いやー何とか俺達も国衛局に入れたわ〜…」


「おい、俺も同類扱いすんなよ、俺は歩と同じで推薦状で入ったからな?」


「成績に差はかなりあるけどな〜」


「うるせぇ!」


笑い声が響く教室。

そんな教室の隅で静かに自分の進路を確認して、気合いを引き締める良奨。

それを遠くで見つめる歩。


「おい、良奨。」


歩が良奨が持つ進路先の書類を見る。

そこには”所属先・執行隊”と書かれていた。

歩が僅かに怒りの眼差しと軽蔑の表情を浮かべる。


「お前…ほんとにバカだな。」


歩は一言だけそう言ってその場を去る。

良奨の顔を見ずに。











「(よし、行ける…)」



服装を整える歩。

体にフィットした特注の黒スーツに拳銃を装備し、歩は僅かに髪を整えて家を出る。

歩は大きくそびえ立つ高層ビルを見上げる。

すると歩の肩を叩く人物が。


「お、いたいた〜行くぞー歩〜」


それは学生時代の友人だった。

他の二人の友人も集まってくる。


「はぁー緊張するなぁ…」


「お前、なんかスーツ似合わないな〜」


「ほら、いいから。」


歩は二人を引っ張り、ビル内部へと入る。

内部は同じ服装している者たちが。


「これが…国衛局…」


歩の横に立つ友人たちもみな、緊張した表情を浮かべる。


国衛局

日本政府の総合機関にして、日本の心臓部。

任務は部署によって異なり、かつての立法機関、行政機関、司法機関および公安としての仕事全てを受け持つ。


歩は内部の様子を見て、少し圧倒されるもいち早く行動する。


「いくぞ、お前ら。」


歩達は研修会へ参加し教官たちの話を聞くことになる。

緊張した空気が部屋に流れるなかで、国衛局の教官が話し始める。


「皆も知っているように現在、我が国では"術式"というものが存在する。

 これは君たち全員が内に秘める可能性のある特性だ。」


「(またこの話かよ…)」


「(いいから聞いておけって…)」


友人たちが学校で何度も聞いた話を再び聞いたことで呆れた表情を浮かべる。

話をする教官が目の前を通り、友人たちは慌てて姿勢を正す。

かつて国内に蔓延し国に大きな損害を与えた変異ウイルス。

しかし、そのウイルスによってもたらされたのは何も厄災ばかりではなかった。

変異ウイルスによって従来の日本国民にはなかった要素が発現したのだ。

その一つが”術式”だ。

以降、日本国民には潜在的に術式を保持し、術式を行使できる”術式発現者”が生まれるようになった。

術式は個人によって能力が大きく異なり、時に国や街を脅かす危険性を秘めていた。

そこで国衛局は”危険等級”とよばれる術式発現者の危険度を指し示す階級を設けた。

術式発現者はS〜Cの等級に区分される。

この国の存続を脅かす危険性のある術式を保有する危険等級S、

発見次第、速やかに無力化が義務付けられている危険等級A、

国の保護対象である危険等級B、

そして国の規定により安全と判断された術式を保有する危険等級Cがある。


「お前たちは我々国衛局が定めた規定のもと、日本各地に存在する未登録の術式発現者を調査及び取り締まることが仕事だ。」


ー返事は?―


―はい!!!―


皆が一斉に声に出す。


「よし、それでは早速仕事に取り掛かってもらおう。」


歩達は友人と同じ班で現場へと向かう。

現場に到着すると上官の指示で、街の人々に調査を行っていく。

術式発現者の中でも、身内で発現してしまった者は取り締まりを恐れ、術式発現者を匿ってしまうケースがある。

歩達は上官の指示により、術式発現者の可能性が高い人物が住む家を特定する。


「銃を抜け。」


上官は冷静に歩たちに指示する。

そして上官の合図で一斉に突入する。


「国衛局だ!動くな!」











伝えられた作戦通りに任務は完了する。


「いやーお手柄だな!歩!」


「まさか、初日であんな活躍するなんて!」


友人たちは突入した歩の活躍を讃える。


「いや、今回は相手が危険等級Cだったから、別に特別なことじゃないさ。」


「でもズルいよなー、歩が突入した場所にいたんだろ?相変わらず運いいよな~」


歩は車に乗り込みながら笑顔で返す。


「だーから、運は自分で掴むもんなんだよ。」


国衛局本部に到着すると早速、歩の活躍は同期の中で広がりつつあった。


「俺らの同期ではやくも出世コースじゃね?」


「いや!俺だって家の裏側じゃなきゃ歩と同じくらいには…!」


その様子を遠くで見つめる一人の女性。

歩はその女性の視線に気が付き目を合わせる。

年は自分と同じくらい、日本人には珍しい”薄紫色の瞳をした女性”だった。


「(服装的に…国衛局の人かな…?…でも…)」


歩は自分とは違う何かに引っかかりを感じるも、別の部署の子なのだろうと考え友人たちの輪に再び戻る。

それから数週間。

歩は再び友人たちと共に任務に出る。


「ったく…なんでよりによって今回の責任者がお前なんだよ…」


「俺に言われても、上官の命令だろ?」


前回で活躍した歩の功績を讃えて、今回の任務の責任者は歩に任命された。

今回も前回と同様に術式発現者の調査と取締りが任務だ。

歩は車から降り、友人たちと目的地へと向かう。


「今回は町とかじゃないんだな。」


「だな、こんなとこに人なんかいるのか?」


友人は目の前の小さな村を指さす。


「おい、失礼だろ。てか俺も田舎出身だぞ、なめんな。」


夕焼け空が歩達を照らすも、村には夕日の光が届かず暗いまま。

そんなよくある光景を歩は何か違和感を感じていた。


「ん?どした歩。やけに大人しいな。」


「そーだぞ、お前が今回はリーダーなんだからしっかりやれよ。」


「あ、あぁ。そうだな。」


「日が暮れる前にさっさと終わらせようぜ。」


友人の一人が先に村へと入る。

その後に続く歩達。

歩達は早速、村中の人々に声をかけて術式発現者の居場所を特定するために調査を行う。

そして、調査をしてしばらくが経ち…


「歩、いいか?」


「もしかして、お前も…」


調査を進めるうちに、この村人達で共通の発言をしていることに歩達は気が付く。


”この村には人を喰う怪物が住んでいる”と。


「ここの村に代々伝わる伝説か何かだと思うか?」


「田舎の生まれの俺でも古い文化だぞ、それ。」


「うーん、わからない…けど、もしかしたら術式発現者の術式が…」


「!!」


歩の発言を聞いた友人たちに緊張感が漂う。


「だとしたら…」


「あぁ、危険等級もかなり上のはずだ。」


「応援を呼ぼう。お前たちはもう少し調査を。」



歩は村の入り口付近で国衛局へと連絡を入れる。

その頃、友人の一人は村人の中に先ほどからずっと苦しそうに息を荒げる人物を目撃する。



「あの、大丈夫ですか?何か苦しそう―」


そう言ってその人物を振り向かせると…


「!!」


友人が驚愕する。

その瞬間、村人が友人に襲い掛かる。

友人は為す術もなく、首を嚙みちぎられ、その場に倒れる。


「きゃああああー!!!」


すぐに村人の悲鳴から歩や他の友人たちも様子に異常な事態に気が付く。











ー報告、東京都江実谷えみがや区七番地付近の小村で”人を喰う怪物がいる”との連絡、速やかに周辺の執行隊は急行せよー


「はぁ~…行くか…」










村に現れた怪物は村人を次々と襲い始める。

村人は恐怖と混乱に駆られ、逃げ惑う。

歩は怪物に首を噛みちぎられた友人のもとへ向かう。


「おい、しっかりしろ!俺だ!」


すでに友人は息絶えていた。

歩の脳裏にはこれまで笑って過ごした友人との記憶が蘇る。

友人たちは拳銃を取り出し、発砲するも怪物を捉えることができないでいる。


「おいおい…なんなんだコイツ…!」


「危険等級も表示されない…!」


「危ない!」


歩が声をかけるが、友人の背後には怪物が…

抵抗する間もなく、友人が怪物によって頭を砕かれる。


「クッソー!!!」


もう一人の友人が発砲した銃弾が怪物に直撃する。

だが、怪物はゆっくりとこちらを見つめる。

その瞳は白目と黒目が反転しており、到底人間とは思えない牙を生やしていた。


「ウソ…だろ…」


友人は後ずさりしながら逃げようとする。

だが、友人は逃げる間もなく床に叩きつけられ、内臓が飛び出すほどに潰された。


「やめろぉおお!!」


歩が銃を向けて撃つ。

だが、弾丸は霧のようにすり抜けた。

足が動かない。体が震えている。

怪物はその後も村人を襲い始める。

歩はすでに恐怖とこれまで共に過ごした友人を一瞬にして無くしたことで立ち尽くしたままだ。

村に火が付き、悲鳴の声が鳴り止む。

怪物が歩の目の前にやってくる。

怪物はヨダレを垂らしながら歩を見つめる。

そして歩に飛び掛かる。

その時だった。


「ッと!」


怪物が目の前で首を刎ねられる。

歩の目の前に立つ人物。

その人物は今の日本人に似つかわしくない、金髪に青い瞳、肌の色も白かった。

壊れた通信機のようなものを腰にぶら下げ、胸には指輪をネックレス状にして身に着けている。

そして歩が着ている国衛局指定の黒スーツの内に着るYシャツに刀を握っていた。

歩は首を切り落とされ、灰のように崩れていく怪物の身体を見つめる。

崩れ落ちたように膝をつく歩。

全身から力が抜ける。


「なんで…俺だけ……」


「よぉ、生きてるか~?」


金髪の青年が歩の頭をつつく。

青年の表情はどこかふざけているようで、けれど眼差しは真剣だった。


「安心しろ、無人は執行した。」


「無人…?」


歩は今の現状が正しく理解できないでいる。

そんな歩をよそに、青年は刀を肩に担いで少しだけ微笑んだ。


「にしても生存者一人とはな~

 お前、運が良かったな。」


その言葉を聞いて、歩はこれまで自分に言っていた言葉を思い出し、拳を強く握った。


―運は自分で掴むもんなんだよ―


友人を犠牲に生き残った。

こんなことが運なのかと自分に問う歩。

青年は歩を助けるとすぐに村の入り口に留めていた車に乗り込もうとする。

日が沈みつつある中で歩は青年に問う。


「あなた達は誰…なんですか…?」


「俺か?俺は執行隊だ。」


「執行…隊…」


青年の言葉を聞いた歩は自分の脳裏の奥にしまわれていた記憶が蘇る。

それは執行隊に憧れを抱く良奨の姿だった。

歩はゆっくりと立ち上がる。

両脚はまだ震えていたが、目は真っすぐ前を向いていた。


「俺を…執行隊に入れてください。」


それを聞いた青年は立ち止まる。

青年は歩のスーツについた国衛局証、そして周囲の状況から立場を察する。


「お前、国衛局の取締課だろ?キャリア捨てることになるぜ?」


「……俺のせいで死んだんだ」


友人も村人たちも、自分がいつも通りの運の良さで任務をこなし、何も疑わなかったからこんな事態を招いた。

それだけじゃない。

無人の存在を真に受けず、良奨の言葉をバカにした。

自分が運を掴むと口にしながらも実際は運がいいだけだった。

歩の目に、一筋の涙が滲む。


「もう、”偶然”に任せたくない。救われる側じゃなく、…運は…俺が掴んで救う側でいたいんです。」


青年はしばらく黙ったまま、歩の目をじっと見つめた。

そして、ふっと口角を上げる。


「…そういうやつ、嫌いじゃないぜ。」


青年はくるりと背を向けて、歩に背中を見せる。


「来いよ、地獄の底でも掴めるか、お前の“運”を見てやるよ。」


歩は拳を強く握り、踏み出した。

落ちる夕日が、彼の影を長く伸ばしていた。

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