はじめての魔法
まぁとりあえず言われた通りやってみるか。
僕は、そこら辺に生えている草に向かって詠唱を唱えた。
「世界に散りばめられし魔の力よ。我のもとへと顕現し、その役目を果たせ」
すると、空気がぴんと張りつめた。
静かに、でも確かに、何かが集まってくる感覚。
目には見えないけど、心臓に向かって力が流れ込んでくるのがわかる。
ドクン、ドクンと鼓動が強くなり、体中に熱が満ちていった。
「すげぇー!!」
体の奥から湧き上がってくる力に、自然と声が漏れる。
肌が少しざわついて、鳥肌が立った。
「みのる、すごい!!」
ガキがぱあっと笑顔を見せてくれる。
嬉しそうに目を輝かせていて、僕もなんだかくすぐったくなった。
でも、一回の詠唱じゃそこまで魔力は溜まらなかった。
だから僕は、木や草に向かって何度も詠唱を繰り返した。
静かな森の中で、言葉が何度も空気を震わせる。
地味ではあったけど……正直、かなり楽しかった。
そうしているうちに、僕のレベルは十に達した。
一レベル上がるごとに二千ポイント。つまり、合計で二万ポイントだ。
「ふっ……始まったな、僕の伝説が」
誰に聞かせるでもなく、そんなセリフを呟いてみた。
興奮しながら、僕は氷魔法、水魔法、炎魔法、そして重力魔法を習得。
これで残りは一万六千ポイント。
まずは水だ。
喉が渇いていた僕は、水魔法を発動してみた。
すると――
「……少なっ!!」
手のひらから出てきた水は、コップ一杯にも満たない量。
勢いよく出したのに、全部地面に流れてしまった。
僕は慌てて魔法の詳細を確認する。
「水の出る量:百ミリリットル……?」
「まぁ、まぁ、落ち着こう」
どうやら魔法はポイントで強化できるようだ。
水魔法の場合、一ポイントごとに百ミリリットルずつ出る水が増えていくらしい。
しかも、一ポイント単位で自由に調整できる。
なんて便利な世界。
僕はすぐさま六千ポイントを、水魔法の強化に全部つぎ込んだ。
その結果、出せる水の量は六百リットルになり僕は手を差し出し、水を出す。
そうすると、水がどばどば出た。
ほんのり冷たく、湿った土の匂いが鼻をくすぐった。
「ふー、生き返る」
まっちゃんが嬉しそうに表すなら蛇口から出る水を吸い取るような感じで水を飲んでいた。
正直、水が地面にこぼれていって少しもったいない。けれど、僕の目はそれよりも手のひらに釘付けだった。
「ほんとに……手から水が出た」
心の奥が熱くなる。
鼓動が速くなって、背中がぞわぞわする。
「ふふっ……これはもう、完全に魔法使いじゃん……!」
嬉しさがこみあげて、思わず顔がにやけた。
これなら――ゴブリンも、余裕だろう。
「よーし、そろそろゴブリン退治行きますか!!」
拳をぎゅっと握って、空へと突き上げた。
その手には、確かに力の余韻が残っていた。