説明
作戦内容はとても簡単。
まず一匹のゴブリンを見つけ、そこにこの少女をぶん投げる。
そして少女がゴブリンに襲われているうちに、僕が後から攻撃して倒す。
少女には悪いけど、ゴブリンに襲われてもらう。
何でもするって言ってたからね。
少女には予告しない。
そしたら十中八九、逃げるからだ。
僕から逃げたところで、飢えて死んでしまう可能性が高いだろう。
でも僕から逃げなければ、生きられる可能性が残る。
だけど、その考えが頭に浮かんでいたとしても、僕たちのような生物が、そう簡単に「生きるためにゴブリンに襲われる」なんていう、合理的で非情な判断を下すことなんてできるはずがない。
もしかしたら、逃げれば誰かに助けてもらえるかも──そんな希望を想像してしまい、最善は判断できない。
そんなことができるのは、狂人だけだ。
だから無駄なことは伝えない。
急に、ぶん投げる。
……にしても。
僕はたしか、一日くらいは寝ていたはずなのに、喉がそこまで乾いていない。
舌先を口の中で転がしてみるが、まだ唾液がある。
喉も、少し渇いてはいるが我慢できる程度。
やっぱ、なんか変だな。
まあいいや。
まずは、一匹でいるゴブリンを見つけないと。
ゴブリンとか魔物は、ここに来るまでに何度か見かけた。
けど、一匹でいるやつにはまだ出会っていない。
一匹……見つかるといいなあ。
「今から少し歩くよ」
「わかりました」
「ていうか敬語じゃなくていいよ。何かやりにくい」
「わかった」
切り替え早っ。
ていうか、ゴブリンどうやって倒そう……。
──それからかなり歩いたが、結局ゴブリンは見つからなかった。
だが、その間にこのガキとはちょっと仲良くなってきた。
こいつ、意外にもあまり文句を言ってこない。
だから楽ちんだ。
でも、普通にこのままだと死ぬ。
胃がきゅうっと縮むような感覚がする。
さっきから草の匂いと土の匂いしか感じてない。
空気も乾いてきた。
魔法を使って、何とかできないかな……。
このレベルアップ画面的なやつは日本語だから普通に読める。
だけど、どれだけ探しても使い方の説明書的なやつがない。
「千ポイントで氷魔法を習得」っていう画面はあるけど、そのポイントをどうやって稼ぐのかがわからん。
どうしたものか……。
……あれ?
もしかして説明書も、想像するんじゃね?
ちょっとやってみよ。
「いや、出来たー!!」
「うわっ! 急に何!?」
「いや実はさぁ、魔法の使い方、わかっちゃいました!」
「ほんと!?」
「うん! これで食料問題とかも解決だ! 多分」
「ちょっと集中するから話しかけないで」
説明書の内容を心の中で音読すると──
この世のすべてのものには、魔力が流れています。
植物にも、水にも、空気にだって。
なのでまず最初は、植物などから魔力を吸い取り、自分の中の魔力が一定の量を超えると、レベルが上がるのです。
ですが、他人から魔力をもらってもレベルは上がりません。
レベルを上げるための魔力と、使うための魔力は、それぞれ違うと思ってもらって構いません。
つまり、レベルを上げるための魔力は、いわばXP。
特定の方法でしかXPを得られません。
ですけど、ここら辺が複雑で、他人や魔物を倒すことでXPを得ることはできるのです。
得られるXPの量は、倒した相手の魔力量などで大体決まり、最終的には神が決めると言われています。
まぁ神とは、この説明書を書いている私ですけど。
この世界では神は存在するといわれています。
まぁ君の世界で言うなら、顔出しも声出しもしてないYouTuberみたいな感じです。
実際に存在することはわかっているけど、見たことはない。
そんな感じで、君の世界よりもさらに神は信じられてます。
少し話がそれましたね。
まぁとりあえず──
「世界に散りばめられし魔の力よ。我のもとへと顕現し、その役目を果たせ」
って唱えろ!
これで、説明を終わります。
「いや、なんだこの文……」