魔法
「魔法には、大きく分けて二種類あります」
まっちゃんは、真剣な声でそう言った。
「まず一つ目は、自分を強化する魔法です。これは、頭の中で“画面”を想像することで使えるようになるそうです。画面が実際に見えるという感じとは少し違うらしいですが、見えるかのように強くイメージできれば、魔法の内容を覚えたり使えるようになったりするらしいです」
「ほんとだ! できた! マジですごい!!」
「えっ、もうできたのですか!?」
興奮が口から漏れていた。
僕はいつも「マジ」とか「えぐっ」とか使わないんだけどつい口から出てしまった。
正直、めちゃくちゃ興奮してる。これはかっこよすぎる。
「こんなに簡単にできるなら、どうして君は魔法を使おうとしないの? 人間に復讐できるかもしれないのに」
「それは……何よりも、そんなに簡単にはできないからです!」
「へ?」
「口では簡単そうに聞こえますが、強化の画面を想像し、それを実際に出現させるには、かなりの集中力が必要なんです。普通の生き物には、そう簡単にできません」
……僕、もしかして才能ある?
ていうか、これってつまり――
――魔法、使えるってことなんじゃ。
「そしてもう一つの方法は、本などに書いてある“詠唱”を唱える方法です。私はあまり詳しくないのですが、詠唱を唱えるだけでなく、何か繊細な技術や魔力の流れも必要らしいです」
ああ〜、かなり異世界っぽくなってきた。これよ、こういうのが欲しかったんだ。
……でもそれにしても。
「ていうか、お腹減ったし喉が渇いたんだけど」
「いや、それは私のセリフなんですけど……」
「あなた、ほんとに勇者ですよね? 魔法も知らないし、食料も水も持ってないし……私も、お腹空きました……」
さっきまでめちゃくちゃ大人っぽかったから「こいつほんとに子どもなのか?」って思ってたけど、やっとそれっぽくなってきた。
なんか、安心した。
「あ、いや。なんでもありません」
僕が無言で考え込んでいたからか、まっちゃんは不安そうにこちらを見て、すぐに謝ってきた。
やっぱり大人っぽいなぁ。
いや、正確には、見た目はガキだけど、ちゃんと中身に大人っぽさがある。
僕でもこんなに素直には謝れない。
「ていうか、お前何歳だよ?」
「人間の年齢で表すなら……三百六十歳くらいです」
「は?」
「クソババアじゃねーか!!」
「そ、そんな失礼な! 私はまだまだ若いですよ!」
「まだまだピチピチです!」
妙に大人っぽいと思ってたわ。納得。
……まあ、別にいいけどさ。
どうせこの三百六十年、ずっと働いてただけなんだろ? つまり経験値が少ない。だから、子どもと変わらない。
うん、そうだそうだ。ガキだガキ。
「ていうか、このままだと、僕たちどっちも餓死するよ」
「へ? 死にたくないからあなたについて行こうと思ったのに……死ぬんですか……?」
「このままだとね」
一気に静かになる。
まっちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしている。
やっぱりガキだな!
「安心してよ。僕がなんとかするから」
「ほんと?」
泣きそうな声でそう言われると、ちょっと胸にくる。
「ああ。今、天才的なことを思いついたんだ」
……まあ、少し恐怖を伴うけどね。
作戦名は――
「少女ぶん投げ作戦」。
われながら完璧すぎる作戦だ。
ということで、早速実行しよう――。