グッドモーニング
そのまま僕たちは、その日は落ち葉を下に敷き、そこで寝た。
夜の森は冷たく、落ち葉の下からもじんわりと湿り気が伝わってくる。
鼻に土の匂いと枯葉の甘い香りが混じり、時折、木々の隙間から吹き込む風が頬を撫でた。
「みんな、おはよう」
みんなが爆睡している中、セリウスがいち早く起き、柔らかい声で朝の知らせをする。
その声は、鳥のさえずりと混ざってやけに心地よく耳に届く。
「ん…?」
「おはよう」
そんな中、カルコスも目をこすりながら起き上がった。
「ったく、朝からうるさいわね」
ヒュブリスも愚痴をこぼしながら、体をひねって背筋を鳴らす。
「っ! 腰痛い!」
「まあ、落ち葉を敷いただけの土の地面だからね」
土の硬さは夜中からずっと背中に刺さっていたが、それでも眠気には勝てなかった。
そのまま続々と全員が起きていく。
だが、一向にみのるだけはアホヅラで腹を出し、爆睡したままだった。
すやすやといびきと言うより喋っているようにも聞こえる。
「みのるくん、もう朝だよ」
セリウスが天使のような優しい声でみのるを起こす。
その声は耳元で小鳥がささやくように響いた。
「すやすや」
「うーん、一向に起きないねぇ」
セリウスは困ったように眉を下げ、唇をきゅっと結んだ。
「はん! そんな奴、こうやって叩き起こせばいいでしょ!!」
ヒュブリスはそう言うと、地面から拾った木の棒を振り上げる。
その先端には昨夜の湿気でついた土が少しこびりついていた。
「ほら、起きろ!」
「ぐへっ!」
……い、いや、なに!?
急に腹に鈍い衝撃が走り、意識が一気に覚醒する。
「やっと起きたか」
ヒュブリスはやれやれという顔をしながら木の棒を肩に担ぐ。
「いや、木の棒で叩いて起こすなよ!」
「あんたが起きないからでしょ!」
——目が覚めて最初に思ったのは、ひどくお腹が減っていることだった。
胃の奥が空っぽで、動くたびにきゅるきゅると音を立てる。
「それにしてもお腹減ったなぁ」
僕のお腹がぐーと鳴る。
森の静けさの中、その音はやけに目立った。
「うん、ひとまず食料の確保をしようか」
「ゴブリン退治行こう!」
僕ははっきりした大きな声で返事する。
声が森に反響し、どこか遠くで鳥が驚いて飛び立った。
「あ、あの」
「ん?」
振り返ると、静かそうな人がこっちを見ていた。
昨日、ヒュブリスに「だまれ陰キャ」みたいなことを言われていた人だ。
「あの、その、実はちょっと魔物お肉は、その」
言葉を選ぶように視線が揺れる。
足元の落ち葉を指先でいじりながら、声が小さくなっていく。
それを見て、セリウスがすっと前に出る。
「もちろん、魔物の肉を受け付けない人もいるだろうから、そういう人はそういう人で別の方法で対策するよ」
セリウスはそう言って、柔らかな笑みを浮かべた。
朝日が彼の横顔を照らし、髪が金色に輝く。
いや、惚れてまうて!
「あ、ありがとうございます!」
僕は優しくされると甘えたくなってしまう性格だから、もう適当キャラで押し通すことにした。
「ねえねえ、お腹空いたー」
僕はわざと子どものように甘える声を出した。
「なら頑張って食べれそうな魔物を見つけて、食べようか」
「確か、ゴブリンやデカイイヌとかは食べられる箇所が多いからそこら辺を狙っていきたいね」
セリウスは顎に手を当て、視線を落として考える。
「でも、デカイイヌはみんなで行くとなると少し危険かな。爪が鋭いし好戦的だからね」
確かに攻撃的だけど、実はあいつらはただ遊びたいだけの奴が多いんだよな。
一時期特訓してた頃、何回かデカイイヌに出会ったけど、ある程度避け続けると懐いてきて可愛いんだよなぁ。
正直、デカイイヌは食べたくない…。
名前の通りただのデカイ犬だから、僕みたいな日本人としてはかなり抵抗感があるんだよ。
「デカイイヌは嫌だー!」
「そうだね、ならゴブリンを中心に狙っていこう」




