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神頼み

「戻りました」


「お、みのるくん、どうやら仲直り出来たみたいだね!」


セリウスは自分のことかのように嬉しそうにそう言う。


朗らかな笑顔とともに、木漏れ日の中で声がやさしく響いた。


いい奴だな!


「ま、まあそうね!」


ヒュブリスは腕を組み、少し偉そうに顎を上げながらそう言った。


照れ隠しのように目をそらす様子が、森の静寂の中に浮いて見える。


そんな空気の中、突然ぴしりと乾いた足音が響く。


土と落ち葉を踏む硬質な音が、空気の緊張を引き裂いた。


「それで、みのるとはどうなったのかしら?」


その言葉には、押し殺された怒りと、不安の混ざった気配があった。


空気が一瞬、ひやりと冷たくなる。


イロイダの視線は氷のように冷たい。


「あはは…」


僕はヒュブリスに、わかってるよな? 何も言うなよ? と視線を送る。


無言の訴え。だが──


「実は、みのるから告白されちゃったの!」


は?


「…」


は!? 何普通に暴露してんだよ!


しかも、イロイダからの反応がない。


森に風が吹き抜け、木の葉がさらさらと鳴る音だけがやけに大きく聞こえる。


これはどういう反応なんだ!?


混乱して頭が回らない。


「私の手を取って、真剣な目で結婚しようって!」


ヒュブリスはイロイダにアピールするようにそう言う。


得意げに胸を張り、どや顔を浮かべていた。


ヒュブリスはわざと大げさに肩を揺らしながら、森の木陰で腰掛けていたイロイダの方をちらりと見る。


まるで、「ほら、聞いた? どう?」とでも言いたげだった。


本当にやめろって!


やばいやばい。


僕は焦って手をバタつかせるが、今さら遅い。


風が枝を揺らし、ざわ…と背筋が寒くなる。


イロイダは無言で立ち上がり、こちらにゆっくりと歩いてきた。


足元の枝を踏む、ぱきりという音だけが妙に響いている。


「……本当なの?」


その問いは小さく、でも確かに届いた。


目はまっすぐ僕を見ている。


あの優しげな笑みはなく、感情の底を探るような目だった。


「いや、あのね!? その命のためにやむを得ずというか! その、させられたというか…」


う、うん、そうだ。


告白させられたという設定にすれば良い。


一旦落ち着こう。


まずヒュブリスは確実に僕より何かを証明したりする能力が劣っている。


多分嘘つくのも得意なタイプじゃない。


僕の論破力、全員黙らせられる!


「そう! させられたんです!」


「は、はあ!? そ、そんなことしてないし!」


ヒュブリスはそれは予想していなかったのか、焦って挽回し始める。


目を泳がせ、言葉がうまく続かない。


「させられた?」


イロイダは僕に鋭い視線を向ける。


頬が引きつり、静かな怒気を放っていた。


「そ、そうなんだよ、あの、その…」


何か言わないとまずいことは分かっているけど、言葉が出ない。


唇が乾いていく。


「私、強制なんてしてないし!」


「いや! されました!」


そう言うとヒュブリスは残念そうな表情をする。


どこか諦めたような、悔しそうな顔だ。


「なによ! もう…!」


そう言ってヒュブリスは涙目になる。


頬が赤くなり、目尻が少し潤んでいた。


そうすると急に圧を感じた。


空気がぐっと重くなる。


「そんなことはどうでもいいの、早く強制されたと言うなら、どうやって強制されたか話して?」


イロイダは笑顔だが、だからこそとても怖い。


その目は一切笑っていなかった。


「そ、それは…」


「あのさ!」


そうすると予想もしてなかった人物が声を上げる。


声の主はピスティオだった。


「さっきは少し迷惑をかけたから、あえて黙ってたけど、そろそろ君たちのいざこざを見るのも飽きたんだけど!」


苛立ち混じりの声が森に響く。


「そうね、今はやめましょう。でも、ちゃんと後でみっちり聞かせてもらいますからね?」


イロイダはにっこりと微笑む。


それが逆に、背筋をぞくりとさせた。


こわ! でも助かった。ありがとうピスティオ!


「もう! ほんと意味わかんないし!」


ヒュブリスはそんなことを言って、拗ねたようにそっぽを向いた。


手を組んで唇を尖らせ、まるで子供のようだ。


いやぁ、これからどうしようか…。


正直このままは面白くない。


このままじゃただのラブコメなんだよね、あと一捻りほしいな!


まあ、神様がなんとかしてくれるか!


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