イチャイチャ
「あ、みのる!」
イロイダが僕を見つけるや否や、足音をぱたぱたと響かせながら駆け寄ってくる。
「どこ行ってたの?」
イロイダはどこか心配した顔で、少し眉をひそめながら僕に質問する。
「ちょっと休んでただけ」
僕がそう言うと、イロイダはわかりやすく不満げな顔をする。
「一人で行動しちゃダメなんだよ」
「え、あ、そうだっけ?」
「ごめんごめん」
僕はとぼけた調子でそう返す。
「まったく、しっかりしてよ?」
「うん」
柔らかな日差しの中、そんな他愛もなさそうな会話を交わしていると──
圧を感じて、そちらを向く。
ヒュブリスが明らかにこっちを睨んでいた。
「何イチャイチャしてんのよ、遠足気分なの?」
ヒュブリスはそう、小さな声で独り言のようにつぶやく。
その声には、明らかに棘が混ざっていた。
あ、目つけられたわ……。
クラスの、いわゆる“中心角”の女子に目をつけられるなんて…。
「なに? 文句があるならもっと大きな声で言ってもらえます?」
イロイダもそれに反応して言い返す。
イロイダって意外とヤンキー気質だね。
「だから! イチャついてんじゃねー! って言ってんの!!」
「あらそう。イチャつく相手も居なくて嫉妬しているのね? ごめんなさいね?」
イロイダは、いつもの柔らかさを消し、とても皮肉の効いた口調でヒュブリスに反論する。
「キィー、ムカつく! 何なのよあんた!」
「まあまあ、そこら辺にしておきましょ?」
ヒュブリスの声が少しずつ高くなり始めたので、さすがに僕も間に入ることにした。
「は? 何よあんた、そんなヒョロい体し──」
ヒュブリスはそう言いかけたが、言葉を途中で止めた。
そして、目を見開いて僕の腕を凝視する。
「え、い、意外と筋肉あるのね……」
そう言って、彼女は僕の腕を観察し始めた。
その視線は驚きと、ほんの少しの照れが混ざったようなものだった。
まあ、魔法的な実力は隠しても、筋肉なんていちいち隠してないからね。
だから僕の鍛え抜かれた筋肉は隠し切れないのさ!
まあ、細マッチョだから服を着れば目立たないけど…。
「ま、まあ、そんな事はどうでもいいわ! そんなことより何あんたたちイチャついてのよ!」
「別に、イチャついてないと思いますけど…」
「はあ?! どっからどう見てもイチャついてるわ!」
「そんなこと言ったら、今あなたも僕とイチャついてるってことになりますね」
僕はキレてるヒュブリスに対し、冷静に笑顔で、皮肉を込めてそう返した。
「はあ? な、なによ……///」
「あんたとなんてイチャついてないわよ……///」
ヒュブリスはそう言って、頬をわずかに赤らめた。
ん? なんか、思った反応と違うぞ?
僕は鈍感じゃない。むしろ鋭い方だ。
だから分かる。これ、僕のこと好きじゃね?
少し試しちゃおーと。




