表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/49

特訓

次の日、さあ学校に行こうと思ったら――よく考えたら今日も休みでした。


窓の外は快晴。


太陽は高く昇り、街には蝉の鳴き声が響いていた。


いや、暇だな。


久しぶりに信者の教育でもするか。


「スキロス」


「はい!」


僕がそう言うと、空気がふるえるような魔力の揺らぎの中から、どこからともなくスキロスが現れた。


「今日休みで暇だから久しぶりに特訓をしてあげるよ!」


「へ?……」


その瞬間、スキロスの尻尾がフリフリと振られていたのが止まり、だらんと下がる。


まるで生気を失ったように、ぴくりとも動かなくなった。


「ととととと、特訓? そそそそそ、それは遠慮しておくかな!」


「いや、大丈夫だ。今日は暇なんだ」


「いや、でも」


「もしかして怖いのか?」


僕は声に微かな圧を込めて、じっとスキロスを見下ろす。


「ひぃー!!」


スキロスは体をビクンと震わせ、耳までピンと立った。


「そんな軟弱で甘えた奴に育ってしまったか……」


「いや、そういうわけじゃ!!」


「いーや、怖がってるね!」


「これは特訓の仕直しが必要なようだ」


僕が言葉を放ったその瞬間、スキロスはくるりと背を向け、勢いよく走り出した。


だが――その動きは、僕の目にはスローモーションにしか見えなかった。


幹部とはいえ、僕にしてみれば雑魚同然だ。


子猫をつまみ上げるように、軽々とスキロスの首根っこを掴んでやった。


「いやーいやー!!」


スキロスはそう言って手足をバタバタさせる。


「そんなんじゃ幹部失格だね」


「そ、そんな〜!」


「僕はね、強くて面白いやつを幹部にしてるんだ! でも君は確かに面白いけど、強くない」


「で、でも! 私が本気出したらこの国だって滅ぼせるよ!!」


スキロスは顔をぐっと上げて、鼻を高く突き出すようなドヤ顔を見せた。


「そうか、ならスキロスはペルソナに勝てるの?」


「う〜、それは…」


「そういうことだよ、国を滅ぼせる位で」


「イキってんじゃねー!!」


怒鳴る声が部屋中に響いた。


おっと、少し本性が出てしまったようだ。


いつも怒る時でも、信者の前では少しかっこつけてるんだけど…。


「なら特訓だね?」


「はい……」


みんなも気になるだろう。


一体僕がどんな特訓をさせているのか。


なので、今日はみんなに僕の特訓を紹介するよ!


まずは、


「最初は基本知識を質問させてもらう」


このとき、特訓用の声に切り替える。


普段よりも少し低く、よく通る声。


そう、特訓の時の声と普段の声とでは、声のトーンを変えているのだ。


そっちの方がいろいろわかりやすいからね。


「この世界で一番重要なのは何かわかっているか」


「はい! 魔法でございます!」


「そうだ。筋肉も何もいらない、魔法さえあればそれでいい」


「でも魔法以外に必要なものが一つだけある。そう、精神力だ!」


「精神力がなければ、魔法だって極められない」


「だからまず最初に、痛みに耐える精神力を磨く特訓を始めよう」


「ひぃー!!」


「うろたえるな!!」


「すいません!!」


ナイフで刺したりするのは、ちょっとグロいし後処理も面倒。


だから、別の方法で痛みを与えるんだ。


僕はスキロスの腕をがっちりと掴んだ。


その肌は細く柔らかい。


そこに魔力を流し込む。


神経――Aδ線維などの痛覚に直接干渉し、電流のような刺激を与えた。


それは皮膚を焼くような、奥の神経を刺すような痛みだ。


正直、この魔術に関しては僕もよくわかっていない。


ただ、説明書に書いてあったようなことをやっているだけだ。


「ぎゃー!!」


「黙れ」


「ひぃー!!」


「こんなしょうもないことでいちいち声を上げるな!!」


「いやー!!」


ダメだこれ……。


って言っても、みんなには僕の遊びに付き合ってもらっているだけだから、なんか申し訳なくなってくるね。


みんなは本気で僕を神として信じてくれてるみたいだけど、僕はただ威張ったり、尊敬されたりしたかっただけなんだよね。


だって、別に僕はスキロスに強くなって欲しいわけでもないし、ただ特訓という。それっぽいことをしたいだけなんだ。


だから組織の人数も五百人位でよかったのに…。全く僕もまだまだ子供だぜ。


なんでこうなったんだろうなぁ。


そんなふうに考え事をしていたとき――


僕はようやくスキロスの様子に気づいた。


「……あ」


スキロスは白目を剥き、口から泡を吹いて倒れていた。


全身から力が抜け、腕はだらんと垂れていた。


「やべ」


「考え事してて気づかなかった……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ