9話 鈍感ってなんですか?
私はモフランを抱きかかえて斜面を走った。
「とう!」
飛び降りながら〈俊敏〉を発動させて着地する。
マルフのパーティーが四人で攻撃を始めている。ゴーレムは太い腕を振り回して反撃中だ。
「でかすぎてモフランじゃ受けられないかも……」
「モフ! モフ!」
モフランがぴょんぴょんして声を上げる。「行けるよ!」と主張されてるみたいだ。
でも、ゴーレムの動きがゆっくりだから逆に受けづらい――
待てよ。
「ふっふっふ、攻撃は最大の防御ってことですか」
「モフ?」
「モフラン、今回はずっとくっついて行動ね!」
「モッ!」
私はモフランを持ち上げ、ゴーレムに接近する。
四人の攻撃はあんまり通っていないみたいで、ゴーレムの動きが鈍る気配はない。
「くそっ、ロックゴーレムってこんなに硬いのかよ!?」
「高い剣なんだけどなあ……」
「矢も通らん」
「火属性は相性がわりぃや」
みんな沈み気味だ。ここは私が勇気づけてあげないとね!
「みんな下がって!」
「アイラ!? 無茶すんな!」
「しないって!」
「どこが!?」
まあ、ケセララを抱えて正面突撃する奴は危険に見えるか。でも安心して。私には最強の盾がいるんだ!
「モフラン! 超反発いこう!」
「モフ――ッ!」
私は全力疾走しながらモフランを前に突き出す。そのままゴーレムの左足にタックルした。
ぼよんっ。
ガツーン!
跳ね飛ばされたゴーレムは背後の壁に激突した。
「ええええええ!?」
「予想以上だね……」
「ケセララにこんな力が……」
みんな驚いている。その反応が見たかった。
とはいえ相手はさすがのゴーレム。転んだりはしない。腕を振り回して私を狙ってきた。
「きつかったら言ってね!」
「モフ?」
あんまりわかってなさそう。
私は頭上にモフランを掲げて動き回る。
ゴーレムの追撃はそこまで早くない。私には見切れる。
追いかけっこをしていると、ゴーレムが右のパンチを打ってきた。
「ほい!」
ぼよーん。
拳の軌道にモフランを合わせれば簡単に体勢を崩すことができる。相性がよすぎるな。
といっても目の前までパンチが来ているわけで、大丈夫と思ってもさすがにちょっと怖い。
「みんな、追撃!」
「そ、そうだね」
「アイラにばっかやらせねーぞ!」
マルフとアレンが斬りかかった。少しずつ裂傷が増えていく。
「炎よ――」
表面が剥がれると、リードの火属性魔法が通り始めた。ゴーレムの動きがさらに鈍くなっていく。
「いい調子だぜ!」
「このまま押し込もう!」
男子四人の力でゴーレムをどんどん削っていく。
でも、決定打が出せない。
ゴーレムの防御力に対して、とどめになる一撃を誰も持っていないのだ。
「くそが、しぶとすぎる……」
「炎は通ってるはずだぜ……熱さを感じてねーのか……?」
「矢は無力」
ルーザスは弓矢が活かせなくてやる気をなくしている。
「く……握力がなくなってきたよ……」
「俺もだ……」
アレンとマルフは汗だくでつぶやく。
私はゴーレムの注意を引きつつ、なんとかできないか考えていた。
レッドオーガの時は上空から氷の槍で顔をぶち抜いたけど、ゴーレムには氷が効きそうにない。私の〈氷塊〉でも逆に砕かれておしまいだろう。
ゴーレムを倒すには粉々にするしかないんだ。でも、打撃武器を誰も持っていない。なぜこのパーティー構成で行けると思ってしまったのか。
ん? 打撃? 潰す?
「あっ、閃いた!」
「何をだよ?」
「ゴーレムにとどめを刺す方法!」
「ホントか!? だったら協力するぜ!」
「じゃあお願い!」
私はモフランを持ち上げて、体の前にかまえた。
「……んで?」
「モフランを鞘で下から叩いて! 思いっきり!」
「で、でもお前の相棒だろ……?」
気持ちは嬉しい。
「モフランは頑丈だから信じて! そうだよね」
「モフ! モーフ!!」
気合いの入った声だ。
マルフは鞘を両手で握った。
「怪我させても責任は取れねえぞ! おらあっ!」
ぼんっ。
鞘の打撃と超反発が合わさって、私とモフランは上空へ跳ね上げられた。
狙い通りゴーレムの頭上。かなり高い位置。
――マルフ、やっぱいい腕してるよね。
私は空中で体をひねってモフランをゴーレムの真上に合わせる。
「モフラン! 〈重量変化〉でめちゃくちゃ重くなって! あいつを押し潰すんだ!」
「モフゥ――ッ」
またしても闘志を感じる鳴き声。
空中に私を残して、モフランがものすごい勢いで落下し始めた。
グッシャーン。
とんでもない音がして、真下が土煙に覆われる。
私は〈俊敏〉の力で受け身を取って無事に着地。
土煙の中を手探りで進むと――。
「モフン」
たぶん得意げな顔をしていると思われるモフランがいた。
その横には、頭を粉々に砕かれたゴーレムの残骸がある。なんなら胴体も半分くらいは崩れていた。
……またえぐい決め方をしてしまった……。
まあ、王道な戦い方ができないからしょうがないよね。確実にとどめを刺すことが重要なんです、ええ。
「勝ったのか?」
マルフの声がする。土煙で見えない。
「倒したよ! これで大丈夫のはず!」
「よっしゃあああああ、Cランクのゴーレムに勝ったぞー!」
「僕ら、あんまり役に立ってないけどね」
「いいんだって! 五人の勝利だー!」
うおー、とはしゃぐマルフ。ちょっとかわいいかも。
「ありがとね、モフラン」
「フモ」
「今度、高いお店でごはん食べよっか。あなたにはたくさん助けてもらってるし」
「モフッ! モモモモ……」
モフランは左右にコロコロ動き回る。ホントーに愛くるしいなこの子。嬉しそうなのが伝わってきて私まで嬉しくなる。
「よし、山頂の村へ報告に行くぞ!」
「けっこう歩かなきゃいけないよね」
「それで住んでる人たちが安心できるんだよ」
「うん、そうだね」
張り切っているマルフを、私はニコニコ顔で見ていた。
「な、なんだよ」
「マルフの正義感強いところ、いいなあって」
「そ、そうか?」
「会った頃からまっすぐでかっこいいよね。私も同じ目標持ってたけど、失敗続きで擦れちゃったからさ……」
「そのケセララがいればこれからいくらでも挽回できるだろ。俺たちだってお前に助けてもらったようなもんだしな」
「おお、謙虚だ」
「冒険者は調子に乗るとすぐ死ぬからな! 俺はいつでも油断しないぜ!」
「ふふっ、マルフと知り合えてよかったな」
「え!?」
声が裏返った。
「そんな驚くこと?」
「い、いや……。まあ、そう思ってもらえるのは……嬉しい、な……」
動揺している? なにゆえ。
「あー、鈍感なパターンか。苦労するね、マルフ」
アレンが何かつぶやいているけど、私にはよくわからなかった。