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4話 想像以上に能力がやばい

 お昼過ぎ。

 街に戻ってくると、門のところでマルフたちと遭遇した。


「お、なんだケセララをテイムしたのか?」

「まあね」

「なんでドヤ顔なんだよ。ケセララなんてテイマーじゃなくてもしつけられるっての」

「ふふん、これを見ても同じことが言えますか?」

「はあ? なんか違うの?」

「よく見て」


 マルフと、パーティーの三人がモフランをじっくり見る。でも、誰も反応しなかった。


「どう見てもただのケセララだが」

「ははーん、知識不足ですねマルフさん」

「うわっ、うざっ……」


 ごめん、調子に乗りすぎた。


「こほん。この目を見て。金色でしょ」

「おお、確かに」

「そういえば聞いたことあるね」


 パーティーの一人、赤髪のアレンが言った。


「金色の目をしたケセララってすごくレアなんじゃなかったっけ?」

「そう! 正解!」

「え、そうなのか。何が違うんだ?」


 マルフも興味が出てきたらしく、食いついてくる。


「なんとこのケセララ、防御力が桁違いなの。さっきレッドオーガに襲われたんだけど、そいつの棍棒を余裕で跳ね返しちゃったんだよね!」

「なんだとぉ!」

「それはすごいね」


 パーティーの四人が期待通りの驚き方をしてくれたので私はもう大満足。


「ん? レッドオーガに襲われたのにここにいるってことは……」

「うん、倒しちゃった」


 ええええええ!?――と四人が同時に叫んだ。


「お前が一人でレッドオーガを倒しただと?」

「信じられん」

「話盛ってないよね?」

「証拠を出してくれなきゃわかりませーん」


 みんな口々に言う。

 私はショートパンツのポケットからレッドオーガの牙を取り出した。


「これでどう?」


 四人がまじまじとそれを見た。


「なるほど?」

「わからん」

「オーガの牙ってどんなんだっけ」

「僕ら鑑定士じゃないからなあ……」


 ガクッ。

 ここでもいい反応を待っていたが、さすがに牙だけでは無理か。


「でもまあ、自信満々に出すってことは本当に倒したんだろうな」


 マルフが腕組みして納得している。


「俺らですらグレーオーガに慣れてきたところだってのに……」


 グレーオーガは一番数の多いDランクのオーガだ。このモンスターを苦もなく倒せれば中級者の仲間入りと言われることもある。


「ま、ギルドで鑑定してもらえよ。特別報酬とか出るかもしれねえし」


 私は笑顔で答えた。


「うん、そうする!」


     ☆


「これは間違いなくレッドオーガの牙ですね。お見事です」


 ギルドの鑑定処では、メガネをかけた老紳士・メルクスさんが対応してくれた。


「残念ながら、今のところレッドオーガの討伐依頼は出ておりません。もしあれば、そちらの報酬を受け取ることもできたのですが」

「仕方ないです。倒せただけでもすごく嬉しいので」

「そうですね。とてもよい笑顔をされていると思います」


 穏やかに言われて、ちょっと恥ずかしくなる。


「ローグ殿の鑑定も受けた方がよろしいでしょう。そのあいだに特別報酬の手続きをしておきます」

「ありがとうございます!」


 私はローグさんのところへ移動した。


「お疲れ様です!」

「いいことがあったようですね。声の明るさがまるで違いますよ」

「はい。金色の目をしたケセララをテイムできたんです」

「ほほう」


 ローグさんの目がギラッと光った。


「それは興味深い。ぜひ能力を鑑定させてください」

「もちろん。その前に私をお願いします」

「わかりました」


 冒険者というのは不思議なもので、経験を積んでいると自然に力が上がっていくのだ。経験の積み方にもよるけどね。私が伸びないのはそのせい。でも、今回は強力なモンスターを倒した。上がり幅も大きいんじゃないかな?


「――前とほぼ同じですね」

「どうして……」


 魔力の数値が92に上がっただけで、他は一切変化がなかった。何が足りないんだよう。


「では、ケセララの方を」

「はい、外にいます」


 ローグさんも早くレアなケセララを鑑定したくてしょうがないって感じだ。主人である私が軽く見られているみたいで悔しい。


 ともかく、モフランの能力を見てもらうことにした。

 テイムしたモンスターをギルド館内に連れ込むのは禁止だ。モフランはギルドの正面広場に待たせている。


「あはは、かわいらしいなあ」

「モフモフ」

「ふさふさで大変よろしい……」

「モッフ」

「ちょ、ちょっと!? 何やってるんですか!?」


 ローグさんと一緒に外へ出たら予想外の光景が広がっていた。

 東方の民族衣装を纏った女の子が、うっとりした顔でモフランを撫でていたのだ。

 赤い玉の耳飾り、白い上着、その上に緑の羽織、下は黒い……(はかま)っていうんだっけ。そしてゲタという靴。腰には刀という剣を下げている。


「おや、あなたが(あるじ)かな? これは失礼、少々遊びすぎてしまったようだ」

「いえ、いいですけど……」


 おお、とローグさんが反応した。


「あなたはササヤ・ミカヅキさんではありませんか?」

「いかにも」

「ええっ」


 ササヤ・ミカヅキといえばこの街のギルドでもトップクラスの腕前を持つ女性剣士だ。大規模な討伐計画に関わることが多いらしくて、遠征ばかりしていると聞いた。

 初めて顔を見た。

 しなやかな長い黒髪。つり目で、青い瞳は小さく三白眼だ。姿勢のいい立ち姿は凜々しさたっぷりだった。


「は、初めまして。アイラ・クロテールです。ソロでテイマーやってます……Fランクですけど……」


 自己紹介が恥ずかしすぎる。


「ソロなのか。わたしもそうだよ。仲間だね」

「え? そうなんですか?」

「討伐遠征は大勢で行くけど、現地に着いたら基本的に一人で行動している。なかなか気の合う仲間ができなくてね」

「意外です。ササヤさんほどの人ならみんな仲良くしてくれそうなのに」

「どうも怖い人間だと思われているようだ。わたしがソネルキアの生まれではないからかもしれないが」


 ソネルキアはこの王国の名前。


「東の方の人ですよね?」

「うん。アスバナという国から渡ってきた。育ったのはこの国だからソネルキア語は問題なく話せるがね」


 ササヤさんはモフランを撫でる。

 私は意外な気持ちでそれを見ていた。ササヤさんは、私がFランクだと自己紹介しても笑わなかった。

 嘲笑されることが多かったから、態度が変わらなかったという事実だけで感動してしまう。


「キミはローグさんに用事があるのだろう。邪魔にならないうちに行くよ。また会えたら毛玉ちゃんを触らせてね」

「は、はい……」


 じゃあ、と手を振ってササヤさんは去っていった。

 毛玉ちゃん。

 ケセララのことをそうやって呼ぶ人は初めてだ。


「それでは、能力鑑定の方をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 ローグさんがウズウズした様子で言う。


「お願いします。モフラン、ちょっとおとなしくしててね」

「モッ」


 ローグさんは白い木の板をモフランの表面に当てた。魔力が込められる。


――――――

ケセララ(金目(きんめ)

 モンスターランク:F

  体力:50

  魔力:1

 攻撃力:1

 防御力:測定不能

 敏捷性:1


〈固有能力〉

 属性吸生(きゅうせい)――属性の含まれた攻撃を無効化し、体力に変換する。

 超反発―――物理法則を無視した反発力を生み出す。

 重量変化――体重を自在に変化させることができる。

――――――


「あ……れ……?」


 これ、想像以上にやばくないですか?

 攻撃も敏捷も終わってるけど、それを補って有り余るほどの防御力。測定不能なんて初めて見た。

〈超反発〉も、レッドオーガの棍棒を跳ね返したところを見ているからわかる。あれって固有能力だったんだ。


 さらには〈属性吸生〉。もしかしたら、廃坑から溢れているという瘴気には何らかの属性が混じっていたのではないだろうか? この子はそれを吸うためにあの場所に来ていたのではないだろうか?


 だとしたら、私が廃坑に行った判断は大正解だったことになる。


 ……でも、Fランクなのは同じなんだ……。


 普通のケセララとは明らかに違うので、上げてやってほしいぞ。


「いやはや、驚きました」


 ローグさんの声はちょっと震えている。興奮してる?


「金目のケセララを見たのは僕も初めてなんです。まさかこれほどの能力を持っているとは……。アイラさん、あなたはとんでもない幸運の持ち主かもしれませんね」

「測定不能って、どこまで耐えられるみたいなことはわからないんですか?」

「ええ。ですが、伝え聞いた話ではドラゴンのブレスすら受け止めるとか……」

「そんなに……?」

「ただ、餌はしっかり与えてください。ケセララ最大の死因は餓死です。金目であってもそれは同じでしょう」

「ああ、だから増えないんですね……」


 こんな防御力を持っているなら繁殖していてもおかしくないと思ったけど、餌を取るのが苦手なのね。


「きっとこれからの冒険で力になってくれるはずですよ。うまく使ってあげてください」

「はい、頑張ります」


 ローグさんは微笑んだ。


「これも、アイラさんが折れずに冒険者を続けた結果です。その頑張りが報われることを祈っています」

「……はいっ!」

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