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30話 冒険者の生きる道

 クエストボードを眺めたが、モンスターの単体討伐依頼は出ていない。

 モンスターの群れをなんとかしてくれという依頼がほとんどだ。依頼書が貼られている場所もあっちこっち剥がされた跡があった。まあ、一匹だけの依頼は人気だからね。群れより安全に戦えるし、早起きの冒険者に先を越されるのはしょうがない。


「お、アイラか。元気そうだな」


 マルフたち四人組がやってきた。がっちり装備を固めているので出かけるところだろう。


「昨日はゾルバの街に行ってたんだ」

「家族を探すってんだっけ。会えたのか?」

「ばっちり」

「そいつはよかった」

「マルフたちは出るとこ?」

「ああ、ビッグラットを三体倒しに行く」


 巨大なネズミのモンスター。


「確かでっかい割に動き速いんだよね。ついてくと迷惑かな……」

「来てもいいけど、俺たちはササヤ・ミカヅキさんみたいにお前を守れねーぞ」

「ちょっと地形も悪そうなんだ。河原だから壁になってくれるものがない」


 アレンが言う。確かに、森だったらモフランの防御が間に合わなくても木の陰に隠れられる。でも平地だと背後を取られた時どうしようもない。しかも、ササヤさんに注意された複数体討伐だ。


「今回は迷惑かけそうだから無理しないでおくね。頑張ってきて」

「……おう」


 マルフの声が少し低くなった。


「すぐがっかりするよね~」

「い、言わなくていいっての!」


 アレンがからかってマルフが怒る。よく見た光景だ。マルフも何を慌てているのやら。


「とにかく、俺たちは行ってくる。アイラも無茶な依頼受けるなよ」


 マルフたちはギルドを出ていった。


 今日、モンスターを討伐して昇格記念日にする。

 そんな気持ちでやってきたけどさすがに難しそうだ。

 だからといって帰って寝るのも馬鹿らしい。


 じゃあ私にできることってなんだろう。

 依頼書をじっくり眺めると、ドワーフ建築団からの依頼が貼り出されていた。

 新しい製鉄所を作るため、地図にある地点を整地中。応援求む。


 ――いいじゃん、行こう。


 私は依頼書を取って、メイさんのところに持っていった。


「これ、行ってきます」

「承知しました。頑張ってくださいね」


 討伐依頼ではないので、メイさんは笑顔で送り出してくれた。

 私はモフランと一緒に、歩いて目標地点まで移動する。場所は北東の城塞跡地だった。

 整備された街道を歩いて目的地に到着する。

 ドワーフの男たちが地面をハンマーで叩いていた。


「こんにちは! お手伝いに来ました!」

「おう、冒険者さんかい」


 城塞は完全に片づけられたようで、今は地面をならしている最中らしい。

 ひげもじゃのおじさんが近づいてきた。


「地面を掘り返して古い城塞の基礎を取り除いたところでな。今は土を固めているところなんじゃが……キミは腕力に自信があるのかね?」

「いえ……」

「それじゃあ来てもらってもなあ」


 おっしゃるとおり。

 でも、やれることはちゃんとある。


「地面をしっかり踏み固めればいいんですよね?」

「そうじゃが……」

「任せといてください! モフラン、来て」

「フモ」


 私はモフランと一緒に、男の人たちがハンマーを叩いている場所まで移動する。


「すみません、気をつけてください!」

「ええ?」

「なんだあ?」


 みんなこっちを見ている。失敗はできないぞ。


「モフラン、この前みたいに膨らむことってできる?」

「モフ! モヒュウウウウウウウウウウウウ~~~~~」


 たっぷり空気を吸い込んでモフランが大きくなった。


「これでジャンプしよう。跳ねたら重たくなって落ちるを繰り返すんだよ。それで地面を固くするの」

「モフ!」


 テイマーはモンスターに触れていると能力を底上げできる。私のレベルではたいして上昇しないが、ないよりはマシ。

 私はモフランに飛び乗った。


「それっ!」

「モフーッ」


 モフランが跳ねる。空中で〈重量変化〉を発動、重くなってその場に落ちる。

 ドスン。

 また跳んで、隣に落ちる。

 ドスーン。


「おおー!」

「こりゃハンマーより早くていいぞ」

「あの音なら効果ありそうだな」

「あんだけ踏まれりゃ固まるってもんよ」


 ドワーフの皆さんも満足している様子だ。


「ほいっ、頑張って続けよう!」

「モッフ!」


 ドスン、ドスン、ドスン。

 モフランと魔力で意思疎通して、でたらめに跳ねさせないようにする。踏み固めた隣のブロックに着地してもらうと効率がいい。おかげで整地は綺麗に進んでいった。


 時間がかかっても、一緒に跳ねるのは楽しい。やっぱり、私はこの子と組んでいるのが一番いいのかも。

 ウィンドホークのランと組み始めた時も同じことを思ったけど、長くは一緒にいられなかった。


 ……単調な作業だからか、いろんな考えが頭の中を流れる。


 ランを倒した、ブレイズドラゴンの咆哮が蘇った。

 ロックゴーレムに悩まされていた村の村長の言葉も。


 ――貴重な枠をケセララにするのはもったいないですな。


 もっと強い、例えばドラゴンをテイムできるとしたら――なんて考えが一瞬よぎった。そりゃあ攻撃力も機動力もあった方が強いに決まってる。今日みたいに、複数討伐依頼しかないから出られないってこともなくなる。


 ドラゴンで無双するのも憧れるけど……。


 ぶんぶんと首を横に振る。だめだめ。今はモフランとお仕事しているんだぞ。余計なことを考えるな。それにドラゴンをテイムするチャンスなんてきっとない。そんなこと、気にしなくていいんだ。


     ☆


「いやあ、助かったよお嬢ちゃん!」


 整地が完了すると、ドワーフの人たちは笑顔でお礼を言ってくれた。


「モンスターの使い方が上手いねえ」

「テイマーってのはこういう活躍もしてくれるんだなあ」

「おかげで楽させてもらったよ」


 たくさん褒められて、私はずっとニコニコしていた。

 いつも褒めてくれるのはササヤさんとリオネさん、マルフたち、ギルドの一部の人たちだけ。たまにはそれ以外の人から感謝されてもいいよね。笑ってても罰は当たらないよ、きっと。


「報酬はギルドに渡してある。そっちで受け取ってくんな」

「わかりました!」

「さあお前ら、資材を運び込むぞ!」

「おう!」

「やりますかねえ」


 ドワーフの皆さんはすぐさま作業に取りかかった。こうなると、もう私の出番はない。挨拶をして街への道を歩き始めた。


「モフラン、大活躍だったね」

「モフン」


 出ました、お得意のドヤ顔。

 でも今日は誇っていい。それだけのことをした。


 何も、モンスターの討伐だけが冒険者の生きる道じゃない。こういう作業だって確かに人を助けるのだ。

 一時期、薬草採取の護衛でその日の宿代を稼いでいたことを思い出した。

 あれもその場しのぎの選択だったけど、「助かったよ」とお礼を言ってもらえて嬉しかった。

 最近討伐が上手くいっていたから、冒険者の本質を見失いかけていた。

 これからも今日みたいな活躍を積み重ねていきたいな。


     ☆


 街に帰ってくると夕方になっていた。ギルドの正面広場で冒険者たちがざわついている。その中にはマルフたちのパーティーもいた。


「おーい」

「……アイラか」

「何かあったの?」

「廃坑から救援要請が来た」

「え? リオネさんたちが苦戦してるってこと?」

「そうらしい」


 マルフはギリッと歯を噛みしめる。


「姉貴がやられるとは思わねえけど、相手は毒を使うドラゴンだ。さすがに心配でな……」

「毒? ドラゴン? 状況とかわかってるの?」

「Sランクのモークドラゴンってやつに不意打ちされたらしい。毒を使うドラゴンだから、廃坑の瘴気はそいつが原因で間違いない」

「廃坑って狭いよね。そんなところで毒なんか使われたら……」

「すでに一人やられたらしい。今は二人で戦ってるって話だ」

「まさか、ササヤさん……?」

「いや、倒されたのは男の剣士だって話だ」


 ホーマーさんだ。

 ホッとしちゃいけないんだけど、少し安心した。

 危険なクエストにはギルドから記憶鳩(きおくばと)が貸し出される。この鳩は戦闘を記憶し、救援要請を送った時にはその映像をギルドの職員に見せてくれる。だから状況が正確に伝わるのだ。


「くそっ……」

「マルフ、落ち着こう」

「わかってる」


 マルフは苦しげに言った。


「そう、わかってるんだ。相手はSランクドラゴン。俺なんかが応援に行っても逆に姉貴の足を引っ張るだけだ。俺にはなんもできねえんだ……」


 自分の姉が窮地に晒されている。それでありながら手助けもできない状況。

 さんざん無力さを嘆いてきた私には、マルフの絶望がよくわかった。


「…………」


 でも、私はどうだろうか。

〈俊敏〉も〈氷塊〉も練度は上がっている。

 加えて、今はモフランという超強力な盾もいる。

 リオネさんやササヤさんの力になれないだろうか。


 ――相手は単体だ。やろう。


 すぐに心は決まった。リオネさんに恩返しをするなら今だ。

 それに、私はササヤさんと友達になりたい。同性の友達がいない今、気軽に話せそうなのはササヤさんだけ。まだ街でのんびりしたことはないし、交友を深めるのはこれからだ。友達候補を失いたくない。


 でも、その決意は言葉にしない。

 言えば、マルフたちが止めてくるのは確実だ。それを振り切って私が出発したら、彼らは絶対に追いかけてくる。もし巻き込んでしまったら、私は一生後悔で苦しむことになるだろう。そこは冷静に見極める。


「私、クエスト帰りだからいったん宿に戻る。また状況聞かせて。なんにもできないかもしれないけど」

「ああ、お疲れ。これはSランク冒険者にしか解決できない問題だ。お前はゆっくり休んでこい」

「うん、ありがとね」


 私はマルフたちに手を振ってその場を離れる。焦らないよう、普段通りの歩き方を意識した。


 正面広場を離れて何回か路地を曲がると、私は西の架け橋から街の外へ出た。


「モフラン、きつい戦いになるかもだけど、手伝ってくれる?」

「モフ!」

「ふふっ、ありがと。――じゃ、廃坑まで急ごうか」

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