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28話 家族の会話

 カルシ先生はいったん帰った。他にも往診しないといけない患者さんが多いみたいだ。

 私たちは三人でじっとお母さんが目を覚ますのを待った。


「……お腹すいたな」


 カイトが言う。


「お姉ちゃんも料理は下手くそだからなあ……。何か買ってきてくれる?」

「いいけど、お金あるの?」

「ありますとも」


 ポーチから1000ファロン硬貨を取り出して渡すと、カイトが目を丸くした。


「なんでさらっとこんなもの出してくるんだよ!? 俺たちの夕飯はいつも300ファロンくらいなのに……! 人から盗んだものじゃないよな!?」

「失礼な。お姉ちゃんが強くなったのは証明したでしょ。ちゃんと自分の力で稼いだお金だから安心して」

「じゃあ、なに食べたい?」

「簡単に食べられるものでいいな。おいしいパン屋さんあったらそこで好きなもの買ってきて」

「わかった……兄ちゃんは?」

「お前に任せるよ」


 カイトは出かけていった。


「学校では周りとうまくやれてる?」

「まあね。のんきなクラスメイトばっかりで平和だよ」

「仲間外れにされてないならよかった」

「姉ちゃんはどうなの?」

「最初は一人だったよ。でもマルフって男の子が仲良くしてくれて、そのおかげで飢え死にしなくて済んだんだ。ちょっとお金きついなって時にクエストとか誘ってくれてさ」

「ふーん……」

「あとはササヤ・ミカヅキって人! Sランク冒険者で、アシュードの街ではトップクラスの実力者だね」

「ええっ、Sランク冒険者と仲良くしてるの?」

「そうだよ。まあ私というより最初はモフランを気に入ったみたいだけど」

「モフ」


 モフランに顔を突っ込んで「毛玉を吸う」とか言っていた光景が蘇る……。


「姉ちゃんが一人じゃないならよかった。みんなずっと心配してたんだ」

「ありがとね。でも大丈夫だから」


 話が途切れた時だった。


「う……う……」


 お母さんが呻き声を上げた。私たちはとっさに顔を覗き込む。お母さんが目を開けた。


「ヒーシュ………………アイラ?」

「久しぶり、お母さん」


 一目でわかってくれたことが嬉しかった。たとえ三年でも、離れていれば忘れてしまったっておかしくないんだ。


「あんた、どうやってここに……」

「バータビーの村で噂を聞いたんだよ。それでこの街に来てみたの」

「……そう。ええと、あたしが倒れてるあいだに何かあった?」

「ありまくりだよ母ちゃん」


 ヒーシュが私のやったことを説明してくれる。


「あんたがあのギルアックスを一人で……?」

「一人じゃないよ。モフランとふたりで」

「モフッ」

「そうかい。その毛玉みたいなモンスターが相棒なんだ。あたしのためにありがとうね、あんた」

「モフン」


 ドヤ顔乱発してますね? ちょっと自重しません?


「アイラ、顔つきがよくなったね」

「そうかな?」

「昔より、ずっと自信に満ちた顔をしてる」


 私は思わず自分の頬を触った。そんなことをしたって違いなんてわからないんだけど。


「やっと成功し始めたからかもしれないね」


 悲惨に聞こえないよう気をつけながらこれまでの話をする。


「あたしたちも苦労したけど、やっぱりあんたも大変な目に遭っていたんだね。よく折れなかった」

「折れたら死ぬしかなくなっちゃうから。それに、お父さんみたいにはならないぞって決めてたし」

「……そうかい」


 凶作で心が折れたお父さん。娘の私まで同じようになってはいけないと自分に言い聞かせてきた。


「せっかく再会できたんだから料理を作ってあげたいけど、今の体じゃ無理そうだねえ……」

「ちゃんと休まなきゃ駄目。それでなくても無理してるんでしょ?」

「してないって」

「嘘だあ。母ちゃん、いつも夜遅くに帰ってくるじゃん」


 ヒーシュが突っ込むと、お母さんは苦笑いした。


「そりゃ、酒を出すお店で働いてりゃ夜遅くもなるって」

「でも朝だって早起きして掃除に行くし」

「ほら、子供にも見られてるよお母さん」

「わかった。よくなるまで寝ておく」


 まずは一安心。


「で、熱はどう?」

「あんまり熱くはないな。先生の薬が効いたんだろうね」

「よかった」


 薬草がちゃんと効いてこれまたホッとする。

 お母さんが意識を取り戻して、三年ぶりに家族で会話をした。

 それだけのことなのにすごく満たされている。

 いつも心のどこかであの三人は無事だろうかって心配していたんだ。その不安がついに消えた。もう私に怖いものはない。


「モフ、モフ」


 モフランが私の足にくっついてくる。


「モフランのおかげだよ。ありがとう」

「モフッ」

「ただいまー。……あっ、母ちゃん起きてる!」


 カイトがどっさりパンを抱えて帰ってきた。

 私たちは四人で、懐かしくて騒がしい朝食を過ごすことになった。

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