24話 嫌がらせは続くけどもう怖くありません
翌朝。
先生に退院を許可してもらうと、私はモフランを連れてギルドへ向かった。
館内に入るとたくさんの視線が飛んできた。いい悪いはともかく、私のことが多少は話題になっているみたいだ。ここは堂々と行こう。
「おはようございます」
受付嬢のメイさんと挨拶を交わす。
「かなり危険な状況に陥ったと聞いております。よくぞご無事で」
「悪運は強いみたいです」
メイさんは微笑み、紙を滑らせてきた。
「アイラさんの報酬はこちらになります。ご確認ください」
私は報酬内容を読んでみる。
なかなかの金額だった。一ヶ月働かなくても生きていけそうなくらい。加えてギルド直営店で売っている各種ポーションの値引券ももらえるらしい。こういうものはもったいないからと使うのを渋ってしまう私だけど、たくさん買い込めるなら積極的に使っていくのもありだ。
「ランクですが、あと少しでEランクとなります」
「えっ、けっこう格上を倒したはずなんですけど」
メイさんはとても気まずそうな顔をした。
「その……アイラさんがササヤ・ミカヅキさんと一緒に戦っているのを見たという冒険者が何人かおりまして、Sランク冒険者と並んで戦ってランクが上がるのはおかしいという意見が寄せられております……」
「あ~……」
意地でも私に底辺でいてもらいたいと思ってる奴がまだまだいるってことか。
みんな私の躍進は知っているはずだ。
これまで私が最底辺だったから、みんな「あいつよりはマシ」と考えていられた。
それなのに私が次々功績を挙げていくから、そのうち自分が最底辺に落ちるかもしれないという恐怖に襲われているのだ。
「わかりました。また頑張って昇格を目指します」
「……よろしいのですか?」
メイさんはおずおずと訊いてくる。
「受付嬢が特定の冒険者に肩入れするのは好ましくないのですが……それでもアイラさんの活躍はちゃんと確認させていただいております。冒険者のあいだでどんな陰口を言われているのかも。ですから……アイラさんより多数の機嫌を優先したギルドマスターの判断を、私はあまり支持できません」
申し訳なさそうに話すメイさん。応援してくれるのは一部の冒険者仲間だけだと思っていたけど、ギルドの中にもいてくれたんだなあ。
「メイさん、気づかってくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
「そう、ですか?」
「私とモフランが力を合わせればすぐに次の結果も出せます。そしたら他の人たちだって認めなきゃいけない空気になるはずです」
「……アイラさんは本当に強い方ですね」
メイさんは穏やかに微笑む。
「あれだけひどい扱いを受けても折れませんでしたし、挑戦し続けました。私があなたと同じ立場だったらきっと逃げ出していたと思います。今回の件も理不尽なお話ですし、怒ってもいいはずです。でもアイラさんはすぐに見返せると自信を持っておられる。今はとても、あなたがまぶしい」
「モフランのおかげで自信が持てるようになったんです」
「ふふ、それでこそモンスターテイマーですね」
私たちは笑い合った。
館内に他の冒険者たちが入ってくる。
「そろそろ行きます。メイさんを一人占めしてたら怒られちゃいますから」
「いいのですよ。アイラさんなら雑談も大歓迎です」
「じゃあ、そのうちカフェとか行っちゃいます?」
「あら、嬉しいお誘いですね。ぜひお声がけください」
私は笑顔でカウンターを離れた。
別の窓口で報酬金を受け取り、ギルドを出る。
「モフラ~ン」
「モッフ!」
広場で待っていたモフランのところに行く。この子も一晩たっぷり眠ってすっかり元気になった。
「受付嬢のメイさんが私の味方をしてくれたんだ。それがすっごく嬉しくてさ、また頑張れそうなんだ」
「モフ?」
って言ってもわからないか。
「とにかくとっても嬉しいってこと!」
「モフッ!」
モフランはぴょんぴょん跳ねて喜んでくれた。
「アイラさん」
振り返ると、鑑定士のローグさんがやってくるのが見えた。
「珍しく私のところに来ないのでお節介ながら来てみました」
「あっ、そうだった。忘れてました」
「ふふふ、今のアイラさんは自信に満ちているように見えますよ。自信がついてくると細かい数字を気にしなくなっていくものです。もうテイム上限が〈1〉でもあまり気にならないのでは?」
「どうでしょう……」
モフランは最強。異論は認めない。
でも、テイム上限が増えなくてもいいかと言われればさすがに考え込む。
やっぱり連携の取れるモンスターは多い方がいいし、たくさん仲間がいた方がにぎやかで楽しい。
「上限はさすがに増えてほしいですかね……」
「あっはっは、まあそうでしょうね。では、鑑定はやっておきますか?」
「よろしくお願いします」
私はローグさんに鑑定の板を当ててもらう。
「ふむ、体力と魔力の上限がかなり上がっていますね」
「テイム上限は……?」
「〈1〉のままです」
「ここまで来るともう増えない気がしますね……」
「あまり落ち込まないで。魔力が増えると〈氷塊〉の威力も上がります。ケセララとさらに連携が取りやすくなるはずです」
おお、〈氷塊〉が強くなるのはいいことだ。氷の針とかは足止めにしかならないからな。あれで敵に傷がつけられたら立ち回りがさらに楽になる。
「ケセララの方も拝見」
モフランにも板を当てるローグさん。
「体力の上限が65まで上がっている。テイムした直後は50でしたからかなり成長していますね」
「すごい、モフランもちゃんと強くなってるんだ」
「モフ!」
モフランはちょっと体を上に伸ばす。胸を張っているつもりなんだろう。かわいい。
「他の能力は変化ありませんが、今のままでも充分強力なのですよね?」
「はい、最強です」
私が宣言すると、ローグさんはにっこりした。
「アイラさんは本当に変わった。その調子でどんどん成長していってください。私も陰から応援しておりますよ」
「ありがとうございます!」
鑑定料を支払うとローグさんは帰っていった。わざわざ来てくれたあたり、心配してくれているんだろうな。
メイさんだけじゃなかった。ローグさんもきっと私の味方だ。そもそもあの人は私が最底辺だった頃から馬鹿にすることなく正面から向き合ってくれていた。だから私の成長を喜んでくれるのだ。
ギルドマスターや他の冒険者たちはまだ認めてくれないけど、心を許せる人も増えてきた。
「いい感じだね」
「モフッ」
早く昇格したいけど、慌てない。
まずはお母さんを探しに行く。今はそっちが気になってクエストに集中できない。
次にモンスターと戦う時は体も心も万全の状態で。
私とモフランは意気揚々とギルドをあとにした。




