23話 次の目標に備えて
リオネさんや一部の高ランク冒険者たちが村に残って、他の参加者たちはみんな引き返すことになった。
「ほとんど森の記憶しかないと思うけど、大規模討伐作戦に関わった気持ちはどう?」
「意外とやれるかもって思いました」
私はササヤさんと一緒に帰りの馬車の中にいた。
「でも、ササヤさんが近くにいてくれたからなんですよね。囲まれたらモフランがいくら硬くても駄目かな……」
「そうだね。逆に言えば、アイラちゃんは一対一ならかなり優秀な戦力になりうる。単体討伐の時はみんなの役に立てると思うよ」
「ササヤさんにそう言ってもらえると自信出てきます」
「キミみたいな存在がいるから、わたしはギルドのランクというものを信じていないんだよ。アイラちゃんは機転が利くし、〈氷塊〉の扱いも手慣れている。モフランちゃんだってFランクどころじゃない能力を持っているし、まったく底辺ではない」
本当に、モフランに出会ってから人生が変わった。けど、噛み合わないところもあってランクだけはなかなか上がらない。
「今後は少し変わっていくと思うよ」
「そうですか?」
「討伐作戦でアイラちゃんがブルーライノを倒したところをけっこうな人数が見ていた。ギルドに帰ったら噂を広めてくれるはずさ」
「おお、ちょっとドキドキします」
ふああ、とササヤさんはあくびをする。
「Sランクのモンスターと戦うとやっぱり疲れるねえ。眠くなってきたよ」
「一方的に見えましたけど……」
「わたしたちは勝負所で最大出力を出すんだ。あっさり終わったように見えても魔力はかなり消耗するんだよ」
「じゃあ最初、属性を使わずに打ち合ってたのはタイミングを計っていたからだったんですね」
「そうだね」
私は困ったらすぐ〈氷塊〉を使っちゃう。もっと使い所を見極めた方がいいかな……?
ササヤさんはすっかり眠ってしまった。下を見ると、モフランもすうすうと寝息を立てている。
私も寝よう。帰ったらまずはお医者さんに足を見てもらわないと。
☆
ギルドに帰ってくると、私はササヤさんと別れて冒険者専門の診療所に行った。
メイスンさんという六十になる白髪のお医者さんに治療してもらう。
「治癒魔法で治る範囲でよかったのう。話を聞いた限り、かなり厳しい状況に追い込まれていたようじゃが」
「助かったのが奇跡みたいです」
「とはいえ、魔力もずいぶん消耗している様子。今夜はここでしっかり回復していきなさい」
「ありがとうございます」
そんなわけで、一晩入院することになった。
「モフ……」
夜の静かな病院。病室にはモフランもいる。ベッドの横でもぞもぞ動いていた。
「大丈夫だよ。足はもう痛くないし、魔力が戻ったら復活だから」
「モフゥ……」
モフランは元気がない。でも疲れているわけじゃなく、私を心配してくれているんだ。そういうことはなんとなく伝わってくる。
「けっこう頑張ったし、こういう時間も必要だよね」
ベッドから身を乗り出し、モフランを撫でる。
「あなたもゆっくりしていいんだよ」
「モミュウ~」
少しはリラックスできたかな?
私はあらためて仰向けになり、毛布を掛けた。
ササヤさんとヴィランコルノを倒しに行って、帰ってきてすぐに討伐作戦に同行した。
ずっと戦いの緊張感を持っていたから、のしかかる疲労感も大きい。数日は骨休めが必要そうだ。
そのあとやることは決まっている。
お母さんたちを探しに行くのだ。街の手がかりは故郷の村で掴んだ。それをたどっていく。
私が家を出る時、お母さんは「ありがとう」と言ってくれた。
私はもう働ける年齢だった。厳しい生活の中で両親の蓄えを食い潰しているよりは自分で稼いだ方がいい。
それに、私が出ていけば一人分の食費が浮く。
そう考えて冒険者になることを決め、両親に出ていくと宣言したのだ。
あの「ありがとう」は優しかった。追い払うような言い方じゃなかったし、もう一度会えるなら会いたい。
「モゥ……モ……」
ベッドの下からモフランの寝息が聞こえてきた。馬車の中で寝たくらいじゃ疲れは取れないだろう。
お互いしっかり休んで、次の目標に向かっていくのだ。




