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22話 Sランクの戦い

 斜面を飛び降りたササヤさんは、平地に立ってフォレストサーペントと交戦を始めた。


 大蛇は頭を器用に動かしてササヤさんを襲う。舌も高速で動いた。かなり遠くまで伸びて、当たった岩を砕く。舌であれだけの威力が出せるなんて狂っている。やっぱりSランクモンスターは常識では測れない。


 そして、頭と舌の二重攻撃をいなしているササヤさんも普通じゃない。刀と体術で相手の攻撃を受け流し、時には下駄を舌に合わせたりして勢いを減殺させている。


「す、すげえ……。あれがササヤ・ミカヅキさんの戦い方か」

「桁違いだね。僕らはとてもじゃないけど割り込めないや」


 マルフとアレンがつぶやく。


「そ、それよりアイラ! 早くここから脱出するぞ!」

「でも、ササヤさんを置いて?」

「俺たちがいたって足を引っ張るだけだ。相手を見りゃわかるだろ?」

「そうだけど……」


 ササヤさんの戦いをもっと目に焼きつけたい。あの人が負けるわけないから。


「落ち着いてからでもいいぞ。下手に動くと敵の目標が変わる恐れもある」

「あ、姉貴!?」


 リオネさんがやってきたのを見てマルフが声を上げる。


「フォレストサーペントが潜んでいたとはな。この森ではときおり行方不明者が出ていた。こいつにやられたのかもしれない」

「姉貴も行くのか?」

「私もSランク冒険者だ。ササヤにだけ戦わせるわけにはいかん」


 リオネさんは私を見て微笑んだ。


「アイラ、よく生き延びたな。冒険者は少し道を外れるだけでも簡単に命を落とすことがある。死ななかったことが最大の功績だ」

「……でも、迷惑かけちゃいました」

「みんな、そうやって成長していくんだよ」


 リオネさんはロングブレードを抜く。


「マルフ、アイラをしっかり守ってやれ。もしあいつがこっちに来たら受け止める努力だけはしてくれ」

「お、おう」


 ササヤさんとフォレストサーペントの攻防は続いている。お互いに激しく立ち位置を変えながら高速で技を繰り出す。

 切れ味と打撃力を合わせ持つフォレストサーペントの舌は脅威だ。ササヤさんが刀を振るっても切断できない。


「ササヤ、加勢するぞ!」

「ずいぶん遅かったじゃないか」


 側面からリオネさんが斬りかかる。フォレストサーペントは尻尾の先端を使って迎撃した。

 Sランク冒険者二人を相手にしても、フォレストサーペントは自在に攻撃を展開する。属性攻撃を使わず、純粋な身体能力だけでここまで強いモンスターは見たことがない。


「さすがはSランク。自然と気持ちが昂ぶるよ」

「ササヤは余裕だな。私もそうなりたいものだ」

「そのわりにはリオネも余裕そうじゃないか。――どう? そろそろ決める?」

「そうしよう。――炎よ!」


 リオネさんの剣が真っ赤な炎を纏った。

 強烈な切り上げが放たれると、フォレストサーペントの尻尾があっけなく分かたれた。


「雷撃でビリビリだ!」


 ササヤさんの刀も雷属性を纏う。今までよりさらに速く鋭い斬撃に、フォレストサーペントの舌が切れた。


 さすがの大蛇も大きくのたうって悲鳴を上げる。

 そんな隙を逃す二人じゃない。


「いくぞ!」

「任せたまえ!」


 ササヤさんとリオネさんが同時に突きを入れた。

 口からは雷撃が、尻尾からは業火が大蛇の体内に流れ込む。

 両者は胴体の真ん中でぶつかって、大蛇の腹を打ち破って噴き上がる。


 キイイイイイイイイイィ……。


 フォレストサーペントが断末魔の悲鳴を上げて崩れ落ちた。


 リオネさんが剣を収める。

 ササヤさんは顔の前に刀を持っていって目を閉じた。


強者(つわもの)よ、死合いに感謝する」


 激戦を繰り広げた相手に敬意を払っているのだ。そういうことを、この国の冒険者はあまりしない。異国生まれのササヤさんらしかった。


「な、なんか一方的じゃなかったか……?」


 マルフが呆然としている。


「すごかったね。私は二人が負けるなんて思わなかったけど」

「アイラはササヤさんが戦うところ、見たことあるんだっけ」

「ちょっとだけね」


 ヴィランコルノを一撃で倒してしまったので長期戦は初めて見た。


「やっぱ姉貴たちはすげえ。どうして姉弟(きょうだい)なのにこんな差があるんだよ……」

「マルフだって頑張ってるよ。ゆっくりでも強くなってるんだから、そこは自信持っていいと思うな」

「え!? そ、そうか?」

「うん。前についてった時より、ロックゴーレムの時の方が明らかに強くなってたのわかったもん」

「は、ははは……」


 マルフの顔が赤くなっている。


「よかったねえマルフ君。褒めてもらえて」

「い、いちいち言わなくていいんだよっ!」


 アレンの言葉に、マルフはやけに大げさな反論をする。変な奴だ。


「みんな無事だな」


 リオネさんとササヤさんが戻ってきた。


「アイラがいなくなったと聞いた時はヒヤッとしたが、生きていてよかった」

「私なんかのこと、気にかけてくれるんですね」

「卑屈になるな。ようやく上手くいき始めたと聞いたのでな、どう成長していくのか見てみたいと思っていたんだ。ここで死なれたら最悪だった」

「わたしも目を離しちゃったからね。ごめんねアイラちゃん」

「そ、そんな! 私が勝手に追いかけただけなのでササヤさんは何も悪いことなんて……!」

「そう? 悪くないなら謝りすぎないのがわたしの流儀なんだけど」


 そこでそのリアクションはいかにもササヤさんって感じ。


「ともかく、ギルドに人をやってフォレストサーペントの死体を運んでもらおう。こいつの鱗は貴重だ。出回ると市場も活気が出るぞ」

「じゃ、いったん撤収といこうか。全員生還。大変よろしい」

「モフ」

「おや、モフランちゃんはやけに静かだったね」

「モフ……」


 またしおれたような声になっている。


「モフランは体を膨らませて私をここまで運んできてくれたんです」

「そうか。体力を消耗したのかもね」


 ササヤさんがしゃがんで、モフランの毛の中に手を突っ込む。


「はい、ビリビリ」

「モモモモモモモモモモ……」


 モフランはたっぷり雷属性を吸い込ませてもらった。私が乗っかった状態でも軽々とジャンプする。


「モッフン!」

「お、元気になったね」


 属性吸生、あまりにも強い。


「よかったねモフラン」

「モフ!」

「あと、本当にありがとね。あなたがいなかったらここで死んでた。モフランに会えてよかった……」

「モフゥ~」


 モフランは左右に揺れた。声も優しかった。


「なるほど、これが噂のケセララか。ふふ、面白いコンビだ。アイラ、引き続きキミの成長を見守らせてもらうよ」

「……頑張ります!」


 リオネさんはうなずき、率先して斜面の上へ歩いていった。みんな続き、私はまだモフランに運んでもらう。


 絶体絶命と思われた転落だったけど、モフランのおかげで命拾いした。

 まだ、私は成長できる。

 ササヤさんは指導してくれるし、リオネさんは見守ってくれている。マルフたちもいつも心配してくれる。

 この人たちに追いつけるように、もっと強くなってみせる。

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