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2話 もふもふとの遭遇

「準備よし」


 翌朝。

 荷物をポーチに入れた私は、鏡を見て髪の毛を整えた。

 冒険に出る時は、赤い髪をツインテールに結ぶ。理髪室に行くお金がなかったからだいぶ長くなってしまった。

 白シャツの上に薄手のコートを着て、下はショートパンツ、ブーツ。私は基本的に軽装で行動することにしている。


 ギルド直営の小さな宿を出る。 

 いい天気で雲もなく、穏やかな一日になりそうだった。


 今日はクエストを受けない。

 相棒を探しに出かけるのだ。

 野に潜むモンスターはたくさんいる。今のところテイムできないモンスターはいないらしく、上級者だとドラゴンですら仲間にしてしまうらしい。


 テイムの条件は簡単だ。一定時間、相手に触れたまま魔力を込めるだけ。

 でも、たいていの相手はそんなことを簡単にやらせてくれない。ドラゴンならなおさら。

 ウィンドホークのランは、飛び上がった足にしがみついて魔力を込め続けていたのでなんとかなかった。今回もそういうラッキーなことがあればいいけど。


 通りを歩いていくと、リオネさんが街の外へ向かっていくのが見えた。マルフたち四人組が手を振っている。


「おはよー、マルフ」

「おう、アイラか。今日はどうするんだ?」

「モンスターを探しに行くつもり」

「テイムし直しだもんな。気をつけろよ」

「リオネさんはどこ行ったの?」

「西の廃鉱山。なんか最近瘴気が湧き出してて、風下の村で体調を崩す人が多いらしいんだ。だから様子を見てくるってさ」

「そうなんだ」

「なんか、瘴気に反応してモンスターもうろついてるってよ。姉貴が報告を持ち帰ったら、あとから上位ランクパーティーが制圧に行くって話だ」

「……ほほう」

「どうした?」

「いやいや、なんにも」

「そうか? じゃあまあ、無理すんなよ」

「はーい」


 私はマルフたちと別れて、しばらくその場に立っていた。彼らの姿が見えなくなると、すぐ西の廃鉱山へ足を向ける。


 モンスターが集まっている。それってつまり、強力な相棒を手に入れるチャンスかもしれないってわけですよ!

 私には〈俊敏〉があるから、囲まれても逃げることはできる。だから行くだけ行ってみよう。決まり!


     ☆


 街を出て草原を突っ切り、森の中に入っていく。

 小さなリスやキツネといったモンスターを何度か見かけたが、手は出さなかった。彼らは敏捷性以外の能力が極端に低い。そもそも大型モンスターから隠れて暮らしているのだから、テイムしてもお互い幸せになれない。


「うへえ、空振りっぽい……」


 強いモンスターとの出会いを私は何よりも求めている。でも、そう簡単にはいかない。わかっているけど楽したくなる。

 あーあ、その辺でドラゴンが昼寝でもしていればいいのに。

 ドラゴンをテイムできたらギルドの底辺脱出なんてあっという間だ。夢も見たくなる。


 森が途切れて廃鉱山の麓に出た。

 瘴気が溢れてモンスターが集まってるって話はなんだったのよ。全然いないんですけど。


 もしかしたらみんな廃坑の中にいるのかもしれない。そうなると話は変わってくる。

〈俊敏〉があっても通路を塞がれたらどうしようもないわけで。


 ……入るのはさすがに怖いなあ。


 でも、中にはきっとリオネさんがいる。合流すれば助けてもらえるかもしれない。って、甘ったれすぎだよね。自力で頑張らないと。


 私は岩場を越えてしばらく歩いた。

 道が途切れ、深く落ち込んでいる。その下には建物の残骸があった。昔、ここで働いていた人たちが使っていた場所かもしれない。


 私は〈俊敏〉を発動して飛び降りる。これがないと、受け身がとれなくて骨折する危険があるのだ。


「ほっ」


 着地と同時に転がって衝撃を受け流す。

 身体能力にはけっこう自信があるんだけど、筋力がないと接近戦は務まらないんだよね。


 ――お前、機転は利く方なのにな。


 マルフの声が蘇ってきた。何度か彼のパーティーと行動したことがある。マルフの感想によると、普段は頭空っぽな女の子に見えるけど、危険が迫った時の対応力がすごいということだった。失礼だと思う。


 私は薄暗い低地を確認した。

 廃坑への入り口が見える。穴の先は真っ暗で何も見えない。


「ん?」


 木陰に真っ白なかたまりが見える。隠れているようでまるで隠れていないそれは、私の腰くらいまである大きな毛玉だった。


「なんだ、ケセララか……」


 まん丸な白い毛玉モンスター・ケセララ。人間を乗せてくれたり、盾になってくれたりする。

 モンスターとしてのランクは低い。

 ギルドはモンスターにも等級を設定しているけど、最低のFランクだ。

 攻撃してこないし、仲間にしても攻撃はしてくれない。盾としての能力を持っているだけなのだ。


 さすがに見送りかなあ。

 ようやくテイムできそうなモンスターに出会ったとはいえ、乗り気になれない。非力な私に必要なのは、パワーのあるモンスターなのだ。

 テイム上限が一匹の私には、単体で圧倒的な力を誇るモンスターが必要だ。


 毛玉を見ながら考えていると、ケセララが振り向いた。

 視線がぶつかる。

 相手の目は金色だった。


 ――あれ? 金色の目をしたケセララってすごくレアなんじゃなかったっけ?


 駆け出しの頃、街の図書館で読んだモンスターの本を思い出す。

 そうだ、普通のケセララの目は黒い。

 この子は金色に輝くまん丸な目をしている。


「運がついてくるかも……」


 そんな気がして、私はケセララに近づいていた。

 ――おい、方針がぶれてるぞ。

 頭の中でもう一人の自分が注意してくる。

 わかってる。でも、これは逃しちゃいけない気がするんだ。


 私はケセララの前に立った。この子も攻撃してくることはない。


「モフ、モフゥ」


 低い声で鳴いている。毛玉に隠れて口が見えない。


「ね、仲間になってくれないかな?」


 私は声をかけながら右手を伸ばした。ふさふさの毛に手が埋まる。

 ここでテイムの能力を発動させる。

 数秒、魔力を送り込む。

 ケセララは少しバタバタしたけれど、やっぱり攻撃はしてこなかった。


 ぴかっとケセララの全身が青く光った。


「成功っ! よろしくね!」

「モフ!」


 さっそく、ケセララが私に体をすり寄せてきた。この子ってかわいさだけならどのモンスターより上だと思うんだ。

 レアなケセララだし、何か私自身に変化があるかも。早く帰ってローグさんに鑑定してもらおう。


「貴方の名前は――モフランに決めた! ランの意志も継いでもらうよ」

「モッフ」


 わかってくれたかな?


「それじゃ、街へ帰ろ……」


 ズン、ズン、と木立の向こうから足音が聞こえてきた。

 音の主はあっという間に距離を詰めてくる。


「グルウウウウウウウウウ…………」

「ちょっ……」


 人型の巨大モンスター・オーガ。

 その中でも人間を好んで食べるというレッドオーガが私のすぐそこまでやってきていた。


 右手に棍棒を持って、左手の長い爪をカチカチこすらせている。


 ……あれ? やばい?


 私だけならたぶん逃げられる。でも、モフランのスピードだと振り切れないだろう。

 仲間にしたばかりの相棒を放って逃げ出すのは、普通に考えてテイマー失格だよね。


「戦う……? こいつと……?」


 私は相手の巨体を見上げた。

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