19話 迎撃と追撃
モンスターの群れは村の南方から攻め上がってくるらしく、そっちに防衛線が敷かれた。
杭を張り巡らし、前衛が近くで待機、後衛の弓使いや遠距離魔法が得意な冒険者たちは上手く隙間に立って射撃する。
私はモフランと一緒に前衛をやる。無茶だけど、器用な立ち回りはできない。
「そろそろ第一波が近づいてくる時間帯だ」
マルフたち四人組が近くにいる。
「アイラ、お前ほんとに無理するなよ。いくらケセララが無敵でも囲まれたらどうしようもないんだから」
「安心したまえ。アイラちゃんはわたしがしっかり守るよ」
後方からササヤさんがやってきた。四人組が固まる。
「え……ササヤ・ミカヅキさん? お前、いつの間に仲良くなってたんだ?」
「モフランがお気に入りみたいで、自然にね」
「そういうこと。今は彼女に戦い方を教えているところだよ」
「す、すごいっすね。ランク差とか考えたら……」
「わたしはそういうものに囚われたくないんだ。自分の目で見て判断する。噂話は誇張されやすいものだからね」
「大人だ……」
ササヤさんは討伐遠征に出ていることが多くて、ギルドではレアキャラ扱いされている。性格を知らない人の方が多いだろう。
「見えたぞ!」
誰かが叫んで、緊張が高まった。
地響きが大きくなっていく。
「防柵のないルートに来られるとまずい。光で引きつけろ!」
リオネさんが指示を出し、光魔法があちこちで灯される。
モンスターの一団はこっちへまっすぐ突っ込んできた。
「遠距離攻撃、各個に開始!」
大量の矢と各属性の弾丸が放たれた。
サイのモンスター、ライノ族やゴブリン族、オーガ族がバタバタと倒れていく。それを乗り越えて後続が出現する。
不定期に発生するモンスターの大襲来。
人間を食べようとしているのかは不明だけど、集落は確実に破壊されている。私は故郷を守りたい。
「よし、突撃する! 包囲されないよう注意しろ! 追撃は合図があるまで待て!」
リオネさんの合図で前衛の冒険者たちが一斉に突撃を始めた。
「よっしゃ、俺らも行くぞ!」
「アイラちゃん、わたしと行こうね」
「はい!」
「…………」
マルフがちょっと悲しそうな顔をした。ごめん、今はササヤさんの下で勉強中なんです。
草原へ飛び出した私たちの前にはブルーライノの群れが立ちはだかった。三頭。青色の体に鋭い角。突進をもらえば体は二つに裂けるだろうな。
「キミたちはこのまえ討伐遠征でさんざん倒したんだよ。もう勘弁しておくれ」
ササヤさんのぼやきを聞いてくれるはずもなく、ブルーライノ三頭が突っ込んできた。
「モフラン、跳ね返して!」
「モフッ」
私の前に出たモフランは、超反発の力で突進を防ぐ。ブルーライノの巨体がおもちゃみたいに遠くまで転がっていった。
「ふっ――」
横では、ササヤさんが一撃でブルーライノの頭を角ごと真っ二つに叩き切っていた。規格外すぎる。
「アイラちゃん、一匹は自分で倒してね。頭を攻撃するのが確実だよ!」
「頑張ります!」
ササヤさんが二匹目に向かったので、私とモフランはさっき吹っ飛ばしたブルーライノを追撃する。
起き上がった相手は再び突進してくる。
「モフラン!」
「モフウッ」
ぼよん。
角さえ跳ね返す。モフランはやっぱり最強の盾だ。
体勢を崩した相手を見逃しちゃいけない。
私はすかさずモフランを抱きかかえ、走った。
「モフラン、投げるから空中で重くなって!」
「モッ!」
両手でモフランをブルーライノの真上に投げる。モフランが急角度で落下する。
ぐしゃっとブルーライノの頭が潰れ、液体をまき散らした。
いや、しょうがないんですって、えぐくなっちゃうのは。
モフランは土の上でぐるぐる回って体液を落としている。
「いい調子だね」
ササヤさんがやってきた。当然のように二匹目のブルーライノがうしろに倒れている。
「大規模攻撃ではライノ族が厄介なんだ。防衛線を強引に突破してくることが多いから。でも今回は大丈夫そうかな」
遠距離攻撃がかなり効いたみたいで、ライノ族の動きが鈍い。それを前衛の剣士たちが次々に倒していった。
今回は上位ランクの冒険者たちが集まったおかげで、三十分もすると押し返せそうな雰囲気になった。
「おりゃあ――――っ!」
「モフ――――ッ!」
私はモフランを掴んで自分ごと回転し、オーガに叩きつけた。オーガは遙か彼方まで吹っ飛んでいく。それを誰かが仕留めてくれた。
「敵を弱らせることも大切な仕事だ。アイラちゃん、いい働きをしているよ」
「ありがとうございます!」
このまま撃退できそうじゃない?
でも、自分でとどめを刺せたのは最初のブルーライノだけ。味方の支援でも評価は得られるけど、討伐した方がランクの上昇幅は大きい。なんとかしたい。
「敵が逃げ出したぞ! 余力のある者は追撃にかかれ!」
圧倒的な剣さばきでモンスターを倒しまくっていたリオネさんが叫ぶ。
オーガやゴブリンたちはこちらに背中を向けていた。その先の森へ逃げ込むつもりだ。
「ササヤさん! 私も追いかけます!」
「よし、ほどほどにやろうか」
私はササヤさんと二人で追撃に移る。モフランには軽くなってもらって、抱きかかえて全力疾走だ。
モンスターの残党が逃げ込んだ森へ突入する。
この辺の森って来たことないんだよな。
危険だから入っちゃ駄目とお母さんに言われたのでちゃんと守っていた。でも今はササヤさんが隣にいますから。
追撃に参加した冒険者たちはパーティーごとに散開してモンスターを倒していく。
私はその中の一匹に目をつけた。
ギノドラゴンという小型の低級ドラゴン。基本的に群れで行動していて、単独で戦うことはない。普通のドラゴンほどの力がないからだ。
Eランクとかなり弱めだけど、私にとっては格上。でもグレートムーンだって倒せたんだ。モフランとだったら勝てる。
「ササヤさん! 私、ギノドラゴンを倒してきます!」
「気をつけてね! わたしもこいつらを片づけたら追いかける!」
草藪から飛び出してきたゴブリンの群れ。ササヤさんはそれを一人で引き受けている。やはり弱いモンスターも数で攻めてくると誰だって時間を取られてしまう。
私は逃げていくギノドラゴンの背中を追跡した。他の冒険者たちから離れるのは不安だったけど、誰も相手していないんだから私が手柄を挙げるチャンスでもあるのだ。
「覚悟しなさいっ!」
ギノドラゴンは崖際に出て足を止めた。近くで見ると大柄な男性冒険者くらいの背丈しかない。私は追いつき、問答無用でモフランを振るう。
「ギイッ」
「くっ、速い!?」
想像以上に身軽だ。モフランが当たらない。
「だったら……モフラン! 挟み撃ちしよう!」
「モフ!」
私はモフランをギノドラゴンの後方に投げて着地させる。
右手に魔力を集め、〈氷塊〉の槍を作り出す。
私は踏み出す――けどこれは誘導だ。
予想通り、ギノドラゴンは私の攻撃を受けようとした。
「お願い!」
「モッ!」
そこにモフランが背後から飛びかかる。反発で吹っ飛んできたギノドラゴンに、私は氷の槍を突き出す。
私の腕力だけじゃ足りないけど、吹っ飛んだ勢いを利用すれば深く突き刺さる!
「ギ……ガァ……」
お腹に大穴を開けられ、ギノドラゴンが崩れ落ちた。
「やった! 二人で勝ったね!」
「モフゥ!」
私はモフランを持ち上げてほっぺをこすりつける。
「モミュウ~」
モフランも甘えてくれている。
「よし、ササヤさんに報告――」
その時。
大木の陰から何かが飛び出してきた。
「二匹目……」
新たなギノドラゴンが現れた、と思った瞬間、私はもう体当たりを食らっていた。
「あっ――」
うしろは崖。
私は、モフランと一緒に空中へ放り出された……。




