16話 どこか子供っぽいササヤさん
「倒してくださったか! 本当にありがたい!」
集落へ報告に戻ると、おじさんが大喜びしてくれた。
「報酬はギルドに渡してあるから、いま出せるものはないんだ」
「いいんです。それだけで充分ですから」
「いや、せっかくだからホットミルクを飲んでいってくれないか?」
「わーい! 待ってました!」
ササヤさんがすごく嬉しそうにする。
「中に座れる場所があるから待っていてくれ」
私たちは休憩所と書かれた四阿に入って腰かけた。
「ササヤさんって意外と子供っぽいところありますよね」
「おっ、なに、ケンカ?」
「ち、違いますって! けっこう「わーい」って純粋に喜ぶじゃないですか。あれが幼く見えるというか……」
「素直に喜んでいるだけだよ」
「ちなみに年齢って訊いてもいいですか?」
「二十一だよ」
思ったよりだいぶ若かった。堂々とした姿からもっと年上かと思っていた。
「本当は四十六だけどね」
「その嘘、意味あります?」
「わはは、これは手厳しい。モフラン、キミのご主人はユーモアをわかっていないみたいだよ」
「モフ……?」
「今のはユーモアとか関係ないと思いますけど……」
とらえどころのない人だ。
「しかし、モフランちゃんは本当に鉄壁だねえ。ヴィランコルノの角さえ跳ね返してしまうとは」
「ちょっと心配だったんです。打撃に強いだけなんじゃないかって」
「杞憂だったね」
「はい」
「いろいろ戦ってみないとわからないけど、あとは属性攻撃への対応力だね」
「モフランには属性吸生っていう能力があるんです」
「吸っちゃうの? 試してみていい?」
「な、なんでそうなるんですか!?」
「気になるじゃないか。ここまで戦えるケセララなんてとってもレアなんだからさ」
気持ちはわかるけど。
ササヤさんは刀を抜いて、切っ先をモフランに向けた。殺気がないせいか、モフランは慌てない。
「モフランちゃん、これを吸えるかい?」
「モフ?」
「ふっ」
刀身がバチバチッと黄金に光る。稲妻がうねるように刀身の周りを走った。
「モフゥ~」
モフランが体を持ち上げると、稲妻がどんどん毛玉の中に吸い込まれていく。
「モモモモモモモモモ」
聞いたことない鳴き声を出している。
ササヤさんは刀身を離した。
「モッフフフゥ~」
癒やされたような顔をするモフラン。ササヤさんは微笑んで刀をしまった。
「本当に吸っているみたいだね。どことなく笑っているようにも見える」
「そうですね。ササヤさんの雷属性でも吸えちゃうんだ」
「ちっとも本気ではなかったけどね」
おや?
「悔しかったんですか?」
「アイラちゃん、いい性格しているね。キミのことはもう許さないよ」
「ご、ごめんなさい! 煽り待ちかと思って……!」
「その返事がもう煽っているんだよねえ。これはもう国交断絶だ。鎖国します」
「待ってください! どうかお慈悲を! この通りです!」
手を合わせて謝ると、ササヤさんは「わっはっは」と大笑いした。
「ふふふ、アイラちゃんとの会話は飽きないなあ。最近は仕事の話しかしてなかったから新鮮だ」
「そ、そうなんですか」
「やはりキミとはうまくやれそうな気がするよ。これからもよろしくね」
「あ、ありがとうございます! これからも勉強させてください!」
「いいよ。みっちり仕込んであげよう」
「やったぁ。モフラン、頑張ろうね!」
「モフフゥ……」
「あれ? 寝てる?」
「私の雷だけでお腹いっぱいになっちゃったのかもね。ふふ、寝顔もかわいいじゃないか」
私たちはしばらく、モフランの寝顔を見つめていた。
そこにホットミルクがやってきたので、のんびりいただくことにした。




