15話 圧倒的な強さ
馬車に揺られて、東の平野にやってきた。
ヴィランコルノが暴れているのはこの辺のはずだ。
「あっちに集落があるね。情報集めから入ろうか」
「はい!」
木の柵で囲われた、六軒ほどの集落へ入った。
「どうも。こんなところにお客さんとは珍しい」
がっしりしたおじさんが出迎えてくれた。
「ヴィランコルノの討伐依頼を受けた冒険者です」
「なに!? ついに来てくれたか!」
おじさんに案内されて、私とササヤさん、モフランは集落の奥へ行く。
獣舎にはホワイトカウというモンスターが三頭つながれていた。四足歩行でゴツゴツした胴体が特徴的だ。
「うちではホワイトカウから絞ったミルクを売っている。だが、ヴィランコルノはホワイトカウを一突きで殺してしまうんでね……早いところ倒してもらいたかったんだ」
ササヤさんは獣舎のマークを見て手を叩いた。
「ホワカウミルクはここから出荷されていたのか。いや、これはいい仕事を請けたぞ」
「もしや、うちの商品を飲んでくださってるんで?」
「ああ、大好きだ。遠征から帰ってくると必ず飲んでいるよ」
「ありがたい! ごひいきにしてもらってる冒険者さんに助けてもらえるとは嬉しいことだ」
私も街で見かけることはあったけど、飲んだことはなかった。
「よし、アイラちゃん、集落のためにも頑張ってヴィランコルノを倒そう」
「頑張りましょう!」
「ヴィランコルノはここから南に行った林の中に棲んでいるらしい。野草採りに入った集落の者がそこで何度か襲われている」
「わかった。さっそく行ってこよう」
私たちはすぐさま出発した。
☆
教えてもらった林には歩いて一時間ほどで着いた。
木々の隙間は広く、鬱蒼とした感じはない。
「アイラちゃんはモフランとくっついているんだよ。ヴィランコルノは動きが速い。奇襲されたら危険だ」
「じゃあ、抱えてます。モフラン、軽くなれる?」
「モフ~~~~~」
軽くなったモフランを私は抱きかかえる。若干視界が悪いが、見えないほどではない。
ヴィランコルノが角で刺しに来ても、モフランを持っていれば貫かれる心配はない。……ないよね? 打撃には強いけど刺突には弱いとかないよね?
私たちは慎重に林の奥へ進んだ。
「来るよ。左」
いきなりササヤさんが言った。
そちらを向いた瞬間、低木を突き破ってヴィランコルノが姿を現した。
真っ黒な体、金色の一本角、赤い目。
ユニコーンになれなかった暗黒の馬は、低い姿勢で私に突っ込んでくる。
「モフラン、跳ね返して!」
「モフッ!」
ぼよん。
「うわあ!?」
相手が吹っ飛んだが、反動で私も吹っ飛ばされた。すごい突進だ。
ブルルルッ。
ヴィランコルノが鼻息を荒くする。
「アイラちゃん、受けているだけでは勝てない。モフランと上手く連携してみるんだ」
ササヤさんはまだ刀を抜いていない。あくまで私の補佐をするつもりらしい。
じゃあ、たくさん教えてもらいましょう!
「モフラン、注意を引いて!」
「モフ!」
私はモフランから離れた。
モフランが飛び跳ねてヴィランコルノを挑発する。
さあ、どっちを狙う?
ヴィランコルノはモフランに突っ込んでいった。
私は〈氷塊〉を発動させ、氷柱のように尖った氷を飛ばす。
ヴィランコルノの胴体に命中するが、刺さらない。防御力もかなりのものだ。
意識が私に向いた。
ヴィランコルノが私を向いた瞬間、モフランが横からジャンプした。
「モフゥッ」
「ブルルッ!?」
反発力を持った体当たりは効果抜群だ!
大きくよろけたヴィランコルノに対し、私は〈氷塊〉の針を連射する。しかし効いている様子はない。
「硬いのは体表だけだよ!〈氷塊〉の自在さを上手く活かそう!」
ササヤさんが助言をくれた。
――じゃあこうする!
私は下から打ち上げるように氷の針を放つ。
ブルルルルルルッ!?
針は的確に、相手の鼻の中に入った。
予想通り、ヴィランコルノは大きく体勢を崩した。またえげつないことをやってしまったがこれしか勝ち筋はない。
「アイラちゃん、追撃! モフランを使って叩くんだ!」
「はい!」
私はモフランを抱きかかえると、ヴィランコルノに向かって突撃した。
「おりゃあ――――っ!」
モフランごとぶつかっていくと、またしても超反発によってお互い吹っ飛んだ。
今度はヴィランコルノも耐えきれず転んだ。
「頭を叩き潰すんだ! 最低でも角を折って!」
ササヤさんがエグいことを言っているが、やるしかない!
私はさらなる追撃に走る。
しかしヴィランコルノはすばやく起き上がり、細かいステップで私の攻撃を回避する。
そもそもの身体能力が違いすぎる。
モフランを当てようとしても、全部かわされてしまう。
ブルルルッ!
「わあっ!?」
側面を取られ、モフランを構える前に前足の一撃を食らった。
私は吹っ飛ばされて地面を転がる。
手放したモフランがヴィランコルノにぶつかろうとするが、やはりあっさり避けられてしまった。
暗黒の馬は私に角を合わせ、突っ込んでくる。
「モフ――――ッ!」
いつもより高いモフランの鳴き声。
私を心配してくれるの? もうそこまで仲良くなれたんだね。
こんな状況なのに嬉しくなってしまうのは、直後にお腹をぶち抜かれると理解しているから。これは現実逃避の思考――
「そこまでだよ」
私の前にササヤさんが立った。ヴィランコルノは足を止める。
「アイラちゃん、ヴィランコルノに対してここまで立ち回れるなら充分だよ。間違いなく、キミはもっと強くなれる」
「ササヤさん……」
「だいぶ消耗しただろう? あとは任せて」
ブルルルッ。
「これは命のやりとりだからね。せいぜいあの世で恨んでおくれ」
ササヤさんは踏み込みながら抜刀する。
駆け抜けた。
ヴィランコルノの首が胴体から落ちた。
「つ、強すぎる……」
Aランクのモンスターをたった一撃で倒してしまうなんて。
Sランク冒険者。
討伐遠征に何度も派遣されるほどの実力者。
周辺には血ではなく、焼け焦げたような匂いが漂う。
「雷属性で焼き切ったからね。アイラちゃんに血がかからないように」
そんな気づかいをする余裕まであるのか。
「す、すごかったです」
「アイラちゃんもいい立ち回りだった。戦いを経験していけば〈氷塊〉の威力も上がっていくはずだよ。そのうちヴィランコルノの胴体だって貫通できるようになるさ」
「なれますかね……」
「わたしが言うんだから大丈夫」
「じゃあ、信じます」
「もちろん怠けていたら成長はないよ?」
「わ、わかってますって」
モフランが跳ねて私のところに来てくれた。
「モフ、モフゥ……?」
「怪我してないかって? うん、平気」
「モフッ」
「モフランもたくさん頑張ってくれたね。ありがと」
「モッ!」
いつかモフランとふたりでAランクのモンスターを倒す。
新しい目標ができた。




