12話 テイマーだからわかること
お昼をだいぶ回っている。
私とモフランは街外れの料理店に来ていた。
ここはテイマーがたくさんやってくるお店だ。
噂でしか聞いたことがなかったけど、とうとう来たぞ。モフランに贅沢させてあげよう。
お店は一段高い位置にあって、壁がない開放的な造りだ。
入り口をくぐると、数人のテイマーが相棒たちと食事をしていた。
「モフ……」
「ちょっと怖いかな?」
「モフゥ……」
中には三人いる。
竜の血族であるリザードマンや、攻撃的なハヤブサであるブラックファルコン、闘争が大好きなワイルドフォックスなどなど、みんな強そうなモンスターを連れている。
「ケセララか」
リザードマンを連れている男の人がつぶやいた。ま、こういうのは慣れてますからね。
私は無視して空いているテーブルについた。
モフランはすぐテーブルの下に入った。
「火口竜の鉄板焼きをお願いします! 二皿で!」
「かしこまりました」
ちらちら視線が飛んでくるが、気にしない。私もすぐあなたたちのランクに追いついてみせます。モフランとならきっとできる。
「お待たせいたしました」
店員さんが大きなお皿を運んできた。真っ赤なソースのかかったでっかい肉料理。ちゃんとモフランの近くにも一皿置いてくれる。
「じゃあモフラン、食べよう」
「モフッ」
お、元気出たかな?
「いただきまーす!」
火属性ドラゴンのもも肉を大きく切り出したこの鉄板焼きは、スタミナ増強効果があると聞いた。
「んまぁ~」
ナイフを入れるとスッと入っていく柔らかさ。高まる期待を裏切らない、とろけるような肉。染み出す肉汁。たまらん!
「モッファ~」
モフランもふにゃふにゃの声を出している。
「おいしい?」
「モッ!!!」
「よかった」
お高い料理だけど、これからどんどんクエストを成功させていけばすぐに取り返せる。自分に勢いをつけるためにもこういう散在はしていいよね。
私たちは夢中で鉄板焼きを崩していった。
ふと店内の様子をうかがうと、他の三人がニコニコしていた。ブラックファルコンの使い手の男性と目が合う。
「いや、失礼。あまりにも幸せそうにしているから、なごんじゃってね」
「そ、そうですか……」
そんなにとろけた顔になってたかな? なんか恥ずかしい。
「こうして見ると、ケセララもいいな。疲れたとき癒やしてくれそうだ」
「すっごくかわいいですよ」
「テイム上限がなかったら連れ歩きたいけどね。僕は二匹までだから」
男性はブラックファルコンと、テーブルの向こうに偵察に特化した猫――シャドウキャットを置いている。
モンスターはテイムすると自然になついてくれる。でも、野生のモンスターは警戒心が強くて同じようにはできない。恐怖を与えて押さえつけることもできるけど、テイムなしで飼い慣らすのはあまり現実的じゃない。戦闘で連携を取るとなればなおさらだ。
「キミはギルドでたまに見かけるね。最近、けっこう大きな仕事をやってのけたんだっけ」
「は、はい! この子とグレートムーンを倒しました!」
「素晴らしい。早くランクが上がるといいね」
男性は水を飲み干すと、私に会釈して店を出ていった。
てっきり格下扱いされると思っていたので逆に拍子抜けだった。
「いい人だった……」
「そりゃあね」
中年のテイマーが話しかけてくる。リザードマンが横で赤身肉を頬張っている。
「同じテイマーだからこそ、ケセララだけで格上の相手を倒すことの難しさがわかるんだよ。馬鹿になんてしないさ」
「そ、そっか……」
「さて、私も追い抜かれないように頑張らないとな」
中年テイマーさんも帰っていった。
残った男の人は何も言ってこなかったけど、たまにモフランを見ていた。
テイマーだからこそ、か。
確かに、同じ職業だからわかることってあるよね。見下されなかったことが嬉しい。
「モッ、モッ、モフン、モフン」
モフランは肉を一生懸命噛んでいる。気に入ってくれたみたいでなによりです。
私の方が先に食べ終わった。力がみなぎってくる感じがする。最高だね。
帰ったらお昼寝して明日に備えようかな。
「モフ」
「あ、終わった?」
もそもそ出てきたモフランは、肉汁とソースで赤く汚れていた。
「水場に寄っていこうか。洗ってあげる」
「モフッ」
今日はとにかくのんびりする日だ。モフランのために時間をかけよう。




