11話 のんびりした休日
翌日。
私は惰眠をむさぼっていた。
「モフ~、モフ~」
ベッドの下からモフランが呼びかけてくる。
私はベッドから左手を垂らして、モフランを撫でた。
「いい子だから、今日はもうちょっとグダグダさせて」
「フモ……?」
モフランを仲間にしてから急激に毎日が濃くなった。その反動でちょっと疲れている。たまには休みたいんだ。
「モフフ」
もぞもぞとモフランが動き、ベッドの真下に入っていった。なぜか屋内では暗い場所が大好きなモフラン。せっかくの真っ白な体毛が汚れちゃうぞ。キミが落ち着くならいいんだけど。
「あ~、のんびりできるって幸せだなあ」
1万ファロンあれば一週間は暮らせる。私のように生活費を切り詰めていれば。
だから慌てて次のクエストを探しに行かなくてもいいんだ。
たっぷりまどろんだあと、私は起き上がって着替えた。
髪の毛をツインテールに結ぶと、モフランを連れて食道に行く。
パンとスープでゆったりした朝食。ふふふ、とっても優雅だ。
「今日はモフランに高いごはんをご馳走してあげます」
「モフ?」
「楽しみにしててね」
「フモ~」
あんまり食事にはこだわらないタイプなのかな? 食費がかからないのは助かるけど。
「ごちそうさまでした」
食器を返却すると、私はそのまま宿を出た。
今日はギルドに行かず、普段通らない道を歩いてみる。
この辺は木造の民家が多い。
私の故郷は石造りの家がけっこうあったなあ。
「モッ」
モフランがぴょんぴょん移動していく。
その先にはリスを連れたご婦人がいた。
「モフモフ」
「キュウ~」
「す、すみません! うちの子が……」
「いえいえ。これ、ケセララですよね。かわいくて素敵ですね」
女性が笑ってくれる。大人の余裕だ。
「優しい子なので乱暴はしないと思いますが」
ハラハラしながら見ていると、リスがモフランの上に乗って跳びはねた。
ほっ。
仲良くしてくれるのが一番だ。
「あらあら、ずいぶん楽しそう」
「なごみますね……」
私たちはしばらく、二匹のじゃれ合いを眺めていた。
「冒険者の方ですか?」
女の人に訊かれる。
「そうです。ランクは低いですけど」
「私は冒険者のことをよく知らないんですが、ケセララも戦えるんですか?」
「この子はかなり戦えます。かわいい上に強くて最高なんですよ」
「うちの近所にもギルドに依頼を出した人がいるんです。そしたら迅速に対応してもらえて助かったと話していました。あなたのようなお若い方も多いのでしょうね」
「近い歳の冒険者はけっこういます」
「年齢に関係なく活躍できる職業……いいですよね。市庁舎で働いていると年功序列が何かと邪魔をしてきまして」
「大変そうですね……」
「だからこそ、小動物に癒してもらっているんです。あなたはそういう存在と一緒に戦っている。すごいことです」
やっぱり、冒険者じゃない人はケセララだからどうとか言わないよね。冒険者の人たちにもモフランのことを認めてもらいたいな。
ご婦人と別れて通りを歩いていく。
焼き菓子のお店が見えてきた。
「エルフィータを二袋ください!」
「はーい」
これはまん丸な形をしたお菓子で、サクサクした食感が楽しい。高いから一回しか食べたことないけど、稼げたらぜひ二回目をと思っていたのだ。
「どうぞー」
渡された小袋を受け取って近くのベンチに移動する。
モフランは私の顔をじっと見つめている。
「モフラン、これがお高いお菓子だよ」
「モフ?」
「まずは食べてみて」
指でつまんだエルフィータをモフランの口がありそうな場所に伸ばす。もふもふすぎて口が見えないんだよね。
「モフ」
「ひゃっ」
指の根本まで口の中に入って、思わず声を上げてしまった。
「モッ、モッ、モッ」
おお、ガリガリかじってる。
「モフ~~~」
そして、柔らかい声とともに左右にコロコロする。かわいい。
「おいしかった?」
「モフ! モフゥ~~~ゥ」
頑張って体を持ち上げようとしている。
「二個目がほしいのね」
「モフ!」
「はい、どうぞ」
「モファ~~~」
ふにゃあ~、と表情がゆるむのがわかる。目と毛しかないのに表情がわかるってすごい。
三個目もあげると今度はポムポム跳ねた。満足してるみたいだ。
私も自分のエルフィータを食べる。
「甘いぃ~……」
心がとろける。
これこれ。この味と食感をまた食べたかったんですよ!
「頑張ってよかったなあ」
誘ってくれたマルフに感謝しなきゃね。
私自身、今までやったことのない戦法を次々に繰り出すことができて経験値もどんどん上がっている。
グレートムーンを単独で倒したことも、どうせ同業者は「誰かにこっそり手を貸してもらった」と噂し続けるんだろう。そんな陰口をこれ以上叩かせないように暴れてやる。
「マルフたちも噂を広めてくれるはずだけど……」
一緒に戦ったんだから、私の成長は伝わっているはずだ。でも、マルフたちだってまだDランク。上位の冒険者から見たら頼りない存在に見えるだろう。彼らの噂話にも限界がある。
最速で底辺を脱出するにはどうするのがいいのかな。
「ササヤさん……」
そうだ。あの人はクエストに同行してもいいと言ってくれた。Sランク冒険者だから、彼女の前で活躍できたら一気に評判が上がるんじゃないか!?
「モフラン、次もきつい戦いになるかも」
「モフ! モフ!」
モフランはドスドスと重さを変えて跳びはねる。
「頑張ってくれるんだね」
「モッ!」
闘志を見せてくれるモフランが、最高に頼もしく映った。




