10話 貴重な1枠
「あのゴーレムを倒してくださるとは……本当にありがとうございます」
山頂の村に行って報告すると、背中の曲がった村長さんにとても感謝された。
十人くらいの小さな村で、全員から何度もお礼を言われた。
「せっかくですから、おもてなしさせてください」
というわけで、私たちは村長さんの家で葡萄ジュースをいただいている。
浮かれている人はいなくて、マルフやアレンも真面目な顔をしている。そういうところ、信頼できるよね。
「あなたはモンスターテイマーのようですな」
「そうです。テイムの上限が一匹から増えない雑魚ですけど……」
「ほほう。でしたら、貴重な枠をケセララにするのはもったいないですな」
むっ。
「モフランは常識で測れない力を持ってるんです。大切な相棒なんですよ」
「それは失礼しました。ですが、ドラゴンやブルータイガーなど、攻防一体の力を持ったモンスターは多い。考えるだけ考えてみた方がよろしいですな。わしも昔、テイマーをやっておりましたのでね」
「そうなんですか」
「魔力が生成できなくなって引退しました。魔力さえ出せればゴーレムに苦労させられることもなかったんですがのう……」
「昔は何を使役していたんですか?」
「ワイバーンとウィンドホーク、ブレイクブルという牛のモンスターを。地上戦と空中戦に特化したモンスターが一体ずつ、どちらもこなせるワイバーンがいたという具合ですな」
「す、すごい……」
そういう人から見たら、ケセララを連れている私は弱く映るんだろうな。しゅんとしてしまった。
ぴょこぴょことモフランが跳ねてくる。
「モッ、モッ」
その場で跳んで、左右に転がってみせたりする。
「もしかして、励ましてくれてるの?」
「モフゥ」
「ありがと。嬉しいよ」
「ふぉふぉふぉ」
村長さんがいきなり笑い出した。
「これは、思ったよりかわいらしい。なるほど、これはこれでよい相棒のようですな」
「そ、そうなんです! 戦いもできるし、癒しでもあるんです!」
「何も知らずにいろいろ言ってしまいました。お許しくだされ」
「いえ。先駆者のお話はとても参考になりました」
村長さんはうなずく。
「お前さんも、ご主人をしっかり助けてやるのだぞ」
「モフ!」
「よき反応だ」
変なわだかまりができなくてよかった。
だけど。
村長さんが言うように、テイム上限一匹の私にとって相棒選びはとても大切なこと。
いつか考えを変える時が来るんだろうか?
モフランと別れるなんて、今は想像もつかなかった。
☆
「依頼の達成を確認させていただきました。こちらが報酬になります」
二日後のお昼時。
私はマルフたち四人と一緒にギルドに来ていた。
マルフが通貨の入った袋を受け取る。
「アイラのランクはまだ上がらないんですか?」
「残念ながら。当ギルドでは継続して実績を上げることを重視しております。アイラさんはグレートムーンを討伐されましたが、それだけで即昇級とはなりません。今回のロックゴーレムも五人での達成ですので……」
受付嬢のメイさんは申し訳なさそうに説明してくれる。
「ただ、実績は間違いなく記録されておりますので、Eランクへの昇級もそう遠くないかと思います」
「こいつはレッドオーガも倒してるんですよ」
「それについては依頼ではありませんので……。柔軟性がないと言われればその通りなのですが、形式にこだわる冒険者の方も多くいらっしゃいます。軋轢を避けるための措置とご理解ください」
「そうっすか……」
マルフはしぶしぶといった感じで引き下がった。
私たちはギルド館内の食堂に移動する。
「3万ファロンか……」
「労力を考えるとしょっぱいね」
アレンが苦笑する。
「仕方ねえ。わかってて挑んだことだ」
マルフが硬貨を取り分けて、一山を私の前に滑らせてきた。
「アイラの取り分は1万でいいか?」
「ま、待って。私がこんなにもらったらみんな損しちゃうでしょ?」
「別にいいと思うよ。今回はアイラがいなかったら成功しなかっただろうからね」
「同感」
「しゃーねーわな」
「そういうことだ。みんな納得してるから素直にもらっとけ」
「……ありがと」
「元はといえば俺が誘ったんだ。こんくらい当然だろ」
男子四人、誰も強がってる気配はない。じゃあ、いいのかな。
「また何かあったら誘ってほしいな」
「い、いいんだな?」
「もちろん! まだ借りは返せてないと思ってるし」
「そ、そっか。じゃあよろしくな」
マルフたちとの共闘はいったんここまで。
私は四人と別れ、館内を移動する。
「ローグさん、いいですか?」
「どうぞ」
依頼を達成したらまずは鑑定だ。テイム上限が成長していることを祈って。
「体力の値が一気に30まで伸びましたねえ」
「テ、テイム上限は……?」
「変化ありません」
がっくり。
こうなると、もともとの体質なのかもしれない。
今後も上限が増えないなら、私はモフランと戦い続けることになる。
それでもいい。
いいけど、周りはにぎやかな方が楽しいから仲間は増やしたい。
「ケセララの様子も見させていただけますか?」
「お願いします」
私とローグさんは一緒にギルドを出た。
正面広場の水路近くでモフランがおとなしく待っていた。またササヤさんがいるかと思ったが、予想が外れた。
ローグさんが鑑定の板をモフランにかざす。
「うん、体力も万全のようですね」
「よかった」
頑丈すぎるから、わからないだけで体力が削れてるかもっていう不安があった。
「能力は変化なし。――引き続き、大切にしてあげてください」
「ありがとうございました」
鑑定料を支払うと、ローグさんは戻っていった。
「モフラン、明日はお休みにしよっか」
「モ?」
「たまにはのんびりしよう!」
「モフッ!」




