メンヘラティック・メランコリー
はじめまして!如月静流(アネモネP)です!自分のオリジナル曲「メンヘラティック・メランコリー」の小説版を書いてみました!よろしくお願いします。
蝉の鳴き声が繁華街の喧騒を打ち消すくらいに響いている。今年も夏の終わりが近づいてきた。路上には老若男女の人混みが我よと先を急いでいる。
ミクは学校が終わると、賑やかなこの街に毎日のように足を運ぶ。この街の雑踏にまぎれていると、何だか自分が透明になれるような気がするからだ。
この街にいる間は学校で過ごしている時のように、いろいろな嫌なことを考えることがない。学校を飛び出した少女はこの街で自由を感じていた。
スマホにつないだイヤホンからは大好きなバンドのディストーションサウンドが、脳みそが割れそうなくらいに響いている。
ミクはバイト先のメイドカフェに向かって歩いていた。このメイドカフェは同じくらいの年の女の子が何人も働いていて、メイド服という衣装をまとい、二十代から五十代くらいの男性客とドリンクを飲みながらお話の相手をするというお店だ。
このバイトで知ったこと。世の中には実にいろいろな人がいる。学校では決して関わらないような大人たちと話すことはミクにとって新鮮な体験だった。もちろん、学校にはバイトのことは秘密にしている。
数ヶ月前、ミクはメイドカフェの客でまだ二十代の若者であるレンと付き合い始めた。もちろん、店のスタッフや他の客には絶対に秘密の恋愛だった。レンは細身で背が高く、誰よりも優しい青年だった。
ある日、ミクはレンに打ち明けた。自分に自殺願望があること。今までに何度か自殺未遂を起こしたことがあること。
そんなミクの手をレンは優しく握って「大丈夫だよ」と何度も耳元で繰り返した。ミクはその願望がすっと自分の身体から抜けていくような気分になった。
***
中学生のころ愛読していた『完全自殺マニュアル』と『卒業式まで死にません』。今でも鞄の中に入れている。どうしてもつらくなった時に心を落ち着けるために。私のお守り。
2か月前に出会った大切な人。レンくん。背が高くて本当の私を見てくれる男の子。
彼の前だと私は素直になれる。
お願いつかんで
私の上にまたがって
お願いキスして
乾いた喉が濡れるまで
そんなことを言ってじゃれあう二人は、まるで互いの欠落を満たし合う仕掛け装置のようだった。
お薬はメランコリック
眠り姫、月も欠ける
叶わない夢ばかり
飲み込んでシャットダウン
枕元にはこないだ買ったばかりの「ドグラマグラ」の文庫本が無造作に転がっている。文学少女になりたくてこの本を買ったけど、まだ最初の方しか読んでいない。どんなに本を読んでも心が満たされることがないから、だから私は街を彷徨う。
お願い殺して
私の息の根を止めて
あなたは背負うの
二人が犯した罪
ミクがそうつぶやくと、レンは首を絞める手に力を込めた。
ウソウソ笑って!
そのまま優しくさわって
ミクは精一杯の笑顔を浮かべて、レンに優しいキスをした。
お願い愛して
二人が年をとっても
日なたで暖まりながら
楽しく死のうよ
夜空のお星さまになろうよ
***
気が付くとミクとレンは幸せそうな表情を浮かべて眠っていた。暖かな陽気に包まれて、二人はこのまま次の日のお昼過ぎまで眠ることになるのだが、その時、二人が健やかに目覚め、二人の心にこれからの長い人生を前向きに生き抜こうとする気持ちが芽生えたことは、疑いようもない。二人の優しい笑顔は誇らしいほど素敵だった。